メスガキゲーマーのわからせたい! 保管庫 作:にゃあたいぷ。
Vs界隈の事務所対抗戦はサマーシーズンとウィンターシーズンの二度に分けて開催される。
去年の冬が最初で、今年の夏で二度目。そして次の冬に三度目の開催になる。対抗戦は総当たりのリーグ戦で、前回の参加チーム数は五組だった。対抗戦は総当たりのリーグ戦、参加チームは五組になっている。
そしてサイバネは過去の対抗戦で共に最下位のチームだ。
何度も繰り返す事になるが本来、サイバネはゲームの上手さを売りにした配信はしていない。
小春日和が突出して上手いだけで他の子は並程度、本来は身近なバーチャルアイドルとしての売り出し方をする事務所だ。
日和が全国大会に出場し、爆発的に人気が出たのは完全な事故である。
ゲーム分野に力を入れ始めたのが去年の話、本業に影響を与えないように企画としては完全に独立した形を取っている。
それでも日和の影響は凄まじく、彼女の存在を無視して事業を展開する事は出来なかった。
小春日和の何に頭を抱えるのかと問われれば、彼女の活躍でサイバネの認知度が高くなり、事務所に所属するVs全体の売り上げが向上した事にある。
その為、得意でもないゲーム分野と切っても切り離せぬ関係となり、営業に四苦八苦した結果として生まれたのがteam.風花雪月。彼女達の扱いに関しては、外部から招集したマネージャーに一任されている。企画として完全に切り離されてしまっているので日和もアイドル部門が何をしているのかよく分からなかったりしている。VR空間でのライブ配信が行われている時に「みんな凄いなー、上手だなー。こういう仕事が来たこと一度もないなー」と完全に他人事のように楽しんですらいた。
また日和の影響で事務所同士で横の繋がりが出来てしまったので、事務所対抗戦にサイバネだけ辞退する事も出来ず連戦連敗を積み重ねる。
最初の一回目は、主力が居ないという理由で許された。
だけど二度目の開催になると流石に周りからの目も厳しくなる。
三度目の開催を控えた今、テコ入れをする事になった。
「は~い、皆のアイドル歌風ハルカだよ~♪」
「こんばんわ、歌風カオルだよ。今日はレースゲームをプレイするよ」
「昨日は後れを取ったけど、今日は姉より優れた妹なんていないことをわからせてやるのだ!」
「んっふっふ~♪ みんなはお姉ちゃんのわからせられるとこ見たいと思うんだけどね?」
「なにをー! 絶対に良い声で泣かせてやるんだから!」
そんな時に事務所の応募を受けたのがゲーム好きの歌風姉妹だ。
実の双子であることを活かして売り出した二人は、気心の知れた盤外戦術が売りで一緒に配信している事が多かった。ゲーム好きを公言するだけあり、彼女達はゲームが得意だ。二人で対戦する時のエスパーレベルで通じ合った駆け引きは他の実況配信では見る事が出来ない面白さがある。サイバネの集客効果も相まって、瞬く間に二人のチャンネル登録者数は五桁の大台に乗せられた。
そこには小春日和の協力もある。
CODE:Fをプレイする時に日和が積極的に協力し、横から助言を送ったり、指導目的で対戦をしたりもする。日和効果で比較的早い段階で売れ始めた二人は、日和の事を姉のように慕うようになった。日和もまた二人の事を自分の配信で「可愛い妹が出来た」と満面の笑顔で紹介した。そして、この時の日和の生配信を実況配信していた茉莉の一部始終は、見事に切り抜かれて動画投稿サイトのランキングに乗った。
ゲーム配信から流れるような日和実況は茉莉の得意技である。
閑話休題。
これまで小春日和の人気は、小春日和個人に向けられたものでサイバネの人気に直結していなかったのだ。しかしこれからは歌風姉妹の登場で小春日和の人気とサイバネを繫げる事ができる。
