ディアの私生活を全部担当する見習いエクソシスト・アリス。
いろんな悪魔による事件を解決しているという凸凹コンビな二人は、ある豪邸に住み着いた悪魔を祓いにいくのであった。
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人にとりつき苦しめる謎の存在…「悪魔」。
その悪魔を祓い人々を救う特殊な職業…「エクソシスト」。
その双方の戦いは、人々の歴史に刻まれることはほとんどないながらも、長年にわたり続いていた。
「ディアさん! ディアさんったら! 起きてください!」
「んぁ?」
北西のとある国にある、小さな町の片隅にある小さな家に住むこの男…ディアもまた、先祖代々エクソシストを務める家系であり、当人もまたエクソシストである。
今、ディアはソファの上で新聞紙を布団代わりにして眠っており、少女の声に呼ばれてようやく目を覚ましたときには、黒い髪をぼさぼさ揺らしていた。
今彼のいるこの家はディアの自宅であり、彼個人のエクソシスト事務所も兼ねているため応接間のソファで寝ていることも、そう珍しくはないことだったりする。
そんなディアの姿と、ゴチャゴチャに散らかった部屋を見て、金髪の少女は立腹する。
「もー、またこんなに散らかして! ほんといったいどういう生活を送っていたらこんなことになるんですか!」
「んだよ、おめーこそいっつもうるせーなアリス」
この金髪の少女はディアの世話役兼助手であり、名前をアリスという。
私生活がだらしなく口も態度も悪いディアにかわり、彼の住居の掃除や家事をこなしたり、ポストに入った手紙や依頼状を受け取ったり、依頼主と対話をする役割を担っているのだ。
彼女は今日も、朝早くに家を出て彼の住居兼事務所を訪れポストから手紙を受け取り、中に入ってその散らかり具合をみて怒っていたところだ。
そんな、いつものやりとりをしながらアリスから手紙を受け取り、掃除をテキパキすすめていくアリスを横目で見たディアは、新聞の中に一枚の封筒を見つける。
「ん、これ」
「ああ、貴方への新しい依頼書ですよ!」
「へぇ、ちゃんとこういうの、来てくれるんじゃん! やっぱオレって強いからなぁ」
依頼書の入った封筒を手に持って、ディアは口笛を吹きながら上機嫌になり、依頼書に目を通すために自分の書斎へと向かってしまった。
応接間に1人だけになったアリスは、ぼそりと1人で呟く。
「調子に乗らないでください……」
そう突っ込みたかったが、もうディアは書斎に移動してしまっているし、なによりも依頼書を見ることに集中してしまっているのでアリスの呟きなど聞こえていないだろう。
ハァ、と重いため息をつきつつアリスは床に散らばった新聞紙を手早くまとめてたたみ、いつも新聞紙を入れているコンテナボックスに丁寧に収納したところで、壁に掛けられているエクソシストの証明書に目を向ける。
「……あれで現状にて北西の国・最強のエクソシストなんて……信じたくはないわ……」
彼の手にかかればどんな凶悪な悪魔も塵一つ残さず消滅する、彼こそがこの北西の国で最強と言われているエクソシストだ。
そんな噂がその筋の世界では絶えず、故に手強い依頼はすぐに彼の元に流れてくる。
きっと、今回彼の元に届いた依頼も…並大抵のエクソシストでは歯が立たない案件なのだろう。
これまでに多くの危険な依頼を受け付けては直接悪魔を退治して解決させてきたし、アリス自身もディアの力を目の当たりにしてきたので、彼が最強のエクソシストであることは違いない。
だが、生活のだらしなさ故に信じたくなくなるのもまた事実。
ディアのだらしなさと実力が見事に反比例してしまっていることにアリスが頭を抱えていると、依頼書を読み終えたディアがそこに現れた。
「アリス! 午後には依頼主のところに行って話を聞くから、掃除を早く終わらせてくれよ!」
「実現したければ貴方も手伝ってくださいよっ! もうっ!!」
容赦なく掃除の指示を出してくるディアに対し、アリスはそう反発をしつつも彼の指示通り掃除を午前中に終わらせみせた。
