遊☆戯☆王 ポケットモンスターズ   作:木之下ジャンクション

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8.ヒオウギの新風

 

「く……だが、俺達から情報を聞き出そうとしても無駄だぜ!」

「そ、そうさ! 一番の下っ端が、機密事項なんて知らされちゃいねぇ……!」

「だろうな。それくらい、貴様らの顔を見ればわかる」

 

 バトルで叩きのめされたプラズマ団たちは、それでも最後の悪あがきにと、海馬の問いをはぐらかす。

 力の差に委縮してなお虚勢を張るのが、いかにも下っ端らしい。

 そんな彼らの態度に嘲笑すら滲ませながら、海馬は淡々と切り込んだ。

 

「だが、下っ端ならむしろ理解しているはずだ。上には上がいることをな」

「……何が言いたい?」

「俺は、失踪した英雄気取りの"王"とやらに因縁がある。知っている情報を全て話せ。貴様らも、そいつを崇めているのだろう?」

「…………‼」

 

 プラズマ団の『王』。その単語に、下っ端たちの目の色が変わる。

 困惑したように顔を見合わせ、俯いて沈黙する。まさに睨んだ通りの反応だ。

 そこで海馬は、うなだれる彼らへ更に畳みかけようと口を開きかけ、ふと。

 

 

「ケッ……‼」

 

 

 下っ端の一人が、忌々しそうに吐き捨てた。

 その様子に違和感を覚えて口をつぐむと、もう片方の下っ端は露骨に不機嫌そうな態度で、海馬の顔を直視する。

 

「お前、アイツを探してんのか」

「そうだ」

「へっ……なら残念だったな。奴はもうプラズマ団にゃいねぇよ」

「……なに?」

 

 予想外の返答に、海馬はピクリと眉を吊り上げた。

 その反応を見て少し気を良くしたのか、下っ端たちの瞳が意地悪く輝き出す。

 俄かに威勢を取り戻した彼らであったが、その表情にはもはや『王』に対する敬意や忠誠心などは微塵も感じられず、明らかに侮蔑と嘲笑とを孕んだ口調で語った。

 

「そうさ、アイツはとんでもねぇ恩知らずだよ! 2年前に我らプラズマ団が壊滅した時、真っ先に行方をくらましやがったんだ‼」

「オマケに新生プラズマ団が再結成した時も、姿を見せちゃいねぇのさ」

「よっぽど自分の身が可愛いんだろうぜ‼」

「クソ野郎が……‼」

 

「ふむ……」

 

 下っ端たちの豹変ぶりを前に、思考を巡らせ海馬は唸る。

 

(この態度……おそらくコイツらの話は噓ではない。しかし、『王』が失踪したまま戻らぬというなら『青眼(ブルーアイズ)』も――)

 

 こみ上がる焦燥感に「くっ……」と奥歯を噛みしめ、握りこぶしを震わせる。

 プラズマ団から『王』の居場所さえ聞きだせればと、そう思っていたのだが。

 当てが外れてしまった以上、『青眼(ブルーアイズ)』の捜索はほとんど振出しに戻ってしまった。

 

「どうした? アイツがいなくなったのがそんなにショックかよ?」

「ハッ、よっぽど熱心な崇拝者だったみてぇだな?」

 

 そんな苦い顔の海馬を見て、勘違いでも起こしたのか、次第にヒートアップし始める下っ端たち。

 実に小物らしい態度で笑いながら、口々に捲し立てるのだが。

 

「へへへ……だがよぉ! もう俺達にはあんな奴、必要ねぇのさ‼」

「そうとも、我々は次こそ世界を支配する! 新たなボスの下、圧倒的な武力でな‼」

「所詮アイツは祭り上げられただけのお人形‼」

「従えた伝説ポケモンだって、胡散臭いうえに何の役にも立たない役立たずだったんだからな‼」

 

 

 

 

 いかんせん、彼らはあまりにも軽率すぎた。

 

 

 

 最後に飛ばした野次。それは見事に海馬の地雷をぶち抜いていた。

 

 

 

 蒼き眼が光を失い、磨かれた鉄剣の如く底冷えのする鋭さで下っ端たちを射抜く。

 その視線に気づいた瞬間、背筋に氷を放り込まれたような悪寒を覚えるも、時すでに遅し。

 全身を駆け巡る血液を激しく燃やし、尋常ならざる殺気を迸らせながら、海馬はゆらりと一歩を踏み出している。

 

