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【残りの手持ち】
バクラ:3
アセロラ:2
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フィールドに並び立つポケモンたちは皆、目元に深いクマを浮かべ、呼吸を乱している。
『ほろびのうた』の効力が発揮されるまで、あと3ターン。その間も、罪深きノイズは彼らの体をじわじわと蝕み続けるのだ。
「ククク……! オレ様が何をせずとも、貴様は死の淵に立たされている……‼」
バクラは小馬鹿にするように煽って、口元の笑みをさらに濃くした。
「あとは恐怖に怯える貴様の顔を、じっくり拝ませてもらうとするぜ‼ ハハハハハ……‼‼」
周囲の空気は静寂の中で刻々と張り詰め、気を抜けばすぐにでも崩れ落ちてしまいそうなほど。アセロラの心の調和を乱そうと迫る。
それでも彼女が折れないのは、まだこのバトルに自信を持っているからだ。
アローラの日差しを受けて朗らかに生きるアセロラだが、彼女は決して無知ではない。ウラウラ島が誇るキャプテンの一人、それも危険が伴うゴーストタイプを専門としているだけあって、実力は折り紙付き。直感だって人一倍優れている。
オカルトデッキの真の狙いが明かされた時は流石にヒヤリとさせられたが、敗北と隣り合わせになった緊迫感は、逆にアセロラの思考を冷静にさせた。バクラが嘲り笑う間にも、その目は希望を見出したかのように一筋の光明を捉えている。
(……やはり戦意喪失しねぇか、強情なやつだぜ)
物言わずとも感じる闘気。バクラはアセロラの眼差しからその心を汲み取った。
やはり、この手のタイプは相手にするには面倒極まりない。一瞬、バクラの表情から笑いが消え、焦れ込んだように小さく舌を打つ。
だが、それもすぐのこと。バクラはすぐに余裕の笑みを繕ってみせた。
「いくぜ! オレ様のターンだ‼」
声高に宣言し、自身の
「ムウマージを守備表示へ変更‼」
▽ムウマージ の まもる!!
「さらに、ミカルゲも同じく表示形式を守備にする‼」
▽ミカルゲ の まもる‼
▽ムウマージ と ミカルゲ は守りの体勢に入った‼
たちまち二体のゴーストポケモンたちを、半球状の結解が包み込む。時間稼ぎとしては最良の選択。アセロラも嫌そうに眉をひそめてしまう。
「なっ、また‼」
「……メノォ!」
▽ユキメノコ の こおりのつぶて‼
バクラの行動から一手遅れて、ユキメノコが攻勢に出るも無意味だ。瞬時に放たれた小さな氷塊も、鉄壁のバリアに弾かれて届くことはない。軌道の逸れた礫の数々は砂浜に突き刺さり、砂塵を巻き上げるだけに留まった。
▽ミカルゲ は 攻撃を防いだ‼
「ハハハハハ‼‼ 残念だったなぁ、先制ワザも後手に回ればこの通りよ」
敵の抵抗を確実に潰しながら、バクラは狂気的な高笑いを繰り返す。
鋭い眼圧に、緩められた口元から覗く牙。もはや彼自身が怨霊と見紛うほどの様相でアセロラに告げた。
「アセロラ、貴様は終わった。オレ様のオカルトコンボに死角などないからな!」
「っ……!」
「ククク……このまま何もできずに死の宣告を迎えるか、サレンダーするか! ふたつにひとつだ、さっさと選びな‼」
「……まだだよ‼」
しかしバクラの脅し文句に、アセロラは間髪入れずに反論する。
キリリと引き締まっていく表情。彼女の眼は依然として希望を宿したまま、真っ直ぐにバクラを見つめていた。
「カプたちに認められたキャプテンの誇りにかけて! アセロラちゃんは、残されたターンをゼンリョクで戦う‼ サレンダーなんてしないよ‼」
「笑わせんな! 貴様に勝ちの可能性なんてねぇ‼」
「それはどうかな‼」
その時。大声を張ったアセロラの腕に、燦爛たる光が煌めいた。
手首に巻かれた白きリング。それが彼女の闘志に共鳴するかのような輝きを放ったのだ。
「な、なに……⁉」
