……ってそんな事よりペルソナ!ペルソナァッ!(カッ!
<四月二日 時刻:放課後~夕方 祭壇付近平原>
「あ……あぁ……」
「うっ……」
「…………」
>三人は呆然と立っていた、都も彼の仲間の二人も……彼が喰われるのを、見ているしかない……今不用意に動けば次は自分だ、そう本能的に悟っていた。
>あの巨大な獣から出る殺気は、コンピューターのAIが出せるわけがない代物で、特別な力を持っているわけでもない三人にも察知出来るレベルであり、三人もそれを理解していたのだ。
>しかし、ゴキゴリッと骨が折れる様な音や、血肉がグチュリと音をたてるなか突っ立っているのはもう限界だった……今にも発狂してこの場から離れたかった。
>誰かが、誰かが動かなければ……結局全員殺られるのだ……。
「う、うわあああああああッ!!!」
>最初に行動を起こしたのは一番その場から遠かった男子だ、彼はとにかくこの恐怖と狂気から逃げたかったのかわからないが、叫んでその場から駆け出した。
>当然シャドウは反応する、目の前にいる二人よりも遠くで叫び走り出した彼に目を向けて、飛び出し、追いかけた。
「ッ!祭壇まで逃げるぞ、都ちゃん!早くッ!」
「えっ!?あの人は!?」
>唐突な発言に都は、彼を見る。
「アイツは俺らの為に命はって囮になってくれたんだ!無駄には出来ない!だから!」
>正直の所、確証があったわけではない……しかしそうでも思わないと、自分も正気でいられなさそうだから……彼はそういった。
「分かり……ました……!」
>都は頷いた、自分も早く祭壇に行きたいのは同じだった……もしこの場に織がやってこようものなら、目も当てられない事が起こるのは必定だからだ。
>二人は祭壇に向かい駆け出した、背後の悲鳴を聞かぬよう耳を塞ぎながら。
<同時刻 祭壇付近平原>
>私は祭壇から丈児と二人で数分歩いたが、今の所都とは遭遇出来ていない……。
「……もしかして、先にログアウトしたのかもしれないよ?」
>そう言う事ならまだ良いけど……もしトラブルに巻き込まれているとしたら、と考えると気が気でない……ふと上を見上げると、空に浮かぶ月は紅く輝き、辺りを不気味に照らしている。
「あっ、織ちゃん!向こうから誰かが走ってきてる!」
>彼の言葉にハッとして前を向くと、二人程此方に走って来ていた……一人は都、もう一人は昨日学院でゲームについて話していた男子の一人だった……臨場感とスリルのあるとはUROの事だったのか、ともかく二人に声をかける。
「ッ!織さん!?」
「クッ!不味い!君たちも逃げるんだッ!手遅れになる前に!」
「はっ?どういう事だい?」
>……二人の様子からはただならぬ物を感じる、まるでヤバい物にでも遭遇したかの様な……しかしこれはあくまでもゲーム、あそこまで必死に逃げる意味があるのか?……しかしそう思った瞬間戦慄する事になった。
「ッ!き、来たっ!来やがった!」
「ウッ、何だアレ!!」
>二人の背後から、凄いスピードで接近してくる大きな影があった……影が地面から身体を形創ると、巨大な狼の体と頭に人間の大きな腕が生えた姿であった……アレがシャドウだと言うのか?
>シャドウは体勢を屈めると、一気に跳躍、私と丈児の頭の上を通り過ぎる……その時私の頬に何か引っ掛かる、温かく、鉄臭い、そんな何か……それを見て丈児はヒッと声を出す、ああ、これ、<血>か……<血>!?
>恐る恐るシャドウの方を見ると、口元から上半身だけの人間がダランと垂れている……見覚えがあった、先ほど都と一緒に逃げていた男子の連れの一人だ、リアル過ぎて気味が悪いと少し抵抗を感じている様子だった彼は今、血にまみれながら苦悶の表情だった。
「ウ、ウゲェッ……どうなってるんだい!このゲームはぁッ!」
>喰われている彼の様子にグロッキーな丈児……気持ちはよく分かる、これは本当にゲームなのか疑わしいレベルだから。
「し、織さん……」
>恐怖に怯え、私に寄り添う都……本当にこれがゲームならばこんな表情にはならないだろう、私も多分似たような顔の青さをかもしれないし。
「糞が……糞ったれが!」
>目の前の惨状と事態に、悔しさと怒り、そして焦りを滲ませる男子……仲間があんな状態なら、確かにそう言いたくなるよね……。
>この状況の中、私はどうする……逃げる?無理だ、あの素早さを見てそれは選択肢から消えた……謝る?話の通じる相手なわけない、第一何に謝る……ログアウト?このゲームの仕様上祭壇の様な<安全地帯>でないと出来ない、先程歩いている時に確認した……ならばどうしたら?大人しく喰われろとでも?
