メスガキゲーマーのわからせたい! 保管庫 作:にゃあたいぷ。
祭田喝采の実況は試合が開始されてから今に至るまで絶え間なく続けられている。
実況と解説の言葉はプレイヤーには届けられない。しかし喝采は彼女達が戦う部隊の裏で頑張っていた、マイクを片手に拙い知識をノリと勢いで補いながら必死に頑張っていた。そうだ、彼女は面接の時に第一印象だけで落とされる事が決定した酒カス女の状態から面接時間の十五分をオーバーして、三十分間ただひたすらに喋り続けた上に面接官が五分毎に脈絡のない話題を吹っ掛けても言葉を詰まらせる事なく話を繋いだ生粋のVsでもあったのだ!
試合時間は十五分、それまで少なくない戦いが絶え間なく続けられてきた。
歌風双子とチーム花の戦闘から始まり、チーム花とチーム月の戦闘。そして、うたた寝メリーと歌風姉妹が接触した裏で小春日和と葛葉小雪の戦闘が発生した。舞台は中央広場に移り、伽藍堂ソラと歌風カナタの戦闘、その二人が乱入して来たRENとメリーに打ち倒される。流れるようにメリーと呉紅葉、小春茉莉とRENの二ヶ所で戦闘を始めた。
試合開始前の本命は、小春日和と呉紅葉。ジョーカーは葛葉小雪だった。試合開始直後は本命にRENが加わる。
「………………」
そして今、残されたのは小春日和、REN、うたた寝メリーの三名。
その他二名は、置いておき、残ってみれば納得の面子。
ただ単純に強い者から順番に三名が生き残ったというだけの話だ。
「………………」
喝采は言葉を発せずにいた、マイクを握り締めた手に汗が滲む。
隣に座る八目鰻は完全に観戦モードに入っており、真剣な目付きで二人の戦いを見守っていた。
無意識に呼吸を小さくする。
自分の呼吸音すら煩わしくて、ただただ画面に魅入っていた。
十のカウントが刻まれる。
突如の銃声、ガラス張りの天井が砕けた時、皆の意識が二人から離れる。
だけど二人が同時に動き出したから落ち着かない気持ちのまま、二人の動向を追い掛けた。
煌めく硝子片が落ちる中、二人が同時に背を振り返る瞬間。
その一瞬を切り取った一枚は、まるで劇場のポスターのように絵になっていた。
舞踏会ならぬ武闘会。二人の少女が二十万を超える人々を釘付けにする。
もう誰もが彼女達から目を離せなかった。
◆
それはまるで物語の中に居るかのようでした。
硝子の天井が割れて、不覚にも落下してしまった後、キラキラと輝く硝子片に囲まれた二人の決闘を見た。
青色のジャンパーが翻り、金色の美しい髪が綺麗な弧を描く。片手剣を手に背を振り返る彼女の姿はまるで昔にプレイしたヒロインを守る恋愛アドベンチャーゲームの主人公のようで、モコモコのドレスを翻す少女は童話の御姫様のようだった。此処が空想か、現実か、プログラムされた物語の中か、頭の中が分からなくなる。見惚れてしまった。高鳴る胸の鼓動に乙女心を感じた。
ギュッと濃縮された時間の中で同時に振り返った二人の視線がかち合ったのを確かに見た。
RENが凶悪な笑顔を浮かべた、対するメリーは無表情だ。だけど二人は今、確実に互いだけを認識していた。唇を重ねるよりも濃厚な触れ合いの後、まるで暴風雨の如く、二人を中心に数多の剣撃が繰り出された。彼女の周囲に落ちていた硝子片が消し飛ばされて、残された硝子片が石畳の地面を打ち鳴らす。超至近距離で放たれる無数の剣閃、閃く輝きが交わって火花を散らす。光剣の猛攻を凌ぎ切って繰り出された一撃をメリーが身を捩って回避する。二本の光剣で牽制し、相手の隙を突いて繰り出される三本目の光剣をRENが身を仰け反らせて躱す。