視界が白く塗りつぶされるほどの勢いにはバクラも思わず目を覆い、驚愕に目を見開く。
「まさか……あれがZリング……‼」
アローラの秘宝が放つ神秘の輝きは、瞬く間に頂点に達した。
アセロラがリングに手をかざすと、そこに取り付けられた紫色のクリスタルが、背後のシロデスナと共鳴して真の力を解放する。
「……驚いたでしょ‼」
凛と立つアセロラは、そこでようやく口角を上げてバクラに言った。
「これこそが『ゴーストZ』の輝き! あなたのオカルトコンボを突破できる、アセロラの切り札だよ!」
「く……! オレ様のオカルトコンボを、破るだと……‼」
自ずとバクラの表情が険しさを増し、掴む額には青筋が浮かび上がった。彼が息を呑んで見つめる視線の先には、いつしか『ゴーストZ』のパワーを受けて覇気を高めた、巨大なシロデスナが立ち塞がっている。
そしてシロデスナの足元では、Zリングを掲げるアセロラが全身全霊、ゼンリョクの構えでポーズを決める。相棒との絆を高める神聖な舞を受け取ったシロデスナは、いよいよ不可思議なオーラを纏って猛々しく吠えた。
▽シロデスナ は Zパワーを 身体に まとった‼
「デスナァァァァァァァァァァ‼‼‼‼」
▽シロデスナ が解き放つ 全得の Zワザ‼
「いくよ‼ これが、私たちのゼンリョク、最大のパワー‼」
響き渡る勇敢な号令。バクラが危機を感じた頃には、もう遅かった。
闇をも掻き消す漆黒の帳がフィールドに下りる。本能的に後ずさりする暇すらなく、既に現世とは隔絶された冥府魔導の空間が、目の前に展開されている。
そして、それだけでは終わらない。Zパワーで呼び寄せられた怨念は無数の触手となって顕現し、恨みの矛先をミカルゲに向けて一斉に襲い掛かった。
《むげんあんやへのいざない》
破竹の勢いで繰り出される闇の触手たちは、ミカルゲを守る鉄壁の防壁も難なくぶち抜き、幾十もの束となって敵へ覆いかぶさると、即座に大爆発を引き起こす。
攻撃の余波は暗黒の閃光とともに拡散し、付近のバクラまで巻き込んで壮絶な断末魔の咆哮を轟かせた。
「うわぁあああああああああああああああああ――――‼‼‼‼」
やがて、全てを呑み込んでいた帳が晴れた時。
再び開かれたバクラの目の飛び込んで来たのは、想像を絶する光景だった。
「うおおぉ……!! くっ……‼」
▽ミカルゲ は倒れた‼
足元で転がるかなめ石には、ミカルゲの魂が弱々しい火をともして力尽きていた。
ゼンリョクのZワザ。その威力を目の当たりにしたバクラの顏が引きつる。
「守備表示すら貫通するほどの威力だと……‼」
「バトルで一回だけのとっておきだからね! 『まもる』なんかじゃ到底防げないってワケ‼」
「く……そんな手が……‼」
余裕の笑みが、徐々に苦虫を噛み潰したような険しい表情へと変わっていく。
アセロラが放った切札の力は予想を遥かに超えていた。オカルトデッキの守りを真正面からこじ開け、温存してきたミカルゲを容易く葬り去ったのだから。
(ミカルゲはやつの攻撃を躊躇させる攻防一体の
「ふふーん、どう? アセロラちゃんもけっこー強いでしょ‼」
乱れつつある計算に冷や汗を垂らす、バクラの動揺を見て取ったアセロラは得意気に笑った。
「オカルトコンボの守りは崩させてもらったよ! これぞ反撃の狼煙、ってやつかな?」
「クソ……! だが、それくらいでいい気になるなよ‼ この瞬間、『ほろびのうた』のカウントが進む‼」
▽ほろびのカウント が 2 になった‼
「貴様の命はあと2ターン‼ さらに、オレ様にはまだ一体、ライフ満タンのモンスターが残ってるんだぜ‼」
ミカルゲを戻したバクラは少し焦燥しつつも、威勢よく最後のモンスターボールを投げ放つ。
「ジュペッタ、召喚‼ 守備表示だ‼」
▽バクラ は ジュペッタ を繰り出した‼
「ジュペッタァ……‼」
ぬいぐるみポケモンのジュペッタが、辛気臭い鳴き声を上げて着地する。呪われた人形らしくチャックで出来た口を持ち、赤く鋭い目つきが物凄まじい。とはいえ攻撃の素振りは全く見せず、出現と同時に防御の体勢を整えた。
