遊☆戯☆王 ポケットモンスターズ   作:木之下ジャンクション

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一方その頃、的なお話。



幕間 蘇る千年の敵
34.アローラに射す影


 

 カントー地方の南西に位置する小さな町、マサラタウン。

 取り立てて特徴のない田舎町だが、今日に限ってはその景観に変化が生じていた。

 

 町内唯一の名所と呼べるオーキド研究所が保有する敷地には、素朴な町の風景に似つかわしくない、最新鋭の装備を携えた調査員たちが駐在している。近未来的なボディースーツを着込んだ数人が何やら精巧な機材を組み立て、気難しい顔でパソコンを操作し、敷地を慌ただしく行き来する様は、ともすればSF映画の撮影現場のようでもあった。

 

「お疲れさん。どうじゃね、調子は?」

 

 研究所より様子を見に来たオーキドが、作業する調査員の一人に声を掛ける。

 

「おや、これはオーキド博士」

 

 青いカイゼル髭を蓄えた、リーダーと思わしき年配の調査員は作業の手を止め顔を上げた。オーキドの顔を一瞥すると、神妙な面持ちで太陽輝く快晴の空をゴーグル越しに仰ぐ。

 

「……正直に申し上げると、順調ではありませんな。微弱な痕跡を搔き集める作業に時間を要している次第でして、申し訳ない」

「いや、こちらも急かせてしまってすまんのう。しかし、そのウルトラホールというのも気難しいやつじゃな。開くだけ開いて、すぐに閉じてしまうとは……」

「全くです」

 

 オーキドの言葉に、年配の調査員も深く頷いた。

 

 異界の人やポケモンを巻き込む、次元の裂け目『ウルトラホール』。

 最近では南国の島々、アローラ地方で多数発生した事件が記憶に新しい。

 今回オーキド研究所へ派遣された調査員たちは皆、アローラ地方に本部を置く『空間研究所』の所属である。ウルトラホールの研究に加え、迷い込んだ人やポケモンを元の次元に送還する役目をも担ったエキスパートたちだ。

 

 物々しい装置を巧みに操る彼らが取り掛かっているのは、突如としてマサラタウンに開いたウルトラホールの解析だった。出現場所に漂う残滓を採取し、そこから元の次元に繋がる大穴を再び開こうと作業を続けている。

 それもこれも、この世界に迷い込んだ『決闘者(デュエリスト)』を名乗る珍妙な男――海馬瀬人を元の世界に戻すためだ。

 

 しかしながら、現状の調査は思うように進んでいない。

 次元の裂け目は気まぐれだ。プロの手であっても完全に閉じてしまったホールを開通させることは難しく、半ば暗礁に乗り上げているような状態であった。

 

「……ところで、バーネット博士はおるかね? 彼女も来てくれると言っておったはずじゃが」

 

 澄んだ昼空を眺める折、顎を撫でさするオーキドは、ふと思い出したように尋ねる。

 空間研究所の若き所長で、見知った仲のバーネット博士。せっかくなので一目会おうと出向いてきたのだが、どうにも彼女の姿が見当たらない。

 きょろきょろ周囲を見渡していると、その視線の動きに気づいた年配の研究員は「おっと」と呟き眉尻を下げた。

 

「これは失礼、連絡が行き届いておりませんでしたか。博士は急遽別件が入ってしまい、アローラに残っておられます」

「おお、そうじゃったのか。……しかしこのタイミングで別件とは、あれかね? また別のウルトラホールが?」

「ええ。実はカントーに出発する前夜、メレメレ島で目撃情報が入りまして、今はそちらの調査に……」

「なるほど、それは仕方ないわい」

 

 オーキドは納得したように首を振った。

 

「ウルトラビースト絡みの事件も、最近多いと聞くからのう。その件も無事に解決すればよいのじゃが、大丈夫そうかね?」

「……それがあちらも、かなり大変な状況のようで」

「というと?」

「ウルトラホールが開くだけならまだマシだったのですが、時期を同じくして妙な事件が多発しましてね。これがまた調査を難航させているらしくて……」

 

 最後まで言葉にすることなく、調査員は口を噤んだ。そして物憂げな目を大空に向け、遠く離れたアローラの地を想うかのようなため息をこぼすのだった。

 

 

 

 

 

〇●〇●〇

 

 

 

 

 

 相次ぐ盗難事件、被害多数 犯人未だ捕まらず

 

 〇月✕日午後、ウラウラ島・マリエシティにて滞在中の観光客から、所持品が盗まれたとの通報が警察に寄せられた。

 被害者の男性の証言によれば犯人は〇日午後✕時半頃、マリエシティの路地裏より男性に近づき、メガリングとリュックサックを強奪。そのまま逃走したとのこと。リュクサックは数時間後にマリエ庭園で発見されたが、研究用のメガストーンが見当たらず、犯人に持ち去られたものと推察されている。防犯カメラの映像から、犯人は黒っぽいフードを目深に被り、顔を隠すようにしていたとのこと。

 アローラ地方では犯人不明の盗難事件が相次いでおり、警察は先日メレメレ島・ハウオリシティで発生したポケモン研究所の空き巣事件との関連性も視野に入れ、捜査を進めている。

 

『アローラ日報 第〇〇号』

 

 

 

 

 

〇●〇●〇●〇

 

 

 

 

 

「おい、この記事見たか? 何だか物騒なことになってやがるぜ」

 