二人は両足を大きく広げた。
退くつもりなんて一切ないと吠えるが如く、二人の応酬は更に加速を始める。意地と意地のぶつかり合い。そんな汗臭い攻防が、どうしてこんなにも美しく綺麗に感じてしまうのか。
二人の額から弾ける汗の水滴は、磨き上げた宝石のように輝いて見えた。
「……尊い」
上気した頬で無意識の内に呟いていた。
均衡が崩れたのは、全ての硝子片が地面に落ち切った時だ。
二人が同時に蹴りを放った。
互いの鳩尾に突き刺さり、二人は耐え切れず、正反対の方向に吹き飛んだ。
転がるRENに襲い掛かるは三本の光剣。
メリーは地面で仰向けになった姿勢のまま、両腕で指揮を執る。
対するRENの手には、何もなかった。
少し離れた場所に片手剣が落ちている。
RENが苦悶の表情を浮かべた。呼び出した短剣を片手に三本の光剣から距離を取る、追撃する光剣に舌打ちを零す。更に距離を取った、背後にはメインストリートを囲んだ西洋の煉瓦家。中は御土産屋になっていたが、RENは中には入らず、窓枠に足を掛けて今度は上へと駆け上がる。光剣の追撃は止まらない。RENが木製のベランダの裏に隠れた。一瞬で刻まれる複数の剣閃、RENが乗っていたベランダがバラリと崩れる。咄嗟に飛び退いたRENを取り囲むように光剣が浮上する。
彼女が飛び退いた先には家の壁があった。
RENは咄嗟に足を付けて、真正面に跳ぶと一瞬のフェイント。光剣が釣られて動いた後、煉瓦の壁に付けた右手で切り返す。反応が遅れた一本の光剣がRENに斬りかかるも、RENの身体を掠めるに留まる。そしてベランダが切り刻まれた事でブラケットと呼ばれる部分が露出しており、そこにRENが足を乗せた。力強く踏み込んで、ブラケットを砕きながら斜め下の鋭角に跳躍。勿論、三本の光剣はRENを追い掛けた。
速度を重視した三本の光剣は、一処に集まる。
RENは身を捩り、半身になって右手を三本の光剣に突き出す。
「CODE:バースト」
衝撃波は、寸での処で三手に分かれた光剣に躱される。
反動を身体に受けた急加速で、RENが私の隣に着弾した。砕ける石畳に舞い上がる砂煙、少し前に推しになってしまった彼女の横顔が目の前にある。流す汗に歯を食い縛る。だけど前を見る彼女の口元が強烈な笑顔を浮かべていた。凛と輝いた金色の瞳、彼女の生命力がバチバチと迸っているかのようだ。私達のママであるサフランは言った。3Dモデルは魂が入る事で熱が籠り、一体の生命体として完成する。なんとなくでしか理解出来なかった、言葉の意味が理解できる程度だった。だけど今、私は心で理解した。彼女からは確かに良い匂いがしたのだ。
RENが迫り来る光剣から一瞬、目を逸らして私を見た。そして何かを呟いた。
拳銃。その言葉を聞いた時、私は三つ目の武器である拳銃を右手に呼び出す。
瞬間、彼女の手が伸びて、拳銃を奪い取った。指先が触れた、柔らかい手の感触がした。
RENとメリーの決闘の最中、場違いにも私はキュンとときめいてしまった。
「CODE:Fの初期装備は片手剣と突撃銃、そして拳銃」
呟かれた言葉に遅れて、光剣が三つの軌跡を画いてRENに襲い掛かる。
銃声が弾けた。1秒未満で放たれた三つの弾丸が、重量を伴わない光剣の刀身を弾き返す。
硝煙が昇る銃口、RENは拳銃を片手に立ち上がる。
CODE:Fのストーリーモードでは相手の装備を奪い取る事ができる仕様がある。
対戦時は、死亡判定が出た時に肉体と共に分解される。装填も武器の持ち主しか出来ないので受け渡す利点の少ない小技だ。
チーム戦であれば、ある程に残弾数は重要になってくる。
