メスガキゲーマーのわからせたい! 保管庫   作:にゃあたいぷ。

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旧12.決着

 対戦を開始する少し前、まだ呉紅葉がチャットルームに戻って来る前の話だ。

 年末に芸能人が格付けする時のような内装の控室で私、久遠綴璃は部屋の隅で身を震わせる。今回の企画、私は完全に数合わせだったのだ。偶々、時間が空いていたという理由で対戦開始の直前に連れて来られた一般Vsで二十万人を超える視聴者に見せられるプレイが出来るほどCODE:Fが上手くないのだ。下手も下手でランクはゴールドにも届いちゃいないのである。絶対にチームの足を引っ張るし、そのせいで視聴者から叩かれる。もしかしたら炎上するかも知れなかった。私をチャンネル登録してくれる視聴者は優しくしてくれるけど、今日の約束された失態で見放されるかも知れないし、もしかしたら暴言のオンパレードでコメント欄が埋め尽くされるかもしれない。もしそうなってしまったとすれば耐えきれる自信がなかった。鬱だ、死ぬしかない。今すぐに首を吊れば、炎上する前に逃げ出すことができるかも知れない。

 そこまで私が考えた時、私に話しかける女の子が居た。

 

「なぁに、そんなに震えてんの?」

 

 三角座りで頭を抱える私に、彼女様は畏れ多くもしゃがんで問い掛ける。

 視線を合わせて、私の顔を覗き込む金髪の少女は不思議そうに首を傾げていた。

 白のTシャツに短パン、初期衣装で残念感が否めない。

 しかし彼女こそが巷で騒がれるRENその人だ。

 超攻撃的な戦法を得意にする人だから、きっと超ドSな怖い人に違いない。

 目をギュッと閉じる私に彼女は徐に溜息を零す。

 

「高がゲームで生き死に関わる訳でもないんだし、気楽に構えてたら良いんだよ」

 

 頭に手を乗せられた。くしゃくしゃと撫でられる。

 恐る恐ると目を開けば、困った子を見るような目で笑いかける。

 だけど彼女の言葉を、言葉通りに受け取る訳にはいかない。私には、これまで築き上げてきたものがある。Vsで給金を貰ってる。御飯を食べている身の上なのだ。死にはしないかも知れないけど失うものが多過ぎる。Vsとして生きて行けなくなったら、きっと私は橋の下で段ボールで巣籠りする生活が待ち受けている。身売りだって出来ないのだ。だって私は人見知りで誰かと顔を合わせるのも怖いからVsの仮面を被って、なんとか配信しているのである。炎上したらおしまいなのだ。あの見目が良い喝采さんですらも人間性が終わり過ぎていて、客一人取る事が出来ず水商売から追い出されているのである。サフランさんが素敵なモデルを作ってくれたので、なんとか可愛く振舞えているのですけども容姿がモブ・オブ・ザ・モブな私には道端で野垂れ死ぬしかないのだ。いや、死ぬ事も怖いから、死に切れず、惨めに小学生から貰った給食のパンで生き繋ぐしかなくなるんだ!

 ネガティブ爆発☆妄想暴走列車中の私がガクガクと震える前で彼女は再度、溜息を零す。

 

「貴女の銃を出して」

 

 そう言って差し出された右手。恐怖に震える私は大人しくドSな彼女に従うしかなかった。

 彼女はボルトアクション式の狙撃銃を手に取ると慣れた手付きで弾丸を一つ取り出した。

 人差し指と親指と挟んだ銃弾を少し眺めた後、その弾頭にキスをする。

 

「何をしているんです?」

 

 私がおずおずと問い掛けると彼女は悪戯っぽく笑い返す。

 

「おまじないよ」

 

 ポカンとした私に向けて、彼女は弾丸を指で弾いた。

 くるくると回転した弾丸が私の手元に落ちる。流れで狙撃銃も返して貰えた。

 RENは立ち上がり、そして晴れやかに笑ってみせる。

 

「最後まで諦めるな。それだけ出来てれば、私は貴女を責めないよ」

 

