メスガキゲーマーのわからせたい! 保管庫   作:にゃあたいぷ。

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 VRゲーム機の電源を落とした事で意識が現実に引き戻される。

 アイマスク型のゲーム機を外して、ふうっと息を零す。紅葉は見慣れた天井を見て、自分が今ベッドの上に寝転がっている事を確認する。のっそりと上半身を起こして部屋の中を見渡す。家具の少ない質素な内装、乱雑に脱ぎ捨てられる衣服。五百円で三枚で買った使用済みパンツが落ちているのを見た彼女は眉間に皺を寄せる。

 早く掃除をしないといけないな。と考えはするけども億劫で手が出せなかった。

 何時かやらまなきゃいけない事を後回しにするのは自分の悪い癖、とりあえず喉が渇いてしまったので寮の外ある自販機まで足を運んだ。ペットボトルを購入した帰りに双子の片割れと遭遇する。弟の方かと思ったけど姉だった、姉だったので軽い会釈だけで済ませて寮の中に戻る。そして食堂で四人の女性が机で話し合っている姿を横目に眺めて、そのまま紅葉は自分の隣の部屋に住んでいる幼馴染の部屋に合鍵を使って潜り込んだ。

 紅葉は、話しかけるのが苦手だった。そして話しかけられた事もあまりなかった。

 人見知りの自覚はある。理由もなく誰かに話しかける事は気後れするし、会話自体も苦手だ。人数が多くなると話を処理するだけで精一杯で会話の輪の中に入れないまま何も喋れず解散ってのも何度も経験している。自分の空間に他の人が居ると、どうしても気後れする。不愛想なのは自覚があった。なので挨拶されるだけでも嬉しくなる。歌風弟は挨拶してくれるので好きだ。匿名で小春日和の相方を務めていた時は、寡黙な仕事人というキャラ付けもあって気楽にできた。クールで格好良いと呼ばれていた時が懐かしい。それでもVsになるまでの話で今は温かい目を向けられている気がする。

 紅葉は視聴者の自分を見る目が不服だった。

 兎も角、幼馴染の部屋に侵入した紅葉は綺麗に掃除のされた清潔感のある空間に心持ち口角を上げる。部屋の主は、アイマスク型VRゲーム機を付けた状態でベッドの横になっている。

 

「お腹、空いたかも」

 

 紅葉は呟くと部屋の物色を始める。

 洗面台の戸棚にカレーのカップ飯が置かれていたので、電子ポットに水を入れて湯を沸かす。湯が沸くまでの間は退屈だったから幼馴染のタブレットを手に取りベッドに腰を掛けて、パスワードを入力する。歌風弟の新曲を流していると電子ポットの湯がコポコポと音を立て始めたので一旦、タブレットを置いてカップ飯に湯を注ぎ入れる。麺じゃなくて飯である。

 更に待ち続けること三分、紅葉はスプーンで混ぜ混ぜしながら綺麗な歌声に耳を傾ける。

 

「なんか凄い良い匂いがするんですけど!?」

 

 配信中の日和が急に叫び出んだ、紅葉がビクッと身体を跳ねさせる。

 フルダイブ機能を使っている時はレム睡眠の状態を維持しているはずなのだけど──少し心配になった紅葉はタブレットで幼馴染の配信を開いた。勿論、カレーを頬張りながらである。

 日和はCODE:Fの対戦中でコメント欄は次々と文章が書き込まれていた。

 

no name:また傭兵さんが部屋に入り込んだのでは?

no name:配信中じゃなかったっけ?

no name:傭兵さんの配信は、十五分前に終わってるね

no name:リアルだと幼馴染なんだったか?

no name:妹ちゃんよりも付き合いの長い幼馴染……

no name:字面の闇が深い

 

 なんだか好き放題に言われている気がする。

 紅葉は少し考えて、スプーンを咥えてコメントを打ち込んだ。

 

tokumei_03:カップ飯のカレー、55点。

 

『私の非常食ゥぅーっ!?』

 

 今度は生配信中の日和が対戦中であるにも関わらず叫び出した。

 五月蠅かったので耳を抑える。

 対戦中なのに叫ぶと相手に位置がバレちゃうよ。

 

no name:また食べられてる

no name:隠してる場所を完全に把握されていて草生えるんですよ

no name:点数が微妙過ぎる

 

 別に美味しくない訳じゃないのだけど、米は焚いた方が絶対に美味しい。

 

『カップ麺の三倍の金額なんだけど!? ちょっと楽しみにしてたんですけどー!?』

 

no name:そんな事よりも今、部屋に居る方が恐怖なのでは?

no name:妹ちゃんが居るよりもマシだし……

no name:傭兵さんは番犬としても機能するからな

no name:前に妹ちゃんの気配を感じて強制切断した事件があったね……

no name:切断はレートが倍下がるんだっけ?

 

tokumei_03:ひーちゃん、ダイヤモンドからまた落ちた(T_T)

 

『え? どんまい? あ、ダメ! コメントが気になり過ぎて対戦に集中できない!!」

 

 集中します。と日和は告げてコメント欄に反応しなくなる。

 対戦相手はコメント欄を見る限りではプロゲーマーのようだったけど終始、日和の優勢で進んでいた。特に見るべきものもなかったので紅葉はカップ飯を平らげた。食べ終えると結構、お腹が膨れてしまった。お腹が膨れると眠くなる。眠くなってしまったので幼馴染のベッドを間借りさせて貰うことにする。タブレットにイヤホンを繋いで日和が偶に聞いている睡眠導入用ASMRを聞きながら目を閉じる。Digi-LIFE所属Vsである紺アルファの呼吸音、他人の寝息を聞いていると意外と眠りが深くなる。

 この後にまた予定があるけども此処なら大丈夫、幼馴染が起こしてくれるはずだ。

 意識は遠のき闇の中、くうくうと紅葉が眠っていると「かえでー!?」と日和が幼馴染の身体を揺する。

 

「起きて!? なんで部屋に着て熟睡してんの!?」

「ひーちゃん、おはよー?」

「もう配信が始まっているんだけどー!?」

 

 幼馴染に急かされた紅葉は頭が半分、寝た状態でアイマスク型ゲーム機を被せられた。

 日和の持っている旧型の予備である。

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