彼女達はアイドル候補生で、後にユニットを組んでライブを行う予定もあった。二人は歌って踊れてゲームも出来るつよつよ配信者で設定では性別不詳のVsなのだ。故に歌風姉妹はサイバネ期待の新人であり、積極的に売り出す予定が組まれていた。
次回の事務所対抗戦でサイバネ代表に選ばれたのも、その一環になる。
◆
サイバネ期待の新人である僕、歌風カオルは今窮地に陥っている。
目の前で姉のハルカがCODE:テレキネシスで操られた光剣に貫かれた。ギョッとした僕を、姉が0と1に分解される前に突き飛ばす。周囲に展開された別の光剣の切っ先が鼻先を掠める。息が詰まる程の恐怖、だけど目に写る姉の残滓が僕の身体を突き動かした。胸元には突き飛ばされた時の感触が残っている。受け取ったバトンを切らさない為、僕は大きく後方へと飛び退いた。
真正面から迫り来る三本の光剣による追撃をバク転からのバク宙で距離を取りながら躱す。
僕は右手に日本刀を握り締めたまま、左手に手榴弾を呼び出した。
「CODE:テレポーテーション」
呟く言葉に極端に減少するリソース。左手に握り締めていた手榴弾が消え去った。
CODE:テレポーテーションは自分と手に触れた対象を移動させる事が出来る打ち切りタイプ。強力なCODEである反面、リソースの消費量は膨大だ。距離は長くなればなる程に、自重を超えれば超える程に、リソースの消費量は増加する。また連続で使用する事でも消費量が目に見えて増える。具体的にいうと前に使った消費量の半分が次の使用時に加算される。余分に増えた分の消費量は、時間経過でしか減少させる事が出来ない。
そして、このCODEのいやらしいところは自重以上だとリソースを余分に支払う必要があるのだが、自重以下の場合に消費量が目減りする事がなかった。
CODE:テレポーテーションは見た目の効果とは裏腹に、使い時の難しいCODEでもあった。
だけど、それだけの価値が、このCODEにはある。
手榴弾は今、メリーの頭上に瞬間移動していた。位置はドンピシャ! 自由落下を始めるパイナップルに内心でガッツポーズを決めた。
死角から落ちる手榴弾を止められる手立てはない────
「こういうのもあるんだ」
──筈だった。
うたた寝メリーが頭上に手を翳す。
光剣が動きを止める代わりに手榴弾が頭上に弾き返された。
空高くで爆発四散する手榴弾。
惜しかったね。と彼女は眠たそうに告げる。
「影が見えてた」
メリーは今、太陽を背にしていた。
地面に写る手榴弾の影を見て、咄嗟にCODE:テレキネシスで受け止めた。
そう言っているようだ。
「……反射神経どうなってんの?」
僕は引き攣った笑みを浮かべてながら日本刀を呼び出す。
重機関銃は使えない。あの重量を抱えた状態でCODE:テレキネシスに操られた三本の光剣を躱し続ける事は不可能だ。
かといって三本の光剣を潜り抜けられる自信もなかった。
僕の装備は、姉が居る事を前提に構成されている。
メインアタッカーの補佐を務めるのが僕の役目。重機関銃で突撃する姉を援護射撃をし、日本刀で二挺の短機関銃を振り回す姉の脇を固める。そして手榴弾で遮蔽物の敵を焙り出す。最初から僕一人で戦う構成をしていなかった。正面切って戦う事に勝機はなく、搦め手を使おうにも手榴弾はクールタイム中。そして先の攻撃でリソースは次で確実に底を尽く、僕に残された手立てはもう何も残されちゃ居なかった。
少なくともウォーターエリアとメインエリアを繋いだ通路で戦うべき相手ではない事は確かだ。
此処は場所が開け過ぎている。身を隠す為の場所もなかった。
「なら、いっそのこと玉砕した方が……」
