メスガキゲーマーのわからせたい! 保管庫 作:にゃあたいぷ。
此処は空港。東西に延びたエントランスホールを前線にし、横に逸れた通路から相手の裏を取るマップ構成だ。
前線を仲間二人に任せて私、葛葉小雪が突撃銃を手に裏道の通路を直走る。
……今の私は狐娘の葛葉小雪ではなかった。
黄金色に輝く狐の尻尾と耳は、狸のそれへと成り代わり、プレイヤー名も変更されている。
今の私は、たぬ子。頭に乗せた一枚の葉っぱがチャームポイントの狸娘。
パーティ名「けもの大家族」のメンバーである。
『こちら、わん子! エントランスで二人確認どうぞーっ!』
ボイスチャットにパーティメンバーから情報が入る。
了解、と短く返事をして警戒心を高める。
エントランスホールに相手が二人居るって事は、通路側にも二人来るって事だ。
私の隣を走るのは、頭から蛇の着ぐるみパジャマを来た少女。
つちの子が気怠そうに走っている。
つちの子も私と同じサブ垢で、本垢での名前はうたた寝メリー。
何故、私がサブ垢を使って彼女と同じパーティメンバーになっているのか。
理由を語るには一行だが、事情を語るには少し長くなる。
通路の角から飛び出して来た敵を見つけた私達は、咄嗟に左右に分かれた。
CODE:アクセラレーション。速度に直接作用するCODEを起動し、自分を追従する突撃銃の弾幕を振り切りながら相手の横に回り込んだ。私に意識すれば、反対側の売店に飛び込んでいたつちの子が飛び出す。CODE:テレキネシスでカタログスタンドを操り、相手の視界を防ぐように叩き込んだ。相手の内一人が回し蹴りでカタログスタンドを破壊する。砕けたカタログスタンドの先には、つちの子の姿はない。スライディングで相手の懐に潜り込み、ブレイクダンスの身の熟しで相手の片足を斬り飛ばした。彼女の両手に握り締めていたのは、光剣ではなく日本刀だ。相手の相方は、手に持っていた突撃銃を仰向けになった状態のつちの子に向ける。
その私から意識を切った瞬間を狙って、私は彼に突撃銃を構える。引き金を引き絞った。
連続的に鳴り響く発砲音。弾幕に晒された二人は忽ちシールドを削られて、弾丸は胴体を突き破った。そして二人の身体は蜂の巣になる。
銃弾を撃ち尽くしたことで鳴り止む銃声。
二人組が0と1に分解される横で、つちの子がのんびりと身体を起こす。
「無駄に撃ち過ぎ」
「ぐぬぬ……」
呟く彼女に唸る私。兎も角、エントランスホールで戦闘する二人の為にも先を急ぐ必要がある。
そう考えた時、不意に私の視界に「YOU WIN!」の文字が表示された。
『あ、そっちも終わった感じ?』
ボイスチャットで話しかけて来たのは、にゃん子。
彼女の言葉で全てを察し、想定した以上に早い結末に私は大きく溜息を零す。
にゃん子ことRENの前では、作戦も何もあったもんじゃない。
◇
チーム戦を抜けた後のチャットルーム。
ぬいぐるみをたくさん配置した少女趣味の部屋に三人の招待客。黒猫娘のRENに柴犬娘の久遠綴璃、そして蛇に着包みを着たうたた寝メリー。三人は机に座っており、今日、何戦かしたチーム戦の感想を言い合っている。
何がどうしてこうなったのか、四人でチームを組む事になったのは浅い理由と複雑な事情がある。
理由は単純で、各自の基礎的な能力を底上げをする為だ。
話の発端はメリーとRENでチームを組んだ事から始まる。そしてメリーの幼馴染である私に話が飛び火して、狙撃手が欲しいという話から綴璃を紹介して欲しいという話に繋がった。なんでRENが綴璃を欲するのか、いまいち分かんないけど……兎も角、私の橋渡しで三人はチームを組むことになったのだ。
