遊☆戯☆王 ポケットモンスターズ   作:木之下ジャンクション

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6.激突! ポケモンデュエル‼

 

「着いたよ、バトルコート! さっき作業員さんに教えてもらったんだ」

 

 昼下がりのコンビナート。黙々と白煙を上げ続ける工場群の一角。

 メイに案内された先は、錆びれた鉄塔の側。草むらに囲まれた小さなバトルコートであった。

 

「……よくもまぁ、意気揚々と誘えたものだな」

 

 別に期待していたわけではないが、予想以上のみすぼらしさだ。海馬は拍子抜けした面持ちでコートを眺めた。

 アスファルトもろくに舗装されておらず、コンビナート勤務の作業員がたまの暇つぶしに使う程度といったところか。重機の稼働音が響く今の時刻では他に人気もない。

 

「あ~……見栄えは悪いけど大丈夫」

 

 頭を掻いて苦笑いするメイ。

 

「多分バトルに支障はないよ。私もここでバトルしてたから」

「………」

「もっときれいな場所の方が良かった?」

「いや、構わん。さっさと始めるぞ」

 

 そう言って海馬は、自らコートの端まで歩いて配置についた。手持ちのヒトカゲも、テクテクと後についてくる。

 

ㅤ途中、チラリとメイを伺ってみれば、既に彼女もコートの反対側でスタンバイしていた。挑戦的な眼差しでモンスターボールを構えている。

 

(ふん、ああ見えて決闘者の端くれか……)

 

 いざメイと対峙して初めて、海馬は覚えのある雰囲気を感じ取った。

 瞳の奥底で燃える確かな闘志。決してお遊び気分ではない。そうでなければ、いくら近場でもこんなに物寂しい場所を決闘の舞台には選ばない。

 

 海馬は「ふん」と鼻を鳴らし、改めてメイを見据えた。

 

「で? ルールはどうするつもりだ」

「もちろん、ルールはシングルバトル! ポケモンの数は――海馬くん、手持ち今何体?」

「コイツだけだ」

 

 海馬は足元のヒトカゲを指さした。準備万端と言わんばかりに、尻尾の炎を揺らしている。

 

「オーケー、1体だね。じゃ、私はこの子でいかせてもらうよ!」

 

 笑顔で頷き、メイはモンスターボールを投げた。

 

「おいで、リオル‼」

 

 眩い閃光と共に出現したのは、青い体毛と尻尾を靡かせる小柄なポケモン、リオル。中空から静かに着地するなり、海馬に視線を合わせてきた。

 威嚇もせず、まるでこちらの強さを推し量っているかのような目つき。ヒトカゲと然程変わらぬ大きさのくせに、生意気な態度をとるやつだ。

 

「それが貴様のモンスターか」

「可愛いでしょ? 自慢の子なんだ!」

「ふん、オレが言えた立場でもないが、緊張感のないデュエルよ」

 

 コートに出そろったポケモンたちを見比べて、海馬は自嘲気味に笑う。

 

「このフィールドも――まるでペットの博覧会だ」

「あら、言ってくれるじゃない! でも小さくたってこの子たち、すごいパワーの持ち主だからね。海馬君も知ってるでしょ?」

「ぼちぼちな」

 

 軽口もそこそこに、海馬は顎でヒトカゲに合図を送った。

 貴様の力を示してみせろ、と煽るように。

 

「カゲカゲ!」

 

 主人の意を汲めたようで、ヒトカゲは威勢よくコートに躍り出た。

 その勇ましい様子を見て、メイも微笑みながらリオルの背中を押す。

 

「よし! アナタも行ってきて!」

「オルッ」

 

 リオルも威勢よく飛び出し、両者、互いに睨み合う。

 

 

 

「「バトル‼」」

 

 

 

 そうして声高に叫ばれる開戦の合図。今まさに、決戦の火蓋は切って落とされた。

 

「先攻はもらうぞ! 奴に"ひのこ"を浴びせてやれ‼」

「ヒートッ!!」

 

