遊☆戯☆王 ポケットモンスターズ   作:木之下ジャンクション

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5D'sの一気見配信が最近の楽しみです。特に地縛神が好き。



48.遺伝子の楔

 

「遺伝子の楔を渡せだと?」

「……左様」

 

 シャガと対峙するダークは、やはり感情の籠らぬ声で首肯する。

 

「過去と未来が絡み合うこの地こそ、別れたポケモンを一つにするに相応しい……。お持ちなのでしょう? あの楔を……」

「馬鹿を言うな」

 

 じわりと巻きつく蛇のような視線。だが、シャガは堂々たる姿勢でそれを跳ね除け、逆に問い質す。

 

「お前たちが二年前に起こした所業……! あれを知っている者が、素直に渡すと考えるのか?」

「……想像通りのお言葉。しかし、こちらも引くわけにはいかず……」

 

 口元を歪め、ダークが腰のホルスターからボールを抜き取ろうとした。それを見て、

 

「ザァァァド‼‼」

 

 咆哮。続けて吹き上がる獄炎。

 一緒即発の事態に起き上ったリザードンは、憎き怨敵に向け『かえんほうしゃ』を放ったのだ。炎が死角よりダークに迫る。

 

「………‼」

 

 一瞬の隙を突いた不意打ちに、ダークの眉根がピクリと動いた。

 人間離れの脚力で床を蹴って回避したものの、黒装束の裾は僅かに焦げて、それが斥候としての彼の誇りに傷をつけたか。

 

「……貴様ら、邪魔だぞ」

「ふん、邪魔しに来ているのだ」

 

 ダークの声に明確な殺意が宿った。

 ともあれ平然と返した海馬は、すっかり回復したリザードンを従え堂々腕を組む。

 彼からすれば一度下している相手だ。以前とは余裕の程が違う。

 

「フフ……飛んで火にいる夏の虫とはこのことだな。侵入したまではいいが他がおざなりだ」

「あなたみたいな悪い人に、おじーちゃんの宝物は渡さないよ‼」

 

 突然の出来事の連続に固まっていたアイリスも、ここでようやく我に返って海馬の横に並び立った。

 ベテランジムリーダー、現役チャンピオン、そして常識外れのレジェンド決闘者(デュエリスト)が揃って立ちはだかる、圧巻の光景であった。

 流石のダークもこの圧倒的に不利な状況では、忌々し気に舌打ちこそすれど、迂闊に仕掛けては来られなかった。特に海馬の存在が危険すぎる。こちらが動いた瞬間すぐにリザードンへ攻撃を仰ぐつもりだろう。敵には一切容赦をしないと、彼の眼はそう言い切るように開いているのだから、どうしても意識せざるを得ない。

 

「……ここではいささか分が悪い、か」

 

 全員の顏をぐるりと見渡したダークは、ただでさえ丸い背中を更に丸めた。

 

「いいでしょう。……ここは一旦引きます」

 

 捨て台詞を残して身を翻す。

 次の瞬間、ダークの体は虚空に溶けて消えた。

 

「消えた……?」

「ザァドォ……」

 

 アイリスが驚き、リザードンも警戒して周囲を見回す。しかし影もなく、気配すら残っていない。

 シャガもまた同じように顔を顰めたが、慎重な性格ゆえか、ダークのいた場所まで歩み寄った。確認がてら床に手を当て、やれやれとばかりに首を振る。

 

「相変わらず不気味な術だ。すっかり気配が消えている。しかし、遺伝子の楔が狙われるとは……」

「あの人、いつから居たんだろ? とにかく早く探さないと‼」

「騒ぐな。無暗に駆けずり回ったところで無駄だ」

 

 海馬は、今にも家を飛び出しそうなアイリスを制止して言った。

 

「だけど……‼」

「考えろ、アイリス。あのネズミはわざわざこの家に忍び込んでまでして、楔を盗む隙を伺っていた……生粋のドブネズミだ。そう簡単に引き下がるわけがない。奴が逃げ出したのは、楔を盗む算段が整ったからだ」

