メスガキゲーマーのわからせたい! 保管庫   作:にゃあたいぷ。

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旧4.やらかしデイズ

 株式会社サイバーネスト、世間的にはサイバネプロダクションの名で知られている。

 サイバネはVR全盛期と呼ばれる時代に生まれたVs事務所の一つであり、今は二十余名のVsが所属する。ゲームの実況配信からアイドル業まで熟している。最近では、コラボグッズの販売も行っており、広告などに使われる事も増えていた。というのもCODE:FのVs界隈最大手がサイバネと言われており、その理由が小春日和の存在にある。彼女はCODE:Fでプロゲーマーにも匹敵する唯一のVsで、全国オンライン大会で活躍したのを皮切りにサイバネの名は全国区まで押し上げた。サイバネの収益の半分以上は、小春日和で持っていると言っても過言ではない。

 ただしサイバネはあくまでもVs事務所である。

 その性質はアイドル業に近く、ゲームの腕前で収益を得るゲーミングチームではなかった。

 

 小春日和が残した伝説のひとつに、彼女を倒す為に他の事務所が結託して挑んだ事がある。

 これはあまりにも日和が強過ぎてVs界隈の大会が成り立たなくなった時に行われた企画の話であり、日和を倒すには人数が残っている内に潰すしかないと皆が考えた成り行きの結果だった。最大八組のチームが参加できるバトルロワイヤル戦。他の7チームが日和のチームを目指して駆け出す中、当時はまだ匿名の傭兵さんだった紅葉と一緒に全てのチームを返り討ちにしてしまった経歴を持っている。

 以後、彼女はレイドボスと呼ばれるようになり、Vs界隈の大会で小春日和は禁じ手になった。

 

 この件に関して日和に非はなかったし、他の事務所も気を使って大会がある日の解説やゲスト枠に日和を招待する事でお茶を濁している。

 

 小春日和のゲームスキルはVs界隈に留めておけるものでなかった。

 というのもVsはゲームだけをする集団ではないのだ。ゲームは、あくまでも事業のひとつであって他にもやる事は多い。

 プロゲーマーと比較して、ひとつのゲームに費やす時間が圧倒的に違っている。

 ほとんどCODE:Fの腕前で人気を勝ち取っている日和がおかしいだけなのだ。

 

 だけど日和はCODE:Fに関しては積極的に他のVsと関わりを持つようにしている。

 自分と対戦した時は、それだけで動画の再生数が二倍以上に伸びる事を日和は知っていたので、他のVsが配信しているのを確認してから対戦に参加してみたり、事務所の垣根を超えたコラボで一緒のチームで戦ってみたり、逆に対戦して指導したりと積極的に活動している。そして彼女自身がプロゲーマーが相手でも引けを取らない腕を持っているので、それまでVs界隈に興味のなかったCODE:Fのユーザー層を引き込めたのがなによりも大きかった。

 CODE:FのVs界隈では、小春日和は伝説の存在で彼女のおかげで救われた者も多い。

 特にサイバネの関係者は彼女に頭が上がらなかった。

 

 他の事務所が日和に対して好意的なのも、彼女がVs界隈に齎した影響を知っているからだ。

 

 だけど日和は余りにも強過ぎた。

 彼女を受け止められるだけの器がサイバネには用意されておらず、かといってサイバネの名を全国区にした日和を蔑ろにする訳にもいかない。なのでサイバネは日和の為だけに新しい企画を打ち立てる。

 それが本気で全国オンライン大会の優勝を目指すVsゲーミングチームの結成である。

 今のチームは、この時に採用された面子になっている。彼女達は日夜、CODE:Fの対戦を繰り返しており、何故かプロゲーマーに投資している企業からスポンサー契約を結んだり、公式から広告の出演を依頼されるようにまでなっていた。Vsとしての仕事も熟しているのだが、同じ事務所に所属する他のVsと比べて明らかに数が少ない。それで日和関連のグッズの売り上げは群を抜いて一番だったので、彼女にはCODE:Fに集中して貰った方が良いと事務所の人間も考えていた。

 ちなみに傭兵さんこと呉紅葉や自称妹の小春茉莉。害獣さんの葛葉小雪もまたVs界隈の大会に自分から参加する事はない。

 

