メスガキゲーマーのわからせたい! 保管庫   作:にゃあたいぷ。

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5-1.八目鰻(仮)


 私、歌風ハルカは今日も今日とてランクマッチ戦に潜る。

 二挺の短機関銃を両手に老朽化した機材をパルクールの要領で飛び越え、潜り抜けて廃墟化した工場を駆け抜けた。対戦相手は他事務所のVsでバーチャル名は、電子妖精アイ。彼女の所属するVs事務所、Digi-LIFE(デジライフ)で開発された人工知能(AI)である彼女は、人間の感情を学ぶ為に配信を始めたという設定を持っている。設定に違わず、感情の起伏が少ない彼女の配信は不思議と人を惹き付ける力があるらしい。特に古参からは根強い人気を持っており、時折、見せる人間らしさに心を打たれるのだとかなんだとか。兎も角、彼女は二週間後に開催される対抗戦のチームに選出されている一人である。

 ランクはゴールド上位、対抗戦までにプラチナまで乗せる予定の私が彼女に負ける訳にはいかないのだ。

 水色の髪をしたアンドロイド的なアバターが突撃銃を手に工場内の通路を走る姿を確認して、私はCODE:アクセラレーションを起動する。両手を前に突き出しながら短機関銃で弾幕を張れば、相手は自分の身を守るように身体を屈めて障壁を張る。CODE:プロテクション。手を翳した先に一定時間、障壁を張る能力だ。障壁に弾かれるのも構わず、短機関銃の引き金を引き絞りながら距離を詰める。途中、自分と相手を阻むベルトコンベアを見て側宙で飛び越えた。CODE:プロテクションは打ち切りタイプのCODEだ、出した障壁は消すことが出来ても動かすことは出来なかった。相手の横を取った私は、逆さまになったまま短機関銃の引き金を絞り直す。

 弾幕は、相手の身体に命中してシールドを削る。

 

「動きがトロいんだよねえっ!」

 

 両手の短機関銃の弾を撃ち切った事を確認し、着地すると同時に短機関銃をストレージに仕舞った。

 代わりに呼び出したのは、威力重視の拳銃。CODE:アクセラレーションは起動したままだ。リソースが半分以下になっているのを視界の端に確認し、だけど構わず一気に距離を詰める。突撃銃の銃口が私に向けられた時、既に手が届く範囲だった。突撃銃の先端を上から左手で叩き付けて、自身から銃口を逸らす。鳴り響く銃声、コンクリートで舗装された床が撃ち抜かれる。相手が次を思考するよりも先に右手の拳銃を相手の眉間に押し付けた。

 驚愕に目を見開く相手が、行動を取る前に引き金を絞る。

 一発、二発。そして三発、拳銃は威力が少ないので急所でも何度か当てないとシールドを削り切る事が出来ない。だけど短機関銃でのダメージもあり、二発も当てれば十分で三発目で眉間に穴を空ける事が出来た。

 ゆっくりと仰向けに倒れる彼女の顔を見て、私は笑みを浮かべる。

 

「ちったぁ人間らしい顔になってるじゃん」

 

 銃口から漏れる硝煙を吹き払って、1と0に分解される彼女を見送った。

 対戦を終えた後、トレーニングルームに戻される。今回は配信していないので視界の端に映るコメント欄もない。ふうっと息を吐いて、RENに削られたポイントを眺める。一週間前までゴールド下位まで落ち込んでいたポイントは、プラチナまで後一歩の所まで取り戻していた。この調子であれば、対抗戦までにプラチナに手が届いているはずだ。

 ……事のついでにRENのポイントを確認する。

 同名のプレイヤー名は多いけど、IDを覚えているのですぐに見つけられる。RENは現在、プラチナ中位。対戦履歴を覗いてみるとダイヤモンド帯の相手に20戦も連戦した記録が残されていた。勝敗を数えてみると4勝16敗、ダイヤモンド一歩手前だった彼女のポイントは大きく削られてしまっている。彼女は意外と大敗する事が多い。負けず嫌いなのか、負ける事を恐れていないのか、二本先取で負け越した時、彼女は連戦を申し込んでいるようだ。