「楔を盗む、さんだん……? ってことは‼」

 

 ハッと顔を上げたアイリスがシャガを振り返ると、彼もまた首を縦に振る。

 

「うむう。十中八九、向かった先はソウリュウシティ・ジム。口にしたのは迂闊だったか‼」

「おじーちゃんのせいじゃないよ! あんな人がいるなんて思わないもん‼」

「そう、貴様が嘆く必要はない。青眼(ブルーアイズ)が関わる以上、その楔とやらはオレが所有すべき宝だ。例え奪われたとて、この手で奪い返せばいいだけの話」

「……えっと、楔はおにーちゃんのモノじゃないよ?」

「何でもいい。急ぐぞ、リザードン‼」

「リザ‼」

 

 アイリスの指摘を強引に振り切り、リザードンを一旦手持ちのボールへ戻した海馬。

 目に留まったものは何が何でも手に入れようとするのが、この男の性分だ。例え、それが老爺の所有する未知の宝であろうと、彼の信念に変わりはない。

 

 それに何より、青眼(ブルーアイズ)に纏わる宝をプラズマ団に強奪されることが、絶対に許せなかった。

 

「安心しろ、シャガ。貴様の……いや、オレの宝が、薄汚いコソ泥風情の手に渡ることは断じてない‼」

「………」

 

 

(噂通りか、あるいはそれ以上か……)

 

 

 破天荒な言動に唖然とするシャガには、もはや目もくれず。言いたい事だけ言い残した海馬は、荒っぽくドアをぶち開け、単身氷の街へと突っ込む。

 

「あっ、ちょっと待ってよ‼ おにーちゃーん‼」

 

 そんな身勝手な彼の背中を、アイリスもまた慌てて追い掛けるのだった。

 

 

 

 

 

〇●〇●〇

 

 

 

 

 

 ズガァァァァァァァァン──

 

 

 人足の途絶えた街角で、突如鳴り響いた鋭い炸裂音。

 張り付いた氷もろとも外装が砕け落ち、辺り一帯に粉塵が舞う。爆破の標的となったソウリュウジムは破壊されて、焦げ臭い黒煙をもうもうと立ち昇らせていた。

 ジムの周りに集うのは無数のプラズマ団員たち。うち一人は地に堕ちた、龍頭を模した立派な屋根飾りを無情にも踏みつけ、きょろきょろ四方を見回しながら報告する。

 

「ソウリュウジム、破壊完了です。これでいいんすかね?」

「……上等だ」

 

 声とともに、ゆらりと空間が歪んだ。

 ダークトリニティの中でもリーダー格に近しい男が、気配もなく下っ端の後方に出現し、死んだ魚のような眼をぎょろりと剥いた。

 

「あぁ、いたんすね。てっきり別の場所にでもいっていたのかと……」

「……報告を聞いていた。手筈も整っている。お前たちは……ただ、我々が言った通りに動けばいい」

「わかりやしたよ。で、次は何をすればいいんで?」

 

 上官と言えどもあまりの不気味さ。目が合うなり「うげっ」と露骨に嫌な顔をする下っ端であったが、当のダークは気にも留めない。枯れ木にも似た身体をしならせ、ただ粛々と命令を下す。

 

「間もなく、この場に一人のトレーナーが来る……。それを止めていろ」

「止める? それだけでいいんすか?」

「……そうだ。しかし、油断はするな。その男は――」

 

 言いかけたダークの虚ろな瞳が、ついと一点を見据えて止まった刹那。

 

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁっっっ‼⁉」

「えっ……ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ‼‼」

 

 先刻の爆発に負けず劣らずの、けたたましい悲鳴と衝撃音が木霊した。何事かと思う間もなく薙ぎ倒されていく下っ端たち。

 ダークと会話していた者も例外ではなく、凄まじい風圧に煽られて、糸の切れた人形のように吹っ飛ばされてしまう。やがて凍った大地で背中を強打し、意識を失った彼の頭上を、紅炎が渦を巻いて通り過ぎた。

 

「……我々でも手を焼く男だと。そう、忠告しようとしたのだがな……」

 

