「あれはシンオウ地方に伝わる伝説のポケモン、レジギガスだ……‼」
永い眠りから目覚めた巨人を目の当たりにして、ダイゴは頬を伝う冷や汗を拭いつつ、言った。
「太古の昔に、縄で縛った大陸を引っ張って動かしたという伝説が有名だが、それだけじゃない! 特殊な氷山や岩石、マグマから自分の姿に似たポケモンをつくったとも言われている……‼」
「自分の姿に似たポケモン……? それって……‼」
「そう、彼らだ‼」
ダイゴは、察した様子のツツジを見て頷くと、玉座の前に陣取る三体のレジポケモンたちを指差す。
「レジロック、レジアイス、レジスチル……‼ おそらく彼らは、この遺跡に立ち入る者から主人を守る、いわば
「……なるほど。つまり、奴らを倒せばいいわけだ」
その話を聞いて、より一層不敵な笑みを濃くする海馬。腰のベルトから新たなモンスターボールを掴み取ると、豪胆にもレジポケモンたちの前へ進み出る。
「……⁉ 海馬さん、何を……?」
「決まっている。この連中を倒して、オレはオベリスクを手に入れる‼」
「そんなの無茶ですわ‼ ただでさえ伝説のレジポケモンたちが三体もいるのに……‼」
「構わん、貴様はこいつを持っていろ‼」
慌てて止めようとするツツジだったが、海馬はその警告をあっさり退け、自身のアタッシュケースを押し付けた。闘志を滾らせる彼の眼にはもはや、立ちはだかるレジポケモンたちしか映っていないのだろう。
そんな侵入者の殺気を感じ取ったのだろうか。遺跡の奥に佇むレジギガスが右腕を天に掲げると、配下のレジポケモンたちは奇怪な音を上げながら呼応する。
『ざざ、ざり、ざ……』
まず、戦場に足を踏み入れたのは、陣形の先頭に位置していた"いわやまポケモン"のレジロック。聳え立つ岩山の如き巨体を揺らしながら戦闘モードに移行する。
もはや闘いは避けられまい。しかし海馬は、その状況を待ち望んでいたのだ。
神を手中に収めるための正当なる決闘。それが開始される瞬間を――
「こちらも総力戦だ‼ いくぞ、リザードン‼ そして、我が
▽海馬は リザードン と ゲノセクト と マタドガス を繰り出した‼
「リザァァァァ‼」
「ゲノッ‼」
「「マ~タドガ~ス」」
再度戦う覚悟を決めたリザードンに続き、モンスターボールから飛び出したゲノセクトとマタドガスが戦線に現れる。どれも勇猛果敢でパワフル、それでいて主人の命令には忠実な、海馬の手持ちポケモンたち。
その中で真っ先に臨戦態勢を整えたのは、機械仕掛けの甲虫ことゲノセクトであった。赤く発光した両眼で敵の姿を確認すると、背部に取り付けられた砲台を構えて指示を待つ。
【ゲノセクト の ダウンロード】
▽ゲノセクト の 特攻 が上がった‼
「ゲノセクトで岩石の巨兵を攻撃‼」
「ゲノム‼」
海馬の号令とほぼ同時に、ゲノセクトの砲台から渾身の一撃が迸る。特性によって威力を増した、得意ワザの『ラスターカノン』。
凄まじい速度で圧縮されたエネルギー弾は、寸分違わぬ照準によって岩石の巨兵へと直撃するかに思われたが、その時。
光弾が迫る最中、レジロックたちが取ったのは、海馬にとっても予想外の行動であった。
『じ・じ・ぜ・じ・ぞ』
▽レジスチル が右にローテーション‼
「なに……‼」
レジロックと入れ替わるようにして戦線に躍り出たレジスチルが、その頑強な鎧をもってゲノセクトの光弾を受け止めたのだ。
本来ならばレジロックに大ダメージを与えるはずであった『ラスターカノン』の攻撃は、磨き抜かれたレジスチルのボディによって容易く弾かれてしまう。
▽効果はいまひとつのようだ……
更に攻撃を凌いだレジスチルは、陣形の先頭に立ったまま攻撃態勢に移ると、顔の点字模様を光らせレーザーを発射した。
▽レジスチル の チャージビーム‼
一直線に放たれた光線が、ゲノセクトの体へ突き刺さるように命中する。その衝撃にゲノセクトは思わず片膝をついたが、しかしすぐさま体勢を立て直して見せた。幸いにもダメージは少なかったようだ。
ただ、反撃による被害がいくら最小限で済んだとはいえ、このターンで海馬が受けた衝撃は計り知れないものである。シングルバトルではあり得ないレジポケモンたちの挙動を見せつけられれば、さしもの海馬も理解が追いつかず、ただ呆気にとられるしかない。
「モンスターの配置が入れ替わっただと……‼」
「このルールは……‼」
少し離れた場所から様子を窺っていたツツジが、不意に叫んだ。
