遊☆戯☆王 ポケットモンスターズ   作:木之下ジャンクション

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30.決勝戦‼ 海馬vsメイ

 

 控え室で堅く閉ざされた入場ゲートの隙間を覗くと、スタジアムのバトルステージへ繋がる長い通路が目に映る。

 幕間で照明の落ちた今、暗く沈み込んだ舞台はさっきよりも遠くに感じた。けれど、この先に待つのは最後にして最大の勝負。

 その実感が、メイの胸を熱く焦がす。

 

 

「なんだよ、緊張してんのか?」

 

 

 傍らに立っていたヒュウが笑いかける。許可を貰って試合直前まで同行してくれているのだ。黙ってゲートの向こうばかり眺めているメイを気にかけたらしく、少しおどけた様子だった。

 

 

「ここに来た途端に無口になっちまうんだからよ。こっちも声かけづらいっての」

「あはは、ごめん。でも決勝だからさ。心持ちも変わっちゃうよ」

「そりゃそうだろうけど……バトルにまで響かせないでくれよ? ここが一番の正念場なんだからな」

「大丈夫。緊張してるわけじゃないから」

 

 呟いてメイは、腰元のホルダーからモンスターボールを手に取った。表面の曇りを一つ一つ丁寧に拭い、念を込めるように見つめてから元に収める。

 

「ただ、ワクワクしてるの。私も、ボールの中の仲間たちも。決勝戦が待ち遠しくって、ずっと胸が鳴りっぱなし……!」

 

 そう語る口調は、言葉とは裏腹に静かなものだった。しかし強がりでないことは明白だった。

 磨かれたボールを再装填し、改めてステージを見つめる彼女の瞳に迷いはない。深淵より滾々と湧き出す覇気が密やかに燃えている。

 ヒュウも思わず口をつぐんだ。優しい顔して、勝負事には誰よりも熱くなる。メイはそういうトレーナーだった。

 

「よし」と、ヒュウは気を取り直すように息を吐いてから言う。

 

「ビビってないならいいんだ。何せ相手は……こう認めるのも癪だが、海馬だからな。半端なバトルなんてするんじゃねぇぞッ!」

「もちろん。全力でぶつかってくる!」

 

 快活に答えて笑うメイ。うずうずと手を開閉する仕草が興奮具合を如実に表している。まるで緊張なんてなさそうだ。

 その様子にヒュウが安堵していると、通路側の扉がガチャリと開いてスタッフが現れた。

 

「メイ様、ステージの準備が整いました! 準備をお願いします‼」

「! ……いよいよかッ‼」

「そうみたいだね」

 

 メイはバッと振り返り、閉ざされた入場ゲートの先の景色を想像する。いよいよ勝負の刻だ。

 

 

「よっしゃ気合入れてけ‼ オレも観客席から応援してるぜ‼」

「ええ‼」

 

 

 親友の熱い激励に力強いサムズアップで応じ、彼女はゲートの前に進み出た。

 

 

 

 

〇●〇●〇

 

 

 

 時を同じくして、海馬の控室では。

 

 

「ほら、こいつが約束のブツ。ヤーコンロードの入洞許可書だ」

 

 机を挟んで向かい合ったヤーコンが一枚の紙片を差し出していた。

 ヤーコン直筆の署名が入ったそれこそ、本来の目的地たるリュウラセンの塔へ最短経路で到達するために必要な書状。海馬がPWTに参加した一番の理由である。

 

「確かに受け取った」

 

 海馬は紙片を受け取り、念入りに確認してから懐に収めた。

 

「……なんだ、ワシの許可書は信用ならんか? わざわざ大急ぎで手配してやったというのに」

「ふん、書類の確認くらいして当然だろうが。それにがめつい貴様のことだ。追加の条件まで記載されていてはたまらん」

「警戒心の強いやつめ。これ以上お前さんに何か注文を付ける気はないから安心しろ」

 