そうして掃除が終わったタイミングでディアは籠に入っていた、消費期限ギリギリセーフのパンをさっさと食べて昼食を済ませる。
アリスも、予め自分で持ってきていたサンドイッチを早めに食べ終え、ディアと共に事務所を出て、依頼主の元へ向かうのであった。
「でも今からでかけていって、その日のうちに話を聞くなんてできるんですか?」
「ああ、だってこの依頼主が住んでいるのは隣町だからな。 つまり、そこまで遠い場所に住んでるわけじゃない。 今からバスに乗っていけば、余裕で日が変わる前にはたどり着けるだろうぜ」
「ならいいのですが」
そう話をしつつ、ディアとアリスはバス停からバスに乗って隣町に向かい、依頼書に同梱されていた地図に従って依頼主の住居へ向かっていった。
やがて2人がたどり着いたのは、隣町の外れにぽつんと佇む豪邸であった。
「ここだな。 ここが今回の依頼主……ポンド氏の家だ」
「大きい……豪邸ですね」
その住居の大きさにアリスがぽかんとしていると、ディアはそうだなと適当に返事をして、まっすぐに玄関へと向かっていった。
アリスも慌てて彼の後を追いかけていき、インターホンを鳴らすと豪邸の扉が開き、中から老紳士が現れた。
「はい、どちらさまでしょうか」
「今回悪魔祓いの依頼を受けてここにきた、エクソシストのディアっす」
いきなり無礼な挨拶をするディアの足を強く蹴った後、アリスが代わりに老紳士と向かい合って、にこにこと満面の笑顔を浮かべながら話を進めていった。
「初めまして、私はこちらのディアさんの助手を務めております、エクソシスト協会のアリスと申します。 今回、こちらの邸宅の当主様から依頼を受けて参りました」
「おお、貴方方が例のエクソシストの方でしたか……お待ちしておりました。 私は当主・ポンド様の執事をしております、カートと申します」
そう老紳士は執事のカートと名乗ると、2人を当主に会わせるために招き入れる。
「……さっきはなにするんだよ、アリス」
「貴方は黙っていてください、話は私が進めます」
「へいへい……」
空は既に、黄昏色に染まっていた。
豪邸の内装も外装に引けを取らないほど豪華で、いかにも高価そうな家具やインテリアが並べられている。
そのあまりの豪華さをみたアリスは呆気にとられ、ディアは眉間に皺を寄せていると、やがて2人は当主のいる応接間に案内され、そこにはいり当主と直に会う。
「旦那様、例のエクソシスト様が参られました」
「うむ、ご苦労だった。 もうさがっていいぞ、カート」
「ハッ」
そう言ってカートを下がらせたのは、赤いガウンを羽織り、少し白髪交じりの茶髪にひげをたくわえた、初老の男性だった。 彼は応接間のソファに腰を下ろし、対になっているソファにディアとアリスが腰を下ろしたのを確認すると、にこやかに笑いながら挨拶をしてきた。
「さてと……お待ちしていました。 私がこの屋敷の当主をしております、ポンド・バラサです。 貴方がこの北西の国で随一の実力を持つという、エクソシストのディア殿、ですね?」
「お、はい」
「貴方の評判は、以前に悪魔に苦しめられた方から話を聞いておりました。 そのため、今私が陥っている危機から救って頂きたく、こうして依頼を出してみたのです」
「では、詳しい事をお話ください」
そうアリスのほうから手帳を取り出して話を切り出してみると、ポンドはふむ、と座り直すと今回の依頼の内容を二人に伝えていく。
「貴方達には、この屋敷に住み着いてしまった悪魔を退治してもらいたいのです……。 その悪魔の名はザガン、呼び出した者に金を差し出してくれるという力を持った悪魔です」
「その悪魔が何故、この屋敷に住み着いてしまったのですか? 普通悪魔というものは、人間がこの世界に呼び起こすか、あるいは曰く付きの道具を手にして封印を解いたりしてしまったときに、降臨するものなのですが……それに心当たりなどはありませんか?」
アリスが悪魔が現れる条件をポンドに説明していくと、ポンドは顔を曇らせつつ事情を語っていく。