「海馬さん、気を付けてください‼ レジポケモンたちが仕掛けているのは通常のシングルバトルではありませんわ‼」
「なに‼」
「これはイッシュ名物――『ローテーションバトル』です‼」
「ローテーションバトルだと……‼」
ローテーションバトル。それはイッシュ地方で発達した独自の対戦ルールである。
一対一で戦闘を行うため、 ザッと見た限りではシングルバトルと変わらないように感じるだろう。しかし、ローテーションバトル最大の特徴として、場に三体のポケモンが展開されるというものがある。
最初に選んだ一体が前衛として戦闘を行い、残りの二体は後衛として待機する。トレーナーは毎ターン、このローテーションを回して主力を入れ替えることが可能であり、場の状況に合わせてポケモンを切り替えることが勝利のポイントとなるのだ。
「……なるほど。要は
ツツジの説明を受けた海馬は、改めてレジポケモンたちに向き直る。
大まかなルールを把握して盤面を見れば、確かにレジポケモンたちの陣形は、ローテーションを組むように配置されていた。
現在前衛に位置するのは、先ほど攻撃を庇ったばかりのレジスチル。そして後衛に、レジアイスとレジロックが控えている。
(フ……面白い! このローテーションバトル、受けて立つ‼)
いかに変則デュエルと言っても、ルールさえ分かってしまえばこっちのものだ。
己の実力を信じて疑うことのない海馬の心に火が灯り、猛る炎のように闘気が溢れ出す。
「ダイゴさん……本当にいいんでしょうか?」
一方で、俄然やる気となった海馬の後ろ背を不安げに見つめながら、ツツジが訊く。
「あの方一人でレジポケモンたちの相手をするなんて、やっぱり危険すぎます‼ 今からでも止めた方が……‼」
「……気持ちはわかるが、ここは彼に任せてみよう」
ダイゴはツツジの訴えに理解を示しつつも、冷静な声色で言った。
「今、ボクらはこうして地下の遺跡にいるわけだが……一番最初にこの場所へ近づいていたのは、紛れもない彼自身だ。それが偶然か、何かに惹かれた結果なのかはわからないけれど。そんなトレーナーがレジポケモンたちを相手にどう戦うのか……ボクにはとても興味があるんだ」
「興味……ですか。しかし……」
「もちろん、本格的に危なくなったら助けに入るよ。でも、己の意思で戦いに臨んだトレーナーを止める事は、ボクにはできない。ホウエン地方のチャンピオンとしてもね……‼」
「ダイゴさん……‼」
滅多に見せない熱い眼差しを湛え、一人のトレーナーとして闘いを見守るダイゴの姿に、ツツジはもはや何も言えない。
既にバトルは始まってしまっているのだ。今の彼らに出来る事と言えば、神の試練に挑むトレーナーの勝利を願うことだけであった。
「
ツツジが祈るような気持ちで向けた視線の先で、半ば狂気を孕んだ海馬の勇ましい声が響く。
自身のポケモンたちにも陣形を組ませた彼は、相対するレジポケモンたちの
(さて、この変則
神の守護者を勤めるレジポケモンたちの実力は未知数といっても過言ではない。揃って表情らしい表情も持たない、まるで機械のように無機質な装いも不気味だ。
だが、海馬には一つだけ見えている可能性があった。彼らレジポケモンたちのタイプである。
(岩、氷、鋼……幸いにも属性のわかりやすい連中だ。それぞれの弱点を突けば、突破もそこまで難しくはあるまい)
もっとも、それには相手の回すローテーションを的確に読み当てる必要があるのだが。
(……まぁ、今は序盤も序盤だ。ここは相手の手の内を見る意味も込め……‼)
「このターンはローテーションを回さず、このままバトルを続行する‼」
海馬が力強く宣言する一方で、レジポケモンたちも早速大胆な動きを見せる。
フォーメーションをぐるりと変えて今度は、"ひょうざんポケモン"のレジアイスが前に出た。
▽レジアイス が右にローテーション‼
「フフ……あの氷塊を打ち砕け‼ 『ラスターカノン』で攻撃‼」
「ゲノッ‼」
再び、ゲノセクト自慢の砲塔が起動した。弾丸として撃ち出された光の軌跡は一瞬にしてレジアイスを捉えると、その顔面部分に直撃。視界が真っ白く染まるほどの閃光を辺り一帯にまき散らす。
▽効果は抜群だ‼
▽レジアイス の 特防 が下がった‼
青白い氷の体から白煙が立ち昇った。激しいフラッシュを直に浴びたためか、僅かにレジアイスの動きが鈍ったように見える。
だが、そう安心もできない。濃い煙に覆われてなおレジアイスは、まるで古い冷凍庫に取り付けられたファンのような気味の悪い音をかき鳴らしながら、顔の点字を発行させ続けているのだ。