 普段は自他共に認めるCODE:FのVs界隈最強チーム、 風花雪月。

 今回の企画では、その四人が別個にチームを組んで対戦するという事で、サイバネ企画であるにも関わらず他の事務所のCODE:Fプレイヤーがこぞって実況配信を始めてしまう事態になる。単発の企画のつもりであったにも関わらず、小春日和を尊敬するVs達の手により情報は拡散される。この動きは各事務所も想定外であり、実況配信を始めたVs達にとっても「いくらVs界隈最強といってもプロゲーマーの方が強いんだし、対戦目的で集まる人は居ないよね。まあ私は実況配信するけど」と軽い気持ちで構えていた。そこに小春日和を知るプロゲーマーも面白半分で実況解説を始めちゃったので、配信前の段階で同時接続数が六桁の大台に乗る事態にまで発展してしまった。

 そこで初めてサイバネスタッフは小春日和の影響力を再認識した。

 

「きゅ……九万!? 十万……十一万……バ、バカな……まさか……ま、まだ上昇している……!」

 

 今回の企画の立案者でも彼女達のマネージャーは、某特戦隊の隊長みたいに冷や汗を流して狼狽えている。

 

 生配信が開始する三十分前。

 大会の生配信でも見た事がない数字に張本人の小春日和は青褪めていた。

 小雪は小動物のように震えており、普段は気丈な振る舞いを見せる茉莉もまた緊張している。

 ちょっとした企画のつもりだったのに。

 そんな中で「はえ~、凄いですねえ」とポカンとした口を開くのは紅葉である。

 普段と同じおっとりとした彼女を「此処まで来ると大物ね」と茉莉がジトッとした目で見つめる。

 

「ところで貴女、ちゃんと相手は見つけて来たんでしょうね?」

 

 茉莉の言葉に「ん~?」と紅葉は間延びした声を返す。

 

「ちゃんとメッセージを送ったら受け入れてくれたんよ」

「……知り合いなのよね?」

「強い子だから安心してくれても良いんよ」

「まあ最悪、リザーバーの用意してあるから良いんだけど」

 

 今回の企画、解説にプロゲーマーを招いている事もあって下手な失敗する事は出来ない。

 そのプロゲーマーもコラボ配信のノリで受けた事もあり、話が違うと今は控室で頭を抱えていた。

 サイバネのマネージャーは全力で頭を下げて、追加報酬を約束する。

 サイバネには、彼女達の試合を解説できる人間が居なかった。

 告知されていた事もあってプロゲーマーも今更、辞めるとは言えず、残り少ない時間で参加者の情報を全力で掻き集める。

 マネージャーは全力で土下座した。

 

 さておいて、茉莉は両手で何度も自分の頬を叩いて気合を入れて叫んだ。

 

「とりあえず良い試合をすれば良いのよ!」

 

 試合開始の時間が近付くに連れて、徐々に日和のテンションが大会特有のものに切り替わる。

 細く長い息を吐き出し、瞳にギラギラした光が宿る。そんな彼女の姿を見た茉莉は、背筋にゾクゾクとしたものを感じた。日和は本来、想定外の事態に弱いタイプだ。ホラーゲームの実況をさせれば、すぐにパニックを起こすので観ている側としては楽しめる。しかし、ある一定以上の負荷が掛かると急にスイッチが入る。ゾンビゲーで少し前まで叫んでいた女の子が急に黙り、粛々とヘッドショットを決めていくのだ。全国オンライン大会に参加していた時の彼女は、常にスイッチが入っていた状態だった。そんな姿に茉莉は惚れ込んだ。

 生配信まで残り二十分、四人が拳を突き合わせる。これは大会に臨む時、四人が何時も試合前にやっている事だ。

 

「それでは良い対戦をしましょう」と日和が強い目で告げる。

「今日の御姉様は引率役でしょう? なら私にも勝機があるわ」と茉莉が挑発的な笑った。

「私も負けません!」と小雪が口元をキュッと締める。

「次に会う時は、フィールドで敵同士だねえ」と紅葉がのんびりと答えた。

 

 最後にもう一度、日和が皆を見渡してから大きく息を吸い込んだ。

 

「サイバネプロダクション、team.風花雪月! ファイトーッ!!」

 