>あのシャドウに遭遇する前の私なら、<ゲームだから問題ない>と片付けたかもしれない……でも今はとても
>思考する私が前をみると、苦悶の表情な彼は私達に手を伸ばす……。
「助けて……くれぇ……」
>……分かっているはずだ、あの状況から自分が助かる事などほぼ無理みたいな物だ……でも彼は願った、祈った、<生きたい>と……。
>ドクン……と私の中で何かが跳ねる、同じだ……私も今逃げたいじゃなくて彼同様、<生きたい>と考えていた……。
>それを理解した時、頭の中で声が響いた。
『……我は汝……汝は……我……』
>低く、心に響く……そんな声が私の心を揺さぶる。
『汝……己が相貌を見開きて……』
>そして、私も覚悟を決めた。
『今こそ……発せよ!!』
>戦う覚悟を!
>手元にあるのは初期装備と言える苦無、そのはずだった……しかし今手元を見るとその形が<変化>していた。
「織さん、それ……?」
>不思議だ……普通焦るべき状況下なのに、妙に落ち着いている自分がいる……いや、違う……覚悟を決めたのだから寧ろ当然か。
>黒い暖かみのある鞘、妖しくも荘厳な紫の柄、独特な卍の形の鍔……光を放つそれの鞘を左手に持ち、前に構えて右手で柄を持つ……すると身体の周りからも青いオーラが出始める……思わず口元がニヤリとする。
>ピクリとシャドウが反応する、分かるのか?これが何か……私には分かる……これを抜けば私は普通ではいられないだろうと、<本能>で分かる。
「織ちゃん……君は一体……?」
『近い未来を示すのは<刑死者>の正位置……どうやら貴方には辛い<試練>が待っているようだ……』
>試練上等……私は口にする、<本能>の命じるままに。
『ペ……ル……ソ……ナ……ッ!!』
>鞘を抜いた……それは自然界で言えば<牙>を剥き出す事と同義、戦う意思の表れである……私は今それをしたのだ。
>パキンッ……と何かが割れる様な音が頭に響く、すると身体の中から何かが現れた……それは私の背後にそびえ立ち、シャドウを見据える。
「え、ええええッ!!?」
「なんとぉ!?」
「こ、これが……<ペルソナ>……!」
>その外観は頭に二本の角を生やし、髪は長髪、顔には戦国武将がつける面具をつけていて青く輝く瞳以外が覆われ、赤黒いローブを纏い、私の持つ短刀と同じデザインの柄をした太刀を持った巨大な鬼神だった。
>鬼神が語りかけてくる。
『我は汝、汝は我……我は汝の心の海より出でし者……斬雷の闘将<ドウセツ>なり!』
>私は自らのペルソナ<ドウセツ>の言葉には反応はせずに、心でよろしくと挨拶しつつ前にいるシャドウを睨み付けて、威圧する。
>するとシャドウは口にくわえていた彼を、口から横に放ってから本格的に戦闘体勢に入った、これで助けを求めていた彼は大丈夫だろうと安堵しつつ、此方も短刀を構えた……始まるのだ、私とアイツの戦いが。
>先に仕掛けたのはシャドウだった、四足歩行の機動力は流石に物凄い速さだ……だけどペルソナを得た私は先程翻弄されていた時と違い、相手の動きをしっかり捉えつつ冷静に対処出来ていた。
『ドウセツッ!』
>私の言葉に反応し、ドウセツはシャドウの頭に生えている腕から放たれた拳を左手で受け止める。
>グウッと唸るシャドウは腕の力を緩めて、前脚の爪で切りかかってきた……しかし今度はドウセツが力の緩んだシャドウの腕を捻り、いなしながら投げつつ右足で思いっきり蹴りとばす。
>悲鳴を上げながら吹っ飛ぶシャドウを横目に、後ろの三人に対して、シャドウにやられていた男子の事を任せる旨を伝えて、そのままシャドウの元に向かう。
「分かった、任せて織さん!」
「女の子に助けてもらうとか、男として自分が情けないだけど……織ちゃん頼んだよ!」
「後で色々聞かせてもらうからな!」
>そう言った三人の言葉を背に受けながら、シャドウの元にたどり着くと、シャドウは怒りを滲ませた瞳で私とドウセツを睨んでいた……また飛びかかってこられる前に今度は此方から仕掛けた。
『ジオッ!』
>一度鞘に刃を戻し、念じながら再び抜くと、パリーンと音が鳴り響いた後ドウセツが太刀を天に掲げる。
>すると太刀から稲妻が放たれ、それはシャドウに当たった……しかし、シャドウは屁でもないと言った余裕の表情であった……どうやら雷のスキル<ジオ>はあのシャドウには通じないらしい。
>その時シャドウは不意に雄叫びを上げる、すると周りに小型のどろどろしたスライムの様なシャドウが三体現れた。
>このまま数で押して来るかと思ったが、大型のシャドウはそのまま地面に溶け込みその場を逃げ出してしまった……追いたかったが、目の前の小型シャドウと他の皆を放ってはおけない。
>私は小型シャドウに向かい駆け出し、短刀で斬り裂く……斬った時のドロッとした感覚はとても嫌な気持ちになるが、構わず斬る。