 下っ端たちが次々と蹴散らされていく中でも、ダークは冷静であった。驚異の移動術で、現場から少し離れたソウリュウジムの屋根に移ると、使えない部下の姿を眺めて溜息を溢す。

 

 

「まったく……もう焼き焦がされていたのでは話にならない……。そうだろう?」

「ふん」

 

 ふいとダークが目を向けた先には、怒りに燃えた掟破りな男が一人。

 ()()にとっても憎き宿敵――海馬瀬人が、そこにいた。

 

「懲りん奴らだ。三下ども……‼」

 

 半壊したポケモンジム。気絶したプラズマ団員で死屍累々となった道路。その渦中で対峙する、無言の男たち。

 遅れて駆け付けたアイリスとシャガは、そんな滅茶苦茶な光景を前に揃って息を吞む。

 

「おじーちゃんのジムが……! 酷い……‼」

「プラズマ団。これもお前たちの仕業か」

 

 狼狽えるアイリスを庇うようにして進み出たシャガが、低い声で問うた。冷静に感情を抑えつつも、眉間に刻まれた皺の深さは、彼の怒りのほどを如実に表していた。

 

「……ジムリーダー。シャガか」

 

 逞しい老人の姿を視界の端に捉えたダークは、ぼそりと呟いた。

 とても落ち着き払っている。彼らには感情と言うものが欠けているのだろうか。眼下では部下が薙ぎ倒されているというのに顔色一つ変えない。ソウリュウの街を包み込む冷気に負けず劣らずの冷酷さである。

 しかし、海馬やシャガが感じる違和感はそれだけではなかった。このダークの胸の内は全く見通せないが、先ほど家に侵入していた者よりも遥かに、自信に満ち溢れている

ように思えたのだ。

 強者三人を前にすれば、ダークと言えども撤退が頭に浮かぶはず。それもせず、寒風吹き曝しの屋上で高々と腕を組んでいる。

 

「……やはり、ジムが隠し場所だったか」

 

 海馬たちが出方を窺う中、無表情のダークはくつくつと喉を震わせて嗤った。

 

「シャガがいなければ入れないし、いれば最強の番人となる……。そう考えたようだが、お前はまだまだだ……」

「なに?」

 

 シャガが眉根を上げた時。パチン、とダークが指を鳴らす。

 

 

「今、お前の宝は我々が頂いた」

 

 

 空気が蠢いた直後。ダークから分裂するようにして、二人の影が這い出る。

 一人はやたらと目つきが鋭く、憎々し気に海馬を睨み付けている。微かに鼻を刺す焦げ臭さから、先ほどシャガの家で相対した男だとすぐにわかった。

 そして、もう一人は――

 

 

「……‼」

 

 

 一瞬で海馬の目つきが変わる。

 驚愕から次第にわなわなと、確信めいたと同時に沸き起こる苛立ちで背中を震わせる。彼の視線の先には、そのダークが握り締める道具があった。

 

(まさか、あれが……‼)

 

「そう。遺伝子の楔だ」

 

 海馬の眼力を察したダークが、見せびらかすように掲げた遺物。

 灰色を基調とした縞模様に、摩耗し先端が少し丸みを帯びた、奇妙な楔。初めて目にする道具だったが、何かただならぬ力を秘めていることはすぐ分かった。事実、ここまでの冷気に耐えてきた海馬の腕は、瞬く間に鳥肌を立てている。間違いなく青眼(ブルーアイズ)に纏わる品だと、そう直感的に悟ったのだ。

 

「まさか、その楔を手に入れるためにソウリュウシティを襲ったのか?」

 

 細い指で楔を弄ぶダークを見上げ、シャガは目を細めた。

 固く握り締められた拳は、手の甲を貫く勢いで爪が食い込んでいる。

 

「……ええ。どんな手を使ってでも目的を達成します」

 

 ダークトリニティは平然と告げた。

 

「私たちには、N様のように民の心を奪う求心力がない」

「代わりに圧倒的な力で人々を屈服させる……」

「二年は……存外長かった……」

 

「なんて酷いことを……‼」

 