 というのも、彼女が二本先取で勝ち越した時に連戦した回数が極端に少なかった。

 

「実力はダイヤモンド相当、ランクに固執してる感じがしないんだよね」

 

 対戦履歴を確認していると新しく試合履歴が更新される。

 今、誰と戦っているのか気になって覗いてみると対戦相手のプレイヤー名に糞鰻の名前があった。

 八目鰻。プロのゲーミングチーム「SCARS」に所属する若きエースだ。

 

 

【ラスボス】CODE:Fバーチャルストリーマー総合スレ【小春日和】part132

 

332 名前:バーチャル774さん 20XX/YY/ZZ ID:???

【悲報】我らがラスボス、敗北する

 

333 名前:バーチャル774さん 20XX/YY/ZZ ID:???

日和、連コ拒否されてて草

 

334 名前:バーチャル774さん 20XX/YY/ZZ ID:???

言うて二戦してますし

 

335 名前:バーチャル774さん 20XX/YY/ZZ ID:???

日和はシングル戦では遊ぶからな

 

336 名前:バーチャル774さん 20XX/YY/ZZ ID:???

RENって奴、絶対にプロがサブ垢使ってるだろ

 

337 名前:バーチャル774さん 20XX/YY/ZZ ID:???

まあ数ある内の二戦負けただけで騒ぐ程じゃない

レジェンドだってダイヤモンドに負ける時は負ける

大会で負けなきゃ良いだけ

 

338 名前:バーチャル774さん 20XX/YY/ZZ ID:???

ダイヤモンド帯が相手でも近接縛りで戦えてるのって普通に凄いのでは?

 

339 名前:バーチャル774さん 20XX/YY/ZZ ID:???

日和はムラッ気が強いのが難点

 

340 名前:バーチャル774さん 20XX/YY/ZZ ID:???

大会だと百発百中の女

 

341 名前:バーチャル774さん 20XX/YY/ZZ ID:???

大会の日和はプロのゲーミングチームが専用の対策を取る程だしな

 

342 名前:バーチャル774さん 20XX/YY/ZZ ID:???

日和は格下相手だと意外と負けないぞ

同格以上の相手に惨敗する事が結構あるから印象悪いけど

 

342 名前:バーチャル774さん 20XX/YY/ZZ ID:???

企画もので負けた事がないからラスボスって呼ばれるようになったこと忘れてるだろ

 

343 名前:バーチャル774さん 20XX/YY/ZZ ID:???

まあ少なく見積もってもRENはダイヤモンド級を相手に二先で勝ち越せる実力がある事は証明されたな

 

 

 小春日和とRENの対戦配信を見たすぐ後の話だ。

 

 観戦配信をしていた俺は配信画面を切り、VRゲーム機の電源を落とす。

 意識は電脳世界から現実世界へと引き戻される。真っ暗な視界の中で上半身が静かに起こされる。椅子と一体型のVRゲーム機が自動で頭から着脱された俺の視線の先には複数のPCモニターが並べられている。小腹が空いた俺はVRゲーミングチェア*1から腰を上げて、部屋にある冷蔵庫を漁る。魚肉ソーセージを見つけたので何本かを手に取り、再びゲーミングチェアに腰を下ろす。

 マウスを操作して日課になっているSNSの巡回をする。

 

 小春日和のアカウントには、書き込みがほとんどない。

 というのも日和という人物は、人気商売のVsにはあるまじき筆不精である為だ。SNSでやる事は業務連絡と配信の予告、もしくはイベントの告知程度で時折、その予告と告知すらも忘れてしまっている事がある。株式会社サイバーネストが公式で運営するサイバネプロダクションの公式アカウントの方が彼女に関連する情報が手に入り易かった。