「実は……私がここまでの富豪になれたのは、その悪魔によるものなのです」
「なんですって!?」
「私は元々、家も金もなく彷徨っていた貧困の旅人でした。 ですがあるとき、金を授ける悪魔の話を耳にし……働いたお金を使い封印の魔具と呼ばれるものを購入し、悪魔召喚を行ったのです。 それで呼び出したザガンは、私が持ってきたものを片っ端から金に変えていってくださり……それを売買することで私はこの屋敷や家具を手に入れることに成功したのです」
「ほぅ」
「私はそうして富を得ましたが……その頃になってザガンは今まで働いた報酬を支払うように私に言いつけてきたのです。 その条件はまず、自分をこの屋敷に住まわせ毎日貢ぎ物として食料や宝を捧げることでした。 それくらいならば今まで働いてくれた分に相応だろうと思い込み、私はその条件をのみました……の、ですが……」
「ですが?」
「実際に声を聞いたカートの話ではここ最近、ザガンの要求が激しくなっていったのです。 おまけに屋敷のものが消えたり、音を立てたり……最近は私も、少しずつ身体が弱ってきてしまって……。 もしも貢ぎ物を忘れてしまったら、なにをされるか……想像するだけで恐ろしい……」
つまり彼は悪魔の力でここまでの富豪になったものの、最近は悪魔の力が強くなりすぎてて自分では制御しきれなくなってしまい、悪魔が請求する報酬に苦しみを覚えてきているようだ。
そんなポンドに対し、ディアはある約束を突きつける。
「もしこの悪魔を祓うのに成功したら、それなりの報酬を出しつつももう二度と悪魔を召喚しないと誓って貰えませんかね?」
「ちょ、ディアさん……」
「……もちろんですとも、私も悪魔はもうコリゴリです。 報酬はいくらでも出しますので、大至急封印をしてください」
「……いいでしょう。 このディアが、悪魔を封印して差し上げますよ」
そうしてディアはポンドの依頼を受けることにし、早速彼の許可を得てアリスと共に屋敷の中を調べてまわることにした。
そんな中でディアは眉間に皺を寄せると、ぽつりと呟いた。
「あの当主、なにかかくしてやがんな」
「え? そうですか? 自分の欲のために悪魔を召喚したと認めているじゃないですか……それが、ウソとでもいうのですか?」
「いや、あの発言はウソじゃない。 それはオレにもわかることだ。 それよりもオレが気になっているのは……屋敷全体に漂う禍々しい気配だ。 お前も仮にもエクソシストの切れ端ならわかるだろ?」
「……それを言うならはしくれ、です。 それにご心配なく。 そんなはしくれな私でも、気付いてますよ」
ディアとアリスは、屋敷の中に漂う不穏な気配に勘づいていた。 この屋敷に悪魔がいることは話で聞いていたのでその気配もするのだが、ここには複数の悪魔が住んでいる。 話で聞いていたザガンという悪魔だけでは、ここまで禍々しい気配に包まれることなどないはずである。 そこから導かれる答えを、アリスは絞り出す。
「ここには本命のザガン以外にも、いくつもの悪魔が住んでいるということですよね」
「そのとおり。 というわけで本命はオレが仕留めるから、ザコはお前が担当な。 それくらいならできるだろ。 ザコをあしらって、オレにザガンを探しやすくさせろ」
「……はーい……」
悔しいが、自分はエクソシストとしてひよっこで、その方面では自分よりもディアの方が圧倒的に強い。
それらを考え彼との力の差を自覚したアリスは、少しだけ渋々といった調子でディアと役割分担をすることを受け入れ、屋敷の周囲にいる悪魔の相手をすることになった。
「……私にできる悪魔退治って、こんなものなのよね……」
悪魔退治の方法というのは、まず基本としては聖水を撒いて十字架を掲げて呪文のように説法をとくというものだった。
そうすることで屋敷の各所に住み着いた小さな低級悪魔を祓うことができる、それくらいならひよっこであるアリスにもできることなので、ディアが本命であるザガンを見つけやすくするために自分はそれをやるしかないのである。