 胸を張る彼女にまた私は頭を撫でられた。

 なんとなく元気付けようとしてくれている事は分かった。

 冷静に思い返すと気障な事をしていると思う。

 まるで物語の中に居る主人公みたいで少しドキドキした。

 物語は物語で、現実で同じ事をすると痛い奴になる事は理解している。

 だけど、それでも、気取らない彼女の精一杯の心遣いは私に悪印象を与えなかった。

 バーカウンターで実際にテーブルを滑って来るカクテルとか見ると感動すると思うんだ。

 私のような物語に恋するちょっと痛い人だからかも知れないけど。

 受け取った、おまじない銃弾を両手に握り締めてポケットの中に入れる。

 震えは止まらないけど、ちょっとだけ頑張ろうって気になれた。

 

 彼女をコーディネートしたのは、その後の話。

 なんとなく二十万人の視聴者の前で彼女の恥ずかしい姿を晒して欲しくなかった。

 彼女は格好良い人だから格好良く見られて欲しくなった。

 勿論、後で問題にならないとかそういった本音もあるけど。それだけの事だ。

 

 

 最終局面、小春日和とうたた寝メリーが苛烈な戦いを繰り広げる。

 メリーの前面に無数の光弾が展開される光景を目の当たりにした私は絶望を察した。メリーがRENと戦った時に見せたCODE:テレキネシスと光剣の組み合わせを凌ぎ切るのは絶対に無理だし、日和の弾幕を潜り抜けるのも不可能だ。もういっそのこと、人知れず流れ弾にでも当たって倒されてしまいたいくらいだ。誰も私の事なんて気にも留めず、炎上もせずに静かに事を終えたい気持ちで胸一杯である。だけどメリーが弾いた光弾が私の方に向かって来た時、私は本能的に躱してしまった。

 躱した時に足が絡まって、すってんころりん。生き恥である、壁の染みのような存在の私の事を誰も気に留めていない事だけが救いだった。

 

「今ので倒されていたら楽になれていたのに……」

 

 泣き言を口にする私の視界にキラリと光るもの地面を転がっていた。

 おまじないの弾丸だ、転んだ時にポケットから出てしまったようだ。

 

 瞬間、私の脳裏を過ぎったのは最後まで諦めずに戦い抜いたRENの姿だった。

 拳銃を手渡した時、一瞬触れた手の感触を思い出す。逃げちゃ駄目だ、あの人に情けないって思われたくない。私は下唇を噛んで地面に転がる銃弾を掴み取った。もう二度と会えないかも知れない。此処で諦めてしまったら私は、RENの中で一生、情けない人で終わる。それは絶対に嫌だった。彼女は言った、最後まで諦めなければ私の事を責めないと。だから私は彼女のおまじない付きの銃弾を狙撃銃に差し込んだ。

 ボルトアクション方式、レバーを引いてガチャッと音が鳴る。

 考えるんだ、私に出来る何かを考えるんだ。

 私の出来る事は少ない。私では日和を倒せない、メリーも倒せない。

 そんな私達に残された勝機は、漁夫の利以外に思い付かない。

 

 私は最大の好機が訪れるまで息を潜めて待つ事を決意する。

 震える呼吸で気配を消す。自分を壁の染みだと思い込んで、ギュッと狙撃銃を握り締めた。私の狙撃銃は、嘗ての世界大戦で白い死神が使っていたものと同じモデルだ。だからって歴代最高のスナイパーと同じ事が出来るとは思えないけど、傭兵さんに狙撃手を言い渡された時、私が選んだ狙撃銃。多くの書籍を読み漁る私が選んだモシン・ナガンは最も浪漫がある狙撃銃なのだ。

 余計な事は考えるな、やる事は一つ。胸の鼓動が収まらない。

 ギュッと目を閉じる、過呼吸一歩手前の荒い息。手の震えが最後の最後まで止まらなかった。

 涙が溢れ出しそうになる中、必死になって緊張感に耐え続けた。

 

 だけど、メリーの左腕が千切れた後、日和が勝利を確信したその時だ。

 不思議と手の震えが止まったのだ。

 行け、と言われた気がした。

 皆が私の存在を完全に忘れた瞬間を狙いすまして、引き金を絞る。

 

 放たれた銃弾は日和の身体を穿った。

 当たった事に驚いた、けど貫通はしていなかった。

 たぶんシールドで防がれた。

 引き金を引いた後、急に全身が震え出す。

 震える手、荒い息を零す。

 私は装填用に一発の銃弾を呼び出してキスをした。

 そして焦らず、慎重に銃弾を込める。

 手が震える。ポロポロと涙を零しながら大きく息を吐き出した。

 