>一体倒しても二体残っている、斬った隙をつかれどろどろが私にまとわりついてくる……気持ちが悪い。
『ペルソナッ!』
>短刀を居合いの要領で抜き、まとわりついたシャドウを切り離しつつ、ドウセツに太刀で仮面ごと串刺しにしてもらう……私は地面を蹴って飛び上がり、最後の一体に短刀を突き立てた。
>ブジュッと音を立てて霧散したシャドウを確認した後、念のため周りを見渡す……当然と言えば当然だが、大型シャドウは既にこの場を後にしていたし、小型シャドウの姿もない。
>安心してひと息つくと、一気に全身から力が抜けてヘタってしまった……手元を見るといつの間にか短刀は元の苦無のグラフィックに戻り、ペルソナであるドウセツは何事も無かったかの様に消えていた……。
>……そう言えば何故、自分にペルソナが使えたのか……確か老婆の説明通りならば、使う為には<召喚器>が必要なはず……まさかこの初期装備とも言える苦無が<召喚器>だと?いや、それはないな……うん。
>う~む……考えても答えは出ないし、返ってもこない……周囲は虚しい静寂だけで、プレイヤーどころかNPCも敵もいない……肉体的ではなく精神的疲労でかなりダルく、考えることそのものが辛いので思考を打ち切る。
>ダルい気持ちに渇を入れて、他の皆を探しに向かった……私がゆったりしているうちに、あの大型シャドウが4人を襲っていたら笑えない。
<時刻:夕方 祭壇>
「織さん!」
「ああ~良かった、本当に!」
>四人は祭壇にしっかり避難出来ていた、そこは喜ぶべき所だろう……都は涙目で私を抱きしめ、丈児は心底ほっとしている様子。
「よう、驚いたぜ……まさか大先輩のペルソナ使いが現れるなんて思わなかった、ありがとう助かったよ」
「……あんたは恩人だホント……感謝してる」
>それから都と一緒にいた男子と、喰い殺される寸前だった男子の二人からは礼をされた……彼は時間経過で<状態異常>の出血が治ったらしく、HPギリギリの所で間一髪助かったらしい……これにはホッとしたが、もう一人の仲間が既に喰われてしまっていたらしい……祭壇には見当たらず復活したかは不明……少し心配だ。
>大先輩発言に対しては、私が始めたのは今日である事を伝えたが二人とも笑って「冗談だろ?」「嘘がヘタだな」と信じてはいない様子……嘘は言ってないんだけどな……。
「まあ何にしろ、軽い気持ちでプレイ出来るゲームじゃないって事は今日で勉強出来たよ……まさかあんな危険なもんがスタート地点近くにいるとか洒落にならないぜ……」
>それには全面的に同意したい、あの時ペルソナがいなければどうなっていたか……。
「……そういえば僕と織ちゃんはそちらさんとの自己紹介がまだだったね、都ちゃんは知ってるみたいだけど」
>唐突な丈児の言葉だったが、確かにそうだ……。
「そうだな、あんな状況で暇無かったし……んじゃまず俺から、名前は<木下北斗(きのしたほくと)>一年B組だ」
>北斗と名乗った彼は、高身長の筋肉質男子……髪型は所謂スポーツ刈りで、イケメンではないが、堀が深い男前な顔つき……見るからに激しいスポーツをやってたみたい……決して某神拳とは関係ないとは思う。
「俺も一年B組、<牧原洋(まきはらひろし)>って言う……まあ見ての通り貧弱だが、あんたには出来うる限り報いたい」
>洋の身長は平均的ながら、かなり痩せており眼鏡を掛けている……髪型は刈り上げ頭で、このメンツでは多分一番落ち着きがある人物だ、喰われかけだったとは思えないガッツの持ち主である。
>続いて私が普通に自己紹介して、二人に納得してもらったのだが……問題は次の丈児だった。
「僕は南葉丈児!稲生織ちゃんのクラスメイトにして未来のフィアンセだ!」
『えっ!?』
「は、はぁッ!!?」
>丈児、頼むから自重して欲しい……その言い方は誤解しか生まない。
「そ、それはちがうよッ!織さんは私の運命の人だもん!!」
『えっ!?』
「むむっ!?まさかの都ちゃんが初ライバル!?」
>都ォ……そうなんだけど、そうなんだけどォ……。
「先輩殿は節操なしだな、男女構わず釣るとは」
「あんた……モテるんだな」
>もちろん私は必死に弁明したが、聞いてもらえるはずもなかった……この程度じゃ泣かないぞ。
>その後は時間的に不味いため、ここでお別れとなった……今頃中々戻ってこない私達を、雪花が心配しているかも知れないし。
>メニューを開き、一番下にあるログアウトボタンを押すと、視界が闇に包まれていった。
<時刻:夕方 中庭 >
>……ゆっくり視界が戻ってきた、どうやらしっかり現実の世界らしい……左を見ると雪花が訝しげな表情で、午後ティーを飲んでいる。
「……随分長く待たせてくれましたね、此方の身にもなってください……全く」
>選択肢:
→ごめん、ちょっと色々ありすぎたんだ
……いくらで許していただけます?