上級のエクソシストなら、様々な聖なる力を宿した道具を使いこなすことで大物の悪魔を祓えるのだが、アリスはそれがまだできるほどの実力はないのである。
そうして一通り低級の悪魔を祓っていき、気配を薄めていったところで、アリスはディアのほうを心配した。
「ディアさん、ちゃんと仕事が出来ているのかしら……? まぁ……仕事の失敗の話だけは聞いたことがないし、自宅の掃除よりはしっかりやるとはおもうけど……」
やっぱりまだまだ、ディアが最強のエクソシストというのは半信半疑なアリスはそうブツブツと独り言を呟いた。
そればかりを考えていたせいで、アリスは背後から何かが迫ってきていたことに気付いていなかった。
「……アリス? おーい、アリス、どこにいったんだー?」
低級悪魔の気配が消えてきたことで一度アリスと話をしてみよう、と思っていたディアだったが、そのアリスが見つからず屋敷の中を走り回っていた。
屋敷の地図は二枚あって、それを2人で一枚ずつ持ち合っていた…アリスの方がしっかりしているので、道に迷うことはない。
ディアもザガンがいつどこから現れてもいいように、屋敷の中をチェックしながらノンストップで歩き続けていたので、いくらこの屋敷が大きくとも道を間違えることはない。
それなのにアリスが見当たらない、そこでディアはある予感を巡らせる。
「……これは、まさか……」
ディアは表情を険しくさせると、青い石が先端についているチェーンを取り出し揺らし精神を統一させる。
青い石はゆらゆらと動くと、ディアからみて左に曲がる廊下の方を指し示したので、ディアはその方向に向かって走って行った。
そうしてディアがたどり着いたのは、屋敷の中から出ないと行けない、大きな時計がついている塔のように見える3階部分だった。
扉を開けてその部屋に入ってみると真っ暗だったので、ディアはライトをつける。
「……」
「おやおや、誰だ?」
暗闇の中で、赤色の長髪を揺らしながら何かが言葉を発した。
金色の装飾品を身につけている身体は紫色に染まっており、赤い文様がまるで血管のようにその身体に描かれている…明らかに人間ではない別の存在だ。
赤い髪の隙間からは二本の黒くて大きな角が生えており、長くて鋭いツメは黒く、一つしかない金色の目はヘビのように光っていて、大きな口からは赤黒くて鋭いキバがはえ揃っている。
その姿を見たディアはその存在の正体を知っているようであり、彼に向かって言い放つ。
「テメーが、この屋敷に住み着いている例の悪魔……ザガンか」
「その口ぶりと、我に対する態度……そうか、そうか。 さっきから気配を感じていたぞ。 キサマ、エクソシストだな」
この存在こそが、今回討伐依頼を出されていた悪魔…ザガンだったのだ。
ザガンはディアがエクソシストであることや、ディアが並のエクソシストとレベルが違うことを見抜くと、口を大きく開けて笑い出す。
「クカカカカ、これは滑稽なことだ。 この屋敷のヌシめ……我を豊穣の条件として呼び出しココに住まわせておきながら、いざ我が要求をさらに求めてみると退治をキサマのようなエクソシストに我を退治させようというのか」
「おう、その辺はテメーに同情するぜ。 人間の悪魔に対する身勝手でオレらエクソシストも、苦労させられてんだからな。 今回も例外じゃねぇ」
「ほぅ。 であれば、我を見逃すか? このような身勝手な人間、見捨ててしまえばいいのではないか、我の手で滅んだところで、自業自得ではない。 キサマとて、無駄な働きはしたくなかろう」
そうザガンはディアを返そうとしたが、ディアは腰からナイフを抜き取るとその切っ先をザガンに向けて言い放った。
「お生憎様、その返答はノーだ。 オレはここには悪魔に同情するためにきたわけじゃない、悪魔を退治しにきたんでね。 これでもオレはエクソシストのお役目には忠実なんだよ……なんてたって、プロだからな」
「ほぅ。 やはりキサマの力の程度では、我を見過ごすはずがないか」
「あったりまえだろ……というわけで! テメーはオレが今から祓うぜ!」