 改めて狙撃銃を構えた時、日和はもう既に狙撃銃で私に狙いを定めていた。

 

 

 右腕一本で光弾の弾幕を突破する事は不可能だと悟る。

 あの金髪の少女であれば、もしかすると死中に活路を見い出していたのかも知れない。

 だけど、私には弾幕の中に身を投じて、暗闇の中を闇雲に探すだけの根性がない。

 代わりに一筋の勝機を見出す。

 それは幾つもの針の穴を通すような細い細い道である。

 しかし、私は迷わず勝利の為に足を踏み込んだ。

 

「…………ぉぉ……っ」

 

 右手に光剣を握り締めたまま、日和に向けて大きく踏み込んだ左足。

 

「……ぉぉぉぉおおっ!」

 

 胸を大きく開いて、右手は限界まで後方に伸ばす。

 地面を踏み締めた左足をそのままに、背後に残した右足を大きく蹴り出しながら全身の重心を前へ前へと押し出した。

 重心移動に合わせて、光剣を握る右手を顔の直ぐ横まで持ち上げる。

 もう間もなく、光弾が自分の身体を蜂の巣にするのを承知の上で全力前のめりだ。

 溜めに溜めて限界まで溜め込んだ右腕を解き放つ。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 光弾が全身を掠める、だけど私は止まらなかった。止まるつもりもない。

 地面を踏み締めた足から膝、膝から股関節、腰へと連動させて、更に胸骨から肩、肩から肘、肘から手。指先に至るまでの力を伝達し、全身の骨の接合部を通る度に力を加算させる。全力全開、全身全霊。一投入魂、柄にもない咆哮と共に魂を込めて投げた光剣は、風を切り裂いた。弾幕の壁を蹴散らして、勢い衰えず突破する。

 後はもう妨げるものは何もない、日和を貫くだけだ。

 

「……鬱陶しいッ!」

 

 しかし日和は寸での所で狙撃銃の銃身で光剣を弾き飛ばした。

 全身が光弾で貫かれる。死亡判定が確定し、全身が分解される最中、私は日和を睨み付けた。

 まだだ、まだ、私には二本目の光剣が残されている。

 

「CODE:テレキネシス!」

 

 私がCODEを起動した瞬間、全身を光弾が貫いた。

 後一歩が間に合わなかった。それでも身体の半分以上が消し飛ばされて尚、伸ばした右手から念波を送る。

 小春日和、貴女だけは道連れにしてやる。

 

 

 至近距離で狙撃銃の弾丸を脇腹に受けてしまった。

 シールドが一気に削られる。舌打ちを零し、軍用ヘルメットを被る少女を狙撃銃で狙った。

 照準器の中心を綴璃の頭に合わせた時、照準器から外した左目が弾幕の壁を蹴散らして突破する光剣を捉えた。

 いい加減に鬱陶しい。と狙撃銃の銃身で打ち払って再度、綴璃に狙いを定める。

 

 その時、背後から真正面に回り込んだ光剣が斜め下から斬り上げて来た。

 私は身を仰け反らせながら回避。何度、邪魔をすれば気が済むんだと苛立ちが募りつつも今度こそと狙撃銃を構える。

 虫の知らせが鳴り止まなかった。

 横目に見たメリーは身体の半分以上を0と1に分解されており、もう数秒の内に消える命だ。

 綴璃は漸く、狙撃銃の装填を終えた。

 大丈夫、まだ私の方が速い。絶対に外しはしないと身体を固定して狙撃銃を構える。

 虫の知らせが鳴り止まない。

 まだ見落としがある? 何処だ、何処に不安要素がある?

 照準器から外した左目で周囲を探る。

 直感の原因を特定する前に照準が合ったので、引き金に添えた人差し指に力を込めた。

 

「……えっ?」

 

 発射する寸前、ガクンと身体が傾いた。

 放たれた銃弾は綴璃の軍用ヘルメットを掠めて弾き飛ばす。

 右足に違和感、地面に足が付いていなかった。

 視線を落とす。

 足元に、くるくると横に回転する光剣が0と1に分解される姿を見た。

 

「やられたッ!」

 

 体勢が崩れる中、全神経を綴璃に向ける。

 小動物のように震えていたはずの彼女は今、この瞬間に限り、微動だにしていなかった。

 歯を食い縛る、敗北を覚悟する。

 覚悟しておきながらも本能が身体を動かした。

 なりふり構わず全力で体を捩った。

 胴体を庇って右腕を着弾、シールドの限界値を超えて右腕が千切れ飛んだ。

 猶予は残り数十秒、私は、私は────ッ!