許してください!何でもしますから!
「いえ、実際はそこまで怒ってませんよ……ただVRMMOが怖いものだと知ってますから、少し不安に感じていただけですので……」
>やはり心配させていたらしい……今後は出来るだけこういう事はよそう、まあUROをまたやるかは未定だけど。
「ん……あ、あぁ~良かったぁ!やっぱり現実だよ!平和が一番!ね、織さん!」
「……あれほど楽しみにしていた春日さんがそんな事を言うなんて、一体何があったのでしょう……逆に興味が湧きますね」
>都も戻ってきたみたいだけども、やはりあっちであった事は彼女にとってショッキングだっただろう、笑顔ではあるがかなり疲れてるみたいだし、それは私も同じだ。
>ともかく早く帰って休みたかったので、今日は解散……明日雪花にしっかり事情を話すと約束し、都と一緒にアパートへの帰路についた……。
<時刻:夕方 マクドナルド店内>
「うん、どうやら戻ったっぽいな」
「ぽいと言うか普通に戻っただな、目の前にちゃんと拓海がいるし」
>北斗と洋が現実に戻った、ログインしたのは現在でも隆盛を誇るファーストフード店の、マクドナルドである……そしてその眼前にはまだ食いかけの冷えたポテトと二人の仲間<拓海>がいた。
「おい、拓海!何をぼんやりしてんだよお前……あ、もしかしてまだ喰われた時のショック抜けてねえのか?存外メンタル弱いのな!」
「…………」
「……拓海?」
>北斗の煽りにも、心配した洋の言葉にも反応しない拓海、ただ光の無い瞳で空を見つめるだけで、常にボーッとしている。
「……お、おいマジで大丈夫か?」
>段々彼の様子がおかしい事に、北斗は我慢出来ず肩を揺らす……すると力に合わせ身体がぐらんぐらんと揺れ、そのまま重力に任せソファに倒れる拓海、二人は驚愕する。
「拓海!?」
「おい、嘘だろ?演技なんだろ?……答えろよ!」
>いつもなら人がいて賑わっている店内だが、今日は不気味に静まりかえっていて、それがより拓海の異常さと二人の混乱を増させていた……。
>この事を織はまだ知らない。
ステータス(段々更新されます)
名前:稲生織
性別:女
年齢:16才
アルカナ:?
所持ペルソナ:ドウセツ<new>
スキル:ジオ
串刺し
勇気:5
知識:4
根気:2
寛容さ:4
伝達力:2
※最大値は10
武器:苦無
体防具:Tシャツ
アクセサリー:シルバーリング
所持アイテム:自室のカードキー
アドレス:壷井遼太郎
春日都
主人公にしてメインヒロイン。
今回ペルソナ<ドウセツ>に覚醒、大型シャドウ<ポヴァティー>を撃退しつつ三体の小型シャドウを倒す。
覚醒時は全く迷いなく力を使いこなし、冷静そのものだったが、戦闘終了後に気が抜け、力が霧散した。
また精神をかなり摩耗していた事が判明、しっかり力を制御出来ていたわけではない模様。
自室に帰った後は何とかシャワーだけ浴びて、まっすぐベッドに向かい、死んだように眠ったらしい(合掌)
織のペルソナ覚醒回です、しかしまだ自由には発動できません……彼女はまだまだ未熟ですので。
ところで皆様、この時期は風邪の方多くなりますので気を付けましょう……かくいう私も風邪ひいてましたので、はい(笑)