ディアはそう言い放ち目つきを一気に鋭くさせると、ナイフを握りしめてザガンに向かって突っ込んでいった。
ザガンはツメを振るいディアを攻撃しようとしたが、ディアはそれを軽々回避してみせると腰のポーチから液体の入ったビンを取り出しそれを投げつけてみせると、液体のかかったザガンの手は激しく燃え上がった。
「グッ……! これは、聖水かっ……!」
「ご名答っ! どうだ、聖水により燃え上がった浄火の炎の感触は?」
ディアがザガンにぶつけた液体は、普通の人間には普通の水でしかないが悪魔には効力が出るというアイテム・聖水だった。
その一撃を受けたザガンはすぐに炎をはらい火を消すと、そのまま長い髪を伸ばしてディアを捕まえ締め付けてきた。
「クッ! しまった……!」
「このまま締め付けてやる!」
「うぐ、やめ、ろ……! ぐぁっ……あっ……!」
「クカカカカカ……苦しめ、苦しめ!」
そうザガンは笑い声を上げながら、よりディアを強く締め付けるために目を光らせて髪に力を注ぎ込み、髪に力を込めていく。
そうするたびにディアは苦しそうな声をあげ、ザガンはその声を聞き彼の苦悶の表情を視て愉悦感を覚えていくと、このままディアを丸呑みしようと大きく口を開けて彼を口の中に入れた。
その瞬間、ザガンの顔は激しく燃え上がる。
「ウォォオォッ! グ、ウゥ、ガ、ハァ!」
その炎と熱に苦しみ、耐えられなくなったザガンはディアを吐き出し、床にたたきつけられたディアはよだれを汚いと呟きながら軽く払うと、ザガンを睨み付けながら言い放つ。
「……誰が聖水は一本しか持ってないなんて言ったよ、バーカ」
「なっ!?」
「オレには、テメーの攻撃はお見通しなんだよ。 テメーが調子に乗ってこの屋敷から金を傍受している間に、こっちは色々悪魔を祓ってきて経験値つんでんだ、甘く見るんじゃねぇ」
ディアはザガンに捕まる直前、もう一本の聖水を手に取り構えていたのだ。
その聖水のビンをザガンの口に入った直後に相手のキバを利用して割り、中に入っていた聖水をザガンの口内にぶちまけて、それによりザガンの顔は口の中から燃え上がったのである。
そうディアは割れた聖水のビンの破片をザガンに投げつけると、続けてナイフを投げつけて突き刺し十字架を掲げる。
「ぐぁっ!」
「我はエクソシスト・ディア……我はここに祓いの意志を示す。 悪しき力の権化よ、欲に濡れしものよ……聖天の裁きを受けよ。 神の声に従いし我が前に散りゆかん……! かの悪魔よ、神に敗し散れ!」
ディアがそう唱えると、十字架の中心にうえられた白い宝石が光り輝き、その光を浴びたザガンは徐々に身体が消滅していく。
「ア、アァァァァッ!!」
そう断末魔をあげながら、ザガンはみるみるうちにその巨体を散らしていき、あとは頭部のみとなった。
もう完全に消滅するのも時間の問題だ、と踏んだディアは、ザガンに自分の助手役の少女の所在を尋ねる。
「最後に教えろ。 ザガン、アリスをどこにやったんだ?」
「アリス? もしやキサマと共にいたあの女か……」
ディアはザガンがアリスを隠したのではないかと思い、ディアに尋ねた。
ザガンはなんとなく、ディアが少女と共に行動していたのを察していたらしく、自分の知る手がかりを彼に告げる。
「あの女は、我を呼んだ者と共にいるようだ」
「なに? それは……この屋敷のヌシだったりするのか?」
「クックック……クカカカカ……あの男、我を封印した魔具の蓋を開けて封印を解除しただけで、我を呼び出したつもりでいたというのか……。 欲にくるい金品を手に入れてこのような名声と豪邸と富を得ただけでなく、今度は我の要求に困惑したからという理由でキサマのようなエクソシストを呼んだか。 滑稽、滑稽よのう」
「要求? テメー、ポンド氏を弱らせて苦しむ様をみて楽しんでたんじゃねーのか?」
「クカカカ……そのような趣味はない。 それよりも我への捧げ物をいかように用意するのか、奔走する姿を見る方が愉悦よ……クカカカカ……」