心が折れる、その時だった。
ダン! と遠方からの発砲音が聞こえた。
「狙撃ッ!?」
狙撃銃の一発はメリーの足元に刺さり、土煙を上げる。
位置的に僕を狙った訳ではない。だけど方角的に日和の援護射撃でもなかった。
他のチームの狙撃手の誰か。そこまで考えた所で僕はメリーとは反対側の方角へと全速力で逃げ出す。ウォーターパークには茉莉が待ち構えているかも知れないので中央広場を目指した。
日和と場所が離れるけど仕方ない。
メリーは僕を追い掛けず、建物の影に身を隠した。
◆
私、葛葉小雪は発射済みのテーザー銃を両手に呆れ果てていた。
不意打ちの閃光弾で視界と聴力を奪った後、ジェットコースターのレールの上から落ちて来た日和をテーザー銃で狙い撃った。テーザー銃は駄目押しのようなものだ。本来は視界と聴力が奪われた時点で地面に着地を決めることは出来ない。CODE:Fには痛覚がない代わりに着地に失敗すると硬直時間が発生する。しかし日和は五感の内二つを奪われた状態で地面に着地し、追撃を読んだ横っ飛びでテーザー銃の一発を躱した。
此処一番で、こういう事をやっちゃうから小春日和なんだよねえ。と大きく溜息を零す。
「まあこんな簡単に終わったら視聴者さんにも申し訳ないしね」
と気を取り直し、テーザー銃をストレージに入れる。
テーザー銃は、相手を強制的にスタン状態にする特殊武器だ。
シングル戦だと当てる事が出来れば確殺の武器。だけど装弾数が一発しかない上に弾速が遅いので先ず当てる事が出来ないネタ装備だ。
でも偶に使うと意外と刺さったりする。
普段は誰も使わない武器なので意識の外に置かれがちだ。
テーザー銃の代わりに呼び出した弾道短刀を右手に握り締める。
現実世界だと誤作動で刀身が飛び出しそうで怖いけど、CODE:Fではロック解除ボタンを押さない限り、絶対に飛び出す事がない安全仕様。どれだけ叩き付けても大丈夫。装弾数は勿論、一発だけなのだけど、内部データ的には投擲武器に分類されているのでクールタイムで刀身が復活する。
日和相手に距離を取っても仕方ない。
中遠距離では、CODE:オートトラッキングで逃げ道を制限した上での狙撃。そんな嵌め殺しを使われない分、近距離で戦闘した方が勝ち目がある。
私を近付けないように日和は短機関銃の弾をばら撒いていた。
この隙に、あえて距離を詰める。
短機関銃の弾を一発や二発を受けた程度でシールドが貫かれる事はない。
大切なのは声を上げない事、相手に自分の位置を悟らせない事だ。
先ずは地面に落ちている小石を拾い上げる。
呼吸を殺し、足音も殺して、静かに距離を詰めた。
急ぐ必要はある、だけど慌てる必要はない。
閃光弾によって潰された視界と聴力の回復時間は把握している。
今、重要なのは、殺意を当てない事だ。
五感の一部を失った今、彼女の感覚は研ぎ澄まされている。
大まかな方角を知られて、突撃銃の斉射を受けるのが一番くだらない死に方だ。
「そろそろかな?」
短機関銃の弾が切れる。
そのタイミングを見計らって小石を遠くの茂みに投げ込んだ。
ガサッという音に短機関銃から突撃銃に持ち替えた日和が振り返る。
だが引き金はまでは引かなかった。
まだだ、と今度はジェットコースターの下に水溜まりに石を投げた。
ポチャンと音が鳴る。
しかし日和は僅かに身体を揺らすだけだ。
彼女の感覚が研ぎ澄まされている。
私が足元に小石を落とす。
突撃銃の銃口が私に向けられた。
しかし、まだ引き金は引かれなかった。
もう少しで視界が回復する時間、私は殺意を込めてCODEを実行した。
「そこッ!!」
突撃銃の引き金が引かれる。