そして残り一人はどうするか? という話になった時、メリーが他チームに所属する私を推薦しやがったのだ。
勿論、チーム入りは断った。
今のチームに所属していなければ二つ返事で快諾する程度には惜しい話だ。
だけど、小春日和を追い掛けてサイバネに所属した私に日和達を裏切る選択肢はない。
だがメリーとRENの才能を埋もれされるには余りにも惜し過ぎる。
そこで私が提案したのが基礎能力向上の特訓だ。私は、純粋なプレイスキルだけだとチームの御荷物になっている事を自覚していた。プロ野球の守備で食えると呼ばれる選手が打撃でも必要最低限は打って走れるように、私もまた頭脳以外の面で最低限の戦力にはなると言い切れる程度には鍛え直す必要がある。初心者同然の綴璃は勿論、メリーはCODE:テレキネシスを用いた光剣三刀流以外の戦い方を知らないし、RENもチーム戦に関しては素人だ。
そんな感じで私達は、皆でサブ垢を作ってルーキーからやり直す事になった。
そして、パーティー名“けもの大家族”が誕生したのだ。
勿論、これだけだと課題を消化する前にランクが上がってしまいそうだったので縛りを設ける。
私は搦め手の禁止、具体的にいうと投擲武器とネタ武器の禁止だ。メリーは光剣三刀流を縛り、RENは近接武器の使用を禁止する。
そして綴璃には、狙撃銃に慣れて貰うのと全体の指揮を頼んでいる。
何故、指揮官が綴璃なのか。三人の中で最もまともだからだ。
私達は綴璃の指揮で動いており、指揮に駄目な点があれば、今みたいに反省会で振り返る。
「しかし、それにしても……」
私はジトッとした目でRENを睨み付ける。
自分が最も得意とする戦術を縛られたRENは、なんか普通に戦えている。先程の戦闘でも本来、攻め込む側が不利なのに普通に撃ち勝っていた。射撃が苦手かと思えば、なんか普通に上手かった。自称妹と入れ替えできないかな、と不意に過ぎった考えは直ぐに振り払った。不要論を出すのであれば、先ず最初に追い出すべきは自分なのだ。どれだけ頭が回るからといっても戦力で負けていれば、読み勝っても勝ち切れない。
自分で切り込むのが苦手な私はRENの突破力を盗む意図もあった。
「ん?」とRENが私を見返して首を傾げる。
「なんでもないわよ」と素っ気なく返す。
今日の対戦で、けもの大家族のランクはゴールドまで昇格した。
プラチナもすぐだろう、来月中にはダイヤモンドまで伸ばすつもりだ。
そして、その頃には、三人は新しいメンバーを入れて、私はお役御免になる。
チームの立ち上げとメリーと綴璃の育成、これだけすればお返しとしては十分の筈だ。
だけど、二人は────
「ねえ、いい加減にチーム入ってくれない?」
「小雪が居ると嬉しい」
「大会出る時は名前を変えれば良いじゃん。ねー?」
「ねー」
「私は他のチームで出るから出場停止になるっての」
──諦めてくれなかった。
どうすれば二人が諦めてくれるのか、もしかして新メンバーの募集まで私に面倒を見させるつもりなのか。
今日も私は頭を抱えるのであった。
所変わって、自分のCODE:Fの配信中での話。
シングル戦で勝利した時に視聴者から以下のコメントを頂いた。
no name:最近、害悪ちゃんの動き良くね?
no name:ダイヤモンドも見えて来たな
no name:次の全国大会、優勝も見えてきた?
no name:プロはマスターばかりだから流石に厳しいだろ
視聴者の言う通り、最近の勝率は右肩上がりになっている。
感覚でしか話が出来ないRENの言葉を解読するのは難しいけど、自分なりに分析して自分の動きに取り入れている。
それが功を奏したのかも知れない。
no name:こそ練でもした?
