メスガキゲーマーのわからせたい! 保管庫   作:にゃあたいぷ。

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10-1.駄犬さん

 平和公園と銘打たれた場所には似つかわしくない爆発音が幾度と響き渡る。

 もくもくと上がる黒煙の中をミリタリージャケットを着た長躯の女性が悠々と歩いている。チェストリグで強調される胸元にショートパンツ、その下に履いた黒色のタイツが長い脚を魅力的に引き締める。両手には擲弾発射器を構えており、引き金を何度も引いている。対戦相手を焙り出す目的で放たれた擲弾は花壇を爆音と共に破壊して土埃と一緒に花弁を舞い上げる。粉々に破壊したモニュメントの欠片を蹴飛ばして周囲を見渡し、切れてしまった弾を補充する為に粛々と装填作業に入った。

 流石に、看過出来なかった対戦相手が黒煙に紛れて遮蔽物の中から飛び出す。

 青年の手には突撃銃が握られている。CODE:Fにおいて突撃銃は最も多くのプレイヤーに愛用されている武器であり、攻守共にバランスが良い。対して軍服姿の女性は、装填を中断して小銃に持ち替える。SF的なディティール、発射準備の完了した銃口にはバチバチとした電流が迸る。実弾系の小銃と比較して一発の威力が高い代わりに銃本体のサイズを大きくしたエネルギー系に分類される小銃はプレイヤーの間だとエネルギーライフルの名で親しまれている。

 エネルギー系の武器は基本、尖った性能をしていたり、特殊な性質を持っている事が多い。

 

「逃さない」

 

 黒煙に身を隠しながら弾幕を撒き散らす相手に対して、ミリタリ娘は一歩も退かずエネルギーライフルを構える。

 突撃銃の一発がミリタリ娘のヘルメットを弾き飛ばした。ヘルメットの中に隠されていたポニーテイル、艶のある黒髪が空気に晒されてなおも女性は身動ぎ一つ起こさなかった。黒煙は相手の身体だけを隠している訳ではない。実際、相手の弾幕は適当にばら撒いているだけで集弾性はなかった。幾つかの銃弾を身体の節々に受けて、シールドの耐久値が削られても女性は冷静に目を細めて相手の位置を見定める。発砲音に紛れる僅かな足音を聞き分けて、エネルギーライフルの引き金を引いた。

 遮蔽物の位置は覚えている、移動の邪魔になる破片の位置も大まかに覚えている。

 光弾の閃光が煙を貫く。穴の向こう側に一瞬だけ見えた敵の姿、予想は的中。直撃はしなかったけど、まだ煙が残っている間に遮蔽物から遮蔽物へと移動して身を隠そうとしたのが見て取れる。エネルギーライフルをストレージに入れて代わりに呼び出したのは銃剣付き突撃銃。純粋な突撃銃よりも幾分か性能を落とした突撃銃を構えて、大きく地面に踏み込んだ。

 そしてミリタリ娘が魔法の言葉を口にする。

 

「CODE:アクセラレーション」

 

 それはCODE:Fで最も使用率の高いCODEだ。

 全身から雷のように迸る光。ギュンと加速して一気に距離を詰めるミリタリ娘の挙動に男は咄嗟に反応が出来なかった。そんな男の無防備な姿を見て、ミリタリ娘は相手に危機的状況を打破する為のCODEがない事を察する。そして相手の実力の底も見切った。実力者が相手であれば、追い詰められても、どうにか状況を立て直そうとしてくる。狼狽えるだけの彼には、PUiJの強敵達にはあった圧が感じられなかった。

 数手遅れて漸く彼は「CODE:テレキネシス!」と叫んだ。

 生物以外の物質に作用する能力、擲弾で破壊した遮蔽物の破片などが動き出すのを横目に見る。ミリタリ娘は、あえて破片を無視した。破片が自分と相手に届く前にCODE:アクセラレーションの速度を以て、突撃銃の先端に取り付けられた銃剣を相手の胸元に突き立てる。ガリガリと相手のシールドを削る感触、切っ先を相手の胸元に突き立てたまま引き金を絞る。ほぼ零距離から放たれるフルオート射撃、焚かれるマズルフラッシュと地面に散らばる無数の薬莢。耳を劈く連発的な発砲音。最初は銃弾を弾いていたシールドの耐久値も削り切り、相手の肉体を無数の弾丸が貫く。

 文字通り、蜂の巣の如く穴を空けた対戦相手の身体は0と1に分解される。

 

「……よしっと」

 

 YOU WIN.と文字が表示されたのを見てミリタリ娘は小さく息を零す。

 

no name:傭兵さん、おみごと!

no name:GG

no name:レイドボスの相方は伊達じゃない!