 そうぼやくヤーコンは控室に来てからというもの、ずっと入場ゲートの奥から聞こえる喧噪に意識を向けていた。どうやら主催者の彼としても予想以上の反響だったようで、普段のしかめっ面もどこへやら。ずっと楽しげな笑みを浮かべている。

 

「既にPWTは最高潮の盛り上がりを迎えている。一発目にして大成功だ! いずれは各地の強豪も呼んで、大会を開く事にもなろう! そうして盛り上がっていけば、ポケモントレーナーたちの力量も高まる‼ ……ではなく、ホドモエは更に発展して金も儲かる‼」

「ふん、貴様も強欲な男よ」

「これもビジネス、手は抜かんさ。それにお前さんも、何だかんだ楽しんでるんじゃないのか?」

「……くだらんことを聞くな」

「フフ……どうだかな」

 

 不機嫌そうに顔を背ける海馬を見たヤーコンは「クク」と喉を鳴らしながら席を立つ。

 

「ま、決勝戦はこれまで以上の舞台を用意してやるつもりだから期待しておけ。ワシも運営に戻るが、お前さんたちの戦いぶりは最後まで見届けてやる。じゃあな!」

 

 去り際にそう言い残して、彼は控室を後にした。

 

(ふん、成金め。用だけ済ませてとっとと帰ればよいものを……)

 

 一人残された海馬は心の中で悪態をつきつつ、「さて」と一言、背後に構える入場ゲートに意識を向けた。

 閉じたゲートは間もなく開き、うるさいアナウンスの声と共に彼をいざなうだろう。大会を締めくくる、最後にして最大の戦場へと。

 

(決勝戦まで、宣言通りやつは勝ち進んできた。やはり骨のある決闘者(デュエリスト)と見て違いはないか。フフ……‼)

 

 激しく高鳴る決闘者(デュエリスト)としての鼓動を胸に拳を握れば、己の血潮が熱く手のひらを焼くようだ。

 元は仕方なく参加した大会でも、目の前に控えるのは決して負けられない闘い。敵らしい敵と対峙するのも久方ぶりのこととなれば、否応なしに気持ちも昂る。

 ヤーコンの「楽しんでいる」いう指摘もあながち間違いではないだろう。ただし彼の眼が宿すものは殺気に近い、飢えた猛獣のそれなのだが。

 

 

(せいぜい奮闘するがいい……! 初戦の屈辱的な敗北、今度は貴様に刻み込んでくれるぞ、メイ……‼)

 

 

 対戦相手の顔を脳裏に思い浮かべながら、海馬は今一度不敵な笑みを零してみせた。

 

 

 

 

 

〇●〇●〇

 

 

 

 

 

『皆さま、長らくお待たせいたしましたッ!! ホドモエトーナメント決勝戦、選手入場――――ッ!!!!』

 

 

 そのアナウンスを合図にゲートがゆっくりと開き、薄暗い会場に光が差し込む。

 期待を寄せる観客の視線が一点に集中すると同時に浮かび上がるのは、大胆に構えた決闘者(デュエリスト)のシルエット。

 

 

『青コーナー!! その実力に偽りなしッ!! 並みいる強豪をねじ伏せた力の持ち主、海馬瀬人――――ッ!!!!』

 

 

 高らかに名を呼び上げられた海馬が切れのある歩調で姿を現せば、たちまち巻き起こる大歓声。決勝戦ともなれば熱狂具合もひとしおだ。

 加えて会場の演出も強化されており、ステージまでの通路は足を踏み出すごとに両脇のライトが点灯してゆく特別仕様。光と声が一体になって、決勝戦の開幕を飾る。

 

(……これまで以上の舞台とはこれか。つくづく派手好きなやつよ)

 

 内心呆れ交じりにぼやきつつ、海馬はそのまま堂々と歩いてステージに登壇。厳かに腕を組んで来たるべき敵を待ち構える。

 ギャラリーの視線も移動する中で、堅く閉ざされたもう片方のゲートは、一呼吸おいた実況の声により解放された。

 

