遊☆戯☆王 ポケットモンスターズ   作:木之下ジャンクション

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32.華麗なる戦略‼

― ― ― ― ―

【残りの手持ち】

 

 海馬:2

 

 メイ:1

 

― ― ― ― ―

 

 

 

 黒煙が薄っすら残るステージの上で対峙する二人。緊迫した空気が観客席にまで伝わる中、海馬は悠然と構えたまま、俯くメイを見下ろしている。

 ここまで徹底的にプランを潰された彼女の動揺はいかばかりか。サンバイザーの影に隠れた表情は窺えずとも、その胸中を推し量ることに苦労はない。

 

 あとは最期の抵抗をいなし、引導を渡してやるだけ――

 

 

(メイ、これから貴様に血も凍り付く恐怖のバトルを体感させてやる‼ 覚悟することだな……フフフ……‼」

 

 

 待ち望んだ勝利を前にして、海馬はくつくつと喉を鳴らした。

 

 

 

♢♢♢

 

 

「クソッ……さっきから海馬のポケモンのパワーが高すぎる‼」

 

 観客席のヒュウは立ち上がらんほどの悔しさに身悶えしながら壇上の海馬を睨みつけた。

 

「それに『だいばくはつ』なんてとんでもないワザまで使いやがって‼ いいようにやられっぱなしじゃないか……‼」

「ええ、見事なものです。ひとえに彼の戦術の賜物でしょう」

 

 一方、隣に座るアクロマは落ち着いた口調で自身の分析を述べる。

 

「海場さんのパーティ構成は、言うなればパワー&クラック! リザードンやゲノセクトといったパワーの高いポケモンと、マタドガスのような相手の妨害を得意とするポケモンとを組み合わせ、意地でもバトルを有利に進めようとする‼ ムーランドが落とされた今、メイさんは残る一体で闘う他に手はありませんが、まだ彼には二体の強力なアタッカーが控えている……‼」

「だけど、絶対手は残されてるハズだぜ‼」

 

 食い下がるように言い募り、ヒュウは祈るような気持ちでステージを見つめた。

 

(簡単に負けるんじゃねぇぞ、メイ……!)

 

 

♢♢♢

 

 

「いくぞ! 決闘(デュエル)続行‼」

 

 スタジアムに轟く強者の一声。海馬がコートをバサリと翻せば、その勢いに煽られた残煙も舞い上がって散る。

 今や舞台は彼の独壇場となりつつあった。熱狂的なギャラリーの声援を引き出す、威厳に満ちた佇まいは、流石のカリスマ性が成せる業と評する他ない。

 

 しかしそんな盛況も、立ち向かう者にとっては重圧でしかないだろう。

 先ほどからメイはずっと押し黙ったまま。深く長い呼吸の音だけが、微かにその口元から漏れている。

 

 

「ふん、だんまりか。さっきまでの威勢はどうした? 敗北を目の当たりにして、もう言葉すら出なくなったか‼」

 

 

 挑発にも微動だにしない彼女に、もう戦闘の意志などあるまい。

 そう判断した海馬がここぞとばかりに鼻を鳴らした、まさにその時――

 

 

 

「ええ。やっぱり強いね、海馬くんは……‼」

 

 

 

 ぽつりと。メイはおもむろに顔を上げて、愉快そうに口元を緩ませた。

 荒い呼吸で肩を震わせているくせに、清々しいほど晴れ渡った声。それを耳にした海馬の眉が、不穏にぐっと顰められる。

 

「貴様、この期に及んで何をニヤニヤすることがある?」

「……感動したんだ。決勝戦で、こんなに楽しいバトルができてることに……‼」

「なに……?」

 

 いつしかメイの声は興奮に弾んでいた。今の今まで圧倒されて続けたというのに、敗色はおろか一抹の不安すら感じさせず、かえって生き生きと目を輝かせる。とても崖っぷちに立たされた者とは思えない面構えだ。

 見込みの外れた海馬は当惑の後、つまらなさそうに息を吐いた。

 

「くだらん、唐突に何をのたまうかと思えば……! まだ自分の置かれた立場が理解できないか?」

「いいえ? もう十分すぎるくらいわかってるよ! でも、だからこそワクワクするんじゃない‼」

 

 喜々として語りながら両肩を震わせるメイ。それは決して怯えからくるものではなかった。むしろその逆、苦境を苦境とも捉えず、心身共に奮い立っているがゆえの武者震い。

 彼女は昂る感情のままに言葉を紡いだ。

 