 光なき眼に底知れぬ闇が垣間見える。

 その視線を正面から浴びて、幼きアイリスは狼狽えるが、それでも。彼女は、目の前に立つ老爺の、哀し気な背中を頬っておくことができなかったのだろう。

 

「人の大事なものを盗んで、街をこんな目に会わせるなんて‼ 絶対に許せない‼」

「何とでも言え。我らとてゲーチス様に報いねばならん」

 

 そんな少女の声を柳に風と聞き流し、ダークトリニティは嘲笑するように口角を上げた。

 

「……残念だが、もう時間はない。ごきげんよう」

 

 アイリスが駆け出した時にはもう遅い。

 短く言い残して、ダークトリニティは文字通り姿を眩ませた。

 影が消え去った後には、崩れたポケモンジムだけが取り残されている。

 

「ちょっと‼ 待って……‼」

 

 悔しさを胸にアイリスは叫び、小さな手でモンスターボールに触れようとした。

 

 

 その時だった。

 

 

「――逃すか‼‼」

 

 

 今まで沈黙していた海馬が怒り心頭に発して吠えた。

 一気に解放された感情のボルテージは限界突破してぶっ飛び、その勢いにアイリスやシャガはおろか、近場のリザードンすら怯む、皆が揃って彼の顔を覗く。

 

 彼の蒼色の瞳は、灼けるような怒りを湛えてギラリと鋭く煌めいていた。

 大きく息を吸いこみ、肺に空気を満たした後で、そのまま間髪を容れずに叫ぶ。

 

 

「来い、ゲノセクト‼‼」

 

 

 久々に呼ばれて、ゲノセクトは凄まじい勢いでボールから飛び出した。

 赤眼を存分に光らせ錐揉み回転しながらの登場。さながら太古の頂点捕食者に相応しい、威風堂々たる風格である。

 しかし、決意に漲る主人の顔を一瞥した途端。

 ゲノセクトは僅かに頷き、モーターが稼働するような激しい駆動音を響かせる。

 

「……‼」

 

 理解が追いつかずに呆然とするギャラリー。

 空中に身を投げ出したゲノセクトは、その姿形を大きく変形させていた。

 回転しながら四肢を器用に折りたたみ、背中の砲身と頭部とを連結させて、あたかも水生生物のような平たいフォルムに移行。尋常ならざるスピードで思うがままに低空を舞う。

 

 

「高速飛行形態――これでネズミどもを追い詰めてくれる‼」

 

 

 目をしばたかせるアイリスたちの前で、海馬は力強く宣言した。

 足元へ颯爽と返ってきたゲノセクトにサーフボードの要領で飛び乗り、そのまま一気に駆け出そうとする。

 

「待って、おにーちゃん‼」

 

 そこでアイリスが呼び止めた。

 

「悪者を捕まえるならわたしも行く‼ 」

「いらん」

「でも‼」

「オレ一人で十分。お前は、そこの老体と残っていろ」

「うぅ……」

 

 にべもなく一蹴する海馬。

 ただ、彼はアイリスの真剣な表情を横目にすると、左腕のライブキャスターを無造作に投げてよこした。

 

国際警察(インターポール)とのツテがある。忙しない奴だ、呼べばすぐ来るだろう」

「え? でも……」

「オレは最初からシティをどうこうする気などない。守るとほざいたのはお前の方だ、アイリス」

 

 いつもの突っ撥ねるような調子で紡がれる海馬の言葉。

 しかし、それを聞いたアイリスの表情は次第に、納得したようなものへと変わっていった。

 まじまじとライブキャスターを見つめていた顔を上げると、そこには戸惑いや狼狽の色など、どこにも見当たらない。

 澄んだ瞳は幼くとも、迷いを振り切って自身の進むべき道をしっかり捉えていた。

 

「ッ! ……わかった‼」

 

 ライブキャスターをしかと握り締めて、アイリスは強く頷いた。

 