 

 装填用のレバーを押し込んだ綴璃が、地面に倒れつつある私に銃口を向けたのを見た。

 

 

 最後の最後に残ったのは小春日和と久遠綴璃、誰も予想出来なかった最終決戦。

 瞬き一つ許されない激戦の果て、日和の右腕が千切れ飛んだ時、視聴者の半数が決着が付いたと確信した。

 それもそのはずだ。日和の利き腕は右腕なのだ。

 狙撃銃は重量が重いので片手で扱うには難しく、相手を狙う事も儘ならない。

 

 そしてRENを知る人間は、彼女が持っている側の人間である事を理解している。

 八目鰻を含める大半の人間がチーム月の勝利を確信した。

 絶体絶命、小春日和の勝利は絶望的だ。

 しかし、それでもだ。

 Vs界隈の人間は祈る想いで対戦画面を睨み付けていた。

 

 彼女を追いかけて来た者であれば、皆知っている事実がある。

 小春日和は、誰もが敗北を確信した瞬間が最も強い。彼女には幾度と絶望を覆して来た実績がある。全国オンライン大会の時、三回戦以降のゲーミングチームが小春日和の対策として取った手段は、速攻で日和の息の根を止める事だ。彼女は最後の一人になった時、急に動きが良くなる事をゲーミングチームは見抜いていた。彼女の強さにはムラがある、その最大値は国内のトッププロに匹敵する程にまで跳ね上がる。

 万に一つの勝機も見い出せない絶体絶命の窮地を彼女は幾度と覆した。そもそもだ、予選大会を勝ち抜くことが奇跡なのだ。予選の決勝戦でプロのゲーミングチームを降したのも奇跡。全国大会の優勝候補に当たった一回戦、勝利したのも奇跡。二回戦を突破したのも奇跡。此処一番の爆発力はプロゲーマーでも止めることは簡単ではない。幾度と奇跡を掴んで来たのは、如何なる状況でも勝利を求めて前を見つめ続ける積極思考、ポジティブシンキング。どんな状況でも前に進み続ける意志が勝利を呼び寄せる。

 故に小春日和は、此処からが強いのだ。

 

 小春日和は半ば無意識で狙撃銃を左手に持ち替えて、綴璃に銃口を向ける。

 しかし間に合わない事を直感した。久遠綴璃の方が一手早かった。

 強引に撃つ事も出来る。

 だが、それでは相手に当てる事が出来ないと感覚で分かった。

 牽制程度には、なるかも知れない。

 

 ……本当に、それで揺らぐ相手か?

 

 ゼロコンマ1秒にも満たない時間、日和は思考を続ける。

 今、撃つべきか。まだ撃たないでいるべきか。

 直感が光の速さで飛び交う頭脳で、一瞬にも満たない時間を逡巡する。

 日和は基本、自分から攻め込むスタイルではなかった。

 直感に頼る部分が多い為、引き寄せてからの反撃に慣れている。

 彼女は待つ事を恐れていなかった。

 

「………………」

 

 故に彼女は待った。

 残り猶予が数十秒という事実を前に、なお待った。

 先手を譲られた綴璃の銃口から発砲音が鳴り響く。

 硝煙と共に放たれた銃弾、螺旋を画いて小春日和の頬を抉る。

 日和は信じた。綴璃が眉間を狙って、それを外さない事に全てを賭けた。

 故に日和は綴璃が発砲する瞬間だけを見切った。

 銃弾を首だけを捩って躱し切った。

 銃口の角度といった直感に頼る要素もあったけど、それだけではない。

 綴璃が此処一番でやる女だと信じたのだ。

 日和と綴璃は同じ事務所の所属である為、対戦前から面識がある。

 その時は怖がりな小動物の印象しかなかった。

 だけど日和は彼女の精神的な成長を信じてヤマを張った。

 そして賭けに勝った。

 

「流石にルーキー相手にゃ負けられないよ」

 

 乾いた発砲音。少し遅らせて放った銃弾は、綴璃の眉間を的確に撃ち抜いた。

 

『試合、終ッッッッッッッッ了ォォォォオオオオオ!!』

 

 祭田喝采の溜めに溜めた決着宣言、視聴者が一斉に息を吐き出す。

 

no name:最後までマジわかんなかった!

no name:なに、この名勝負

no name:GG

no name:えっ?本当に無料で見せて貰っても良いんですか!?

no name:息が詰まる

no name:綴璃ちゃん惜しかったな!