 先に動いたのは素早さで優るヒトカゲの方だ。指示を受けた直後、リオル目がけて小さな火球を連続して吐き出す。

 

▽ヒトカゲ の ひのこ‼

 

「リオッ……!」

 

 ただの『ひのこ』といえども侮れない火力で、着弾地点が轟音とともに爆ぜる。火球の直撃をくらったリオルも堪らず後ずさるが、平気な顔で巻き上がる砂煙を払い除け、すぐさま応戦の構えを取る。

 

 まだ序の口と言わんばかりの相棒に、メイも微笑みを隠さない。

 

「いきなり派手にやってくれるじゃない! 今度はこっちの番、 "いわくだき"で反撃よ‼」

「オルッ‼」

 

 ワザの指示を出されるや否や、リオルが地を蹴り、ヒトカゲに向かって一直線に飛びかかった。

 すかさず防御せんと短い腕を交差させるヒトカゲ。しかし、間合いに入った瞬間、眼前のリオルが突然姿を消す。

 先んじて行動を読んでいたかのように、リオルはしなやかな身のこなしで、ヒトカゲの背後へと回っていたのである。

 

 微弱な波動を感知し、身に迫る危機を察知する()()()ポケモンならではの技量であった。

 

▽リオル の いわくだき 攻撃‼

 

「カギャッ……‼」

 

 体勢を整える暇もなく、リオル渾身の一撃が叩き込まれた。

 小さな体躯からは想像もつかないパワーに、不意を突かれたヒトカゲも堪らず苦悶の表情を浮かべる――のだが。

 

「フフ……!」

「……ッ! リオル、離れて!」

 

 バトルコートの奥に佇む海馬の、不敵な笑みを目の当たりにして。メイの指示が届くよりも先に、リオルはヒトカゲから飛びのいていた。

 きっと波紋で感じ取ったのだろう。そう思ってヒトカゲに視線を戻せば、さっきのダメージなどないかのように、主人を真似て強気に腕組みしているではないか。

 

「うそ、あんまり効いてない……?」

「当然だ。この程度のじゃれ合いで根を上げるようなら、俺のデッキには入らんからな」

 

 最初の攻防を見て図ったか、海馬の口角が僅かに上がった。自身に満ち溢れた両目をカッと開き、尊大な態度をもって、メイを静かに挑発している。

 そこから放たれる強者のオーラに一瞬、メイは気圧されそうになったが、頭を振って気を持ち直す。

 

「くっ……確かに威力は低いけど! 『いわくだき』には追加効果があるよ‼」

 

 負けじと声を張り上げ、メイは海馬に言い放った。

 

「ワザを受けたポケモンの防御はダウンする! ――つまり次の攻撃では、もっと大きなダメージを与えられるってこと‼」

 

▽ヒトカゲ の 防御 が下がった!

 

「ほう、多少は戦略があるらしい。だが、果たしてそれが間に合うかな……!」

 

 守備力を下げられたようだが、そもそもヒトカゲは大したダメージもなく平然としているのだ。

 海馬は「ふん」と余裕綽々、高らかに攻撃を宣言する。

 

「敵を蹴散らせ! 『ひのこ』で攻撃だ‼」

「頑張ってリオル! もう一回『いわくだき』‼」

 

「カゲーッ‼」

「オルッ‼」

 

▽ヒトカゲ の ひのこ‼

▽リオル は いわくだき 攻撃‼

 

 今度は両者の指示が同時に出揃い、ほぼ同タイミングで攻撃が仕掛けられた。

 高速で迫りくるリオルに対して、再び『ひのこ』の火炎を浴びせるヒトカゲ。激しい火の粉にその身を焦がされながらも、リオルは怯まず突進、どうにか拳を叩き込む。

 ドゴン、と重みのある打撃音。やはり防御ダウンの影響は大きい。最初よりもダメージを受けたとみえて、ヒトカゲは若干フラついた。

 

▽ヒトカゲ の 防御 が 下がった!

