遊☆戯☆王 ポケットモンスターズ   作:木之下ジャンクション

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ポケモンレジェンズ Z-A、御三家の情報が出てからますます楽しみになってます。
誰選ぶかで迷うんですけど、今はポカブの気分です。イッシュ好きなので。



45.青き眼の激臨‼

 

「名乗らせてもらう。私はダーク。……ゲーチス様に仕える"ダークトリニティ"の一人だ」

 

 黒装束の男は、海馬の背後を陣取ったまま、抑揚のない口調で言葉を紡いだ。

 

「お前のことは下っ端や仲間内から、嫌というほど聞いているよ」

「ほう? それなら話は早いな」

 

 海馬は首筋に刃を突きつけられながらも冷静で、全く動じる様子を見せなかった。

 余裕を保ったまま、顔の見えない敵を嘲笑うかのように顎をしゃくる。

 

「貴様にかける言葉はただ一つ。後悔する前にとっとと消えろ。このオレの逆鱗に触れた、哀れな()()()()()がどのような目にあってきたか……よく知っているだろう?」

「当然。だからこうしてお前に刃を向けているのだ。私のキリキザンは特に容赦がない……口の効き方には気を付けろ」

「……ザンッ」

 

 背後でもう一つ、低く唸るような鳴き声が上がった。おそらくダークの操るポケモンだろう。

 その姿こそ見えないが、向けられた刃からは殺気がひしひしと伝わってくる。相当な手練れと見て間違いないだろう。

 

「ふん、随分と安い脅しだ」

 

 海馬は、それでも敵の警告を鼻で笑い飛ばした。

 

「このオレを倒したくば決闘(デュエル)の一つでも挑んでくるがいい。それとも、己が力では到底かなう相手ではないと、既に理解しているのかな……フフ……‼」

「笑止」

 

 度重なる挑発を歯牙にもかけず、淡々と言葉を返すダーク。口の減らない海馬に対して彼は、抜き足で真横へ回り込むと、その血色の悪い顔を初めて露わにした。

 

「私は影……そこらのポケモントレーナーとは違うな。闇に潜む我らが、真っ向から敵に戦いを挑むとでも?」

「くだらん。所詮は闇に紛れるしか能のない、哀れなネズミの言い訳にすぎんな」

「フ……哀れなネズミ、か。面白いことを言う」

 

 その言葉を聞いて、これまで無表情そのものだったダークの、覆面に覆われた口元が微かに動いた。

 虚ろな目はそのままに、くつくつと喉だけ鳴らしてせせら笑う、何とも不気味な仕草であった。

 

「その言葉……そっくりそのまま返させてもらうぞ、海馬瀬人」

 

 ダークはひとしきり笑い声を響かせた後、海馬の耳元にそっと囁きかけるような姿勢で言った。

 

「確かにお前はプラズマ団、ひいてはゲーチス様にとっても邪魔な存在だが、自惚れるなよ。今回、我々に与えられた任務は別にある。……今のお前は、その過程でたまたま出くわしただけの、謂わばオマケにすぎない」

「オマケだと?」

 

 ぎらり、と海馬の両目が鋭く光る。敵の発言を侮辱と捉えた……と言うよりは、その裏にある真意に興味を持ったようだった。

 

「貴様の親玉ですら脅威と捉えるこのオレを放置して出張とは。相当重要な使命を背負っているようだな?」

「……お前の知るところではない」

「ふん、そんなものわざわざ教えられるまでもないわ。大方、その任務とはNの捜索だろう?」

「………!」

 

 ダークが一瞬言葉を詰まらせた。その反応を聞き逃す海馬ではない。

 

「フフ……図星か。このオレを差し置いて貴様らが出向く先など、かつて『王』として君臨した奴以外に考えられんからな」

「………」

 

 話しながら、真横にそっと目線を向けると、俯き黙るダークの姿が見て取れた。

 敵方の沈黙を肯定と捉えた海馬は心得顔で振る舞い、畳みかけるように訊く。

 

「しかし、妙な話だ。ゲーチスにとってNは傀儡……それもとっくに見捨てた駒のはず。何故今になって、奴の居場所を突き止めようとする?」

「……ゲーチス様が、N様と共にいる白き英雄をご所望だからだ」

青眼(ブルーアイズ)を? 従えることも出来ないくせに、何を企んでいる?」

「それは知らない……。仮に知っていたとして、お前に応える筋合いはない……!」

 