 

 バキッ、と空を切る轟音。

 

 

「グハッ……‼」

 

 

 下っ端の一人が、白目を剥いてブッ飛んだ。

 怒りに任せて振りあげられた海馬のアタッシュケースが、その顔面を捉えたのだ。

 彼はそのまま、もんどり返って壁に激突、ドサリと崩れ気絶する。

 

「俺の『青眼(ブルーアイズ)』を愚弄する事は許さんぞ……‼」

「な、ちょっと待っ……」

 

 情け容赦のないその姿は、まさに決闘の暴君そのもの。

 腹の底から搾り出すような声の圧力に、残された下っ端の血の気が引いていく。

 

「その罵倒は俺に対する罵倒も同然だと……! 貴様の貧相な頭に刻んでおけ‼」

「ヒィィ…………‼」

 

 苛立つ海馬をむやみに挑発したのが運の尽き。

 路地裏に、下っ端の悲鳴が木霊した。

 

 

 

 

 

〇●〇●〇

 

 

 

 

 

「……それでプラズマ団員を捕獲した、と?」

 

 

 数分後。海馬に呼ばれて駆けつけたハンサムは、現場の惨状を見て頭を抱えていた。

 彼の足元には、海馬の憤激を正面から浴びせられた下っ端たちが、泡を吹いて転がっている。

 

「……いやはや、こいつは派手にやってくれたもんだ」

「ふん、この程度、オレにとっては造作もない」

「褒めてないよ? 仮にも捜査員なんだから、面と向かって突撃するのはちょっと」

「何を言う。全て正当防衛だ」

「過剰なんだよ、君のは……」

 

 呆れた顔で言い返すハンサム。

 変装や尾行調査を駆使して犯人を追い詰める、叩き上げの彼にとって、標的を真っ向からねじ伏せる海馬のやり方は頭痛のタネだ。

 彼の立場はあくまで一般人。リスクは全てハンサム持ちという現状。

 協力者として能力は申し分ないが、目に余る破天荒ぶりに、今にも事を起こしかねないとヒヤヒヤさせられっ放しである。

 

 しかし、当の海馬本人は悪びれる素振りすら見せず腕を組む。

 

「ふん、何とでも言え。貴様の捜査に協力してやっているのは事実だからな」

「それはもちろん感謝してるよ!ただその、国際警察としてはもう少し正しい捜査の仕方というヤツがあって……」

「警察の流儀など俺の知った事ではない。つまらぬ講釈を垂れ流す前に、さっさと雑魚どもの引き取りを願いたいね」

「はいはい、わかったよ。強引なんだから全く……」

 

 半ば諦めたように首筋を掻いていたハンサムは、そこでライブキャスターを起動させた。

 とりあえず手頃な支部に連絡を入れようと、番号をポチポチ押していくのだが、ふと。

 

 

「いや、待て」

 

 

 通話パネルに触れようとした腕を、海馬が瞬時に掴んで止めた。

 何事かと驚くハンサム。だが、既に海馬の意識は索敵のため周囲へと向けられている。

 

「どうしたんだい? いきなり遠くを見たりして……」

「何者かが近くにいる。聞いてみろ」

 

 小声で言いながら人差し指を立ててハンサムを黙らせ、神経を研ぎ澄ませる。

 迷路のような狭い裏路地を絶えず警戒し続けていた彼の耳は、迫り来る微かな足音を聞き洩らさなかった。

 それは薄暗い闇の奥からバタバタと、ダッシュでアスファルトを踏み鳴らしているようだ。

 

「……確かに聞こえる。プラズマ団の仲間かな?」

 

 遅れて耳を欹てたハンサムを横目に、海馬は「違う」と短く否定。

 

「足音の質が違う。いくら雑兵でも統率された連中なら、もう少しマシな走り方をしてもいいはずだ」

「なるほど。しかしプラズマ団でないとすれば、こんな路地裏に一体誰が……?」

「ふん、おそらくはまだ子供。不要なお喋りは控えるべきだな……」

 

 呆れたように息をつく海馬の、微かにぼやいた通りであった。

 刻一刻と迫る忙しない足音の先からは、騒々しい声のやり取りが次第に大きく響いてくる。

 

 

