メスガキゲーマーのわからせたい! 保管庫   作:にゃあたいぷ。

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旧15:悪いお姉さんと悪い子供

 サイバネプロダクションが買い取った寮には、食堂と呼ばれる皆で集まれる場所が用意されている。

 外食と比較すると破格の値段で提供されており、前日までに申請すれば、当日の食事代を支払う必要もなかった。

 その食堂に歌風ハルカと双子の弟で妹でもある歌風カナタと隣同士で腰を下ろしている。

 ハルカはジャンパーに短パン、カナタはパーカーにスカート。

 二人は今日、食事を摂りに来た訳ではなく、とある配信を一緒に見ようって話になって集まった。

 

「楽しみだね、最後の大型アップデート」

「うんうん、ちょっと寂しくもあるけどね」

 

 iPadをお互いの真ん中にCODE:Fの公式チャンネルから生配信に飛んだ。

 配信画面には、ディレクターを始めとした数名の製作陣が映り、背後の壁に掛けられた大きなモニターと共に説明が流れる。

 目玉となるのは新しい種類の武器とそれに伴うシステムの更新、そして既存武器の調整だ。

 

 システム面の変更を上げると武器にtier値が割り振られるようになった。

 装備できる武器枠は、tier値の合計が6以内で収まるように組まなくてはならないようになる。しかし既存武器のほとんどのtier値は2に設定されているので従来の運用も可能だという話だ。逆にtier値が1に減らされている武器もあり、拳銃や短刀、金属バットといった武器が当て嵌まる。

 そして発表にある限りでは最大値は3に設定されるようだ。

 

 ではtier値が3に設定された武器は何か。

 それが新武装であり、武器をインベントリに仕舞う事が出来ないデメリットと引き換えに強力な武器を装備する事が出来る。例えば、ミサイルランチャーやロケットランチャーを始めとした制圧兵器。五基のチェンソーを並べた両手武器、巨大なハンマーにブースターを付けた打撃武器。両手で抱える事も不可能なサイズの巨大なエネルギーキャノン砲。夢と浪漫が目白押しな中、実用性を重視した新武装も中にはある。

 そして今回、新たにtier値が設定されたので救済された武器がある。

 

 その代表的な武器は、二挺拳銃だ。

 

 公式による大型アップデートの内容を発表が行われた二週間後。

 私、小春茉莉は最新バージョンをインストールした後、意気揚々とシングル戦に潜り込んでいた。

 結果は連戦連勝。今も彼女は遊園地の中央広場で高笑いを上げている。

 今まで工夫をしなければ、勝てなかった撃ち合いに勝てるようになって彼女は上機嫌だった。

 

 アプデ前まで、二挺拳銃は同時に二挺も使えるという特性上、普通の拳銃よりも性能が低く設定されていた。

 しかし拳銃のtier値が他の武器よりも低く設定された事で二挺拳銃は本来の性能を取り戻したのだ! そして二挺拳銃の性能は片手で使用する都合上、使い勝手を重視されている!!

 他のプレイヤーが新しい仕様を試している事も重なり、彼女は順調にレートを上げていった。

 

 そして、もう一人、大型アップデートに心を躍らせる者が居る。

 トレーニングルームの中で、金髪金瞳の少女がにんまりと深い笑みを浮かべてみせた。

 彼女、RENの左腕には特性の武骨な義手が取り付けられている。

 

 まるでクレーンアームを模した腕、RENは標的物のドラム缶に向けて武骨な左手を翳す。

 武骨な左手は武器を持つ事に適していなかった。だけど、コンクリートを砕き、鉄板を千切れる程に強力で頑丈だ。大雑把に標準を定めた後、放て、と頭の中で念じる。すると肘から先の左腕がバシュッと放たれて、機械的な武骨な手でドラム缶を掴んだ。左腕からはチェーンが伸びており、飛ばした左腕と繋がっている。戻れ、と念じる。すると左腕に内蔵されたモーターが起動し、ドラム缶と共に勢いよく引き寄せる。

 内蔵モーターの駆動音、チェーンの巻き取る音。勢いよく近付いて来るドラム缶を前に右手に片手剣を呼び出す。

 そして、タイミングを合わせて片手剣の切っ先をドラム缶の腹に突き刺した。

 

「ん~、可能性の塊だね」

 

 RENは左手でドラム缶を満足げに頷くと新武装に合わせたトレーニングコースの作成を始める。

 

 

 あの赤い瞳と出会った翌朝。

 私は何時もと違って遠回りの道で通学していた。

 あの赤い瞳の少女が暮らしている家に赴き、その前を通ってみたけども、やはり家の中からは人の気配がしなかった。

 カーテンの閉め切られた窓、両親は居るのだろうか。

 居たとして、あの玄関の様子から、とてもまともな親だとは思えない。本当に大丈夫なのか、チャイムを押そうとして、今一歩を踏み出す勇気が持てなかった。

 もやっとした気持ちを抱えたまま、私は学校に遅刻しないように足早に立ち去った。

 授業を終えた帰路、やはり彼女の両親の帰った様子はない。

 そして数週間が過ぎた。

 

 

 新しく作ったトレーニングコースを試走した後、時間を確認するともう夜中になっていた。

 私は電源を切り、現実世界に引き戻された意識でゲーム機を取り外す。外はもう暗い、電気を点けて夕御飯の準備をする為に部屋を出る。玄関に溜まったゴミ袋の山を見て、私は僅かに顔を顰めて台所に向かった。部屋の片隅にまとめたゴミ袋の山、もう何年もまともな使われ方をしていない洗面台には洗っていない食器類が詰め込まれている。