 オーッ! とチームリーダーの掛け声に三人が応えて、四人は各チームの控室に姿を消した。

 対戦はもう間もなくのところまで来ている。

 

 

no name:想像以上の盛況で草

no name:ミラーも含めて同時接続数6桁ってサイバネの企画では初なのでは?

no name:助っ人で余所のVsも参戦してるようだけどな

no name:レイドボスのチームは、どうなってるんだっけ?

no name:レイドボスはサイバネで固められてるよ

no name:実力的には他チームに劣る

no name:単体で最強クラスなんだよな~

no name:害獣さんとこは目立って強いのが居ないね

no name:傭兵さんの枠に、傭兵枠があって草生える

no name:孫請けさんかな?

no name:傭兵さんがママに!?

no name:ママさんがおばあちゃんに!?

no name:祖母さん!?

no name:ママさんも害獣さんのチームで参戦してるね

 

「……………………」

 

no name:お~い、喝采生きてる~?

no name:駄目だこりゃ、白目剥いてる

no name:ま~た負けたのか

no name:出走前に馬が立ち上がったからって泣くなよ

no name:来週の競馬予想も期待してるぞ、安心して切れるからな!

no name:素面の酒カスさん、久々に見た気がするな

no name:シーズンオフになるとビール片手に野球帽被った喝采が恋しくなる~!

no name:カァーッ! 酒カスの外した馬券で飲むビールはたまんねぇ~!

 

 事務所が用意したチャットルームの実況席に座る私、祭田喝采は予想以上の視聴者数に白目を剥いていた。

 競馬が大好きで毎週、馬券を購入しては酒を啜り毎週競馬を辞めるVsとして名が売れている。こんな売れ方、嬉しくもなんともないのだけど皆が投げてくれた端金で酒が飲めてんだ……うへへ、ちゃんと事務所の取り分も計算してワンカップ分の代金を投げてくれる視聴者の事、大好き。愛してる。あいらびゅゆぅ~。飛行機雲を関する競走馬の馬券を買った時、GⅠを三連続で外した後、見限った四戦目で優勝を掻っ攫った時は本気で頭を抱えた。私の配信では、私の予想を聞いた後に馬券が当たると御祝儀で私にワンカップ奢るみたいな風習がある。勿論、私が外した時限定で、四戦目の時は半年分のワンカップが買える金額になった。朝昼晩と飲んでたら二ヶ月で消えた。なんで負け続ける私に人気が出るのかマジで分かんない。ファンサービスで投げキッスをすると気持ち悪いって切り捨てる視聴者の気持ちが本気で分かんない。「気持ち悪いのは、お前達の方だよ」って深酒してしまった時に本音をポロリとした時、可愛いねって言われた。本当に気持ち悪いよ、だけど気持ち悪いって言われても好きって言ってくれるお前達の事が嫌いになれねぇんだ……ふへ! ふひひ! 私が競馬配信をする時、付き添いをしてくれる後輩のVsが配信中に「先輩って、酒が入ると急にヘラり出しますよね。面倒臭いです」と蔑む視線を向けられた後、何故か彼女とコラボをする時だけ極端に再生数が伸びるようになった。そして、その時の切り抜き動画が初めて、私の動画で百万再生を超えた時である。今は千万再生に届こうとしている。

 こんなでもサイバネプロの黎明期を支えた古参の一人ではありまして、今回もキャリア重視で実況に駆り出された。

 

「え~、えっと~、予想以上の……本当に想定外の盛況っぷりに恐縮なのですが~……」

 

 物凄い勢いで流れるコメント欄に加えて、対戦の開始時間が近付くに連れて加速度的に増える同時接続数。

 今日はプロゲーマーを解説に呼んでいるので、ちゃんとアルコールは抜いて来た。しかし酒を飲まずにはやってられなかった。身体がアルコールを求めて仕方ないのだけど、現実世界の私は今、監視付きで椅子に縛り付けられている。縛ったのは後輩ちゃんで「縛りプレイなう」とSNSで呟いていた。流石にリアルの写真は御法度なので、画像付きでの投稿ではない。だけど絶対あの子、今の私を写真に撮ってると思うんだ。

 私は本来、こんな真面目にやらなきゃいけない企画に駆り出される人間ではないのですよ!