 

『そして赤コーナー!! その才覚で勝利を引き寄せられるかッ!!? 期待高まるメイの登場だ――――ッ!!!!』

 

 

 ゲートを区切り抜けたメイは、海馬の入場時に負けず劣らずの声援、そして派手な音を立てて光を放つライトに一瞬目を丸くしながらも、胸を張って進み出る。

 正面で睨みを利かせる海馬に臆することなくステージへ上がる。眩い灯りに照らされた横顔は凛として頼もしい。

 

 やがて選手が決戦の舞台に出そろうと、会場の照明が一斉に点灯し、対峙する両者の表情を鮮やかに照らした。

 海馬は変わらぬ威圧的な態度を、メイはバトルを前に昂る感情を顕わに、物言わず互いを見つめ合っている。

 

 その様子にスタジアム全体が緊迫感に包まれる中、海馬は「ふん」と口を開いた。

 

「貴様との決闘(デュエル)がまさかこのような舞台で果たされようとは思わなかったが、これもまた一興。貴様から勝利をもぎ取る場所としても悪くない」

「あら、言ってくれるじゃない。……けれど、そう簡単にはいかないと思うよ! 私だって予選を勝ち抜いてきたんだからね‼」

「ふん、その意気だけは買ってやるが……! 完璧なる勝算、それがオレにはある‼ 果たして貴様ごときに覆せるものかな‼」

「それはやってみないとわかんないでしょ? ゼンリョクで闘わせてもらうよ、海馬くん‼」

 

 一歩も譲らぬやり取りの果てに力強く宣言したメイは、自らの意志を示すようにモンスターボールを高く掲げた。

 対する海馬もまた呼応してボールを手に取り、鋭い眼差しで迎え撃つ。

 

 今まさに、戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

『決勝戦ッ!! 海馬vsメイ、バトル開始ィィィィィィィ!!!!!』

 

 

 

 

「「バトル‼」」

 

 

 

 

「いくぞ! リザードンを攻撃表示‼」

「頼んだよ! ルカリオ‼」

 

▽海馬 は リザードン を繰り出した‼

▽メイ は ルカリオ を繰り出した‼

 

「リザァ‼」

「ルオッ‼」

 

 バチバチと火花がぶつかり合うようなステージに降り立つ二体のポケモン。

 血気盛んに吠える海馬のリザードンに、冷静沈着なメイのルカリオ。いかにも対照的な両者は、相手を牽制するように構えて距離を取る。

 

 早くも1ターン目の攻防に注目が集まる中、向かい合うポケモンたちを見たメイは、ふと楽しそうに声を弾ませた。

 タチワキコンビナートの初戦で激闘を繰り広げた二匹。それが今では成長し、パワーアップした姿で再び相対している。

 

「ルカリオにリザードンか。フフ、何だか懐かしい感じがするね……‼」

「ふん、確かに()()()()()はな」

 

 しかし海馬は感傷に浸るメイを一蹴。挑発的な物言いで、早くも彼女の出鼻をくじく。

 

「あいにくオレに小細工などは通用せんぞ。いくら貴様でもこのデッキを相手に、最初から切り札を消費するほど愚かなプレイングはしまい? 十中八九そのモンスターは、貴様の切り札に見せかけた幻影(イリュージョン)の類に決まっている」

「む……!」

「どうやら図星のようだな? 甘いぞ! 貴様の手の内など既にお見通しというわけだ‼」

 

 開幕早々戦略の一つを看破されたメイは軽く口ごもり、気持ちを立て直すように小さく咳払い。負けじと強気に笑い返した。

 

「……やるね! でも、海馬くんならこの程度はすぐに見抜くと思ってたよ‼ それに素早さはこっちの方が早いし、バレるのなんて時間の問題‼」

「フ……ならばどうする?」

「当然、先手で押し切るまで‼」

「ルオン‼」

「『あくのはどう』‼」

 

