メスガキゲーマーのわからせたい! 保管庫   作:にゃあたいぷ。

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旧作
旧1.REN


 太陽が憎い、鏡を見るのが嫌いだ。

 色素の抜け落ちた白髪に赤い瞳、病人のように白い肌は幼い頃に白磁のようだと褒められていた。だけど幼稚園に通っていた時にお化けと呼ばれて以来、白と赤はコンプレックスの証だ。肌も弱く、太陽の紫外線を浴びるだけで炎症を起こす。なので私が外を歩くには日傘が必要だった。窓の外から子供の笑い声が聞こえる。夏の日の、猛暑日を思い出す。左頬と左手に残る炎天下の太陽に焼かれた痕が疼いた。怒りで腸が煮えくり返る。

 ふうっと息を吐き出す。仄かに込み上がる薄暗い殺人衝動を抑え込んで、アイマスク型のゲーム機器を装着した。

 目元と耳を隙間なく覆い隠し、外界の情報を完全に遮断する。もう何年も洗っていない布団の上で横になり、耳元にある電源のスイッチを入れた。視界が明るくなる。意識がゲームの世界へと吸い込まれて、タイトル画面が表示される。自然と口角が上がる。

 太陽にすらも忌み嫌われるこんな私にも居場所がある。

 

 幾つかある選択肢の中からオンライン対戦を選択し、次にランクマッチを選んだ。

 ユーザー認証の後、私の分身であるアバターが壁や床にグリッド線の敷かれたトレーニングルームに放り込まれる。私は軽い準備運動をした後、設定を弄って上級者向けのトレーニングコースを呼び出す。現実を考慮しないゲームの身体能力を前提にしたパルクールコースだ。本作は、ゲームの舞台になる町の中を縦横無尽に駆け回るオープンワールド形式のアクションゲームになっている。海外のヒーロー漫画にある蜘蛛男のように、CODEと呼ばれる特別な能力を駆使しながら町の中を飛び回ることを売りにしたゲームだった。良質なストーリーを交えた世界観を魅了されて、メインストーリー(チューントリアル)を終えた者達は次なる戦場に赴いた。

 eスポーツという言葉が社会に浸透した御時世で、このゲームは世界で最も競争が激しいと言われている。

 

 トレーニングコースで操作感を確かめていると急に、目の前に数字が表示される。

 9からのカウントダウンは対戦までの時間、残された時間で大きく跳躍し、伸身の新月面が描く放物線で栄光への架け橋を作り出す。両足でピタッと着地するまでが私のヴィクトリールーティンだ。カウントが0を表示した瞬間、全身の動きが止まる。そして足元から別空間への転送が開始された。

 放り出されたのは綺麗な満月の下、ビルの屋上。周囲を見渡せば、如何にもアンダーグラウンド然とした安っぽいネオンサインの店舗が建ち並んだ摩天楼の一角だった。試合開始までのカウントダウンが開始される。九秒という限られた時間で確認できるのは、対戦相手のユーザー名とアバターの立ち姿、そしてランクだ。対戦相手のランクは最上位のマスターで、対する私はマスターのひとつ下になるダイヤモンドになる。格上だ、強い者虐めだ。歯応えのある相手に舌舐めずりする。

 屋上を吹き抜ける夜風を全身で感じ取り、カウントが0を示した瞬間にビルの屋上から飛び出した。

 

 前述したようにゲームの中の私は、現実の身体能力を大きく凌駕する。

 フィールドの対角線上に居るはずの対戦相手を目掛けて、一直線に駆け出して、夜風を裂いてビルとビルの屋上を飛び継いだ。建物の中には入れない。見晴らしの良いビルの屋上を飛び継いで身を晒すのは危険な行いだ。だから、どうした。と最短距離で突っ走る。対戦相手の居場所は、三十秒に一度。レーダーのようにフィールドマップに表示される。相手が距離を詰めて来ない事から遠距離の狙撃型である事が見て取れた。

 私は気持ち良くなる為にゲームをプレイしている。

 快不快が私のゲームをプレイする上での行動原理であるが為、遠距離のチマチマとした牽制なんてかなぐり捨てて突っ込んだ。少し前にレーダーで表示された場所より、少し離れた場所からエネルギー弾による狙撃が私の頬を掠めた。真正面から特攻する私を察知した相手が、狙撃銃による狙撃を始めたようだ。だけど、如何に優れた狙撃手といっても現実離れをした速度でビルの屋上を飛ぶ次ぐ私を撃ち抜くことは難しいはずだ。

 これにCODEを用いた加速を加えれば、更に困難を極める。

 

「CODE:バースト」

 

 手から衝撃波を打ち出すシンプルなCODEだ。

 ストーリーモードの序盤から使える能力で、強力な一撃を撃ち出す反面、強い反動が使用者を襲う事になる。ストーリーモードでは雑魚の一蹴にボスの攻略と頼れるが、対戦では、攻撃を外した時のリスクが大きくて採用を見送られる事が多かった。空中で放った時は、まともに姿勢制御が出来なくなってしまうのだ。