 

「さっきより効いてる! いいよ、リオル‼」

 

(チッ、小癪な真似を……だが!)

 

 軽い舌打ちの後、海馬は攻撃を終えたリオルに視線を向け直す。

 すると、何やら確信めいた様子を漂わせて言い放った。

 

 

「甘いわ! 喜ぶ前に貴様のモンスターを見直すがいい‼」

 

 

 海馬の指差す先――ヒトカゲから距離を取ったリオルは、その鋭い表情こそ崩してはいないものの、明らかに体力を消耗していた。

 おそらく敵に弱みを見せまいと頑張っているのだろう。だが、既に呼吸は荒く、足を微かに震わせている。それを見過ごす海馬ではない。

 

「なっ……リオル……!」

「ふん、どうやら勝負あったようだな」

 

 動揺するメイを前に、海馬は勝利を確信した。

 

「サレンダーするなら今のうち……! もはや貴様には、どうすることもできまい?」

 

 よもやここまでと腕を組み直し、得意げに口元を歪ませる。

 

 ――が、しかし。

 

 

 

「それはどうかしら?」

「……なに?」

 

 

 

 ふと呟かれた一言に、海馬は思わず眉をひそめた。

 

 

 

 見れば、メイは全く怯んだ素振りもなく。むしろこの状況を待ち望んでいたかのような、いたずらっぽい笑みをたたえているではないか。

 

 

 

「バトルは――最後まで何が起こるかわからない‼」

「リオーッッ‼」

 

 

 

 メイが声高に叫んだ刹那、リオルが天を仰いで咆哮する。

 空元気のはったりか? と。

 一瞬そう判断しかけた海馬だったが、すぐに眼前の異変を感じて言葉を詰まらせた。

 

 つい先程まで弱り切っていたはずのリオル。それが再び元気を取り戻したかのように、力強く立ち直していたのだ。

 見る限り、決して空元気などではない。その赤い眼は、猛々しい闘気と活力を滾らせ、じっくりこちらを見据えている。

 

(馬鹿な、体力が回復しただと⁉)

 

 疑問に感じたのも束の間。海馬はリオルの傍らに転がる、茶色い器のようなものの存在に気が付いた。

 中身は既にない。だが、何かトロリとした液体がふちから垂れている。

 

(何かを接種したのか? オレが、ヤツから目を離した隙に……!)

 

 予想外の展開に今までの余裕が一変。歯すら軋ませる海馬の心中を鋭く見抜いたかのように、メイはにやりと笑ってみせた。

 

「これが『きのみジュース』の効果だよ! 予めリオルに持たせておいたんだ!」

「なに、装備だと……!」

「そうだよ! ジュースを飲んでリオルは回復! これでまだ戦えるっ!」

「オルオル!」

 

 

 ポケモンは一体につき、通常一つの道具を持たせることができる。

 大半の道具はポケモンが扱えない人工物であったり、意味のない自然物であったりするのだが……中にはバトル中に効力を発揮する、特殊な効力を有した道具や木の実が存在する。

『きのみジュース』は、その特殊な道具の一つ。持たせたポケモンのHPが半減した際に一度だけ、自力でHPを回復できるという代物だ。

 

 

「おのれ、小癪な真似を……!」

 

 思わぬ奇策に憤る海馬。

 

 力と速さで勝るヒトカゲが一方的に攻め立てていた戦況は一変。隠された道具の効果で、両者の体力差は一瞬でひっくり返されてしまった。

 しかも二度の『いわくだき』により、ヒトカゲの守備力は大幅に下げられている。

 

「くっ……だが! まだ決着がついたワケではないぞ‼」

 

 海馬は一段と声を荒げ、ヒトカゲに指示を飛ばした。

 

 

「攻撃しろ! ヒトカゲ‼」

「カゲェ‼」

 

▽ヒトカゲ の ひのこ‼

 

 

「迎え撃って、リオル‼」

「オル‼」

 

▽リオル の いわくだき 攻撃‼

 

 