 

 急に溢れ出すコメント欄の書き込みは最早、目視で追いかけるのが不可能な勢いだ。

 遊園地に最後の一人になった日和は、地面に座り込んだ状態で安堵の息を零す。

 勝利の喜びよりも安心感の方が強かった。

 プロ同士の試合でも珍しい意地と意地とぶつけ合いに日和は勝ったのだ。

 日和は小さく左拳を握り締める。

 

『RENも強かった、うたた寝メリーも強かった! だけどやっぱり小春日和は強かったッ!!』

 

 感情のママに叫んだ喝采の言葉にコメント欄は更に盛り上がる。

 日和のカリスマ性は本物だ。彼女自身としては正直な所、Vsに向いているとは言い難い部分がある。

 だけどゲームプレイヤーとしての彼女は本物だ。

 彼女の魅力は他のVsと比較しても群を抜いており、ゲーム一本で今の地位を築き上げた。

 Vs界隈で唯一無二の輝きを魅せる一等星だ。

 

 そして今回の企画、高いスター性を持つRENと強者の存在感を放つメリーとの相乗効果は計り知れず、その熱は視聴者をも呑み込んで誰も注目していなかった伏兵までも動かした。

 

 興奮は冷めず、視聴者から連戦を希望する声が上がる。

 実際、今回の企画は一戦だけに終わらず、何戦かする予定が組まれていた。

 次こそは小春日和とRENの戦いを切望する。

 しかし二人の対戦は叶わなかった。

 立役者の一人であるRENは早々に退席してしまっていたのだ。

 

 この一戦は、後に伝説の始まりとして語り継がれる。

 

 

 半月後、VR空間にあるチャットルームにteam.風花雪月が集まっていた。

 今日は少女趣味の部屋ではなくて、日和が使っているモダンな雰囲気の洒落た内装の部屋だ。

 部屋の中心に置かれた机には、日和の他に紅葉と小雪が腰を下ろしている。

 そして小春日和の妹を名乗る不審者は、姉のベッドに飛び込んで枕に顔を埋めていた。

 

 今日、四人が集まった事には理由がある。

 CODE:Fの公式が本日、完全版の内容を告知する事になっていた為だ。

 事前に得た情報によると次回作に向けた実験的な機能の追加もされる最後の大型アップデートとの話だ。期待が半分、恐怖が半分、これまで通用していた戦法とか、自分の愛用する武器の調整などを考えると夜も眠れなかった。そして今回が最後の大型アップデート。三年間、遊び尽くした三人にとっては少し寂しさも感じている。

 気心の知れた四人は、特に語らず、各自で時間を潰している。

 

「そういえば最近、RENの情報が全然入らないよね」

 

 VR空間で紙媒体の漫画を読んでいた日和は不意に口を開いた。

 

「対抗戦以降、レートの変動もないようね」

 

 枕から顔を離した茉莉が答える。

 

「あんだけ上げられていた対戦動画も最近は全然、上げられてないし~」

 

 日和は大きく溜息を零し、隣に座る紅葉を横目に見る。紅葉はVR空間で携帯ゲーム機に興じていた。VR全盛期と呼ばれる今の時代でも、ドット絵や2Dアクションはレトロゲームというジャンルで細々と生き延びている。主にインディーズで開発されたゲームが大半で安く遊べるのが特徴だ。

 

「ねえ、RENに連絡送ってみてよ」

「個人的な交友はないんだよねえ」

「なんでプライベートの連絡先を教えて貰ってないかな~!?」

 

 ぶうぶうと不貞腐れる日和は、まるで誰かに恋焦がれる乙女のようだった。

 メリーも対抗戦以降、雑談以外の配信で顔を出していなかった。元々、彼女は音ゲーを中心に配信しているのだけど、それもないようだ。ちなみに彼女の雑談配信は、羊を数える程度の睡眠導入効果がある耐久配信を呼ばれている。配信時間が長引くに連れて、同時接続人数が減らないのに徐々に書き込む人の数が減っていくのが特徴だ。ちょっとしたホラーである。