「未知のポケモンに度肝を抜かれるような戦術! 立ちはだかる壁は高ければ高いほど、乗り越えたくてたまらなくなる! 信じる仲間と一緒にね‼」

「ふん、その方法があるとでも?」

「どうかな? わからないけど、私は奇跡を起こすつもりでいるよ‼ 仲間を信じて最後まで戦い抜くのがポケモントレーナーなんだから‼」

「……‼」

 

 その台詞を耳にした途端、激情が思わず喉元までせり上がった。

 何故かはわからないが、無性にこちらを苛立たせるような物言いに、長らく眠っていた感覚がふと呼び覚まされた、その僅か数秒後には――

 海馬の口から今までとは一線を画す、熱量の雄叫びが勢いよく飛び出した。

 

「……ならば見せてみるがいい、その奇跡とやらを‼ このオレが真っ向から粉砕してくれるわ‼」

「もちろん! 望むところ‼」

 

 メイも力強く頷き返して、ホルダーから最後のモンスターボールを引き抜く。

 握りしめると仄かに暖かい。その温もりに勇気付けられたメイはボールを天高く掲げると、腹の底から思い切り声を張り上げる。

 

 

「ここからが、私たちの本当の力が試される時‼ ――いくよ、ルカリオ‼」

 

 

 間髪入れず投げられたモンスターボールはすぐさま眩い光芒を放ち、フィールドを鮮烈な輝きで埋め尽くした。

 

▽メイ は ルカリオ を繰り出した‼

 

「ルオン‼」

 

 光の束より躍り出たルカリオは、華麗なステップを踏んで戦場に着地すると、早速臨戦態勢に入った。

 対峙する海馬に対しては警戒心をMAXに、手背(しゅはい)から湧き立つ波動を鋭く研ぎ澄ます。

 

 

『赤コーナー最後の砦、ルカリオが遂に登場ッ!! バトルはいよいよ大詰めを迎えている―――ッ!!!!』

 

 

「……来たか」

 

 海馬は胡乱げに目を細めた。幻想(イリュージョン)の像などではない本物のルカリオを前にして、その眉間に刻まれた皺は一層深いものとなる。

忌々しい、その面持ちに色濃く表れている。

 一度ぶつかり合った相手を見破れぬ彼ではなかった。凛としたルカリオの佇まいを一目でも見れば、嫌でもあの屈辱的な決闘(デュエル)を思い出すというものだ。

 

(しかし、今や立場は逆転した……! 敗北の十字架を背負うのは貴様の方だ、メイ‼)

 

 心の中でほくそ笑み、ベルトに下がったモンスターボールに手を伸ばす。その内の一つは、指先が触れると仄かな熱を発して微かに揺れた。リザードンが入ったボールだ。主人と同じく辛酸を嘗めさせられた相手にリベンジを誓い、秘めたる闘志をたぎらせている。

 だが――

 

(……焦るな。貴様の召喚はやつも読んでいるはずだ。属性の相性からして攻め込むのは易いが、万が一でも(トラップ)を張られていては、こちらも何らかのリスクを背負うことになるからな……)

 

 思い出すのは、彼女が準決勝でヒュウ相手に繰り出した最後のワザ――『かみなりパンチ』の存在だった。

 あれはどう考えても、こちらのリザードンへの対抗策として用意したに違いない。メイからすれば、ただでさえ弱点を突かれる上に、主力の2タイプのワザがどちらも半減されてしまう厄介な相手なのだ。さいしょからこの対戦を想定していれば、対策の一つや二つは用意しているに決まっている。

 

「………」

 

 鋭い視線を向けられたメイがごくりと唾を飲み込んだ。バトルを楽しみ気丈な態度を取り続けていても、やはり緊張は隠しきれない。

 当然だ。真っ向勝負ではどう足掻いても勝ち目の無い試合なのだから。

 

(やつにまだ勝機があるとすれば、次の攻撃を耐え凌いでから、何らかの方法で素早さを上げて逆転するくらいのもの。文字通り奇跡に近い強引な手段だが……)

 

 相手の手を読み、裏をかくのが勝負の鉄則。警戒を怠るわけにもいかない。

 海馬はしばらく熟考した末、潔く別のモンスターボールを手に取る。

 

(オレが狙うは確実なる勝利! 貴様の出番は万が一のラストターンだ‼)

(……リザ‼)

 

 ボールの中のリザードンは、意図を組んだのか大人しくなった。つくづく物分かりのいい()()()である。

 海馬は改めてルカリオと向き合い、構えたボールを高々とかざした。

 