ㅤぶっきらぼうに言い捨てるダークの声色に、僅かな怒気を感じた瞬間、海馬はアタッシュケースを投げ捨て自ら前方へ転がった。

 

 

「!」

 

 

ㅤ一瞬遅れて、それまで彼が立っていた位置に、素早い斬撃が迸る。

ㅤ背後に控えたキリキザンが、刀刃の腕を振るったのだ。海馬の反応があと数秒でも遅れれば、危なかっただろう。

 

「今の一太刀を躱すとは……」

 

ㅤ海馬コーポレーションのトップに君臨する海馬瀬人にとって、命の危険など日常茶飯事である。今更動揺するはずもなかった。

ㅤ目を丸くしながらもダークは続ける。

 

「……だが、いい気になるのは、まだ早い。いずれにしろお前は、我々の手により始末される」

「ふん、まだ喚くか。空元気もここまでくると無様なものだ」

「それはどうかな……?」

 

ㅤピリ、と空気が凍り付く。

ㅤ敵の放つ気迫が、それまでとは比較にならないほど濃くなった。そう、海馬が直感した刹那。

ㅤダークの両脇に二つ、黒い残像が浮かんだかと思うと、それらは瞬く間に人型を象って現れる。

 

 

「……!!」

 

 

ㅤ音もなく出現したのは、ダークと全く同じ背格好の男たち。虚ろな瞳から猫背気味の体勢まで、何もかもが瓜二つな姿が立ち並ぶ、底気味の悪い光景である。

ㅤ今まで精神的優位に立っていた海馬も、これには思わず顔をしかめて後ずさった。

 

「援軍か。姑息な手を……」

「どうとでも言え。ゲーチス様のためなら、どんな手段も厭わない。それが我らダークトリニティの務め……!」

「キザン……‼」

 

 中央のダークが右手を軽く上げると、傍で待機していたキリキザンが、じりりと前に歩み出た。さっきの一太刀を躱されたことが余程悔しかったのか、刃の腕を構える姿には静かな怒りが籠っている。

 更に、臨戦態勢に入ったキリキザンに続くようにして、両脇のダークもそれぞれモンスターボールを取り出し、ポケモンを繰り出した。

 

「アブッ‼」

「ジュペタァ……‼」

 

 頭の右側に大鎌のような角を持った”わざわいポケモン”のアブソル。

 口が黄金のチャックになった”ぬいぐるみポケモン”のジュペッタ。

 いずれも各ダークの切り札とでも言える手持ちらしく、キリキザンと肩を並べて海馬の前に立ち塞がった。

 

「……お前の存在は危険だ」

「これ以上……余計な首を突っ込まれるわけにもいきません」

「よって、ここで消えてもらう……!」

 

 淡々と言葉を連ねながらも、明確に憎悪を滲ませるダークトリニティと、各々の獲物を光らせ詰め寄る三体のポケモンたち。

 連中は皆、黒い眼差しで海馬を睨み続けている。まるで逃げ場を失わせるように、じっくりと、瞬きすらせずに。仮に魅入られた者が常人であれば、その圧倒的なプレッシャーにたちまち屈してしまうことだろう。

 

 ただし、現在の相手は海馬瀬人である。

 底無しの度胸と、常人離れした精神力を兼ね備えたこの男が、そう簡単に折れるはずがない。

 

「フ……数が揃った途端、饒舌になったな」

 

 海馬は不遜な笑みとともに鼻を鳴らした。

 

「だが、大言壮語もそこまでにしておけ。貴様ら決闘者の風上にも置けんような三下風情が、束になったところで、このオレには指一本触れることすらできんぞ」

「まだ言うか……」

「諦めなさい」

「お前はN様とは違う……‼」

 

 

「ジュペぺペペ‼」「アブァ‼」「ザン……‼」

 

 

 ダークトリニティが言い終わらないうちに、三体のポケモンたちが海馬めがけて一斉に襲いかかった。

 爪を、鎌を、そして刃を揃えた腕を構えた姿はまさに暗殺者(アサシン)。相手にモンスターボールを投げる猶予すら与えない、徹底したリアリストぶりである。

 斥候直伝の俊敏かつ反則じみた動きで敵の虚を突き、一切の隙も、反撃の機会をも与えずに仕留める……というやり口が、ダークトリニティの用いる「戦術」なのだろう。

 