ポンド氏を衰弱させたのはザガンではない、という情報を得たディアが考え込んでいる間にザガンの顔は完全に消滅し、あとには白いなにかが落ちているだけとなった。
そうすることでこの屋敷に住み着いた悪魔を祓うことには成功し、任務は完了した。
だが、ディアはまだ屋敷から出ようとは考えていない。
「……これでまずはひとつ、だな。 あとはアリスを探すか」
そう言ってディアは落ちていた白いものを拾い上げると、そのまま続けて、アリスを探すために先程の青い石を取り出す。
脳裏にアリスのかを思い浮かべながらブツブツと呪文を唱えると、石は揺れてある方向を指し示したのでディアはその方向にまっすぐに走って行き、やがて黒い扉にたどり着く。
「ここか」
そう言ってディアが扉を開けると、その中は骨董品だらけであったためにこの部屋が物置部屋であることがうかがえる。
だがディアはここがただの物置部屋だとは思えないようであり、眉間に皺を寄せていた。
「……いたっ」
そんな中でディアは、物置の奥で口と目に布を巻かれてさらに身体を黒い鎖に縛られたアリスを発見した。
そのくさりの力を見たディアは何かに気付くと、聖水を手にかけてから鎖を掴み、ナイフを入れていく。
すると端から見たら黒塗りの鉄製の鎖でしかなかったそれはあっさりと切られ、その手応えからディアはやっぱりかと呟くと、アリスの口と目を覆っていた布を剥がし、彼女を解放する。
するとようやく息が出来るようになったアリスは、苦しそうに呼吸をする。
「くはっ……! はぁ……はぁっ……」
「アリス」
「……ディアさん……?」
ディアが自分を助けたのだ、と気付いたアリスは彼の顔を見上げていると、ディアはそのままアリスを抱き上げて物置部屋を出ると、近くにあった別の別の小部屋に入って、そこに置かれていたソファに彼女を寝かせる。
「もう大丈夫だ、例の標的である悪魔……ザガンは祓った。 任務は完了だ」
「……そうですか、それはよかったです」
この屋敷に住み着いた悪魔は無事に祓えた、と聞かされたアリスは安堵して微笑むと、先程自分がどういう状態だったのかを淡々と説明していく。
「私……気付いたらあの部屋に捕まってて……くさりも固いし、不気味な気配があの物置部屋を覆っていたような気がして……動けなかったんです……。 あれは鎖とかの道具で拘束されただけじゃない……もっと別の力で身動きを封じられていると、そう感じました」
「……お前のカン、間違っちゃいないぜ。 あれは悪魔の力を宿した呪いの鎖だ。 それに、あの物置部屋にある骨董品……そのほとんどが悪魔を呼ぶ力を持った、魔具だ」
「……やっぱり、そうだったのですね……」
アリスはあの物置部屋のものが悪魔の力であることに閉じ込められていたときから気付いていて、その感覚が間違ってなかったのだとディアの話を聞いて感じていた。
同時に、あの物置部屋がなにを意味しているのか、そして自分が何故さらわれたのかにたいしての疑問も浮かんでくる。
「……でも、何故あれだけの魔具が、あの部屋に集められていたんでしょうか……どうして、私をさらったりもしたのでしょうか? なにか、意味があるのでしょうか?」
「……そのことだが、オレはある推理をしている」
「?」
ディアの推理、というものにたいしアリスが聞き耳を立てようとしたときだった。
突然、2人のいた部屋の扉が開き、そこに1人の老紳士が入ってくる。
「これは失礼、お二人とも休憩中でしたか」
「あなたは……カートさん?」
それはポンド氏に仕えている執事・カートだった。 突然部屋に入ってきたカートに対しアリスが戸惑っていると、ディアはそんなカートを睨み付けながら彼に言い放つ。
「お前が、この屋敷に悪魔を住まわせてたんだな」
「え?」
「……急になにを仰るのですか?」
突然ディアがはなった言葉に対し、カートは眉間に皺を寄せてそう反論すると、ディアは一気に口調を荒げさせながら、カートに向かって事実を突きつけてくる。
「てめーこそ、歳のせいで耳が遠いのかよ? オレはてめーが、ポンド氏に悪魔の宿る道具を売ってそそのかした、犯人だって言ってんだよ」