 

「どう足掻こうと容赦はせんぞ! オレはゲノセクトを召喚‼」

 

 

▽海馬 は ゲノセクト を繰り出した‼

 

「ゲノム‼」

 

 眩い光を突き破るかのように飛び出たゲノセクトは、錐揉み回転しながら空中で手足を広げて力強く着陸すると、すぐさま自慢の砲塔をルカリオに照準する。隣のリザードンに発破でもかけられたのか、赤眼に宿る闘志はいつにも増して激しい。

 

【ゲノセクト の ダウンロード】

▽ゲノセクト の 特攻 が上がった‼

 

『青コーナー、ゲノセクトを繰り出した――ッ!! 果たして勝利の女神が微笑むのはどちらか――――ッ!!!!』

 

 

「ゲノセクト……‼」

「フフ……貴様を倒すには十分すぎるほどのモンスターだ! 覚悟するがいい……‼」

 

 両者の切り札が向かい合うや否や、スタジアムも俄かに色めき立った。その反応は千差万別。メイの健闘を称えて応援する者と、海馬の圧倒的な勝利を予想して期待に胸を膨らませる者。皆が等しく熱の籠った視線をフィールドに注ぎ込み続ける。

 

 それは観客席に座るヒュウとアクロマも同じ。

 それぞれ反応は違えど、この闘いをかじりつくように見つめている。

 

「出ましたか、ゲノセクト……‼ 最強無敵の究極兵器……‼」

「体力満タンのアイツを倒さなきゃ先はないぜ‼ 頑張れ、メイッ‼」

 

 もっとも、ステージに立つ二人は外野の喧噪など意に介していなかった。

 ただ一心に互いのポケモンを見据えるのみ。

 

 

(このターンで勝負が決まる……‼)

 

 

 メイは深く息を吸い込み、静かに拳を握りしめた。

 

 

(落ち着け私……! 今は待つんだ……最後のチャンスを……‼)

 

 

「……これで茶番も終わりだ!」

 

 

 心の内で呟くと、不意に海馬の鼻先が動いた。

 瞳孔の収縮した目が見開かれ、メイとルカリオを鋭く射抜く。

 

 

「いくぞ! ゲノセクトの攻撃‼」

 

 

 海馬が叫んだ時、既にゲノセクトは自身の装甲を真っ赤に熱し上げていた。

 バチバチと鳴る火花は全身に伝播し、足場を焦がすほどの高温まで達して、やがて暴発するような勢いで発火する。獄炎に包まれたゲノセクトの影は、生物感のない眼だけ光らせて不気味に揺らめいた。

 

「『ニトロチャージ』‼」

 

(――来る‼)

 

 メイが思うより早く、ルカリオは攻撃を感知していたようだ。

 咄嗟に防御態勢を取った、その直後。ゲノセクトの装甲が瞬時に速度を上げ、砲弾さながらに突撃する。

 

▽ゲノセクト の ニトロチャージ‼

 

「ルオァッ……‼」

 

▽効果は抜群だ‼

 

 それは単なる質量を持った突進攻撃に留まらない一撃。灼熱の炎は交差する腕をも焼き焦がし、怒涛の勢いをもってルカリオの足をじりじりと後ろへ滑らせていく。

 どうにか意地で堪えてはいるが、いつ吹き飛ばされてもおかしくない無茶な抵抗。しかしメイとて負けてはいない。

 

(耐えてルカリオ‼ その攻撃なら、あなたの体力は僅かに残る……‼)

 

 必死の形相で踏ん張るルカリオを信じ、対面の海馬に笑い返す。

 

「その攻撃は読んでいたよ‼ だけど――『カムラのみ』発動‼」

「なに……?」

 

 メイの宣言を海馬が聞きとがめた直後。ルカリオは押し合いの最中で一瞬の隙を突いて、懐より取り出した木の実を一口に頬張る。

 その実を呑み込んだ途端、炎に鈍っていたルカリオの動きが少しだけ軽くなったように思えた。

 

▽ルカリオ は カムラのみ で 素早さ が上がった‼

 

「"カムラのみ"を体力が減った時に食べれば、素早さが一段階上がる‼ これならもう少し、バトルを楽しめるんじゃない⁉」

「無駄だな……‼」

 

 自信を覗かせるメイだったが、勝利を見据える海馬の顔つきは一貫して、これっぽちも変わる気配すらなかった。

 彼にとっては全てが想定の範囲内。最初こそ警戒したものの、蓋を開けてみればこの程度だ。わざわざ反応してやるまでもない。

 

