遊☆戯☆王 ポケットモンスターズ   作:木之下ジャンクション

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いよいよ第2章の始まりです。



2章 青眼龍伝説 ≪The Legend of Blue-Eyes≫
38.地底に潜む者


 

 土塗れのカンテラが、仄暗い坑道を細々と照らしている。

 そのオレンジ色の灯りを頼りに、二人の男女が熱心に作業を続けていた。

 

「ダイゴさん、見てください! 『かみなりの石』ですわ‼」

「ふむ。この形に色艶……素晴らしい、上質だ。いいものを見つけたじゃないか、ツツジちゃん」

 

 ツツジとダイゴ。イッシュからは遠く離れた、ホウエン地方出身のポケモントレーナーたち。

 彼らは現在、坑道の脇にしゃがみ込んで、鉱石の採掘に勤しんでいる。

 

「ところで、ダイゴさんは先ほどから何を掘っていらっしゃるのです?」

「ああ、これかい?」

 

 ダイゴは作業の手を止め、傍らに置いていたものをツツジに見せた。

 一般的なものとは異なる色味を宿した丸い石が、彼の手の中で淡く煌めいている。

 

「別に大したものじゃないよ。ただ目を惹かれただけさ。でも、綺麗だろう?」

「ええ! 確かに、何だか凄そうな石ですね……!」

 

 珍しい石に目を輝かせるツツジへ、ダイゴは「うん」と微笑んだ。

 

「こういった名もなき石と出逢えるのも、石集めの醍醐味だね。まだ人の手に触れていない原石が、世界にはたくさんあると教えてくれる」

「果てしなきロマン、というものですわね! ああ、わたくしも、もっと素敵な石を見つけたくなってきました……‼」

「きっと見つかるさ。あのヤーコンさんが掘った穴だから、まだまだ充分に見込めるはずだよ」

「ええ、わたくし頑張ります‼」

 

 ホウエンが世界に誇る石マニアの二人は互いに頷き合うと、再び採掘作業に精を出す。

 坑道のあちこちに露出する多種多様な鉱石に囲まれた彼らの情熱は、まだ見ぬ未知との邂逅を夢見て、収まることを知らない。

 

 ヤーコンロードは、その名前が示す通り、ヤーコンが主導し開通させた坑道だ。

 彼が人々から『鉱山王』と呼ばれる所以である北のネジ山と、ホドモエシティを地下から直接繋ぐことで、鉱石の輸送コストを大幅に削減。同時に新たな採掘場を設ける事で、更なる利益の追求も欠かさない。

 まさにヤーコンらしい豪胆な計画。新たな野望を形とした、彼なりの()()()なのだった。

 

 

 

「――と、どうかな。採掘の方は?」

 

 

 

 少しの時が経ち、ひと段落ついたのか。ダイゴは額の汗を拭いながら、傍らのツツジに尋ねる。

 

「ええ! いい石がたくさん集まりましたわ! ここ一帯だけで、素敵なコレクションができそうです‼」

 

 ツツジが足元に置いていた袋を持ち上げれば、その口からは色とりどりの石が零れていた。

 彼女が見つけたものの一部に過ぎないが、それでもかなりの数だ。暗がりにおいて、カンテラの光で輝く姿は、まるで夜空に散らばる星々のように美しい。

 

「やるじゃないか。採掘の腕もかなり上がっているんじゃないかい?」

「うふふ……。これもダイゴさんにご教授頂いたおかげですわ!」

「はは、光栄だね。ところで、この鉱石だが……」

 

 ツツジの素直な賛辞に、穏やかな笑みを返して応じるダイゴ。同士の成長ほど、石マニア冥利に尽きるものもないだろう。

 彼らはしばらくの間、互いの収穫物に関するディープな談笑を続けた。共通の趣味を持つ間柄でのみ成立する、至福の時間。

 

 だが、いつまでも趣味に没頭していられるわけではない。何せこの二人には、本来の目的がまだ残っているのだから。

 

「……さて、そろそろいい時間だ。一旦、採掘は切り上げるとしようか」

 

 ふと腕時計を見たダイゴが切り出すと、ツツジはハッとした表情で、置きっぱなしのカンテラを拾い上げた。

 