ふと見つけたコメントを見て、私はにんまりと意味深な笑みを浮かべる。
「え~? ん~……ひみつ~♪」
悩む素振りを見せた後、八重歯を見せて笑ってみせる。
しっかりとカメラアングルも意識した完璧なポージングで私も大満足だ。
光の入り方もパーフェクトである。
◆
カーテンの閉め切られた部屋の中、カタカタとキーボードを叩く音を響かせる。
ベッドの上に脱ぎ捨てられた高校生の制服。私は液晶画面に張り付いてREN関連の情報を集めていた。
RENの詳細は謎に包まれている。
ボイスチャットの声から彼女が女性である事は特定できた。
だけど、それ以上の情報が一切出てこなかった。
他のゲームから移籍したプレイヤーである可能性も考えたけど、そういった情報もない。
RENって名前がありふれているのもあってかSNSの検索にも引っかからず、ユーザー名から総当たりしても見つかる気配がなかった。私と同じ事をしている人間は数多く居るはずで、だけどやっぱり掲示板などでも彼女を特定できた様子がないのでSNSそのものを利用していない可能性が高い。もしくはSNSのユーザー名とCODE:Fのプレイヤー名で使い分けてるとか。そうなるともうお手上げだ。
team.風花雪月のチーム内対抗戦から二週間。
彼女はCODE:Fで対戦しておらず、レートの変動もなかった。
私はRENの熱烈なファンだ。
初めて彼女が頭角を出した小春日和の配信を眺めていた時、その刺激的な戦い方に惚れ込んだ。八目鰻との対戦でRENは私の夢となり、サイバネの対抗戦でRENの名前を見た時は絶頂してしまいそうな程だった。メリーに負けてしまった時は残念だったけど、それで幻滅する私ではない。彼女を見る度好きになり、彼女が対戦した動画を片っ端から見ては手が止まらなくなる。RENが巻き起こす旋風がどれだけ大きくなるのか楽しみで仕方なかった。
私は重度のCODE:Fプレイヤーで学校に居る時以外は、CODE:Fをプレイしている。
そんな私の将来を両親は憂いている様子だけど、成績は平均以上を取っている。補修と補講でプレイ時間を削るのが嫌で赤点を一度も取ってないので両親も表立って文句が言えないようだ。しかしRENの名前を見かけないようになって一週間も過ぎると気持ちが落ち込んで軽い鬱状態になった。久々にゲームをしない日があって、両親がとっても喜んだのが少し癪に障ったけど、翌日には陰鬱になりながらもゲームを再開していた。二週間も経つと今度は手が震えてきて、RENの情報を徹底的に洗い出すようになる。
だけど先述したように彼女の素性については性別以外の多くが謎に包まれている。
私に言える確かな事は、たった一つだけ。
RENはCODE:F界隈に舞い降りた綺羅星なんだ!
彼女の戦闘スタイルに心を打たれた。いずれ、必ずCODE:Fの歴史に名を残すと信じていた。
それだけの魅力が彼女にはあったのだ!
だけど、だけど対抗戦以後、彼女は姿を見せなくなった。
はあっと溜息を零し、ベッドで仰向けになる。
惰性でCODE:Fを起動し、シングル戦を選択した。
今は腕が落ちない程度にプレイしている。
そして対戦相手とマッチングした時、思わず目を見開いた。
PLAYER NAME:REN
突如現れた綺羅星の名前。
急に気分が高揚して、昂るままに対戦に挑んだ。
そして三分後だ。
「クソがッ! プレイヤーネームのダブりを許容してんじゃないっての!」
私はアイマスク型のゲーム機を足元の布団に向けて力任せに投げつけた。
対戦の時にIDも一緒に表示されるので直ぐに分かるといえば分かるのだけど、この時はテンションがハイになり過ぎていた。
はあっと溜息を零し、ベッドに寝転がる。
私の綺羅星は何処に行ったのだろうか。何もする気が起きなかった彼女は近くのコンビニまで行く事にした。
外はもう暗かった。感情のままに出て来たけど、スマホの画面を見ると夜の十時を回っている。
ちなみに待ち受け場面はRENの対戦動画をスクショで撮ったものだ。
ゆるりふらりとコンビニまで歩いている。
近場のコンビニは不良の溜まり場になっているのでひとつ遠いコンビニを選んだ。
ちょっと雑誌の立ち読みでもさせて貰おうか。
そんな事を考えながら雑誌コーナーに向かった時、買い物籠に大量のカップ麺を買い込んでいる少女が居た。
見た目から推測できる年齢は小学生の高学年か、良くて中学生の一年生程度。
深く被った帽子の上からパーカーを被り、マスクを付けている。
よたた、おっとっと。とふらつく少女に呆れた彼女は声を掛けた。
「子供が来る時間じゃないよ~?」
「……チッ」
「おいこら待て」
舌打ちするいけ好かない餓鬼に、にっこりと笑顔を返す。
よし決めた、絶対に面倒を見てやる。
少女から買い物籠を奪い取り、そのままレジまで持っていた。
「お金はあるの?」
「……ん」
少女が差し出して来たのはスマホの決済できるアプリのバーコード画面だった。
正直、不可解な点が多い。少女の買い物籠に入っていたのが菓子類ではなくてカップ麺という異様さから黙ってスマホを受け取って決済した。
それとは別にエナドリを購入して会計を済ませた後、少女に問い掛ける。
「家は何処?」
「……危ない大人の女の人も居るって綴璃が言ってた」
「持って行ってあげようとしてんの!」
いちいち苛立たせるなあ、もう!