 

no name:緊張していて草

no name:大丈夫? 競馬辞める?

no name:ちゃんとアルコール入れてきた?

no name:今回も負けちゃうのか~

no name:実況も辞めちゃう?

 

 配信を見守るマネージャーが今にも吐きそうな青褪めた顔をしているのが手に取るように分かる。

 今回、軽い企画の予定だったので経験を積ませる為に司会を新人に任せるつもりだったのだけど、五桁を超えた辺りから動悸が激しくなり、六桁を超えた時点で倒れてしまった。配信直前に倒れてしまった事もあり、代理をしてくれる子も見つからなかったので段取りを知っている私が司会も兼任する事になった。いや、何の準備もしてないんだけど! 確かにフォローするとは言ったけど、全部が全部、頭に入ってる訳ないじゃん!

 ならばせめてアルコールを入れたいのだけど、それはスタッフ一同が許してくれなかった。

 

「………………」

 

 解説に呼ばれたプロゲーマーの八目鰻も緊張で顔を強張らせていた。

 普段は顔出しもしているのだけど、今はVR空間なのでゲーム内で利用しているアバターの姿だ。

 話が違う、と困惑した顔で私を見つめている。視線が痛い。

 

no name:八目鰻も滅茶苦茶、緊張してるじゃんw

no name:放送事故では?

no name:もうどうすんだよ、これ

 

 視聴者の煽りが八目鰻にまで波及するのを見て、私は大きく深呼吸をした。

 やるしかない。此処まで来れば、もうやるしかなかった。酒カスの自分でも変われると願って、人生前ステップを信条にサイバネプロに応募したのだ。結局なんも変われていない気がするのだけど今、この場に頼れるのは私だけだという事も理解していた。私まで逃げてしまっては本当にもうどうしようもなくなる。糞みたいな灰色の人生もVsとして活動を始めてからは、8ビットくらいの彩りを感じられるようになったのだ。駅前の公園で段ボールに包まり、自分の名前も分からないくらいになって不味い酒を呷って暖を取る生活に戻るなんて嫌だった! 家、あったけど! 泥酔し過ぎて帰り方が分からなくなっただけだし! 失敗しても私のせいじゃない!

 内心では、口から泡を吹き出しながら人生前ステップで踏み込んだ。コマンド投げで返されたらごめんなさい!

 だけど、もう怖気付いている状況ではないのだ!

 

「……恐らく、多くの皆様方には初めまして。何時もサイバネプロを御視聴下さっている皆々様には、再び出会えた事に感謝を。本日は株式会社サイバーネスト主催の企画を御視聴頂きありがとうございます。私は本日の司会と実況を担当する祭田喝采と申します」

 

 背筋を伸ばし、柔らかい口調で画面の向こう側に居る視聴者様に微笑みかける。

 

no name:は?

no name:知らない人が出てきた

no name:え、誰?

no name:急にスイッチ入るじゃん

 

 困惑するコメント欄を見て見ぬふりをし、解説席に座る八目鰻に手を差し出す。

 

「解説には、プロゲーマーの八目鰻様をお呼びしております。今はゲーミングチームSCARに所属しており、前年度ではCODE:Fの国内大会で優勝した経験を持っているトッププロの一人でございます」

「えっと、今日はよろしく頼みます」

 

 八目鰻は狼狽えつつも、なんとか受け答えが出来ていた。

 その事にホッと胸を撫で下ろす。

 今回の企画は、八目鰻に現場慣れさせる意図もある。

 私は司会として企画を進行させる為に今回の企画を簡単に説明する。

 

 今回、採用するのはバトルロワイヤル戦。

 改めて説明すると三人一組のチームを組んだ後、同じフィールドに送られたチーム同士で最後の一組になるまで戦い続ける対戦形式だ。今回は四組でのバトルロワイヤル戦であり、team.風花雪月のメンバーが各チームのリーダーを担当する。レイドボスの小春日和はチーム風、自称妹の小春茉莉はチーム花。畜生狐の葛葉小雪はチーム雪、そして傭兵さんの呉紅葉がチーム月。チームメンバーには、サイバネ所属のVsの他に余所の事務所からも選ばれており、チーム月だけは特別にVs以外からの参戦が認められている。彼女自身が過去、匿名で小春日和の相方を務めていた事から特別に認められたと話は聞いている。

 勿論、プロゲーマーではない事は確認済みだ。

 

 傭兵さんの傭兵さんという事で彼女のファンからも期待されている。

 

 ただまあ私、誰が参戦するのか確認できなかったのだけどね!