「本当ですわ。わたくしたちとしたことが、つい時間を忘れてしまって……‼ 」

「……まぁ大丈夫さ。時間にはまだまだ余裕があるし、そうそう面倒事が起こるような場所でも……」

 

 と、冷静な口調でダイゴが言い終える直前に。

 

 

 

「イワアァァァァァァ……‼‼」

 

 

 

 まるで地震と聞き間違うほどの轟音が、突如として坑道を震わせた。

 

「どうやら、そうも言ってられないみたいだ」

 

 ダイゴは苦笑し、ツツジは顔を引きつらせる。

 

「今のは……?」

「おそらくイワークの鳴き声だ。近くで何か起こったのかもしれない」

 

 彼の推察に答え合わせをするかのように、足下の地面が揺れ始める。

 振動は次第に大きくなり、天井からは細かい岩の破片がパラパラと零れ落ちてきた。

 

 

「イワァァァァアク‼‼」

 

 

 再び轟く咆哮に振り向くと、"いわへびポケモン"のイワークが一体、岩石の巨体をくねらせ猛スピードで迫って来るではないか。

 力任せに坑道の天井を削りながらも、一切速度を緩めない。その勢いに思わず圧倒され、ツツジは思わず転びそうになる。

 

「危ない!!」

 

 ダイゴがとっさにツツジを抱え込むと、二人はそのまま土の地面に身を投げ出す。

 その一秒前まで二人のいた場所を通り抜けて、イワークはそのまま暗闇の中へと走り去ってしまった。

 

「……すみません。助かりました、ダイゴさん」

 

 後に残った土煙に咳き込みながら礼を述べるツツジ。

 しかし当のダイゴは、警戒を緩めることなく立ち上がり、闇に閉ざされた坑道の奥に目を向けていた。

 

「……ダイゴさん?」

 

 ツツジが不思議そうに声をかけると、ダイゴは「静かに」と人差し指に口に当てる。

 そして、立ち上がろうとするツツジに手を貸しながら、冷静な口調で訊いた。

 

「ツツジちゃん。今のイワーク、様子がおかしいと思わないかい?」

「……といいますと?」

「イワークは、誰かれ構わず襲いかかるほど凶暴なポケモンじゃないだろう?」

「あ、確かに……‼ 」

 

 ダイゴに指摘されて、ツツジもようやく気が付いた。

 彼が言う通り、イワークの挙動にはどこか不自然な点があったのだ。

 地面を掘り進むスピードは時速80kmとまで評されるポケモンだが、唸り声を上げながら一心不乱に洞窟を駆け抜ける様は珍しい。

 

「まるで何かに怯えているかのようでしたわ。それも、目の前にいるわたくしたちも見えないくらい……!」

「多分、別のポケモンにやられたんだろうね。だけれど、巨体のイワークをあそこまで怖がらせるポケモンなんて、洞窟にはそういない」

「と言うことは……‼」

「うん。あの噂はどうやら嘘とも言い切れないらしい」

 

 そう呟くダイゴの双眸は真剣に開かれながらも、その奥では強い好奇心の色を滲ませていた。

 前半の気ままなストーン・ハンティングから一転、危険なポケモンがすぐ近くにいると推定される状況になっているのだが。そんな時でも冒険心を見せる余裕すらあるのが、このツワブキ・ダイゴという男なのだ。

 

「ツツジちゃん、ここからが本番だ。気を引き締めて行こうか」

「は、はい‼」

 

 爽やかな笑みを浮かべるダイゴに対し、ツツジはかなり緊張した面持ちでいる。だが、それでも気を引き締めて答えた。

 その返事にダイゴは安心した様子で頷くと、自ら先陣を切って坑道の奥深くへと足を踏み入れるのだった。

 

 

 

 

 

〇●〇●〇

 

 

 

 

 

 時を同じくして。ここはヤーコンロードの奥地。

 人工的に造られた空間とはいえ、そこには数多くの野生ポケモンたちが生息している。中でも気性の荒い連中は、トレーナーの足音に反応すれば、たちまち砂煙を上げて飛び出してくるのだ。

 

 

「アイアイアンッ‼」

 