だけど今、この瞬間に限り、武器の受け渡しによるデメリットは、ほとんどなかった。
軌跡を変えて襲い掛かる光剣をRENは的確に撃ち払った。
「卑怯かな?」
RENがメリーに問い掛ける。
「……まさか!」
その時、メリーは初めて楽しそうな笑顔を浮かべた。
きっと今、私は世界で一番の幸せ者だ。
RENとメリーの短い言葉の応酬、性質が違う笑顔の裏に隠されたお前なら分かるだろという信頼。二人の最高の舞台を今、私は誰よりも近くで感じ取っていた。蕩けるほどに長い吐息を零す、二人の傍にずっと侍り続けたい。一生、傍で見続けて居たい。
ときめく私を意にも介さず、二人は互いを睨み付けた。
「それじゃあまあ仕切り直して……」
RENが右手に拳銃、左手に短剣を持って前傾姿勢を取った。
「……いざ尋常に」
呟くメリーが右手を前に突き出し、左手に光剣を握り締める。
そして二本の光剣を付き従えるかのように頭の横に控えさせた。
メリーもまた僅かに前傾姿勢を取る。
「「勝負ッ!!」」
二人が同時に駆け出した。
◆
メリーが駆け出す、RENが叫んだ。
二本の光剣が連携を捨て、縦横無尽に宙を舞った。まだ底を見せていなかったのかと四方八方から滅多切る光剣の猛攻をRENは拳銃と短剣で打ち払いながら尚、足を止めず、駆け寄って来るメリーを目指す。間隙を縫って、メリーの眉間に向けて放たれた銃弾。メリーは眉一つ動かさず、左手に持った光剣で打ち払った。
RENは窮地に陥っていた。
まだ余裕を隠し持つメリーに対し、RENは疾うの昔に限界を超えていた。
試合開始前の自分では生き残れなかった。
一分前の自分では駄目だった、五秒前の自分では倒されていた。
拳銃を使うのは、今のスタイルに変える以前の話になる。
前は、此処までの精度で撃つことができなかった。
だけど今、私は拳銃の感覚を掴んだ。見えなかった光剣の軌道が今は見える。
酷使した脳が頭痛を発する。
自分が今、自分という個体としての限界を超えた場所に立っている事を自覚する。
メリーは紛れもなく天才だ。
努力だけでは、太刀打ちできない境地に彼女は居た。
限界を超えて、限界を超えて、限界を超えた更に先に彼女は涼しい顔で立っている。
凡人では手が届かぬ境地に彼女は居た。
現実世界のRENが鼻血を垂らす。
ゲーム機が警告音を発した、それでもなお彼女は更に前へと踏み込んだ。
一秒前の自分では辿り着けなかった。
彼女の境地に、自分は今、確かに小指一本を掛ける事が出来た。
ならば、止まる訳には行かない。
前へ、更に前へ。
「ゴー、アヘッド!」
◇
一歩、踏み込む度に訪れる限界の壁。メリーは私の対処や反応を見て学習し、更なる策を講じてギアを一段階引き上げる。彼女と私の間にある絶望的な壁。短剣を振るう度に砕いて、拳銃を撃ち抜く度に砕いて、砕いて、砕いて、砕き続けて! まだ勝機は見えない。それがどうした、と構わず駆け抜ける。暗闇は、絶望ではないのだ。彼女はそこに在る。どれだけか細い道であったとしても、どれだけ果てなき遠い道のりであったとしても、そこに在るのだ! 夜空に手を伸ばす月ではない。論理的に、物理的に不可能ではなければ、どんな険しい道でも通ってみせる! 真の絶望は、太陽に照り付けられた学校の屋上。どう足掻いても克服できない日光皮膚炎。対処する事しか出来ず、真夏でも肌を晒すことが出来ない。気合や根性では乗り越える事が出来ない体質。それに比べれば、限界の一つや二つを乗り越えて辿り着ける境地なんざ、絶望を名乗るなんて烏滸がましい!!