「忘れたか‼『ニトロチャージ』にも特殊効果があることを‼」

「ッ……‼」

 

▽ゲノセクト の 素早さ が上がった‼

 

 海馬の声に、ルカリオと拮抗していたゲノセクトの速度が目に見えて上昇する。吹き上がる蒸気がゲノセクトの動きを洗練させ、踏ん張るルカリオの踵を、ずいと再び押し出し始めた。

 

「これでゲノセクトの素早さも一段階アップした‼ 攻撃の順序も元に戻る‼」

 

 ゲノセクトの眼光がひと際強くギラついた。全身に纏う獄炎を激しく燃え盛らせた陽炎のような姿が禍々しくも強大に映る。

 

「ゲノム‼」

 

 力任せに機動を加速させた一撃が、とうとうルカリオの防御を打ち崩した。細身の体は炎に煽られて吹っ飛び、その勢いのままにメイの後方まで横転。ステージを照らすスタンドライトの一つに激突し、機械の破片を撒き散らしながらようやく止まった。

 

「ルカリオ、大丈夫……⁉」

「ルオ……」

 

 まだ動ける。そう示すように上体を起こしたルカリオだったが、やはり相当のダメージを負っている。脚を震わせながら立ち上がるのもやっとという有り様だ。

 一方のゲノセクトは攻撃の反動を利用し、軽々と回転しながら海馬の手前に着地した。その身を包んでいた炎は消え失せ、今は無機質なボディを冷ましている。

 

 

「もう逃げ回ることはできんぞ……‼」

 

 

 いつの間にか、ギャラリーの声援は聞こえなくなっていた。

 両者の攻防が激しさを増すにつれ、スタジアムは水を打ったような静けさに包まれていく。皆、緊迫感に包まれたバトルの行方を、瞬きも忘れて見守っているのだ。

 

 そんな静寂の中で響く海馬の声は、普段とは比にならないほどの圧迫感を孕んでいた。聞く者の心に重くのしかかるような低音でメイに言い聞かせる。

 

 

「次のターンを持ってこの決闘(デュエル)は幕引きとなる! 敗北の十字架を担ぐのは貴様の方だ、メイ‼」

 

 

 鋭い言葉に膨らんだ感情。そして、勝利への執念が合わさったような語勢。

 海馬はここぞとばかりに胸を張ると、会心の表情で言い放つ。

 

 

 

 

「屈辱の重さで地を這いつくばるがいい!!」

 

 

 

 

 聞く者全てを圧倒する一括に、会場の誰もが海馬の勝利を予感した、その時であった。

 

 

 

 

「……待っていた」

 

 

 

 

 ぽつりと零された言葉が、海馬の耳を貫いた。

 

 

 

 

「待っていたんだ……()()()()()()を‼」

 

 

 

 

 メイがそう告げると同時に、ボウッ、と。たちどころに吹き上がった火炎がルカリオを包み込む。

 

「なに……⁉」

 

 予想だにしない光景に、海馬も思わず目を剥いた。

 

 ごうごうと燃え盛る炎を纏ったルカリオは苦しむでもなく、引き締まった表情でこちらを見据えていた。静かに火の粉を散らし、奥底に秘められた闘志を滾らせる。そのどこか既視感を覚える立ち姿にふと思い至って、海馬は奥歯を噛みしめる。

 

 

「変化ワザ、『まねっこ』の効果だよ」

 

 

 メイがしたり顔で頷いた。

 

 

「最後に繰り出されたワザをコピーし、自分のワザとして使うことができる‼」

「……貴様‼」

 

 

 まさに乾坤一擲の秘策

 だが、気付いた時にはもう遅かった。

 

▽ルカリオ は まねっこ をした‼

 

「いくよ、海馬くん‼ ルカリオで攻撃‼」

「ルオォォォォォ‼」

「『ニトロチャージ』ッッ‼」

 

▽ルカリオ の ニトロチャージ‼ 

 

 目も止まらぬ速さで振られた炎の拳が腹の辺りを撃ち抜く。

 

「ゲ、ノガッ」

 

▽効果は抜群だ‼

 

 驚愕と動揺に染まり切った悲鳴が発せられ、ゲノセクトは目をバチバチ明滅させた。装甲が凹みそうになるほどの衝撃に体が傾く。

 自分の意志で使いこなしてはいても、『ニトロチャージ』は本来弱点とある炎タイプのワザだ。それをそっくりそのまま返されれば、ゲノセクトと言えど持ち堪えることはできない。

