メスガキゲーマーのわからせたい! 保管庫 作:にゃあたいぷ。
「あわ、あわわっ!」
白い死神モデルの狙撃銃を手に追いかけて来る黒服の敵を撃ち払った。
今回は商店街での戦闘になっており、遭遇した敵の追っ手を振り切って電脳世界から脱出する所までが目的になっている。仲間であるナビゲーターの指示に従って路地裏に飛び込んだ。待ち構えていた黒服を持ち替えた散弾銃で蹴散らし、今度は店の中へと侵入する。何処かで電話が鳴り響いている。固定電話は現実の世界に帰る為のアクセスポイントだ。再び商店街の通りに出た時、煙草屋の黒電話が鳴っているのを見つけた。丁度、商店街の入り口。商店街の中と外から大勢の黒服が殺到している。私は電話を取った煙草屋のお婆ちゃんから、受話器を奪い取り「綴璃です」と答える。
飛び掛かって来た黒服に腕を掴まれた所で電脳世界から姿を消す。
ここまでミッション内容。「間一髪だったね!」と安堵の息と共にナビゲーターの少女が元気よく話し掛けてくれた。
「ふう~~っ! 切りも良いですし、この辺りにしておきましょうか」
無事、ホーム画面に戻った私は今の状況をセーブしながら視聴者の皆に伝える。
no name:乙
no name:久しぶりにストーリー見ると忘れてるとこ多いな
no name:前にプレイしてた時とは見違えるな
no name:連射系の武器は苦手なんかね?
no name:またストーリーやってみようかな
no name:次のC:Fの配信は何時するの?
「次の配信日は、そうですね……本業もありますので、また詳しい日時が決まり次第SNSでお伝えします」
コメント欄を横目に私は「今日も皆様方、ありがとうございます」と手を振って別れを告げる。
アイマスク型のVRゲーム機の電源を落とす。見慣れた天井、社宅の一室。二人で暮らすには手狭だけど、一人で暮らす分には十分な間取り。部屋の壁一面を大きな本棚に埋め尽くした内装。最初から備え付けてあったベッドから身体を起こす。机の上に置いていた丸眼鏡を掛けて、備え付けの洗面台に足を運んだ。ボサッとした髪の冴えない女が鏡に映っている。とりあえず私は洗面台で顔を洗ってから雑に髪を梳いた後、ゴム紐で髪を括る。私は自分自身を着飾ることに興味がない駄目人間なので楽に済ませられる事は楽に済ませたいと考える。
冷蔵庫からペットボトルに入った缶コーヒーを取り出し、口を付ける。
対戦日の翌日。私、天宮栞はCODE:Fのメインストーリーを最初からやり直している。
元々付き合いで始めたゲームで前にストーリーをプレイした時は途中で詰んでしまった。CODE:Fは早い段階で全ての武器を解放できるし、強いと呼ばれるCODEも序盤だけでもある程度揃える事が出来る。アクション系のゲームが得意じゃないのもあり、必要最低限の対戦環境を整えるだけでストーリーをクリアする事を諦めてしまったのだ。
今回、もう一度、挑戦する気になったのは対抗戦で私なりに頑張れた気がしたからだ。
少し前まで使っていた初心者向けの装備は一新し、白い死神モデルの狙撃銃に集弾率の高い散弾銃、一発の威力を追求した回転式拳銃を装備。CODEは色々とお試し中、CODE:アクセラレーションやCODE:ダブルスピードは忙し過ぎて私には扱い切れない。RENの使っていたCODE:バーストも、メリーの使っていたCODE:テレキネシスも技術的な意味で使うのが難しかった。
兎も角、時間がある時に少しずつストーリーを進められたらいいと思っている。
Vs久遠綴璃の売りは、CODE:Fにはないのだ。
何時もとは少し変わった配信を楽しんで貰えたらなって思ってる。
ベッドに腰を下ろす、奮発したマットに臀部が沈んだ。
スマートフォンを起動すると歌風姉妹が配信をしており、軽く覗いてみると初めてチーム戦でプラチナに入れたと二人で喜んでいた。バトルロワイヤル戦やチーム戦は基本、ランダムでメンバーが選出されるのだけど、予めパーティを組んだ状態でマッチメイクする事もできる。今回は二人パーティで潜っているので、余った二人分はランダムに選出される。そしてパーティを組んでいる時は、相手もパーティを組んでいるメンバーを優先的に選出するようになっている。
勿論、相手が全員野良になる事もあれば、四人パーティになっている時もある。
「チーム戦かあ……」
思い出すのは昨日の事、顔も知らない相手と組む勇気はないけども機会があればまたやっても良いかも知れない。と傲慢な事を考える。
そんな時だ、ブルブルとスマートフォンが反応した。メッセージが入ったようだ、差出人の名前は葛葉小雪。知っているけども見慣れない名前だった。team.風花雪月のメンバーは起ち上げの経歴が特殊な事もあり、あまり連絡を取り合った事がない。不思議に思いながらもメッセージを開いてみる。内容は「今すぐに来て欲しい」という文字列と共にアドレスが記載されていた。
アドレスを開いてみるとVRチャットのサイトに飛ばされる。
既に記入された部屋番号と暗号化されたパスワード。私はアイマスク型のVRゲーム機を装着し、指定された部屋に飛んだ。
「あ、思ったよりも早かったね」
何度か見た事がある少女趣味の部屋、ぬいぐるみがたくさん置いてある。
そんなことよりも驚いたのは、私を待っていたのは小雪だけではなかった事だ。
金色の髪に金色の瞳、兎耳を付けたRENがテレビの前でレトロゲームを遊んでいた。
その隣には他事務所のVsであるうたた寝メリーが座っている。
「私は取り次いだだけだからね、部屋は暫く好きに使ってくれても良いよ」
私を呼んだ狐娘の小雪は、それだけを告げて部屋を退室してしまった。
「あーもー! 棒人間のようなチープな見た目しやがって!」
「カンタンカンタン、コノゲームハ4ツノボタンシカツカワナイヨ」
「全て棒グラフだけで表現できると思いやがって! 咄嗟に出されても混乱するんだよ!」
「プークスクス。クソザコイモムシ、カエルですらない」
「音ゲーとか初見でクリア出来る方が可笑しいんだよ!」
……なんで二人が小雪の部屋で半世紀以上も昔のゲームをプレイしているのだろうか。
真っ黒な背景と白い線だけで全てを表現するレトロな音楽ゲームでタイトル画面とチュートリアルで聞ける主人公(?)の合成音声が癖になる。今時の人には……いや、今時じゃなくても、このゲームが分かる人とか居る訳ないじゃん。
いや、そうじゃなくて、なんで私が呼び出されたのか聞く必要がある。
「いっぱい来ると押すボタンが分からなくなる!」
「カイセツショニカイテアッタヨー♪(棒読み」
「解説書なかったじゃん!」
「ダウンロード」
「チュートリアルをやれば全部分かるって言ったのメリーじゃんか!」
「私は初見でパーフェクト、ウサギを超えたスーパーウサギ」
しかし二人は一向にゲームを止めてくれなかった。
むきゃー! とRENが手に持ったコントローラーをガチャガチャと操作し始める。
画面内のチープなキャラクターは悲鳴を上げて、どんどん姿を小さくする。
ゲームに熱中する二人を前にクソザコメンタルの私は声を掛ける事もできない。
待ちぼうけの立ちんぼで居続けるしかなかった。