 後輩ちゃんもギリギリまで知らなかったようだし、マネージャーから話を聞いた時は酒が入っていたので真面目に話を聞いていなかった。でもまあ誰かしら確認してるはず。と軽い感じで流しちゃった記憶が薄っすらと残っている。そして酒が切れた今、正気を取り戻した私は猛烈に後悔していた。だって、あの傭兵ちゃんですよ? あの子、team.風花雪月で実は一番ヤバいヤツ説があるんですよ?

 拭い切れない嫌な予感を抱えつつも、此処まで来てしまってはもう引き返すことが出来ない。

 

「解説も終えた所で早速、チームメンバーの紹介に移りましょう」

 

 もうすぐ対戦が始まる。team.風花雪月が率いる四チームがフィールドに姿を現す。

 プライベート対戦でのみ設定できる何時もよりも多めに取ったカウントダウン。今回、対戦に選ばれたステージは遊園地で、お城はないけども巨大な観覧車とジェットコースターがある。シングル戦では選択する事が出来ない巨大マップのひとつだ。しかし、そんな事よりも注目を集めるのは、傭兵さんが率いるチーム月。そのメンバーの一人に視聴者の意識が奪われていた。

 金髪金瞳の小柄な身体。少し前に行われた八目鰻との三十連戦は記憶に新しく、プロゲーマーを相手にワンチャンを掻っ攫う身元不明の少女。彼女はVs界隈のレイドボスと評される小春日和を破った実績も持っている。近接武器だけを頼りにするガン攻めの戦闘スタイルでマスターまで到達した彼女を知る者は少なくない。加えてCODE:バーストで戦場をかっ飛ぶ姿は観る者を魅了する。

 皆が目を疑った。しかし彼女の頭に表示されたユーザー名とマスターを示すランクバッチが本人である事を証明する。

 

no name:え? なんで居るの?

no name:本物?

no name:レイドボスを打ち負かした子じゃん

no name:RENを生で見たの初めて

no name:傭兵さんとどういう繋がりなの?

 

 周りが騒めく様子に紅葉が小首を傾げる。

 そして二人と同じチームに選ばれた眼鏡っ娘が白目を剥いて放心する姿を見て「あ、こいつ、やらかしやがったな」と傭兵さんを知る全ての人間が察した。私は笑顔のまま無言でスタッフとの回線を開く、画面の向こう側に見せるスタッフ一同が「誰か確認した?」と全員で互いの顔を見合わせるのを見た。そしてみんなで仲良く頭を抱えるのを確認し、椅子に縛り付けられた私の肉体がゴフッと吐血した。

 金髪の少女、RENも困惑している様でキョロキョロと周囲を見渡している。

 ……流石に傭兵さんから話は通っているよね? 視聴者に気付かれないようにテキストチャットで眼鏡っ娘と連絡を取った。彼女はテキストチャットを確認し、無言で首を横に振る。可哀想なくらい顔を青褪めさせていた。これってどうやって収拾を付ければ良いのかな? ワタシ、スベテヲナゲダシテ、サケニオボレタイ。

 そんな状況下でも全プレイヤーがフィールドに配置された時点からカウントダウンが始まっている。

 刻まれる数字は小春日和の意識を変質させる。大きく息を吸い込んで、目を伏せる。ゆっくりと時間を掛けて息を吐き出した後、静かに瞼を開いた。その時にはもう彼女の頭のスイッチが切り替わっていた。多くのプロゲーマーがそうであるように小春日和もまた本番で力を発揮するタイプだった。そして彼女と戦った事のあるプロゲーマーの多くは、彼女の事を持っている側の人間だと評価する。

 大会時特有の殺伐とした威圧感を日和が纏った。

 実況席に座っているだけで肌がひりつく感覚に私は、単なる催しでしかなかった企画は、もう冗談では済まされない事態に発展してしまった事を悟る。

 獰猛な笑みを浮かべる日和は、獲物を見つけた猛獣と大差なかった。

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