 

「プラズマ団に関わった罰だ……! この地で無様に朽ち果てろ……‼」

「……ふん、甘いぞダークトリニティ‼」

 

 

 それでも海馬は動じなかった。

 もはやボールを投げる暇はないと判断するや否や、即座にデュエルディスクを起動し、手にした一枚のカードを盤上に叩きつける。

 まるで歴戦の剣士が剣を引き抜くように、熟練のガンマンが早撃ちするように。

 鮮やかに完成された動作でディスクを構えた後、海馬は迫る刺客に向けて、高らかに宣言した。

 

 

「力の差を思い知らせてやる――出でよ‼ 『青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)』‼」

 

 

 途端、ぶわりと空気が揺れる。

 先ほどまで止んでいたはずの風が、徐々に勢いを増して海馬の真後ろに渦を巻いていたのだ。

 轟々と戦慄く疾風は、周囲に散らばる瓦礫の破片を巻き込んでひとしきり暴れたかと思うと、やがて凄まじい鳴動と共に切り裂かれ――

 

 

「…………‼‼」

 

 

 一閃。巨大な白龍の姿となって海馬の頭上を掠め、前線に立ちはだかる。

 天地鳴動の雄叫びを上げてに降臨した、青き眼の威光は圧巻の一言。血気盛んなキリキザンたちも思わず萎縮し、攻撃の手を止めてしまう。

 

ㅤそして、動揺を隠しきれないのは、ダークトリニティたちも同じだった。

 

「……⁉」

「まさか、これは……‼」

「ポケモン……なのか……⁉⁉」

 

 三者三様の反応を示しつつも、視線は白龍に釘付けである。

 これまで感情の起伏に乏しかった彼らが、大きく目を見開き立ち竦む様は、海馬にとって滑稽以外の何ものでもない。

 

「フフフフ……ワハハハハハハハハ――――‼ 見るがいい、そして慄くがいい‼ これぞ我が最強にして美しき()()()の姿だ‼」

 

 怯む敵を前に海馬は、己の力を誇示するかのように高笑いを上げ、決闘盤(デュエルディスク)に置かれたカードを満足そうに眺めた。

 

 

 

 青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)

 言うまでもないが海馬瀬人の持つ最強の切り札にして、攻撃力・守備力ともに最高を誇る、超ウルトラ級のレアカードである。

 紆余曲折を経て海馬の手中に収まったこのカードは、彼との間に刻まれた千年の因果によるものだろうか。これまで幾度となく海馬を導き、窮地を救い、名実ともに彼の象徴として君臨してきた。

 その誇り高き忠誠心は、この世界に来てからも何ら変わることは無く。

 デッキに存在するだけで海馬に活力を与え、時にはインスピレーションを与え――そして現在(いま)は、主人の窮地を救う逆転の切り札として召喚されている。

 

 もっとも、海馬にとっても青眼(ブルーアイズ)の召喚には大きなリスクが付きまとっていた。

 豪風の中より飛び出し、この場において圧倒的な存在感を放つ白き龍だが、その正体は質量を持たないソリッドビジョン(立体幻像)。所詮はデュエルディスクが投影する()()()()に過ぎず、そのことを看破されれば一瞬にして無力と化してしまう。

 

 ただ、現時点で青眼(ブルーアイズ)を目の当たりにしたダークトリニティたちは完全に目を奪われているため、しばらくは勘付かれることもなさそうだった。

 

 

 

(フフ……流石は我が海馬コーポレーションの技術を結集させたソリッドビジョン・システム‼ 幻像とは言え、三下どもを震え上がらせるには十分過ぎるほどのリアリティよ……‼)

 

 自社製品の高性能ぶりに内心ほくそ笑みつつ、海馬はさらに威勢よく声を張り上げた。

 

 

「一気にいくぞ‼ 青眼(ブルーアイズ)よ、敵を蹴散らせ‼」

「………‼」

「『滅びのバースト・ストリーム(爆裂疾風弾)』‼‼」

 

 

 攻撃宣言を受け、双眸をカッと見開いた青眼(ブルーアイズ)の口が、けたたましい咆哮を上げて開かれる。

 その口中に凄まじいエネルギーが集束した、次の瞬間。それは稲妻を纏う巨大な光弾となって解き放たれた。

 青眼(ブルーアイズ)に気を取られていたダークトリニティは、迫りくる光弾の反応することすらままならならず、手持ちのポケモンもろとも直撃を喰らってしまう。

 