 

▽野生のアイアントが飛び出してきた‼

 

 

「くっ……! また雑魚モンスターか‼」

 

 

 鋼の鎧を身に纏う"てつアリポケモン" アイアントの襲来に顔をしかめるのは、一人旅を続ける決闘者・海馬瀬人。別の次元から迷い込んで来た身だが、今ではすっかりこの世界に適応しきっている。

 そのため、もはや野生ポケモンの襲来など慣れたものだ。海馬はすぐさまモンスターボールを掴むと、アイアント目掛けて投球。白い閃光と共に飛び出す()()()に簡潔な命令を下す。

 

「攻撃しろ、リザードン‼」

「リザァ‼」

 

 海馬に呼び出されたリザードンが『かえんほうしゃ』を放つ。真紅に彩られた火炎を真正面から浴びたアイアントの体は、瞬く間に黒焦げとなって吹っ飛ばされる。

 

▽効果は抜群だ‼

 

「ア、アイア……」

 

 鋼鉄のボディも灼熱の炎に対しては意味を成さない。全身を丸ごと焼き焦がされたアイアントは地面に転がるや否や、か細い鳴き声を残してダウンした。

 

「ふん、先ほどから目障りな雑魚モンスターが尽きんな」

 

 ため息混じりに吐き捨てて、海馬はリザードンを戻そうとボールを構える。――が、すぐに考え直したように腕を下ろした。

 

「……雑魚が出てくるたびに、貴様をいちいち召喚するのも面倒だ。自分でついて来い」

 

 その指示に、リザードンは喜色満面の笑みを浮かべると、嬉々として一声雄叫びを上げてみせた。

 ヤーコンロードに突入してから数時間。かなりの数の野生ポケモンを相手にしているが、リザードンの顏付きに疲労の色は見られない。むしろまだまだ暴れ足りないといった様子で尻尾の炎を揺らしており、流石のパワーといったところか。とはいえ必要以上の、若干無茶な張り切り具合でもある。

 

(随分と強がるようになった。まぁ、これでようやく及第点といったところか……)

 

 先のPWTで味わった忌々しい敗北と、未熟さが垣間見えたヒトカゲの姿。今昔の記憶を交互に顧みながら、海馬は「ふん」と鼻を鳴らす。

 だが、そこまで浸ることはせず、すぐに視線を正面に戻す。まだまだ続く坑道の更なる深み。見つめているうち、段々と吸い込まれそうな感覚を抱かされるほどの闇に覆われている。

 もっとも海馬にとっては、その程度の暗闇など何の問題にもならないわけだが。

 悠然と歩きだそうとした時、ふと何者かが近づく気配を感知する。

 

(また雑魚モンスターの出現か?)

 

 うんざりした思いで振り返ると、そこには見知らぬ顔が二つ。息を殺してこっそり忍び寄ろうとしていた。

 

 

「何の用だ?」

 

 

 鋭い視線で射貫かれた二人組の動きが、ピタリと止まる。若い男女の二人組。女の方は警戒心をMAXにしていたが、男の方は全く動じず、口元に爽やかな笑みをたたえていた。

 

「やぁ、驚かせてすまないね。ボクの名前はダイゴ。こちらは友人のツツジちゃん。今はヤーコンロードの調査をしている最中なんだ」

「調査だと?」

 

 眉をひそめつつダイゴの顔を眺めていると、彼の横で固まっていたツツジがおずおずと口を利く。

 

「ホドモエのヤーコンさんに頼まれてきたんですの。それでダイゴさんと来てみれば……」

「なるほど、そこにはオレがいたというわけだ。フフ……!」

 

 自嘲気味に笑って海馬は、懐疑的なツツジの瞳を睨み返す。

 

「……しかし残念ながら、貴様らの推理は外れだな。あいにくヤーコンならオレも知っていてね。疑うと言うなら、こいつをくれてやる」

 

 そう言って入洞許可書を懐から取り出し、二人の方へ投げ渡してやる。ヤーコン直筆の書類を目にしたツツジとダイゴは、大なり小なり驚愕したような反応を見せた。

 