 対して歌風姉妹のアカウントは、精力的に書き込みが行われている。

 Vsとしての設定を忠実に守る妹に対して、設定をガン無視して好き勝手に書き込んでいる姉。リアルで起きた話もガンガン書き込んでしまうので一時期、事務所にSNSを凍結されてしまった事もある。今はサイバネに関連する情報だけを書き込んでおり、Vsの普段の顔を知る機会として重宝されていた。沈黙を恐れず、集中している時は淡々と相手を処理する日和が実は、相当な天然キャラである事が周知されたのはハルカの数少ない貢献である。

 サイバネファンの間でハルカのSNSアカウントは皆、フォローしている。

 

 日和は本来、事務所を一年でクビになる人柄だ。

 事実、去年のPUiJ*2までの彼女の登録者数は三桁しかなかった。一昔前ならいざ知らず、世界人口が百億を超えて御老人もネット社会に触れる御時世。企業の後ろ盾を持ったVsの登録者数が三桁なのは異例中の異例で逆に才能がある。

 しかし彼女にはCODE:Fがあった。eスポーツが社会に浸透した現代社会、名のある大会で上位を占める大半はプロゲーマーだ。シングル戦だと稀にアマチュアがプロを圧倒する事がある。しかし彼女が参加したのはチーム戦、最も過酷と呼ばれるレギュレーションで小春日和は、プロのゲーミングチームを降して予選を突破した。本戦まで辿り着いたアマチュアチームは二組。片方が惨敗する中、日和の率いるチームは二度もプロチーム相手に勝利する。

 それは歴史的な快挙だった。

 アマチュアチームが、まぐれでプロチームに勝てる事はある。

 しかし三度も続けばフロックではなかった。

 

 PUiJで伝説を残した彼女の登録者数は現在、七桁にまで跳ね上がっている。

 以降も数々の伝説を残してVs界隈のラスボスとまで呼ばれるようになった彼女をRENと呼ばれるプレイヤーが配信中に降した事実は、誰もが想像していた以上に大きな衝撃を皆に与える。日和の実力には、ムラがある。しかし彼女はPUiJ本戦でプロのゲーミングチームを相手に1対3の劣勢から試合を引っ繰り返す実績を持っている。

 だけど俺、八目鰻の目から見たRENは、特別なプレイヤーに見えなかった。

 RENの奇抜なプレイスタイルは見る者の目を惹く、だが、それだけだ。人間性能は並程度、突出したプレイスキルを持っている訳でもない。地道な努力で培われた技術を駆使する彼女の姿は、プロの世界で目が肥えた自分には魅力的には映らなかった。才能という点だけを鑑みれば、日和の方が余程、魅力的だ。

 しかし、それでも、心の惹かれるものがある。

 

「一度、手合わせを願いたいな」

 

 対戦してみなければ、分からない何かがあるかも知れない。

 日和を倒した彼女であれば、いずれダイヤモンド帯にも手が届くはずだ。

 それまで大人しく待っていれば良い。

 

 魚肉ソーセージを腹に収めた俺は再びネットの海に潜る。

 RENとの対戦は予想よりも遥かに早く実現した。

 小春日和とRENが対戦した一週間後、対戦配信をしていた時だ。

 まだプラチナ帯を漂うRENとマッチする。

*1
フルダイブ型VRゲーム機と一体型にした椅子で、快適にVRゲームをプレイする事が出来る。今回、彼が利用するVRゲーミングチェアはプロ仕様の最高品質。百万円相当、高額だがVRゲーム愛好家であれば、涎を垂らして欲しがる代物で常に品薄状態。彼の場合はプロゲーミングチームに所属した時に備品として送呈されている。

*2
「Plus Ultra in Japan」の略。世界最高峰のゲーム大会「Plus Ultra」の日本開催版、CODE:Fのシングル戦だと上位4名が「Plus Ultra World Cup」二次予選への優先参加権を得る。

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