 

 

「がっ―――⁉⁉」

 

 

 

 いくら立体映像と言えども、ソリッドビジョンが与える体感は生半可なものではない。

 ましてや、それが攻撃力3000の最上級モンスターが放つ、必殺の一撃ともなれば尚のこと。

 爆裂疾風弾(バースト・ストリーム)をその身に浴びたダークトリニティたちは、悲鳴を上げる間もなく吹き飛ばされた。

 

 

 

「がはっ……‼」「アバァ……⁉」「ジュ……ジュ……」

 

 

 

 初めて味わう衝撃に、思わず膝をついて息を荒げるダークトリニティ。

 光弾のフラッシュに目が眩み、ふらりと地面に倒れ伏したアブソルとジュペッタ。

 混乱する敵方を見た海馬は、満足そうに鼻を鳴らして、先ほど投げ捨てたアタッシュケースを回収しようと急ぐ。

 

 

「キッ……キザン‼」

 

 

 しかし、彼の行く手を遮るように、立ち昇る砂煙を振り払って現れる影が一つ。

 ふと目を向ければ、キリキザンが両腕の刃を交差させ、こちらに迫ってきているではないか。

 

「……‼」

 

 執念深く刃を尖らせる姿を見て、ダークも好機とばかりに声を絞り出し命じた。

 

 

「よし、やれ……‼ 『つじぎり』だ、キリキザン……‼」

「キザンッ‼」

 

 

 雄叫びと同時に振り下ろされた刃は、深々と海馬に突き刺さる――はずだったが。

 キリキザンが地面を蹴った刹那、カンッ、と乾いた音が塔頂に響く。

 

 

「ザッ……⁉」

 

 

 気付いた時、既にキリキザンはバランスを崩していた。

 

「なに……⁉」

 

 刹那、目を疑うダークの視界に入ったのは、キリキザンの鎧に弾かれ宙を舞う一枚のカード。

 そして奥には、右手を突き出した海馬の不敵な笑みが。

 

 

(……顔面にカードを‼)

 

 

 そう。キリキザンが踏み込む一瞬前に、海馬はデュエルディスクから素早くカードを引き抜き、顔面に向けて投げつけたのだ。

 どれほど頑丈な鋼鉄の鎧に守られていても、不意に顔面を攻撃されれば、誰だって怯んでしまう。至極真っ当な理屈だが、しかし。

 あまりにも常軌を逸脱した光景にダークは冷や汗を流し、とうとう言葉を失った。

 

 一方のキリキザンは、狂った足取りでどうにか一太刀入れようと突っ込むが、狙いは既に定まっていない。

 交差された刃は空を切り裂き、虚しい金属音を響かせる。

 

「ザッ、キ……‼」

 

 二度目のミスにキリキザンの目が血走る。

 それでも、次こそは必ず攻撃を当てんと息巻いて顔を上げたが。

 

「ザッ……⁉」

「リザァァァァ……‼」

 

 目の前にはリザードンが仁王立ちで待ち構えており、口端から白い煙をくゆらせていた。

 隙を突いて海馬が繰り出したポケモンだと、そう理解した時には、もう手遅れだった。

 

 

「オレを殺すなら、決闘(デュエル)で殺せ……‼」

 

 

 視界の奥でモンスターボールを構えた海馬の冷淡な声。

 それと同時に放たれた『かえんほうしゃ』が、キリキザンを容赦なく焼き尽くした。

 

▽キリキザン は倒れた‼

 

「リザァ‼」

 

 ドサリ、と倒れたキリキザンには目もくれず、リザードンが吠えた。

 翼を広げて姿勢を低くし、乗れと言わんばかりの視線を海馬に向けている。

 

「ふん、準備のいいやつだ」

「リザリザッ‼」

「うむ。ここにもう用はない……行くぞ‼」

 

 床に転がるアタッシュケースを掴んだ海馬が、その背中に飛び乗ると同時に、リザードンは飛翔し、塔の壁に開いたⅤ字型の大穴へと急いだ。

 

「脱出する気か……」

「……待て‼」

 

 それを見たダークトリニティは、すかさず後を追おうと立ち上がるも。

 

 