 しかし、それも慣れである。

 最初から移動用の手段として割り切ってしまえば、リスクなんてあってないようなものだ。反動を全身で受け止めるように撃ち込めば、空中での推進力として活用できる。偏差射撃もなんのその、前後左右に切り返せるCODE:バーストを活用した移動法は狙撃手泣かせの戦法になる。

 尤も、瞬間加速(アクセラレーション)瞬間移動(テレポーテーション)といったCODEのあるゲームだ。

 この程度の事は対戦相手も承知の上だ。

 

 対戦相手が武器を狙撃銃から突撃銃に切り替えて、乱雑に放った。

 弾速の遅いエネルギー弾、弾道が曲がって私の追尾を始める。CODE:オートトラッキング。射撃武器に自動追尾の効果を付与するCODEだ。十を超える光弾が私を目掛けて飛来する光景を見て「まるで弾幕だ」と私は笑みを浮かべて突っ込んだ。自動追尾弾そのものは怖くない。怖いのは避けた先で待ち構える狙撃銃の一撃だ。被弾しつつも弾幕の壁を潜り抜けた先に待ち構える狙撃銃の銃口、残り十メートルを切った至近距離では回避する事は叶わない。故に私は、両手を前に突き出した。

 対戦相手の満月の光に煌めく銀髪が、夜風に靡く。それが酷く癪に障った。

 

「掛かったな、これで終いよ!」

「CODE:バースト」

 

 相手の勝利宣言を聞き流し、引き金に掛けられた人差し指に全神経を集中する。

 放たれた狙撃銃の一撃は、強力な衝撃波によって搔き消される。CODEの使用にクールタイムはない、自動回復するゲージ制だ。ゲージはリソースを示しており、リソースが底を尽きるまで使用すると一定時間、リソースが完全に回復するまでの間はCODEの使用が不可能になる。あと一撃分のCODEが残っていた私は、背後に衝撃波を撃ち込んで対戦相手が立つ屋上に降り立った。

 対戦相手に振り返った時、対戦相手は短機関銃を片手に持っていた。

 フィールドに持ち込める武器は三つまで、枠を全て銃器で埋めるのは中々の変態だ。対する私も近接武器しか持ち込んで居ないので変態具合でいえば、同等か。ちなみにCODEは一つだけだ。彼女の短機関銃から放たれたエネルギー弾の弾速は、突撃銃よりも遅かった。CODE:オートトラッキングによる自動追尾は、弾速が遅ければ遅い程に効果が高くなる。

 という事であれば、当然、彼女のメイン武器は近距離であっても変化はない。

 

「一撃必殺! 凸砂は古来から続く由緒正しいスタイル!」

「忌まわしいスタイルの間違いでは?」

「芋るよりは良いじゃん!!」

 

 本作における狙撃戦は、決して強く設定されている訳ではなかった。

 ランクマッチにおけるフィールドは基本、ランダムに設定されていて室内戦も数多く用意されている。そして、これまでの攻防を見て分かるように人間の動体視力で捉えられる速度で移動する訳ではないのだ。運営は中近距離での攻防を想定しており、狙撃手は、あくまでもチーム戦の支援役のポジションに収まっていた。元々、このゲームは一対一のタイマンを想定したゲームデザインをしていなかったのもある。

 タイマンのランクマッチは、ファンの要望で追加されたモードであった。

 

 しかし、狙撃銃をこよなく愛する銀髪の女性が狙撃銃を両手に駆け出した。

 短機関銃による低速の自動追尾弾の援護を受けて、唯一の逃げ道である正面への逃げ道を狙撃銃の銃口で塞いだ。躊躇なく放たれた一撃は、私を捉えることはない。手元に呼び出した短剣を投擲し、長い銃身に当てた。ズレた照準による一発は私の肩を掠めるだけに留まり、二射目が放たれる前に銃身の内側まで距離を詰める。

 相手もランクがマスターの強者。狙撃銃を手放し、握り締めた拳で応戦する。

 だが、それも予測の範疇だ。対戦相手の右拳を潜り抜けて、擦れ違うように彼女の背後を取った。対戦相手は振り返れない、その喉元には私が呼び出した大鎌の切っ先で突き立てられている。大鎌には浪漫がある。相手を刃の内側に収めた状態で刃を引いた時、一撃必殺の威力を持っていた。

 首だけで背後に立つ私の事を悔しそうに睨んだ彼女を、私は舌を出して余裕の笑みを浮かべる。

 

「バイちゃ♪」

 

 そして相手のシールドを貫通し、アバターを文字通りに両断した。

 血飛沫は出ない。設定上でも此処は電脳空間にある都市、相手の肉体は0と1に分解される。

 YOU WIN.と文字が表示される瞬間の余韻が堪らなく好きだった。

 

 

 CODE:Frangment。

 三年前に販売されて以後、対戦型アクションゲームとしてトップの地位を維持し続ける名作だ。社会現象にもなっており、世界大会が毎年開催される程の人気でゲーム人口は億を超えている。このゲーム一本でプロゲーマーになった者も居る程で、トッププレイヤーともなれば、動画配信だけで衣食住を確保できる程に稼げている。度重なるアップデートとMODの販売を続けた本ゲームも先日、遂に最終版を開発が発表された。