 両者はほぼ同時にワザを繰り出した。

 放たれる火球の礫と、空を切る拳の鉄槌とが交錯し、盛大に爆ぜる。

 その衝撃を受けて、バトルコートは再び、舞い上がる砂塵の渦に包まれた。

 

「く……!」

 

 吹きすさぶ爆風をものともせず、海馬は目を細めてヒトカゲの行方を追った。

 おそらく勝負はついたはずだ。死闘を征したのは、果たしてどちらか。

 

 

「オル……!」

「なに……⁉」

 

 

 やがて白煙が引き、露わになった視界の先で。立っていたのはリオルだった。

 "ひのこ"の猛攻に身体を焦がし、肩で息をしながらも、その両足はしっかりとコートを踏みしめている。

 

 対するヒトカゲは――リオルに打ち込まれた鉄拳に耐えかねて、とうとう地面に倒れ伏していた。

 

▽ヒトカゲ は 倒れた‼

 

「……やった! 勝てたよリオル‼」

 

 少し遅れてバトルの結果を知ったメイの表情がパアッと華やぎ、明るい声を上げる。

 それを聞いて緊張を解いたのか、リオルは笑顔で振り返り、嬉しそうに主人のもとへと駆け寄った。

 

「リオ! リオッ!」

「アハハ、ありがとう! 凄い活躍だったよ~!」

 

 無邪気にとびついてきたリオルを抱きしめて、優しく撫でてやりながら、勝利の喜びを分かち合う。

 そんな和やかムードに包まれるメイたちであったのだが。

 

「バカな……!」

 

 一方の海馬は激しいショックを隠しきれず、呆然とその場に立ち尽くしていた。

 

(このオレが破れただと? たかが小娘ごときに……‼)

 

 絶対的な勝利を覆されて、残った屈辱に身体を打ち震わせる。目の前の光景がいまだに信じられず、ただ唖然とするしかない。

 だが、彼の荒れ狂う心中など露知らず。そのうちリオルをボールに戻したメイは、コートの端で佇む海馬のもとへと歩み寄った。

 

「海馬くんも、ありがと! すっごく楽しいバトルだった!」

「………」

 

 目の前で爽やかに笑うメイを、鋭い瞳で見つめる。返す言葉も出なかった。

 海馬は戦闘不能のヒトカゲを戻すと、こみ上げる感情にぎゅっと拳を握りしめ、静かに背を向け去ろうとする。

 

「海馬くん? どうしたの……?」

 

 戸惑うメイには目もくれず、海馬は背中越しに告げた。

 

「……オレを倒したことは褒めてやる。だが、俺は敗北の枷を付けられたまま、おめおめと引き下がる男ではない」

「え……?」

「この借りは、いずれ返させてもらう。首を洗って待っておくがいい!」

「えっと、それはつまり――またバトルしてくれるってこと?」

 

 困惑に目をしばたかせるメイだったが、そう解釈するなり途端に笑顔を取り戻す。

 よりいっそうの喜びを顕わに、海馬の背中へ語りかけた。

 

「もちろん、いつでも受けて立つよ! もっと楽しいバトルにしよう!」

「ふん、その余裕も長くは持たせんぞ……!」

 

 そう吐き捨てて、海馬はコートを後にした。

 

 一人残されたメイは海馬の後姿を見送りながら、手にしたモンスターボールを優しく握りしめる。

 

「海馬君、か……。面白い人だったね、リオル」

『リオッ』

「うん、私たちだって負けてられないよ。もっともっと強くなろ!」

 

 ボールの中の相棒に微笑みかけると、メイもやがて歩き始める。

 今だ残るバトルの余韻を噛みしめながら、新たな出会いをその胸に秘めて。

 

 

 彼女の瞳はタチワキの覆う分厚い雲にも負けぬほど、澄み切った光に満ち溢れていた。

 

 

 




第三話の時点で軽くやりましたが、ポケモンバトルはゲーム基準で行う予定です。
その方がデュエル感も出せると思うのでね。
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