▽ジュペッタ の まもる‼
▽ジュペッタ は守りの体勢に入った‼
(ともかく、ここは耐え凌ぐしかねぇが……‼)
「ふふ……読んでるよ‼」
バクラが次の一手を逡巡する中、くるりと回って喜ぶアセロラ。
無防備なムウマージの方を指差し、ユキメノコに攻撃を指示する。
「『シャドーボール』発射‼」
「メノノ‼」
▽ユキメノコ の シャドーボール‼
影の塊は空中を踊るように舞いながらも、狙い
▽効果は抜群だ‼
「ムマ……‼」
(く……‼)
ムウマージの体力は残り僅か。バクラはじわじわと追い詰められつつある。
しかもアセロラは、このターンで一気に畳みかけるべく、既にシロデスナにも攻撃を準備させているではないか。
「さらに『シャドーボール』‼」
「デスナァァ‼」
開かれた城門の口に、闇の弾丸が装填された。アセロラが手を振り下ろせば、たちまち発射されるだろう。もはや時間は残されていない。
「チッ……ならば! ムウマージ‼」
バクラは即座に声を上げ、ふらつく配下へ最後の命令を下す。
「『でんじは』‼」
「ム、マァジ……‼」
▽ムウマージ の でんじは‼
ムウマージが弱々しいながらも懸命に呪文を唱えれば、対象の足元から魔法陣が浮かび上がり、バチリと不快な電撃を走らせ動きを阻害する。
「メ、メノコ……‼」
▽ユキメノコ は体が痺れて動きにくくなった‼
「ふふん、今更ユキメノコを麻痺にしたって無駄だよ‼ やっちゃえ、シロデスナ‼」
「シロデスナァァァァ‼」
アセロラの号令が下る。振り下ろした右手を合図に、シロデスナが待機させていたシャドーボールを解き放った。
▽シロデスナ の シャドーボール‼
砲弾が頭部に直撃する。元より肩で息をしていたムウマージは為す術もない。
下半身を布切れのようにはためかせて落下し、とうとう力尽きた。
▽ムウマージ は 倒れた‼
「ぐっ……く……」
反動で吹きすさぶ突風に、肩目を瞑って呻くバクラ。
彼の場に残るは、もはやジュペッタ一体のみ。敗北はもう間近に迫っている。
「『ほろびのうた』、カウント発動……‼」
▽ほろびのカウント が 1 になった‼
必死に絞り出すカウントコール。だが、ターンは確実に足りない。
ジュペッタが弱点のゴーストワザを二発も受け切れる可能性はゼロだ。また守備を固めるにしても、『まもる』は連続で出すと失敗しやすくなるデメリットがある。バクラが次のターンを確実に凌げる保証はない。
(勝てる……‼)
アセロラの瞳に宿った希望が、確信へと変わる。
後がなくなり肩を震わせているバクラ。見事逆転してみせたという実感が彼女の胸を熱くした。
ついにオカルトコンボは破られたのだ。
「どう? 古代のゴーストプリンセスの腕前は! 次の攻撃で、私の勝ち――」
言いかけた、その時だった。
「……そいつはどうかな?」
この期に及んで、まだバクラの口から邪悪な笑みが零れていることに気が付く。
心根から湧き上がるような笑声は静かに、しかし冷酷に。研ぎ澄まされた刃物のような、先ほどとはまた別の狂気を携え、こちらをしっかりと見据えていた。
その眼光に思わず身構えたアセロラへ、バクラは愉快そうに肩を震わせて言った。
「勝利宣言は、オレ様のオカルトデッキ、その真の恐ろしさを味わってからにしてもらいたいね……‼」
「え……⁉」
アセロラは突飛な発言を訝しみ、改めてバクラの場を見返す。
「ジュペぺ……‼」
やはり当然と言うべきか、残るはポケモンはジュペッタ一体のみ。恨めしそうな眼でこちらを睨んでいるだけで、別段変わった特徴もない。何の変哲もない、普通のゴーストポケモンにしか見えない――
「フフ……わかんねぇなら教えてやるよ‼」
その時。ふと首を傾げそうになったアセロラの心情を察したか、バクラがにやりと頬を歪めて言った。
「オレ様のデッキには、最強の奥の手が隠されていてなぁ‼ そいつは
「仮の姿……?」