「バースト・ストリーム‼」

 

 

 哮る青眼(ブルーアイズ)が彼らの追跡を許さない。

 海馬の号令によって撃ち出された二度目の光弾は、またしてもダークトリニティの目を眩ませ、枯れ木のような体をぶわりと後方に押し下げる。

 

「ぐぁ………‼‼」

 

 リザードンも二度見してしまうほどの強烈な爆風が再び吹き荒れる。

 海馬は、ソリッドビジョンに翻弄されるダークトリニティを上空から見下ろし、今一度大きな笑い声を響かせた。

 

 

「ハハハハハハハ‼‼ 三下ども‼ せめて青眼(ブルーアイズ)に敗北したことを光栄に思うがいい‼」

 

 

 ──バシュン‼

 直後、威勢よくリザードンが羽ばたき、風を切り裂いて壁の狭間を潜り抜ける。

 そうしてリュウラセンの塔を脱した海馬たちは、あっという間に分厚い雲を突き抜け、行方を眩ませるのだった。

 

 

 

♢♢♢♢♢

 

 

 

「くっ……逃げられたか……‼」

 

 塔の頂上に取り残されたダークトリニティの一人が、飛び去るリザードンの後姿を見ながら呆然と呟く。

 追跡したくとも空の彼方へ逃げられては手も足も出ない。加えて、今は――

 

「そんなことより、奴が繰り出したドラゴンを片付ける方が先です……」

 

 青白く輝く龍を前に、下手に動くことができない。

 一般のポケモンとはかけ離れた、仰々しいフォルムに違わぬ桁外れのパワーを、彼らは二度の直接攻撃(ダイレクトアタック)により存分に見せつけられている。

 それほどまでの相手を海馬が遺していったとなれば、もう一人のダークが警戒を続けるのも当然だろう。

 

 

「……待て」

 

 

 しかし。

 その身内の警告を、立ち上ったばかりの最後の一人が、落ち着いた声で制した。

 

「……よく見ろ。あのドラゴンはフェイクだ」

「なに……?」

 

 言われて、もう一人が目を凝らす。

 すると、驚くべきことに。今の今まで猛威を振るい続けていたはずの白龍は、体表から光の粒子を放出しつつ、徐々にその姿を消していくではないか。

 まるで蜃気楼のような呆気ない光景に、疑り深いダークも唖然とするしかなかった。

 

「まさか、これは……‼」

「……精巧なホログラムか」

 

 黒焦げのキリキザンをボールに戻しながら、ダークの一人も忌々しそうに歯を噛みしめる。

 

「通りで我々に外傷がないわけだ……。しかし、我らがこの程度のトリックにしてやられるとはな……‼」

「海馬瀬人……一筋縄ではいかぬ相手……」

「……どうします?」

 

 皆が口々に零す中、ダークの一人が眉根を寄せた。

 

「このまま奴を野放しにしておくのは……」

「……我らの沽券にも関わる」

「うむ。……だが、もはやこれ以上の追跡は不可能だ」

 

 決断を促されたリーダー格と思わしきダークは、憎々し気に空を見上げつつも、きっぱりと言いきった。

 

「……我々には他の任務が立て込んでいるのも事実。奴の始末も重要事項だが、別件を蔑ろにするわけにもいかない」

「では、せめてゲーチス様に報告を……」

「もちろんだ」

 

 提案に頷き、懐から通信用の液晶端末を取り出す。

 と、青く光る画面を見たダークは、そこで「ほう」と意外そうな声を発した。

 

「どうした……?」

「……面白い情報が入って来た。我らの仇は、ゲーチス様が直々に討ってくださるやもしれぬぞ……」

「ほう、なるほど……」

 

 カチコチに固まった表情筋を僅かに動かし、途切れ途切れに笑うダークトリニティ。

 端末に映る新たな情報を見て、濁った瞳を潤わせる、そんな彼らの足元には。

 

 

 海馬が投げた一枚のカードが、誰にも存在を知られることなく、ただ穏やかな風に吹かれてひらひらと舞っていた。

 





ポケモン世界でも海馬に青眼を召喚させたい‼ と思って書きました。

実際、攻撃力3000クラスのダイレクトアタックは、ソリッドビジョンとわかってても心臓に悪いと思います。
25周年イベントでVRを体験された方も、滅びの爆裂疾風弾くらって同じこと言ってましたし…
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