 兎も角、対抗戦の立役者とも呼べる二人がCODE:Fで急に動きを見せなくなったのだ。せめて何処かで対戦でもしていれば、このもどかしい気持ちも折り合いを付けられるのだけど、と日和はまた溜息を零す。

 

「あ、ごめん。一度、退室するね」

 

 そんな彼女も露知らず、それまで端末を弄っていた葛葉小雪が急に席を立った。

 

「すぐ戻るから」

 

 日和が呼び止める間もなく、チャットルームから姿を消す。

 取り残された日和は再三に渡って溜息を零した。

 

「……ケーキ食べたい」

「シュークリームなら残ってるわよ」と茉莉が返す。

「後で貰いに行きますぅ~」

 

 遂に日和は机に突っ伏した。

 茉莉と紅葉は互いを見つめ合って、黙って首を横に振る。

 RENという好敵手を失った日和は、燃え尽き症候群に似た症状に陥っていた。

 

 

 日和のチャットルームを退室した小雪は、自分のチャットルームに入室する。

 ぬいぐるみが沢山用意された少女趣味な内装、しかし部屋の一角から部屋の雰囲気に似合わないロックな音楽が流れていた。

 小雪はジトッとした目で元凶を見る。部屋に設置したテレビの前で二人の少女が音ゲーのダンスバトルを繰り広げていた。一人は白のTシャツに短パンを着た長い金髪の少女、もう一人はネグリジェで凄まじい足捌きを見せる水色のふんわりとした髪の少女。そんな二人の事をホワホワな顔で見つめるベレー帽を被った元清楚な文学少女。最近、私のチャットルームに入り浸っている三人組である。

 曲が終わった時、「あーもう!」と金髪の少女が息を切らして座り込んだ。

 

「もう一回!」と金髪少女が汗だくで人差し指を立てる。

「うん、良いよ」と羊娘が涼しい顔で嬉しそうに応える。

 

 曲選びを始める二人に小雪はパンパンと手を叩いた。

 

「自分から呼び出しておいて、なんでもう一戦って流れになるのよ」

「あ、来てたんだ」

「来てるっての! てか、私の部屋を溜まり場にしないでよ!」

 

 小雪が怒声を張り上げた。

 ビクッと身を震わせた文学少女を見て、小雪はコホンと咳を立て怒りを収める。

 問題児コンビもゲームの電源を切り、私に向き直る。

 

「やっぱり私達のチームに入ってよ」

「小雪がリーダーをやってくれると安心」

 

 二人の雑な誘い文句に小雪は、はあっと大きく息を零す。

 

「私は他のチームに所属してるから貴女達のチームに参加できないって言ったよね?」

「言った」と問題児コンビが声を揃える。

「ならなんでさっさと他のメンバーを探さないのよアンポンターンッ!!」

 

 小雪は狐耳と尻尾の毛を逆立てて怒声を張り上げた。

 何がどうしてこうなったのか、話は対抗戦を終えた翌日まで遡る事になる。




▼チーム風
〇小春日和@CYB :P狙撃銃・E突撃銃・E短機関銃:CODE・オートトラッキング
×歌風ハルカ@CYB:P短機関銃・P短機関銃・?:CODE・アサルトラッシュ
×歌風カナタ@CYB:P重機関銃・P日本刀・P手榴弾:CODE・テレポーテーション

▼チーム花
×小春茉莉@CYB :P二挺拳銃・煙幕弾・?:CODE・リコチェット
×幽谷風子@GoP :P軽機関銃・P拳銃・?:CODE・プロテクト
×伽藍堂ソラ@Emo:P散弾銃・P金属バット・P手榴弾:CODE・アクセラレーション

▼チーム雪
×葛葉小雪@CYB   :テーザー銃・閃光弾・P弾道短刀:CODE・ダミードール
×うたた寝メリー@PCO:E光剣・E光剣・E光剣:CODE・テレキネシス
×サフラン@CYB   :P狙撃銃・?・?:CODE・?

▼チーム月
×呉紅葉@CYB :P銃剣付突撃銃・E小銃・P擲弾発射器:CODE・アクセラレーション
×久遠綴璃@CYB:P狙撃銃・P散弾銃・P拳銃:CODE・?
×REN     :P片手剣・P短剣・P大鎌:CODE・バースト
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