「……ちょっと走るの速いってば! 置いてかないでよー!」

「んなこと言ったって、急がないと奴らに逃げられちまうだろッ‼こっちから怪しい騒音がしたんだ。絶対この近くにいるはずだぜッ‼」

「わかったよ! もう、せっかちなんだから……!」

「待ってろプラズマ団! このオレが相手してやるぜ―――ッッ‼」

 

 

 そう叫んで真っ先に飛び出したのは、目つきの鋭い三白眼の少年だった。

 ツンツン尖った髪の毛を逆立て、見るからに攻撃的な雰囲気でモンスターボールを構えている。

 彼は正面にいる海馬たちの影を認識すると、果敢な態度で指を突きつけようとする……のだが。

 

 

「いたかッ! ようやく見つけたぜプラズマ団、もう逃がさねぇ………って、あれ?」

 

 

 ふと海馬の足元でダウンしている、プラズマ団の下っ端二人を見つけて声を詰まらせた。

 ピンと伸びた人差し指は何処をさしたものか、行き場を失い虚空をフラフラ彷徨っている。

 完全に予想外だったのだろう。目を白黒させながら少年は、海馬とハンサムの顔を交互に眺め、尋ねる。

 

「……そこで伸びてるのって、プラズマ団だよな? アンタらがやったのか?」

「ああ。捕まえたのは隣の海馬君だけどね」

「そうだったのか。……先を越されちまったのは悔しいが、捕まったんならよかったぜ」

 

 ハンサムの返事を聞いて安心したのか、潔くボールをしまう少年。

 その顔から怒気が引いていくのを確認して海馬は訊き返す。

 

「お前の方こそ何者だ? 見たところ、敵ではないようだがな」

「っと……悪い! 急に走ってきて驚かせたよな! オレは――」

 

 快闊に胸を張る少年が口を開きかけた、ちょうどそのタイミングである。

 可愛らしくも掠れきった別の声が背後より響き、皆の意識を持っていった。

 

 

「やっと追いついた、ハァ……! もう、一人で突っ走るなって言ってるのに……‼」

 

 

 息急き切らせながら現れたのは、白いサンバイザーを被る軽装の少女。

 その栗色のお団子ツインテールを靡かせた――あまりにも見覚えがあり過ぎる容姿に、海馬の双眸が見開かれる。

 

 

「貴様、メイか……!」

「へ? あれ、海馬くん⁉」

 

 

 意外な再会にメイも驚きの声を上げる。

 傍らの少年は、首をかしげて彼女を見つめた。

 

「なんだ、知り合いかよ?」

「うん、えっと、カントー地方から来た海馬くん。さっきポケモンバトルして、友達になったばっかりなんだ」

「……オレは貴様のお友達になった覚えなどないが」

 

 外野のヤジも気に留めず、笑顔で海馬に向き直るメイ。

 横に立つ少年の背を、グイッと押し出し紹介する。

 

「で、こっちが幼なじみのヒュウ!ちょっと目つきは悪いけど、いい人だから安心してね!」

「なぁ、オレの紹介雑? ……まぁいいけど」

 

 ヒュウと呼ばれた少年は不満げに唇を尖らせながらも、それ以上異論は唱えず。

 気を取り直したように胸を張り、右手を海馬へ差し出した。

 

「改めて、ヒュウだ。よろしく」

 

 

 しかし――

 

 

「つまらん握手など止せ。オレには不要だ」

 

 

 海馬は差し出された手を一瞥し、肩をすくめて小さく笑う。

 

「あいにく貴様らと馴れ合う気はないのでね……! お友達ごっこならよそでやれ」

「なっ……」

 

 その高慢ちきな態度にヒュウの眉が吊り上がった。

 

(何だよッ、嫌味なヤツ……‼)

 

 いかんせん相手が悪かった。何しろ海馬は「絆」とか「友達」等のワードを常に否定し続けてきた孤高の決闘者なのだから。そのテンガン山よりも高いプライドと自尊心を持ち合わせて、他人と素直に手を取り合うことをよしとしない。

 

 とはいえ、こんな対応はヒュウにとって面白いはずがなく。

 一人であれば喧嘩っ早い頭がカチンと鳴って、確実に何か言い返していた事だろう。

 しかし幼なじみの手前、理性が先に働いた彼は「悪かったな……」と吐き捨て右手を引っ込めるまでにとどめることができたのだが。

 

 

 両者の間でピシリと走った亀裂を、周囲は見逃していなかった。

 

 

 場の空気が重たくなるのを察したハンサムは、話題を逸らそうと口を開く。

 