▽ルカリオ の あくのはどう‼

 

 指示されたルカリオ――に化けたゾロアークはあくまでも『イリュージョン』の姿勢を貫き、合わせた手と手の間に邪悪な波動を凝縮させる。

 それを見た海馬も不敵に笑って、すかさずリザードンに攻撃を命じた。

 

「真っ向勝負なら受けて立つ‼ 迎え撃て、リザードン‼」

「リザァ‼」

 

▽リザードン の かえんほうしゃ‼

 

 ゾロアークが突き出す両手から身の毛もよだつオーラが解き放たれた直後、猛々しく吠えるリザードンもまた大口を開けて、灼熱の火炎を吐き出した。

 迸る漆黒の波動に、勢いよく燃え盛る業火。二色のワザは真っ向からぶつかり合って拮抗するも、そのうち衝突に耐え切れなくなって大爆発を引き起こす。

 

 

「リザッ……‼」

「ルオッ――アーク……‼」

 

 

 いきなり凄まじい爆炎に包まれる二体のポケモンが苦悶の叫び声を上げるも、衝撃による突風と眩い光の明滅が周囲の視界を覆い隠した。

 

 

「フフ……‼」

「くっ……‼」

 

 

 爆風にも微動だにしない海馬と、腕で庇を作って耐えるメイ。二人は立ち昇る煙の中に目を凝らして互いのポケモンの状態を探る。

 やがて視界が晴れていくにつれステージの状況が明らかになると、固唾を飲んで見守るギャラリーからも、動揺するざわめきが漏れ聞こえてきた。

 

 

【ゾロアーク の イリュージョン】

▽ゾロアーク のイリュージョンが解けた‼

 

「ゾロァ……‼」

 

 

 煙を払いながら現れたゾロアークは片膝をつきつつ踏み留まるも、明らかな深手を負っていた。歯を食いしばって相手を睨み付ける様子が痛々しく目に映る。

 ところがリザードンの方は、どこか余裕すら感じさせる佇まいで羽ばたいていた。体の傷から一定のダメージこそ受けているようだが、まだまだ余力を残していると見えて、意気揚々と翼を打ち鳴らしていた。

 

 

『両者のワザが炸裂するも、防御面で差が出たか――ッ!! ゾロアーク、早くも大ダメージだ――――ッ!!!!』

 

 

「ハハハハハ―――むやみに突っ込んできたのは愚策だったな‼ 先手を取ろうが無駄な話‼ 先に倒れるのは貴様のモンスターだ‼」

「くっ……‼」

 

(予想以上のダメージ! やっぱり一筋縄ではいかないか……‼)

 

 互いのポケモンを見比べながら、メイは思わず歯噛みした。

 海馬とのバトルで最も懸念すべきは、向こうの高火力ワザによって為す術なく押し切られてしまうこと。気を緩めた瞬間にパーティが壊滅しかねない。

 試合前から念頭に置き続けてきたその不安を早速突き付けられたとなれば、若干の焦燥がこみ上げてくる。

 

(けど、落ち着こう……! まだ取り返しのつく最初のターン‼ 相手がどれだけ手ごわくとも、必ずどこかに隙があるはず‼)

 

 自分にそう言い聞かせて平静を保ち、メイは改めて海馬に向き直る。

 

「まだまだ! この程度でへこたれるわけがないでしょ‼ いくよ、海馬くん‼」

「ふん、せいぜい足掻いて見せるがいさ‼ だが、覚えておけ――」

 

 対する海馬も彼女の戦意を受け止めて、より強固となった自信に顔を歪ませた。

 

「オレの布陣は貴様が考える以上に強力、且つ揺るぎないものだとな……‼」

 

 

 




いよいよ始まる決勝戦。
PWTを締めくくる、海馬らしいバトルが書けたらという所存です。
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