 アローラ地方のウラウラ島。常夏の太陽が燦々と照り付ける観光地、オリエンタルな雰囲気漂うマリエシティ……の路地裏。

 暑い日差しを避けるように土産屋の軒でたむろする、少々ガラの悪い連中が、朝刊片手に話に花を咲かせている。

 

「見た見た! とんでもないやつがいたもんだねぇ」

「もしかしなくても、数年前のオレたちよりあくどいことしてんじゃないスカ?」

「間違いねぇ! 流石に人様のモンにまでは手ぇ出さなかったろ! ……多分」

 

 バッドガイ二人に、バッドガールが一人。汗ばんだ真っ黒なタンクトップ姿に田舎特有の()()()が光る彼らだが、それでも記事の内容には驚きを隠せないらしい。

 

「にしてもこれ、犯人まだ捕まってないんだろ? アタイ嫌だよ、まだこの辺にいたりしたら」

「心配すんな。狙われてるのは研究所だの、観光客だのばっかりだ。地元の一般市民にゃ関係ねーよ」

「……けどアニキ、一応オレたちも叩けば埃が出る体じゃないスカ。知らないところで変な因縁付けられてたりしないスカね?」

「ないない‼ とっくに解散済みのオレたちに、今更絡んで来るやつなんかいねぇさ‼」

 

 兄貴と呼ばれた長身のバッドガイは、手をひらひらと振って笑い飛ばした。

 

「それに、もしそんな物好きが来たら、このオレ様がブッ飛ばしてやるぜ~~ッ‼」

「さっすがアニキ、カッコいい~‼」

「頼りになるッス‼」

「まぁな‼」

 

 昼間から他愛のない話で盛り上がる三人組。基本代わり映えがなくのんびりとした田舎に生きる彼らにとっては、凶悪事件も久々に起きた新鮮なニュースといった具合に受け取られ、しょうもない井戸端会議のネタに消費される。このアローラという島々が、普段から平和な空気を保っているがゆえの光景であった。

 

 

 だが、そこに――

 

 

 

「おい貴様」

 

 

 

 不意に背後から声を掛けられ、兄貴分が反応しかけた矢先。

 いきなり肩を掴まれたかと思えば、そのまま強引に振り向かされて、声を発した相手の顔が視界いっぱいに広がる。

 突然の出来事に兄貴分はハッと息を呑むも、その相手は構わず言葉を続けた。

 

「この辺りにいる、ゴーストZを持ったキャプテンとかいうやつを知らないか?」

 

 肩まで伸びた白い長髪が目を引く美少年である。

 しかし、端正な顔立ちとは裏腹にその眼光の鋭さたるや。研ぎ澄まされた刃物の如き冷酷さを秘めていた。

 

「あぁ? 何だオメェ⁉」

「オレ様の質問に答えろ」

 

 腕を振り払って怒鳴る兄貴分だったが、対する少年は意に介さず詰め寄る。

 

「何だいこいつは?」

「闘ろうってんスカ?」

 

 他のメンバーもつられてガンを飛ばし始め、一触即発の空気が立ち込める。

 しかし少年は怯むどころか、むしろ足を踏み出して兄貴分の胸倉を掴み、そのまま強引に引き寄せると、

 

 

「答えろ」

 

 

 有無を言わせぬ圧で凄んだ。その殺気に満ちた視線に射抜かれ、いきり立っていた彼らも思わず尻込みしてしまう。

 

「ま、マジで何なんスカ……⁉」

「アニキ……‼」

 

 子分たちが口々に不安の声を漏らす中、兄貴分は冷や汗を垂らして、しどろもどろに答えた。

 

「お、お前が探してるキャプテンなら……! スーパー・メガやすの跡地に、よくたむろしてるって、聞くぜ……!」

「スーパーだと?」

「放棄されたいわくつきの跡地があんだよ! オレたちもよくは知らないけど、そこに……」

「クク……そういうことか……!」

 

 それだけ聞くと、少年は兄貴分を雑に突き放して踵を返した。

 もう用はないとでも言わんばかりの薄気味悪い笑みを残して、足早に路地裏を去って行った。

 

「……アニキ、大丈夫スカ⁉」

「お、おうよ……!」

 

 突き放された拍子に尻餅をついていた兄貴分は、仲間の助けでようやく立ち上がると、服についた砂埃を払いながら胸を撫で下ろす。下手をすれば危害を加えられかねなかった緊張感から、心臓の鼓動は未だに早鐘を打っていた。

 

「にしても何だったんスカね、あれ……?」

「アニキがビビっちまうのも珍しいけど、確かにありゃあ相当ヤバいやつだよ」

「いや、ビビってなんかいねぇけどよ! ……ただの不良って感じでもなかったよな」

 

 胸倉を掴まれた時、目の前に迫った少年の顔を思い返してみるが、その異様な眼つきは脳裏に焼き付いて離れない。まるで人ならざる者と対峙したかのような不気味さすらあった。

 

「……ま、まぁいい! もう行こうぜ! 何だか気が滅入っちまった……‼」

「そうッスね! さっさと買い物済ませて帰るッス!」

「賛成、アレがまだこの辺にいると思ったら嫌だしね。ただでさえ盗人騒ぎも起きてるってのにさ」

「……もしかしたら、その事件ってのも今のやつが関わってたりするんじゃないスカ?」

「やめろやめろ! そんな笑えねぇ冗談……‼」

 

 妙な悪寒に背筋を震わせ、そそくさとその場を後にする三人組。

 ふと大空を見上げれば、にわかに曇った空模様が、シティの大通りにまで不穏な影を落とそうとしていた。

 

 

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