「あー、ところでだ! 君たち二人がこんなとこまで来た理由を聞かせてもらいたいんだけれど」

「……理由、ですか?」

「うむ。私は見ての通りプラズマ団の捜査をしている者だが、そのまえに一人の警察でもある。

 だから、君たちのような青少年が人気のない裏路地を歩いているのは見過ごせなくてね」

「わわっ、確かにそれは……ごめんなさい」

「怒ってるわけじゃないから安心してくれ。ただ、理由が知りたいだけだから」

 

 慌てて頭を下げるメイを、ハンサムは優しい口調で宥めると、今度はヒュウの方へ視線を向けて言った。

 

「そちらはヒュウ君と言ったね? 私の見立てだと、君に聞くのが良さそうだな」

「……オレか?」

 

 名前を呼ばれたヒュウは、バツが悪そうに頭を掻きながら答える。

 

「オレはその、アンタらがとっ捕まえたプラズマ団の連中を追ってきただけだぜ。サンギ牧場でポケモンを盗もうとしてたのを見たからな」

「なるほど、サンギ牧場か。私も現場にいたが、君たちも居合わせていたのか。しかし距離のあるタチワキまで、よく追いかけて来れたね?」

「へっ、そのくらい訳ないぜッ! オレはプラズマ団が現れたとなれば、どこへだって駆けつけるつもりだからな‼」

「……ふん、笑わせる。まさか、プラズマ団を一人で倒すとでも言うんじゃないだろうな?」

「なに……!」

 

 不意に横槍を入れた海馬へ、ヒュウは苛立ちながら振り向いた。

 

「……海馬かよ。何か文句でもあるのかよ?」

「連中の捜索はこのオレですら難航しているのだ。貴様がどこの馬の骨かは知らんが、とても大した真似ができるとは思えなくてね……!」

「なんだと! オレには相棒のポケモンだっているんだぜッ‼」

「だからどうした。モンスター程度ならオレでも所有済みだ。貴様だけが特別なわけがあるまい?」

「なっ、お前ッ……‼」

 

 またもや一緒即発。高慢な海馬に短気なヒュウ。

 どこまでも相容れない両社は睨み合い、互いに一歩も引こうとしない。

 

「やめなよ二人とも! そんな些細なことで……‼」

 

 慌てて二人を止めに入るメイ。しかし、説得はもはや無意味だった。

 再点火された炎が今更そう簡単に消えるはずもない。

 二人の間で勃発した口論は、さっき不発に終わった分と合わせて、いきり立つヒュウの感情を暴発させた。

 

「――さっきから一人でいい気になりやがって‼ もういい‼」

「ちょっと、どこ行くのヒュウ⁉」

「これ以上海馬のヤローと話してたって埒が明かねぇ。オレは先に行くぜ、メイ!まだその辺をうろついてるプラズマ団がいるかもしれないしなッ‼」

 

 静止も振り切りヒュウは一人、来た道をダッシュで引き返していってしまう。

 置いてけぼりをくらったメイは呆気にとられ、力ない声を漏らす。

 

「あーもう、ヒュウのバカ。突っ走るなって言ってるのに……」

「ふん。やはり猪突猛進の単細胞よ」

「そうやって海馬くんも煽らないの! ヒュウだって……すっごく大変なんだから!」

「オレの知ったことではない。それに、ああいうタイプは最も気に食わんところだ」

「あのねぇ……」

 

 ツンと鼻先を逸らして開き直る海馬に、深い溜め息を吐いて額を抑えるメイ。

 そんな二人のやりとりを眺めていたハンサムは、穏やかな苦笑を浮かべると、口を開いた。

 

「しかし、あのヒュウ君という子、だいぶプラズマ団を目の敵にしているようだね?」

「……色々あってプラズマ団のことでピリピリしてるんです。もう慣れっこですけど、すぐに激昂しちゃうんだから」

「そうか。しかし奴らは一度壊滅したとはいえ、その勢力は衰え知らずだ。面倒事に巻き込まれる前に、よく言って聞かせなければ……」

 

 職業柄、市民の安全を優先するハンサムからすれば、ヒュウの振る舞いも見過ごせないのだろう。先ほどから険しい顔のまま、顎に手を当て彼の身を案じている。

 とはいえ、説教もその対象がいなければ始まらないわけで。

 ハンサムは諦めたように「まぁともかく」と呟き、地面で伸びるプラズマ団たちを見つめ直した。

 