 もう既に次作の開発も進めているようで期待は高まるばかりだ。

 

 ざっくりとゲーム内容を解説すると、主人公は凄腕のハッカーで電脳都市に潜入する物語だ。

 CODEと呼ばれるシステムを駆使する事で電脳世界を自由に駆け回る事を売りとして販売された本作は最初、爽快なアクションでスタイリッシュに町中を走り回るオープンワールドとして注目を浴びる。熟練のプレイヤーが披露する派手なアクションは、某星戦争や某ヒーローコミックも顔負けで、これまで観るだけだった世界を疑似体験出来るという事で爆発的に売れた。CODEと呼ばれる特殊能力を活用した派手なアクションは見栄えが良く、AIを搭載したカメラ機能による観戦はアクション映画も顔負けの迫力がある。

 プレイ人口が増えた事で対戦も盛り上がり、気付いた時には世界規模の大会が開かれるまでに至る。

 

「ああ、もう! 逃げるなッ! もっと戦えよっ!!」

 

 二戦して二敗。暗黙の了解である二本先取を終えた後、相手は対戦を拒否してネットの海に消えてしまった。

 視界の端に流れるコメント欄には、私を煽る文字列が物凄い勢いで下から上に流れている。私は事業所に所属するバーチャルストリーマーであると同時に、CODE:Fragmentのチーム戦では全国オンライン大会で上位常連の古強者だ。少なくともVstreamer(ブイストリーマー)の中では、狙撃手として一番の腕を持っている自負がある。

 それが! 真正面からの接近を受けて! まともに対応できないまま! 蹂躙されてしまったのだ!

 

「なんで撃つタイミングが分かんだよ、てやんでぇい!!」

 

 此処が現実世界であれば、台パンをしている所だ。

 というか私、近接戦闘は結構、得意な方なんですけど! マスター帯でも、それなりに戦えますし? プロゲーマーレベルの相手じゃなければ、何時も返り討ちにしてるんだけどなあ!! 誰なんですか、あれ!? あんな突撃を噛ます馬鹿は絶対ぜったい記憶に残っているはずなのだ!

 ぎゃあぎゃあと発狂していると視聴者の一人が気になるコメントを打ち込んだ。

 

no name:RENって言えば、他の配信でも暴れているバーサーカーの事だな

 

 RENというのは先程のプレイヤーの名前だ。

 どうやら私の他にも彼女の被害者が相次いでいるようだ。

 

no name:プロゲーマーを相手に勝っているとこ見たことある

no name:近付く前に何もできないまま倒されてる事も結構あるな

no name:海外の配信者が、ずっとクレイジーって叫びまくってたよ

 

 結構な有名人ではあるようだ。コメント欄を流し見れば、この一ヶ月で頭角を現した新規プレイヤーのようで他のゲームからの古参プレイヤーではないか、という憶測が立てられている。動画も残っているようなので、次はもっと上手く戦えるように軽く研究しておこうと思った。

 

「ん~、もう対戦って気分じゃなくなったなあ……」

 

 そう私が呟いた時、またコメント欄に興味を惹かれる情報が打ち込まれた。

 

no name:お、妹ちゃんがRENと対戦してる

 

「えっ、まじ!? 皆で見に行こう、すぐ行こう!!」

 

 対戦配信を打ち切って、二窓推奨の観戦配信に切り替える。

 室内戦。試合は始まったばかりだったけど、既に二人は交戦状態に入っていた。両手に二丁拳銃を握り締めた銀髪ツインテイルの少女が、私の自称妹。彼女が装備するCODE:リコチェットは、確実に跳弾を発生させる能力だ。正直、これ単体では強いCODEではない。しかし変態的な演算能力を持つ自称妹が扱えば、驚異的な能力に変貌する。壁や床、天井を跳弾させて、狙った場所に狙った角度で叩き込む事が出来るのが彼女の強みで、それが室内戦ともなれば制圧力が跳ね上がる。

 大会では、彼女のゲームスキルに何度、助けられたか分からない。

 だが、金髪の少女は多少の被弾をものともせず、CODE:バーストを用いた加速で自称妹の懐深くまで潜り込んだ。右手には先程の戦闘では見せなかった片刃の片手剣が握り締められている。自称妹が両手の拳銃を相手の額に向けた瞬間、両手首を跳ね上げるように金髪少女のRENが片手剣で切り払った。

 そこから先は一方的な蹂躙だ。近接戦闘の方が得意なはずの自称妹が懸命に距離を取ろうとしたが、CODE:バーストを用いた加速からは逃れ切れず肌の触れ合う距離で一方的に切り刻まれる。苦し紛れの反撃も読み切られており、冷静に詰まされていった。

 逆転の芽もなく、無惨に敗北した自称妹を見た私はギャハハと指を差して高笑いしてやった。

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