 

 ミリタリ娘は視界の端に流れるコメントを無表情で眺める。

 自分を褒めてくれる視聴者に向けて、何かした方が良いのかな。と悩んだ後に両手の指を二本ずつ立ててみる。

 ぶい、と傭兵さんと呼ばれた女性は渾身のファンサービスを披露してのけた。

 

no name:うーん、表情筋が貧弱

no name:傭兵さんはクールなだけだから…

no name:無表情で口下手

 

 ちゃんと笑顔も浮かべたつもりだったのだが、彼女のアバターには反映されなかった。

 彼女は今日も機器の調子が悪いようだ。と顔を顰める。

 

no name:ゲーム機のせいにしないで

no name:レイドボスとゲーム機を交換した時のことを忘れたの?

no name:傭兵さんが笑顔を取り戻す日は何時になるのか

 

 両手の人差し指で口の端を持ち上げてみても視聴者の反応は芳しくない。

 そんな事をやってるとタイムリミットで戦場から強制退場、トレーニングルームに戻される。彼女はCODE:Fを無言で切断した後、自室のチャットルームに移動する。CODE:Fをプレイしていた時の衣装から紅葉の衣装を凝らした和服装束に切り替わる。大和撫子をモチーフにした和服美人が呉紅葉としての本来の姿。しかし彼女が今回入ったチャットルームは、無数の銃器が壁に掛けられたミリタリー仕様。彼女は、チャットルームを二部屋持っており、今回の部屋はVsになる以前から使っているものになる。

 急な対戦配信の中断にコメント欄が騒めき立つ中、紅葉はマイペースに前に手を翳して全身が映る鏡を呼び出す。

 

no name:急にどうしたの?

no name:あーまた始まっちゃったよ

no name:もっと説明して?

 

 紅葉は眉間に皺を寄せながら手で顔をもみもみと弄り始めてしまった。

 彼女はサイバネ所属のVsで名は呉紅葉。小春日和とは幼馴染の関係にあり、彼女がVsになる以前からパーティーを組んでランクマッチ戦に潜り続ける仲になる。まだ紅葉がVsになる以前の話、去年のPUiJでも日和と同じチームとして参加し、三回戦まで進出を果たした。スコアを稼いでいたのは日和だが、彼女の活躍なくして今の日和はない。彼女が不利な状況に陥らないように立ち回っていたのが今の呉紅葉である。ちなみに彼女が傭兵さんと呼ばれるのは、彼女がまだVsではなかった頃の呼び名の名残である。当時は声も出していなかったので分かるのはtokumei_03というアカウント名だけだった。それで小春日和が外部から助っ人を呼んだという意味合いを込めて、視聴者が傭兵さんと呼び始めるようになったのだ。

 紅葉は鏡を前に小さく溜息を零し、視聴者のカメラに合わせてジト目を向ける。

 

no name:ジト目かわいい

no name:ありがとうございます

no name:ごちそうさまです

 

 笑顔には反応しないのに、こういうのだけはしっかりとアバターに反映される。

 再び鏡を見てみると表情筋の死んだ黒髪の女性が自分を睨み返していた。いまいち釈然としない想いを胸に抱きつつも紅葉は鏡を消して、銃器を整備する用の机に腰を下ろす。tokumei_03というのは小春日和がVsになった後に作ったサブ垢である。しかし気付いた時にはサブ垢の方がランクが上になり、サブ垢の方がメイン垢になってしまっていた。ちなみに彼女のランクはプラチナ上位、定期的にダイヤモンド帯にも上がるのだけどプロゲーマーを相手に大きく負け越してプラチナに叩き落されるってのを繰り返している。

 ふと紅葉が現時刻を確認する。

 少し時間は余ってる。だけど何かを始めるには物足りない。

 そんな中途半端な時間帯になっている。

 

「もう少ししたらチームで練習しないと、だから配信を一回、打ち切ろうと思います」

 

no name:乙

no name:もうそんな時間か

no name:今日も良い対戦配信だった

no name:また三十分後!

 

「はい。三十分後、お待ちしてる」

 

 視聴者の温かい言葉に紅葉は目を細めて手を振る。

 

no name:やっぱり無表情

no name:ちょっと目元が優しくなった気がする

no name:孤高のレイドボスが友達欲しさに作ったアンドロイド説すこ

 

 不躾なコメント欄に紅葉は頬を膨らませて不躾に配信画面を打ち切った。

 

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