「こんな夜中に子供一人で帰らせるとか後味が悪い……」
「………………」
ひっそりと少女が買い物袋を奪い返そうとしてきた。
「だ~め、あーしは立派な大人として見過ごせません」
ひょいっと買い物袋を彼女の手が届かない位置まで持ち上げる。
ぶーっと少女が不満げに私を見上げる。
帽子の鍔から覗かせる少女の顔は、驚く程に白い肌をしていた。
そして宝石のように真っ赤な瞳を見た。
思わず言葉を失った私を見て、少女は、はっとした顔を浮かべて俯く。
「エナドリなんて買ってる人に立派な人なんていない」
「反論しづらい事を……!」
「それにおねーさんも子供じゃん、私と一緒で悪い子供」
「否定できない!」
わっちゃー、と片手で目元を覆い隠す。
だけど真夜中に子供一人で放置する事もできず、私はスマホで両親に帰りが遅くなると伝える。
気を付けて、とだけ返信された。
ゲーム以外だと品行方正に生きて来たので、割とあっさりと信じてくれたようだ。
ほら行くよ、と自分が言えば、少女は渋々と道を教えてくれた。
「おねーさん、元気ないの?」
道中、不意に問われた。
ちらりと見せる赤い瞳、まるで御伽噺に出て来そうな少女から目を逸らす。
照れもあったけど、図星を突かれた事の方が大きい。
最初、誤魔化そうか悩んだ。
だけど悩んでる時点でバレたようなものなのだ。
「うん、まあ、そんなとこ」
だから苦笑して、素直に認めた。
「ふ~ん、そう」
「……もうちょっと何かないかな~?」
「別に、そうかなって思っただけだし」
糞生意気な子供だな~、と私は苛立ちを抑えながら大きく深呼吸をする。
こんな年下相手にムキになってはいけない。
此処は年上の余裕ってものを見せつけてやるのだ。
「あーしの名前はね。結奈、
「……なんで急に名前を?」
「名前を知らなきゃ呼びづらいじゃん!」
「ほんとにそれだけ?」
「ほら! あーしの生徒手帳! 本っ当に疑り深い子供だなあっ!」
ふんっと私が生徒手帳を差し出せば、少女は少し見上げる形でじっと見つめる。
赤い瞳が見えた、星光の下でもキラキラと綺麗だ。
もっとオシャレをすればいいのに。
自分が少し危ない思考に入りつつあることを自覚して、私は勢いよく首を横に振る。
「……私はREN」
「えっ?」唐突に出された名前に一瞬、頭が真っ白になった。
「
自分の名前を名乗る少女の目元は、少し微笑んでるようにも見えた。
◇
程なくして、目的地に辿り着く。
小さな一戸建てだった。表札には頬月とある、見た感じ立派な家だ。
しかし、窓に明かりはなかった。
周りの家と比べて、不思議な程に静かだった。
まるで人が住んでいないかのように生活感を感じられなかった。
「ここまでで良い」
結菜がボケッとしていると錬が買い物袋を奪い取った。
ゆらりふらりと玄関扉まで歩み寄り、チェーン付きの鍵を取り出す。
一人で扉を開けた後、中はやっぱり真っ暗だった。
人の気配がない。
だけど、玄関には大量のごみ袋が積まれている。
両親を見たら、ちょっとした小言のひとつでも言ってやろうと思っていた。
しかし、でも、これは、流石に……
「ありがと」
錬は目を細めた、バタンと扉が閉まる。
玄関前で一人取り残された私は呆然と立ち尽くし、暫く言葉を発する事が出来なかった。
唯一、私がポツリと零す事ができた一言は、
「まじやばじゃね?」
これだけだった。