「驚きましたわ。確かに、これはヤーコンさんの筆跡……!」

「疑ってしまってすまないね。えっと……海馬くん、か! しかし、またどうしてこの洞窟に?」

「ふん、わざわざ貴様らに話す必要もなかろう」

 

 許可書に記された名前を確認しながらダイゴが尋ねる。しかし、海馬はその問いを無下に突っ撥ね、「それよりも」と話題を捻じ曲げる。

 

「人工洞窟と言うわりに、どうも作業員の姿が見えんと思っていたところだ。……ヤーコンめ、まだオレを面倒ごとに巻き込む気でいたか」

 

 うんざりした口調で呟く海馬は、ダイゴ達に鋭い視線を向けたまま尋ねた。

 

「で? その貴様らに与えられた依頼とやらについて聞かせてもらおうか。まさか、今更個人に石ころ集めなど頼むまい?」

「……悪しからず。これはわたくし達、石を愛する『石友』の収穫物ですから」

 

 そう弁明してツツジは、肩から下げた鉱石入り袋の口をぎゅっと絞り、コホンと軽く咳払いする。

 

「ダイゴさんとここへ来たのは、噂話の真意を確かめるためですの」

「噂話だと?」

「ええ。ヤーコンロードで働く方々が最近話題にしているそうでして。何でも整備中に、ポケモンの声とも機械の駆動音とも違う妙な音が聞こえてくるとか、巨大な怪物の影が目撃されたとか。挙句の果てには、開発予定のない空洞まで掘り当ててしまったとかで、一時的に作業が中断してしまってるんですわ」

「ふん、ご苦労なことだ。そこまで確実性のない与太話を真に受けるとはな」

「そうでもありませんわ。わたくし達も先ほど、取り乱したイワークの姿を目にしましたもの。異常なほどの取り乱し方で……」

「イワーク?」

 

 ツツジの話を聞いた海馬はくつくつと笑い出す。

 

「フフ……! その程度、何の問題にもならんさ。貴様の言うイワークとは、さっきオレが倒した雑魚モンスターだろうからな」

「……どんなバトルを繰り広げたんですの?」

「ふん、レベルに差が有りすぎただけだ。ともかく、これで与太話の信憑性は薄れたな。大方そのイワークのせいで、現場が混乱しているだけだろう」

「いや、そうとも言い切れなさそうだ」

 

 不意にダイゴが口を挟んだ。いつの間にやら、洞窟の端にしゃがんで石ころを眺めていたらしい。

 ダイゴは真剣な眼で傍に転がっていた石をつまみ上げ、それをまざまざと海馬に見せつける。

 

「ボクはさすらいの石集めでね。珍しい石を探して各地を旅しているから分かるんだ。この辺にある石は、ヤーコンロードのものと比べて色合いや透明度がまるで違う。どちらかと言えば、ホウエン地方やシンオウ地方で見られるものなんだ」

「……つまり、何が言いたい?」

 

 海馬の問いに、ダイゴはゆっくり立ち上がる。石ころを手に握り締めたまま、さぞ興味深そうな表情で訊き返す。

 

「ボクらがいる場所はイッシュ地方なのに、洞窟の地質は海の向こうにある別の地方と同じってことさ。面白いと思わないかい? まるで、別の場所に繋がっているようじゃないか」

「くだらん。地層など、下ればいつかは変わるものだ」

「確かにそういう見方もできる。けれど、ボクは朧気ながらも噂話の正体を掴めてきたよ」

 

 そう言って微笑むダイゴへ真っ先に反応したのは、固唾を飲んでこれまでの会話を聞いていたツツジだった。

 

「ダイゴさん、その噂話の正体というのは何ですの……⁉」

「それは少し長くなりそうだから、この先の道を歩く途中で話そうかな。どうだい、海馬くん?」

 

 ダイゴは洞窟の奥を見据えながら、海馬にチラリと誘うような視線を送る。

 

「君も最初から同じ方向へ進むつもりだったようだし。()()()()()()()()()()()()()というのは?」

「……好きにしろ」

 

 露骨に譲歩を示すような提案に呆れた顔を見せる海馬瀬人。彼は、待機させていたリザードンに「行くぞ」と一言声をかけると、すぐさま背を向け歩き出すのだった。

 

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