「え、え、えぇ!?」
ディアの衝撃的な発言に対しアリスは驚きを隠せず混乱し、それを聞いたカートは狼狽え出す。
「な、なにを言い出すかと思えば、そんな突拍子もないことを……なにか、証拠でもあるのですか!?」
「いや、証拠もなにも……最初から割と匂ってたぜ? 悪魔の匂いがしたぜ」
「それだけか、話にならないですよ!」
必死に言い訳を繰り返すカートに対し、ディアは話を続けていく。
「ポンド氏は言ってただろ、てめーが悪魔の声を聞いてその言葉を悪魔に変わって伝えてたって。 貢ぎ物が必要だって言うのを、彼はてめーの言葉を聞いて知ったんだ」
「ええ、そうです。 私が代弁をしたのですよ……それがなにか?」
「なんでザガンは、てめーを伝言役に選んだんだ。 ヤツだったら、貢ぎ物のことはポンド氏に直接伝えられるだろ。 なのに、執事と言うだけでわざわざ第3者を選ぶはずがねぇ……ヤツがてめーに伝言役を頼んだのは、てめーが魔具を作ったからで、ヤツはそれを知ってたんだ」
「……」
「そうそう。 あの物置部屋の鍵も、ザガンがいた部屋で発見したぜ」
「だったら、あのザガンは自ら魔具を生み出していたのではないのでしょうか!?」
「いや、悪魔は自分では魔具は作れない。 あれを生み出すのは悪魔のことを知る人間だけだ。 人間が悪魔を魔具とする器に封じることで魔具を完成させ、それを他人に受け渡すことで完成する。 そこには、作った人間の一部が必要だ」
そう言ってディアは、カートの右手を指さした。
「てめーはあのザガンの魔具を作るために、右手の小指を差し出したんだろ。 だからてめーには小指がない、それはいま、手袋をしていない右手があらわしている。 そして……てめーの小指は……これだろ!」
その言葉と同時にディアが取り出したのはザガンが消滅したところに遺されていた、白いもの…それは小指だった。
「なっ……!?」
カートは自分が今手袋を取っていること、それにより自分小指がないことがバレてしまったこと、ここで自分が油断していたことに気付かされる。
「くっ……その小指は偽物だ、別の人間のだ……!」
「まだ言い訳しているけど、もう苦しいぜ。 だってこの部屋にてめーがいることが、てめーが悪魔の力を持ってる証拠にもなってるしよ」
「ど、どういうことですか?」
ディアはカートに対し、自分が密かにこの部屋に施していたからくりについて、説明をした。
「この部屋さ、オレが軽く封印したから普通の人間は入ってこられないようになってるんだ。 開けられるのは悪魔の力を持つヤツか、エクソシストだけなんだよ」
「!?」
「あんたがエクソシストなら、ザガンにつられるようにしてこの屋敷に住み着いた弱い悪魔は祓える……でもやってない。 それに魔具があんなにあって、そのままにしている。 アリスのことも、魔具の材料にでもするつもりだったんだろ?」
「そんな……!?」
「この方法、オレがたまーにやる手法なんだよ。 オレをエサにすることで部屋に悪魔を誘き寄せて、正面から祓うための……なっ」
そうディアがいたずらっ子みたいに笑うと、カートはわなわなと震え上がりながらディアに突っ込んでいった。
「うぉぉぉぉおおっ!」
「逆ギレか」
ディアはそう言うとカートの突進を回避して、彼に足を引っかけて盛大に転ばせる。
するとカートはテーブルの上にあった花瓶に顔を叩きつけることになり、その衝撃で少し動きが止まったので、ディアはそこにあった分厚い本を手に取るとそのカドで彼の頭を強く打ち、気絶させた。
「……」
「ふぅ、これで終わりで良いよな」
事件に幕が下りる瞬間を見たアリスは、ただ呆然としていたそうな。
その後、ディアから連絡を受けたエクソシスト機関の補導官達が屋敷に駆けつけ、魔具の違法取引を行っていたとしてカートは逮捕され連行されていった。
物置部屋にあった魔具もまた機関に回収されていき、ポンド邸から悪魔に関わるものはすべてなくなった。