「悪者を捕まえるのはおにーちゃんに任せる‼ アイリスは、おじーちゃんとソウリュウシティを守るっ‼」

「アイリス。今後、プラズマ団の二陣が来るかもしれぬ。そこで倒れてる者たちを片付けつつ、備えるぞ」

「うん‼」

 

 呼び掛けるシャガの声に元気よく答える。

 そのまま駆け出そうとした彼女は、そこで、くるりと海馬に振り返って激励の言葉を送った。

 

「おにーちゃん! あんな悪者に負けないでね‼」

「当然だ」

 

 元より彼の辞書に敗北の文字などない。

 以前よりも前向きな笑みを湛えた少女へ短く答えた海馬。彼はゲノセクトと傍のリザードンに合図する。

 主人を乗せたゲノセクトは地面すれすれを浮遊しながら、そのまま一気に加速を付け、並走するリザードンと共に霧がかった氷の世界へと繰り出した。

 

 

 

 

 

〇●〇●〇

 

 

 

 

 

 アイリスと別れ、人っ子一人いない街を突き進む決闘者(デュエリスト)と、その忠実なる()()()たち。

 まったく土地勘のない道路を猪突猛進に走っているのだが、彼らの進路には迷いがない。

 

「ゲノッ……ゲノム‼」

「どうだ、近いか?」

「ゲノ‼」

 

 海馬を乗せたゲノセクトの眼は、走り出してからずっと規則正しい点滅を繰り返していた。

 これぞ、いつかのリゾートデザートでも用いられた熱探知システム。ポケモンの枠を超えた戦闘兵器ならではの機能を、存分に生かした追跡方法というわけだ。

 周囲一帯が極度の低温に置かれている現在(いま)、その機能は無類の効力を発揮する……と。

 

 

 そう海馬が読んだ通り。

 

 

「ゲノム‼」

 

 

 街外れの角に差し掛かったところでゲノセクトが甲高い声を上げた。

 それと同時に命知らずの急旋回。傾けたボディの左端を凍った地面にガリガリと擦る、派手なドリフトをかましながらインコースへ突っ込む。

 ゲノセクトの上で直立したまま耐えた海馬は、その時。目の前で速度を緩めた黒い影の存在に気が付いた。

 

「くっ……⁉」

 

 ()は驚きの声を上げながらも瞬時に軌道を変えた。地を蹴って大きくジャンプし、海馬の頭上を飛び越えようと足掻く。

 だが、その行動を斜め後ろから追走するリザードンが許さない。咄嗟に吐き出した炎によって進行を阻害すれば、影は急降下して再び地面に着地するしかなかった。

 更には、その隙を突いたゲノセクトが素早い動きで追いすがる。

 

 そうして両者は一定の距離を保ったまま、互いの次なる行動を牽制しつつ並走する運びとなった。

 

「フフ……どうした? ダークトリニティ」

 

 全身で風を受け、コートをバサバサ唸らせながら、海馬は不敵に口角を上げた。

 

「その程度のスピードで、オレから逃れられるとでも思ったか?」

「……私に追いついて来るとは」

「ふん、オレに不可能はない‼」

「馬鹿な……‼」

 

 前のめりになって駆ける影の正体――散り散りになったダークトリニティの一人は目を丸くしていた。低く淀んだ声色から焦りの色が見て取れる。

 これまでずっとイッシュのトレーナーを翻弄し続けてきた、驚異の身体能力。人間離れしたその領域に、意地と執念で真っ向から食らいついてきたとあれば。

 

 しかし、ダークの驚きはそれだけに留まらなかった。

 

 ゲノセクトに乗ってシティを爆走する海馬瀬人の一挙手一投足によって、状況は更なる混乱の一途を辿るのだから。

 

「もう逃げ回ることはできんぞ。大人しく遺伝子の楔を渡せ‼」

「くっ……見上げた胆力だが……。断る、と言ったら?」

「決まっている‼」

「リザァ‼」

 

 後方でリザードンが戦慄く。

 海馬はニヤリと笑いながら、声高らかに宣言した。

 

 

「力でねじ伏せ、奪い返すまでだ‼ ――そう、今から行われるスピードの決闘(デュエル)によってな‼」

 

 

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