私はCODEを起動し、横っ飛びの飛び込み前転で弾幕を躱した。ついさっきまで私が居た場所には、CODE:ダミードールで呼び出した私を模したマネキンが設置されており、弾幕を受けて見るも無断な蜂の巣にされてしまった。享年0秒。CODE:ダミードールによって呼び出されたマネキンは、ちょっとした壁の代わりにも使えたりする。
私は前転した勢いで地面に蹲り、両手で頭に生やした狐耳を抑えた。
マネキンの裏に設置した閃光弾が破裂する。
距離が離れているので、日和の網膜を焼くことはできない。
だけど閃光と破裂音に紛れて一気に距離は詰めることはできる。
立ち上がり、駆け出す。
チェックメイトまで、あと一手だ。
弾道短刀を手に射程距離まで近付く事が出来た。
「チェックメイト……って感じかしら?」
彼女が両手に握り締めた突撃銃の銃口が、私の胸元を突き付ける。
声の主は私ではなく、日和だった。
後は弾道短刀を構えてボタンを押すだけだった。
日和は優れた勝負勘に加えて、それを活かせる地頭を持っている。
私が念入りに積み重ねた嘘の数々を精査し、丁寧に選別した上で判断を下せる程度には頭が切れる。これだけ策を弄しても勝てないのが小春日和という存在。手を伸ばしても届かない一番星。私は、彼女の存在に惚れ込んでteam.風花雪月に入った。貴女の実力は誰よりも認めている。
小春日和だから私は、事務所の所属になったのだ。
故に知っている。
この程度では彼女を倒す事が出来ない事なんて知っている。
策に嵌めるだけでは、まだ足りない。
彼女が策を看破した更に先に仕込んだ一手が私の本命だ。
「目に見えるものが全てじゃないよ、ひーちゃん♪」
ダン、と遠距離からの狙撃が彼女の身体を捉える。
この戦場に私が持ち込んだ武器は三つだけではなかった。
狙撃手サフランによる遠距離狙撃。
彼女の一発が銀の弾丸、小春日和を倒す切り札だ。
策は成った。
狙撃の直撃を受けた彼女が十数メートルと弾き飛ばされた。
「…………っ!」
そんな彼女の光景を見てサアッと血の気が引く。
「まだよッ!!」
慌てて吹き飛ばされた彼女を追い掛ける。
頭を吹き飛ばされたのであれば、彼女の身体が弾き飛ばされる事はないのだ。
銃弾の直撃を受けて、その衝撃を身体で受け止めた。という事はシールドに弾かれたという事である。
握り締めた弾道短刀の切っ先を、倒れる彼女の胸元を狙ってボタンを押し込んだ。
放たれた刀身が弾かれる。
「殺意の出処が違っていた!」
刀身を弾いた狙撃銃の銃口が大きな発砲音と共に火を噴いた。
組み立てた策を直感の一言で片付けられるのは結構、心に来るものがある。
▼チーム風
〇小春日和@CYB :P狙撃銃・E突撃銃・E短機関銃:CODE・オートトラッキング
×歌風ハルカ@CYB:P短機関銃・P短機関銃・?:CODE・アサルトラッシュ
〇歌風カナタ@CYB:P重機関銃・P日本刀・P手榴弾:CODE・テレポーテーション
▼チーム花
〇小春茉莉@CYB :P二挺拳銃・煙幕弾・?:CODE・リコチェット
×幽谷風子@GoP :P軽機関銃・P拳銃・?:CODE・プロテクト
〇伽藍堂ソラ@Emo:P散弾銃・P金属バット・P手榴弾:CODE・アクセラレーション
▼チーム雪
×葛葉小雪@CYB :テーザー銃・閃光弾・P弾道短刀:CODE・ダミードール
〇うたた寝メリー@PCO:E光剣・E光剣・E光剣:CODE・テレキネシス
〇サフラン@CYB :P狙撃銃・?・?:CODE・?
▼チーム月
〇呉紅葉@CYB :P銃剣付突撃銃・E小銃・P擲弾発射器:CODE・アクセラレーション
〇久遠綴璃@CYB:P狙撃銃・?・?:CODE・?
〇REN :P片手剣・P短剣・P大鎌:CODE・バースト