その後、ディアはポンドから報酬を受け取りつつ今回の事件の一部始終や、カートの正体についての説明をしていた。
「まさか、カートが私にあの魔具を売ってきた商人だったなんて……信じられません」
「大方、あんたが衰弱死したあとでこの屋敷とあんたの財産を独り占めしようとしてたんだろ。 あの貧乏だったあんたは、カートの目的に打って付けだったんだ……悪魔に魂を売ってでも貧乏から抜け出したい一心だったから、そこを狙われたんだよ」
「……」
「で、本題はここからだぜ。 あんたはこれからどうするんだ?」
ディアがそう問いかけると、ポンドは自分の今後の予定を語っていった。
「真面目に商売をしていきます。 この屋敷のものを売って、普通の家で普通に余生を過ごします……もう、欲に目が眩んで悪魔の力を借りたりはしません」
「そっか、じゃあ……お役目というのもあるし、もしもの時のために、魔具かどうかを判断するための道具を渡しておく。 これでもう、あんたは悪魔に翻弄されることはないだろうぜ。 間違ってももうやるなよ」
「はい……このたびは本当に、お世話になりました……」
エクソシストの最後の仕事は、報酬を受け取りつつも悪魔と依頼主の関係を断つための処置を施すこと。
そのためにディアはポンドに、白銀の十字架を与えてそれを常に傍らに置いておくように伝えたのである。
それを受け取ったポンドはまさに、つきものが取れたようなスッキリした顔をしていたのであった。
「……はぁぁー! ようやく仕事が終わったぜぇ! ラクショーとはいえ、仕事は疲れるな! さぁアリス、さっさと帰って寝るから帰るぞ!」
「はいはい……」
依頼を終えたディアはもうゆっくりしたいようであり、アリスにすぐに帰るよう促すと、アリスは呆れたようにため息をついて、バスに乗り込んだ。
動くバスの中、席に着きながら外の景色を見た時にアリスの脳裏をよぎったのは、自分が囚われしまって拘束されている間のこと。
ずっと息苦しくて動けなかったところに、彼が助けに駆けつけたあの瞬間のことだった。
「……でも私、今回はディアさんに助けられました……。 あのままディアさんが助けに来なかったら、私……」
あのまま悪魔の生贄となっていたのだろうと考えたアリスは、怖気がした。
仮にもエクソシストなのに、悪魔に敗北することになるのは耐えがたい屈辱だし、なによりも怖い、生贄になるのはイヤだ。
そんなアリスの心情に気付いたディアは、アリスに言う。
「……心配はいらねぇよ、近くにいる限り誰も犠牲にはさせない。 お前を襲う悪魔は、全部オレが祓ってやる」
「……」
「その証拠に、お前もオレも今ここにいる。 だろっ」
「……そう、ですね」
そうディアがにっこりと笑いながら言ったので、アリスも釣られて笑ってかえした。
そんなやりとりをしている間にバスはディアの自宅の近くのバス停に到着したので、二人はバスを降りて自宅に入り、ディアはすぐに寝るために奥の寝室へ向かったのだが、その際にゴミ箱を蹴って倒してしまう。
「あ、やべ! ゴミ箱を倒しちまった!」
「もう、なにをやってるんですか……」
そういえばディアの部屋の掃除はしないままだった、とアリスは思い出しつつディアが倒したゴミ箱に手を伸ばし片付けようとした。
だがそのゴミの中で、黒光りする虫が数匹蠢きだした。
「え……きゃあぁぁぁぁ~~!」
その虫を見たアリスが絶叫し、その衝撃で後ろのテーブルに当たると、テーブルの上にあったお菓子の箱や本、カビの生えたパンや中身が残っているコップが雪崩のようにアリスの上に振ってきて、アリスはその下敷きになってしまった。
「あ……やっべ……」
これはアリスにどやされる、と確信したディアは顔を青ざめさせつつ、少しずつ後退していった。
一方のアリスは、身体をわなわなと震わせながらディアへの尊敬の念が怒りの感情へと変わってきていることを実感していきながら、その気持ちを声にそのまま出す。
「ディアさぁぁぁぁん!!」
アリスの怒号がその家に響き渡り、ディアは彼女の説教から逃げるために足早に逃げていくのであった。