「そうさ! 何せそいつは、特殊な召喚条件でしか場に出せない特殊召喚モンスターなんでね‼」
「特殊な条件……⁉」
要領を得ないバクラの言葉に、目を細めて思考する。
もう一度相手の場を見るが、やはり何も変わりはない。そう思った直後、まるで雷にでも打たれたかのように、アセロラの目がハッと見開いた。
「まさか……‼」
「そう! そのまさかだ‼」
戦慄に震える表情を見て、バクラは更に口角を吊り上げる。
「このモンスターを召喚法は、三体の悪魔族モンスターを墓地に送り、生贄に捧げること……‼ さらにジュペッタ自身を依代として、この石ころの効果で冥界から現世にその姿を降臨させる……‼」
冗談めかして笑うバクラはコートの袖を捲ると、左腕に装着した黒色の腕輪をちらつかせた。
Zリングとほぼ同等のサイズだが、中央のくぼみにはクリスタルでなく、丸っこい宝玉のような鉱物が埋め込まれている。
「あれは、メガリング……‼」
アセロラは、その腕輪の名前を知っていた。と言っても過去に本で読んだ程度の知識だが。それでも解るほどには有名なアイテムだ。
遠く離れたカロス地方に伝わる『メガリング』。特定のメガストーンと組み合わせることで、対応するポケモンの潜在能力を解放するという噂の代物だが――
「ま、まさかお兄さん! カロス地方の出身だったのー⁉」
「クク……どうだかなぁ……‼」
すっかり仰天して飛び跳ねるアセロラ。対するバクラは適当に茶を濁しながら、そのメガリングを正面に構えて、細い指先で中央に埋まるキーストーンに触れた。
▽ジュペッタ の ジュペッタナイト と バクラ の キーストーン が反応した‼
刹那、キーストーンから禍々しい光が放たれると同時に、ジュペッタの体が紫苑のベールに包み込まれてゆく。
「さぁ蘇れ……死の世界の支配者‼『ダーク・ネクロフィア』召喚‼」
ピシリ、と。ガラスめいた亀裂が走りベールが砕け散る。
その怪光の中から現れ出た異形を一目見たアセロラも、思わず言葉を詰まらせた。
より黒く染まった体表には無数のチャックが、まるでツギハギのように張り巡らされている。肥大化した両腕と下半身でパックリ開くチャックの中からは、濃密な怨恨の念が飛び出す。全体的にジュペッタの原形を保ちながらも異様としか言えない、明らかに危険な薫りを漂わせているのだ。
▽ジュペッタ は メガジュペッタ に メガシンカ した‼
進化を超えた進化――『メガシンカ』。
特定のポケモンがメガストーンによって己の限界を突破することで、姿形を変え、通常ではありえないほどのパワーを発揮するようになるのだ。
(噂は聞いたことあるけど、初めて見たよ‼ ここまで見た目が変わっちゃうなんて……‼)
「ハハハハハハハ‼‼ どうしたさっきまでの威勢は‼ すっかりビビっちまったのか?」
愉快そうにヤジを飛ばすバクラ。切り札のお披露目とあってか、そのテンションはバトル中で最も高い。
「フフ……だが無理ねもぇ。『ダーク・ネクロフィア』はオレ様のオカルトデッキで
最強最悪のモンスターだ‼ こいつが出た以上、貴様に勝ち目はないぜ‼」
「そんなまさか‼ 打つ手がないのはそっちの方じゃないの?」
イカれた勝利宣言を前に、アセロラは整然とした面持ちで言い返す。
「メガシンカしたその子は確かにスゴイかもしれないけど、アセロラの場には二体のゴーストポケモンがいる?だもん‼ 当然、アセロラちゃんは総攻撃を仕掛ける‼ 最後まで立っていられるのはどっちかな?」
「なら、来い‼」
瞳を尖らせバクラが吼える。
「そこまで言うなら、攻撃してきな‼ アセロラ‼」
アセロラは頷き、二体のゴーストポケモンに攻撃を命じた。
「いくよ! 『シャドーボール』、二連打っ‼」
▽ユキメノコ の シャドーボール‼
▽シロデスナ の シャドーボール‼
「メノノ……‼」
「デスナァァ‼」
ユキメノコとシロデスナ。彼女の前に並ぶ二体のゴーストポケモンが、同時に最後の攻勢に出た。
怨念の礫に影の砲弾が重なった一撃による集中砲火を受けたジュペッタは、もはやこれまで。