 やがて鋼鉄の兵器はガシャリと激しい音を立てて背中から倒れる。そのうち赤眼の光も消えて、完全に機能を停止した。

 

▽ゲノセクト は 倒れた‼

 

「く……こんな(トラップ)を……‼」

「それだけじゃない! 『ニトロチャージ』の追加効果発動‼」

 

 呆然と立ち尽くす海馬の怒りに被せ、メイは更に声を張り上げた。

 

「攻撃したルカリオの素早さは一段階アップする‼ さっきの"カムラのみ"と合わせて二段階アップ‼」

「ッ……‼」

 

▽ルカリオ の 素早さ が上がった‼

 

「これでルカリオの素早さはリザードンを確実に上回った‼ 勝敗は逆転だよ、海馬くん‼」

 

 

『ま、まさか……何という大番狂わせ――ッ!!? 赤コーナー、ゲノセクトを倒しつつステータスをもアップした―――ッッ!!!!』

 

 

「よっしゃああ‼ 起死回生の一発逆転コンボだぜ‼」

「なんと……! まだ手が残されていたというのですか……⁉」

「へへっ! これもバトルの醍醐味ってやつよ‼ いけ、メイッ‼」

 

 

 いつしかスタジアムには割れんばかりの歓声が轟いていた。

 たった今繰り広げられたばかりの鮮烈極まりない逆転劇に、嵐のような声援と拍手が巻き起こり、それは勝負の雰囲気をも一気に変えた。

 

 

「 おのれぇぇぇぇぇ……‼」

 

 ゲノセクトを戻した海馬の声が怒りに震える。

 こめかみには青筋が走り、握りしめた拳が行き場の無い激情を物語っていた。

 

「まだだ……まだ終わらんぞ‼」

 

 吠えながらの一投。モンスターボールは激しい回転を伴ってフィールドの中央に落下し、閃光を上げて開いた。

 中からは最後の一体となるリザードンが翼を広げて飛び立ち、すかさず『かえんほうしゃ』の構えを取る。

 

▽海馬 は リザードン を繰り出した‼

 

 

「焼き尽くせ! リザードン‼」

「リザァ‼」

「無駄だよ‼」

 

 攻撃を下そうとする海馬に向け、メイはいたずらっぽく笑って切り返した。

 

「既に素早さはこっちの方が上! 先手を取るのはルカリオだからね‼」

「ルオン‼」

 

 視点を戻せば、ルカリオは既にリザードンへ飛び掛かる寸前であった。

 振りかぶった拳に稲妻が走っている。間違いなく『かみなりパンチ』を繰り出すつもりだ。とてもリザードンの残り体力で耐えきれる保証はない。

 

 詰みだ。そう理解せざるを得なかった。

 

「く……くっ……‼」

「最後の攻撃‼」

 

 奥歯を軋ませる中で、メイの攻撃宣言だけが耳朶(じだ)を打つ。

 

(二度の敗北だと……! オレの決闘(デュエル)には、未だ足りないモノがあるというのか……‼)

 

 逃れられない敗北を前に、ふと思い至った時には。

 大地を蹴って跳んだルカリオは拳いっぱいに電撃を込め、リザードンの眼前まで迫っていた。

 そして雑念を振り払うかのような、メイの鋭い一声がスタジアムに響く。

 

 

「いっけぇぇぇぇ‼ 『かみなりパンチ』‼」

「ルォォォ‼」

 

 

▽ルカリオ の かみなりパンチ‼

▽効果は抜群だ‼

 

 迅雷の拳打が凄まじい速度で叩き込まれ、オレンジ色の巨体が一瞬にして地に伏せる。

 口から黒煙を吐いて目を回すリザードンは、そのままピクリとも動かなくなる。

 

▽リザードン は 倒れた‼

 

 

『決着――ッ!! 映えある第一回PWT優勝者は赤コーナー……!! メイだ――――ッッ!!!!』

 

 

 今日一番の盛り上がりを見せるスタジアムに、興奮しきった絶叫が轟いた。

 鳴り響く拍手にクラッカーが弾け、紙吹雪が舞い落ちるステージの真っただ中。海馬は「ふん」と鼻を鳴らして、メイが気付くよりも前にその場を立ち去るのだった。

 

 




長きに渡るポケモンバトルもここで一段落つきました。
未だに慣れない形式ですが、楽しんでいただけたら幸いです。
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