「まずはそこの連中を、ジュンサーさんに引き渡さないといけない。本部への報告もあるし、今から忙しくなりそうだ。

 一旦ここらで解散になるけれど、君はこれからどうする? 海馬君」

「ふん、オレのやることは変わらん。引き続きプラズマ団の後を追うだけよ」

 

 きっぱりと言い切って、自嘲気味に笑う海馬。

 プラズマ団の『王』の行方は依然として割れぬまま、辛酸を嘗め続けている現状。

 常人ならばとっくに心が折れているだろう。だが、彼の『青眼(ブルーアイズ)』への執念は生半可なものではない。

 目的を達成するためなら、イッシュの果てまで駆けずり回る覚悟であったが。

 

 

「――ん、もしかして海馬くん、行く宛なかったりする?」

 

 

 しかしその時。海馬の図星を突くような形で、おずおずとメイが口を挟んだ。

 

「もしよければ、せっかくだしさ。一緒にヒウンシティへ行かない?」

「……なに、ヒウンシティだと?」

「うん。ヒウンはイッシュ随一の大都会だから、ここより有益な情報がたくさんゲットできると思うんだよね。それに私も、この辺りのジムはもう制覇しちゃってるし」

 

 そう言いながら手の平サイズのケースを自慢げに見せつけてくる。中にはよく磨かれたジムバッジが二つ、丁寧に収められていたが、海馬とっては価値のわからない代物だ。

 加えて、何よりもメイが同行したがる意図を理解できず、彼の眉間には皺が寄る。

 

「新たな街へ出向くのはいいが、何故貴様が付いて来る? 一人で勝手に向かえばよかろう」

「……そうしてもいいんだけどさ。もう日が暮れる頃じゃない?」

 

 一度天上を見やれば、傾いた西日は黄昏色に染まり、あらゆる影を長々と引き伸ばしている。まもなく空は紫に塗られ、夜の帳を下ろすだろう。

 続けてメイはハンサムに目配せすると、大仰な仕草で両手を広げた。

 

「それにヒュウもどこかへいっちゃったしなぁ。代わりにヒウンまで、誰か同行してくれれば心強いんだけどな~」

「…………」

 

 絶句する海馬。それはメイの狙いを瞬時に察知したからだ。

 

 

(この女、この場にある全てを利用するつもりか……!)

 

 

 夕暮れ時の怪しい裏路地。

 連れの不在。

 そして正義感の強いハンサム。

 

 意地でも海馬に拒否させまいとする三連コンボが完成してしまっている。

 無下に断ればハンサムはメイの味方になりかねず……というか、既にメイ側に立ってしまっているようで。

「いい案じゃないか!」などと、呑気な顔でほざいている。もはやどうにもならないだろう。

 追い詰められて海馬は暫しの間黙りこみ、それから観念したように長く息を吐いた。

 

「くっ……いいだろう。今回限りで聞いてやる」

「やった! 決まりだねっ!」

 

 涼しい顔して喜ぶメイは、きっと内心ガッツポーズを決めているに違いない。

 

「ふん、いい気になるなよ……! さっさと付いて来るがいい!」

「はいはい、わかってるよ! それじゃあ出発しますね、ハンサムさん!」

 

 憤りを露わに、ずかずかと歩き出す海馬の後に続くメイ。

 ハンサムと別れた二人は、主に海馬のスピードに合わせて来た道を戻っていく。

 その薄暗い路地を抜ける途中、彼はふとメイに尋ねた。

 

「最初に一つ訊いておきたいことがある」

「どしたの?」

「なぜ同行を望んだ? 目ざとい貴様の事だ、裏があるに違いまい」

「はぁ、相変わらず失礼というか……。別に何もないよ。私、友達はそれなりに気にかけるタイプってだけ。ヒュウとは反りが合わないみたいだけど、まぁ……私にとってはバトルした仲だしさ!」

「……ふん、わからんやつだ」

 

 どこまでも率直な物言いをするメイを果たしてどう思ったのだろうか。

 仏頂面の海馬は口をつぐみ、沈みゆく夕焼けを眺めて歩くのみだった。

 

 




BW2のライバル、デフォルトネームはヒュウ。
根は素直でいい子なんですが、プラズマ団絡みであれこれ問題を抱えております。ストーリーでは結構ピリピリしてた印象が強いかも。

そんなわけで、尊大かつ嫌味な社長とは相性悪そうだなぁ、と思っております。
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