 電気ポットを手に取り、洗面用の蛇口から水を回収。机の脇に置かれたレジ袋を漁り、もう中身が空っぽになっている事に気付いた。

 

 私は大きく溜息を零す。

 外に出るのは面倒だ、だけど外に出なければ食事を得ることは出来ない。

 私は三日ほど着ていた衣服を脱ぎ捨て、洗濯機の中に放り込んだ。もうすぐ洗濯機も回さなきゃいけない。面倒だな、と思う。生きるのは面倒な事ばかりだ。乾燥機付きなのが救いである。洗濯した後、畳まず洗濯籠に入れっぱなしにしていた衣服とバスタオルを取り出し、数日ぶりにシャワーを浴びる。髪は泡立たず、二度、洗っても駄目で、三度、洗って漸くましになった。雑にリンスを付けて肌触りを良くし、少し痒くなっていた身体を洗い流す。

 泡を落として、浴室を出る。バスタオルで全身を拭き取り、ドライヤーで髪を乾かした。

 服を着る前に何度か臭いを嗅いでみる。

 たぶん、臭くない。大丈夫だ。しわくちゃのシャツを着て、その上からパーカーを羽織る。

 そしてスマホを片手に外へ出る。

 

 両親は離婚した、離婚の原因は父親の不倫だった。

 親権を勝ち取ったのは母親で多額の賠償金ってやつが支払われた。だけど母親も不倫をしており、あまり家には帰って来なかった。二日に一度、家を空ける日が続くと二日、三日と外で泊まる日が増えて、それが一週間となり、一ヶ月。今ではもうほとんど家に顔も見せていなかった。母親が良心的だったのは、父親から支払われる養育費に手を付けなかった事だ。スマホの決済は、養育費が振り込まれる口座と紐付けされている。週に一度、残高を確認しているけど、今日まで不自然に減っているって事はなかった。

 私は、母親に頼るのが嫌だった。酔っている時、再婚するのに私の存在が邪魔だって吐露した事がある。同時に父親に頼るのも嫌だった。何故なら彼は不倫相手と再婚しており、母親に多額の賠償金と養育費を支払う事を条件に親権を押し付けたからだ。私達が一緒に居る事は、誰にとっても都合が悪い。かといって孤児院に行くのも嫌だ。

 学校で屋上に閉じ込められたあの時の全身を焼かれる痛みを今も鮮明に覚えている。

 共同生活は絶対に嫌だ、あと一歩で殺されるところだった。

 

 私、頬月錬の居場所は現実世界にはなかった。

 忌々しい太陽の下を歩けない私は、此処ではない何処かに居場所を求めるようになった。

 たぶん、きっと、そんな事はないんだと思う。

 居場所がなければ自分で動いて探すなり、作れば良かった。

 だけどもう私は自分の将来に希望を抱いておらず、生きる事に必死になれなかった。

 どうしても生きたいとは思えなかった。

 

 太陽の下を歩けない。

 周りからは奇異の目で見られる。

 引きこもりで学校にも行けず、こんな性格なので社会復帰の芽もない。

 どう足掻いても人生が詰んでいる。

 私が気持ちよく空気が吸えるのはゲームの中だけだった。

 現実は嫌いだ、全てが私を否定する。

 同情されるのも嫌だった。

 私は自分自身の事を可哀想だって言われる自覚はあるけども、それだって食傷している。

 陰鬱な息を零し、コンビニの自動ドアを潜る。

 

「こんばんは、レンちゃん」

 

 雑誌コーナーで何時ぞや出会ったギャルが居た。

 普段、欠片も働かない直感が、嫌な予感を察したので私は回れ右をした。

 だけど、彼女は物怖じせず、私に話しかける。

 

「良いのかな? そのまま帰っちゃって」

 

 ……ゆっくりと振り返る。

 ギャルこと結奈の右手にはスマホが握られていた。

 よく見ると電話番号の入力画面。

 110と数字三文字が入力されている。

 

「何が目的ですか?」

「良い大人のあーしがまた貴女を手伝ってあげようっていうのだよ」

「……良い大人は、そんな脅し方をしないと思います」

「そうだねー。なら良い大人のあーしは、悪い子供を通報しちゃおうっかなー?」

「わかりました、わーかーりーまーしーたー!」

 

 私は両手を挙げて、降参の意を示す。

 

「そんで今日は何を買いに来たの?」

「……ごはん、のつもりだったけど今新しく欲しいものができました」

「なにかななにかなー?」

「防犯ブザー」

「良い大人のあーしには使わないでねー?」

 

 笑顔を引き攣らせたお姉さんを見て、くすりと笑みを零す。

 初手で私を脅したって事は、彼女は私の家庭事情に勘付いている。

 自分で来たって事は私に関する情報を集めに来たって事で確信に至る情報はまだ得ていないようだ。

 だけど他の誰かに相談している可能性もある。

 

「まだ他の誰にも話してないよ」

「………………」

「あーしとレンちゃんの秘密だね」

 

 満面の笑顔の裏に隠された強固な意志を感じ取る。

 下手な言い逃れは通じない事を悟り、大人しく彼女の助けを借りる事にした。

 早く家に帰り、飯食ってCODE:Fをプレイしたい。

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