「ふん……」
「……流石の特防だな。弱点を突いても、そう易々とは倒れないなんて……‼」
鼻息をつく海馬の後方で、レジギガスが生み出した氷塊が持つ驚異の耐久力に、ダイゴも思わず舌を巻いた。
(あのレジポケモンたち、素早さこそ低いようだが、最大の強みはその圧倒的なタフネスか……)
古代の人間が恐れたパワーをふと肌身に感じた、その時。細められていたダイゴの眼が一気に見開かれる。
揺れ動く煙の切れ目から覗いたレジアイスの動きを、見逃さなかったためだ。
「あのワザは……‼」
(――マズい‼)
海馬の身に迫る危機を察知したダイゴだが、警告するにはもう遅かった。
絶対零度の冷気に揺らめいていた白い煙。それが次第に不自然な渦を描き、一点に吸い込まれていく。
やがて煙が完全に晴れ、氷の巨体が露わとなった時――レジアイスの角ばった両椀の内に込められていたのは、バチリと眩い火花を散らす巨大な電光弾であった。
「……なに⁉」
『じゃきー‼』
▽レジアイス の でんじほう‼
バリバリバリ……‼ という耳をつんざくほどの轟音とともに、極限まで圧縮された電撃の塊が射出される。
もはやワザを使ったレジアイスですら制御が効かないようで、撃ち出された巨弾は不規則に乱れる歪な軌道を描きながらゲノセクトに飛来し、そして。
鋼鉄の鎧を抉るような角度から命中した瞬間、凄まじい大爆発を引き起こす。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ――――‼‼」
その爆発の衝撃波たるや凄まじく、後衛に控えていたポケモンはおろか、戦線から一歩引いた場所に立つ海馬までもが吹き飛ばされるほど。
巻き上がる砂塵によってぶわりと宙に跳ね上げられた海馬は、どうにか体勢を崩さず着地できたものの、彼の体は一瞬のうちに数メートル後方へと押し下げられていた。
「ぬうぅぅぅ……くっ……‼」
「海馬さん‼」
「大丈夫かい!?」
背後からツツジとダイゴが口々に叫んでいる。だが、今は外部の声に反応している場合ではない。
砂埃を払い除けた海馬は自信の
「リ、リザ……‼」
「「マタドガ~ス……」」
爆風に巻き込まれた後衛の二体は少々混乱した様子ながらも、既に所定の位置に戻っていた。軽いマタドガスに関しては結構な距離を飛ばされたようで、のろのろと駆けて来ていたが……ともかく、戦闘に直接関与しないポジションに就いていたため無事なようである。
だが、肝心なのは直撃を受けたゲノセクトの方だ。
立ち昇る爆炎が晴れるまで、海馬は固唾を吞んで戦線を睨み続けた。
「ゲ、ゲ……ゲノ……!」
爆心地から上がった声に、場の空気が張り詰める。
徐々に煙が立ち消えていく戦場。そこにはよろめきながらも佇立する、ゲノセクトの姿があった。
「……よかった! どうにか持ち堪えましたわ‼」
「だが、あの様子では……‼」
安堵の声を上げるツツジと対照的に、ダイゴの表情は険しく、厳しい。
どうにかこのターンを耐え抜いたゲノセクトだったが、あれほどのワザを受けてダメージが軽微なわけもなかった。自慢の装甲は焦げ付き黒ずんでいるうえ、赤眼も弱々しく明滅して、足取りも覚束ない。
これだけでも満身創痍と言える状態だが、しかし。海馬にとっての不運はまだ続いていた。高電圧を浴びた事による四肢の痙攣が、ただでさえ体力の少ないゲノセクトの動きを、より一層鈍くしていたのだ。
▽ゲノセクト は麻痺してワザが出にくくなった‼
「今のワザは『でんじほう』だ! 命中率こそ低いが、ヒットすれば大ダメージとともに、相手を必ず麻痺状態にする効果がある‼」
「く……! ダメージを与えるだけでは飽き足らず、状態異常まで負わせるとは……おのれぇぇ……‼」
ダイゴの解説を背に、奥歯をギリリと噛みしめて
ストレートな方法で怒りを表現する彼とは対照的に、向かい合うレジポケモンたちは一切の感情を顕にせず、ひたすら沈黙するばかりである。
まるで、最初から一喜一憂する感情など持ち合わせていないかのような、眼前の敵を排除する事しかプログラムされていないかのような――
『…………』
そんな生物らしからぬ冷徹さを存分に見せつけながら。
彼らはただ、海馬が繰り出す次の一手を待ち続けているようであった。
レジトリオは作品によって色んな役割を与えられてますよね。
野生ポケモンだったり、マジの
そう考えると、作劇上では便利に使える奴らなのかもしれません。