◇
「でぇぇぇぇえええええええぃやああああああああああああッ!!」
二本の光剣を同時に弾き飛ばす。
もうメリーは目と鼻の先、左手に持った光剣を振り被った彼女を見たRENは、右足を振り上げた。
彼女の肩に足を当て、動きを止める。
そして右手に持った拳銃をメリーの額に突き付けた。
躊躇せず、引き金を引いた。
カチッと音が鳴った。
弾切れを悟った時、RENは咄嗟に左手の短剣で彼女の首筋を狙った。
その時、視界の端に彼女が握っていた光剣が姿を消している事に気付く、咄嗟に短剣の軌道を変える。右脇腹を狙っていた光剣を受け止めた。
メリーが自由になった両手で指揮を執っていた。
弾き返した光剣が頭上より降り落ちる。
バク転で回避、地面に突き刺さる二本の光剣。この時に私は彼女の目を狙って拳銃を投げた。光剣で弾かれる。地面に落ちていた片手剣を拾って、左手の短剣を相手の額に投げつける。これも容易く弾かれてしまった。
メリーが展開した三本の光剣を自分の周囲に集めようとする。
「CODE:バースト」
RENが背後に衝撃波を放った。
「CODE:バースト!」
更に重ね掛ける。
「CODE:バースト!!」
ギュンと加速した速度は最早、RENの動体視力を以てしても追い付かなかった。
全身が砕け散りそうな衝撃を受けながら尚も前を睨み付ける。
欲しいのは一秒未満の時間、メリーが光剣から手を放している今が一番の好機だった。
故にRENは限界に挑み続ける。
「CODE:バースト!!!」
パンと空気が爆ぜる音が鳴った。
限界を超えた最高速度、RENが放った瞬間風速は地面に散らばる硝子片を巻き込んで銀旋風を引き起こす。彼女が通った空気の通り道を無数の硝子片が潜り抜け、メリーの背後にある建造物に突き刺さる。
RENは幾重も超えた限界の果てに、確かにメリーを超える事が出来ていた。
「……私は、うたた寝メリー。Projet;CodeOperaのVsだよ」
メリーはRENに背を向けたまま呟いた。
宙を漂う光剣を両手に取り、そして振り返り、RENの背中に向けて手を翳す。
まだ立ち尽くすRENの身体は指先から0と1に分解されていた。
彼女の胴体をメリーの光剣が貫いている。
「貴女の名前が知りたい」
崩れ落ちるRENにメリーが告げる。
三度目のCODE:バーストを重ね掛けた時、メリーは光剣の回収を諦めた。
操作する光剣を一本に絞る。右手と左手、そして頭で三本の光剣を操作する。
動きを連動させる事で複雑な動作も可能にした。
だけど、最後の一瞬だけは、精密性よりも速度を重視した。
右手と左手で指揮を執り、更に頭でも操作することで一本の光剣の速度を上げた。
半ば、バグのような挙動。見て制御できない速度だった。
だけど、彼女は感覚で成し遂げた。
メリーは極限の境地で、数秒前の自分を超える事が出来たのだ。
確かな達成感と充実感、そして少しの寂しさを噛み締めて、彼女は完全に分解されるRENを見送った。
▼チーム風
〇小春日和@CYB :P狙撃銃・E突撃銃・E短機関銃:CODE・オートトラッキング
×歌風ハルカ@CYB:P短機関銃・P短機関銃・?:CODE・アサルトラッシュ
×歌風カナタ@CYB:P重機関銃・P日本刀・P手榴弾:CODE・テレポーテーション
▼チーム花
×小春茉莉@CYB :P二挺拳銃・煙幕弾・?:CODE・リコチェット
×幽谷風子@GoP :P軽機関銃・P拳銃・?:CODE・プロテクト
×伽藍堂ソラ@Emo:P散弾銃・P金属バット・P手榴弾:CODE・アクセラレーション
▼チーム雪
×葛葉小雪@CYB :テーザー銃・閃光弾・P弾道短刀:CODE・ダミードール
〇うたた寝メリー@PCO:E光剣・E光剣・E光剣:CODE・テレキネシス
〇サフラン@CYB :P狙撃銃・?・?:CODE・?
▼チーム月
×呉紅葉@CYB :P銃剣付突撃銃・E小銃・P擲弾発射器:CODE・アクセラレーション
〇久遠綴璃@CYB:P狙撃銃・P散弾銃・P拳銃:CODE・?
×REN :P片手剣・P短剣・P大鎌:CODE・バースト