舞い散る白砂とともに跡形もなく吹き飛ばされる。そのはずであった。
――が、その瞬間。攻撃に合わせ背を倒したメガジュペッタの姿が見えなくなる。
「……ッ⁉」
まるで元から存在していなかったかのように。目に映る景色からパタリと消え失せていた。
▽メガジュペッタ には当たらなかった‼
「メガジュペッタが、消えた……⁉」
「ハハハハハ……‼‼ そいつが『ゴーストダイブ』の効力よ‼」
動揺するアセロラへ、すかさずバクラはその種を明かす。
「冥界に身を隠したメガジュペッタはこのターン、あらゆる攻撃を無効にする‼ 」
「なっ……‼」
「ククク……貴様の命運も尽きたようだな……‼」
ドスの効いた声で静かにせせら笑う。バクラの顏が一段と悪辣な色に染まった。
「さらにこの瞬間、『ほろびのうた』のカウントも進む‼」
▽ほろびのカウント が 0 になった‼
「カウントが、0に……‼」
「ヒャハハハハ‼‼ これにより『ほろびのうた』抹殺コンボは完成した‼ 禁じられた歌の呪いを受け、死ぬがいい‼」
殺気剥き出しの宣言から数秒の間をおいて、異変は起こった。
アセロラの場にいる二体のゴーストポケモンたちが目を剥き、不自然に硬直する。極度の苦痛に襲われたかのように、全身を激しく痙攣させて。失われた悲鳴は喉元で霧散し、体から霊気が抜け去ってゆく。
青白くなったシロデスナたちはしばらくフラフラと彷徨った後、やがて糸の切れた人形のように崩れ落ちた。海風に吹かれたまま目を閉じ、それっきり動かなくなった。
▽ユキメノコ は倒れた‼
▽シロデスナ は倒れた‼
「ううっ……アセロラちゃんの負け……‼ またまたお口あんぐり‼」
バトルの結末に、ぽかんと口を開いて驚くアセロラ。
バクラは、そんな彼女の反応を最後まで胡乱な目つきで眺めていたが、すぐに気を取り直して呟く。
「……ケッ、まぁいい。これでオレ様の勝ち――」
そしてフッと息を吐き、ひと際冷淡な声で告げた。
「さっさと目的を済まさせてもらうぜ」
千年リングが妖しく輝く。
黄金の光に誘われるように、アセロラの死角で揺らめく影。
「え……⁉」
アセロラが振り返った時には、もう手遅れだった。
▽メガジュペッタ の ゴーストダイブ‼
大きく開かれたファスナーが眼前に迫る。虚空に消えたメガジュペッタがいつしか背後にまで忍び寄っていたのだ。声を上げる間もなく赤紫の濃霧に包まれた途端、急に視界が暗転するような感覚に襲われ、手足の感覚が遠のいていく。
「わ、わッ⁉ …………うぅ」
怨念の奔流は幸運にも真横をかすめる程度に留まったが、それでも人間を気絶させるには十分なレベルの瘴気を孕んでいる。目を回したアセロラはおぼつかない足で一回転。仰向けに砂浜へ倒れて、あえなく意識を失った。
「しばらく寝てな、小娘」
呟いてバクラは、役目を終えたジュペッタをボールへ戻した。
そして昏倒したアセロラの腕からZリングを奪い取り、ようやく悦に浸った様子で天を仰ぐ。
「ククク……Zクリスタル、ゲットぉぉぉ……‼」
初めから、狙いはこのリングとクリスタルだった。ポケモンのワザをZワザに昇華させる、神秘的なZパワーの結晶。これが手中にあれば、バクラの新たな計画は更に大きく前進する。
「ハハハハハハハハハハハハハ‼‼‼‼」
鬱蒼とした浜辺に響き渡る高らかな哄笑。
その狂喜の余韻も冷めやらぬ内に、バクラは手にした獲物を懐へしまい踵を返す。
異界に蘇った闇の人格が果たしてどこへ向かうのか。その行き先はまだ誰も知らない。
【ダーク・ネクロフィア】(メガジュペッタ)
バトルシティにおけるバクラの切り札。オカルトデッキ最強最悪の悪魔族モンスター。
特殊召喚を再現したくてメガシンカに頼りました。
どちらも呪われた邪悪なマリオネット(ぬいぐるみ)ですしね。
なお、本来はメガシンカの条件に墓地の悪魔族は必要ありません。一度言ってみたかっただけです。
幕間はここまで。
次回からは海馬の旅に戻ります。