一次創作短編集   作:彩波風衣

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人の忘れている記憶を呼び戻す手伝いをし、その調査や推理を生業としている特殊な職業・記憶探偵。
この物語の主人公・イツキもその記憶探偵である。

今回は、とある老人の失った記憶を取り戻すための調査をすることになった彼は、かつてある理由から大勢の人々が連続で死んでいったことが原因で滅んだ国の情報を手に入れる。
そこに、老人の失った記憶が大きくかかわっていた。


朽ちた首は唄いつづける

 

 

 

 国が滅んだ。

 その国に住んでいた国民は皆、一晩のうちにみな死んだ。

 どうしてそんなことになってしまったのだろうか、国が滅んで数十年が経過した今でも解らない。

 今でもハッキリ思い出すのは、最初に町がひとつ、爆発により吹っ飛んだあの光景と、自分を冷たく見つめる周囲の…あの目だ。

 ただ、何故彼らが自分のことをそんな目で見ているのか…何故、町が爆発により吹っ飛んだのか…それが何故、国の各地で連続で起きてしまったのか。

 その理由が、わからない。

 

「だから貴方に伺いたいのです。 私のいた国は何故、滅んでしまったのですか」

「……ふむ……」

 

 その話を、イツキは老人から聞いた。

 イツキは歳は30頃の男性であり、人から話を聞いては、欠けた記憶や心の奥に潜むものを見破りその真相を探り出す、記憶探偵と呼ばれる職務についている。

 この老人も、そんなイツキの話を聞いたからこそ、こうして彼の元を尋ねたのだろう。

 

「一晩で滅んだ国、ですか……。 貴方はその国に住んでいたのは、覚えているのですね」

「……はい、私はその国に住んでいました、それは覚えています。 ですが、国の名前もわからず……さらにその国が滅んだ原因が思い出せないのです。 だから、ずっとわからないのです」

「……そうですか……」

 

 老人の言葉を聞いたイツキは、ふぅっと息を漏らすと老人の話をメモした手帳をパタンと閉じて、頷いた。

 

「解りました、この真相を……このイツキが解き明かして見せましょう」

「本当ですか?」

「ええ……ただし、どのような真実を目の当たりにして、貴方がどうなろうとも……私は一切の責任を思いません。 それでも構わないのであれば、私にこの一件のすべてを委ねてくださいませ」

「どうか、どうかお願いします……。 どんな真実が待っていようと、私は構いません」

 

 老人はしわくちゃな手を見つめて、その手を見て老いている自分を思い返したのか、身体を震わせながらイツキに懇願する。

 

「国が滅んで全てを失ったことに関して……なにも知らないまま、老いて死ぬのは嫌なのです……お迎えが来たとしても、死にきれません。 どうか、どうかお願いします」

「それほどまでだったとは。 了承しました、契約成立です」

「おお、ありがとうございます……!」

 

 こうしてイツキは老人の国が滅んだ原因を調べることとし、帰って行く老人の後ろ姿を見つめながら、胸ポケットに入れていた懐中時計を取り出した。

 

「……では、参りましょうか」

「クルルルル」

「アベル、この件も早々に解決させましょうか」

「バウ!」

 

 アベル、と呼ばれた真っ黒な体毛のラブラドール・レトリーバーはイツキの声に応えるように短く鳴いた。

 そんな相棒の声を聞いたイツキはクスリと笑うと、まずは老人の語っていた一晩で滅んだ国というものについて調べていく。

 たった一晩で滅んだ…そのような国が果たしてあっただろうか、と思いながらもイツキはその国の情報を掴むためにネットで資料をあさった。

 

「あの老人の様子からして、滅んだのはつい最近のこととみるべきですね。 そして、国という規模の大きいもの……それが滅ぶというほどの規模の大きい出来事が起きたというのであれば、大々的なニュースになっているはず……」

 

 そうブツブツと呟きながらイツキは資料を探し出すために、老人から聞いた部分的な情報をネットで検索していった。

 するとイツキの予想は的中し、ネットにある国の名前が引っかかった。

 

「ツスハ」

 

 それは、十年前に滅んだツスハという名前の国だった。

 イツキはマウスを操りながらその国で起きたことを、国に関する記事の載ったページをスクロールしていくことで調べていく。

 

「何々……ツスハは東に存在していた島国……多くの人口と豊かな文化や自然に囲まれた平和な国であり、軍事体制としては自衛にのみ特化していたという。 だが、ある事件により国は徐々に衰退していき、一晩で各地が大規模な爆発を起こしたことをキッカケに、完全に滅んだ……。 今その島国は、かつてそこに人が住んでいたと言う痕跡を僅かに残すのみである……」

 

 とりあえずツスハがどういう国であったのか、ページを読み上げて記憶していくイツキ。

 老人が語った内容と一致することから、老人がかつていた国というのはこのツスハで間違いないだろう。

 老人はその国が滅んだ原因を知りたいと言っていた、だからイツキはさらに情報を調べようとしたものの、国が滅んだ原因はまるで人目につくことを恐れて隠れているかのように、その深い部分を知ることは出来なかった。

 

「インターネットでの調査はこれが限界、というのが現状と言ったところでしょうか」

 

 そう呟くとイツキは、静かに口角をあげると次の調査プランを脳裏に思い浮かべつつパソコンを落としたのであった。

 

 

 

 そして翌日から数日間、イツキはツスハに関係する人物やその国に関する情報を探し出し、僅かに出てきた情報をかき集めていった。

 流石にツスハは今イツキがいる町からは非常に遠いため、自力でその国へ赴くことは叶わないのだが、調査で得ていった情報の中には、ツスハの国の者は皆死んだわけではなく各地に散らばったことも判明したので、その人物に話を聞いていくことにした。

 

「貴女、かつてツスハに住んでいたのですね?」

「ええ」

 

 このように情報を集めていき、やがてイツキがたどり着いたのが、今彼の目の前にいる、30代前半くらいであろう女性だった。

 彼女はこの町で夫や子どもと共に暮らし普通の生活を送っているというのだが、調べていった結果、彼女こそがツスハのかつての出身者であることを嗅ぎつけた。

 イツキは、彼女に自分がツスハについて調査をしていることを説明した後、聞き耳を立てられないよう事務所に彼女を呼び詳しい話を伺うことにしたのであった。

 

「……私が得た情報と、貴女の話が同じであれば……貴女がツスハにいたのは20代頃だと思うのですが」

「そうです。 私はこの国に嫁ぐまでツスハに住んでいました。 丁度、国が滅ぶ半年前に」

「半年前……」

「まさかツスハがそのような末路を辿るとは、あの頃は少しも思っていませんでした……。 私が嫁いだのはあくまで、今の夫と結ばれたかったからであり、国を捨てる意志はなかったのです。 本当に、偶然としか言いようがありませんでした」

 

 そう女性はツスハからこの地に結婚という名目で移り住んだ経緯を語っていった後、少し諦めたような顔をしながら話を続けていった。

 

「……ですけど、それも仕方のない結果なのかもしれません」

「と、いうと?」

「ツスハはかつては、本当にいい国でした。 豊かで平和で、私はその国で不自由なく暮らしていたのです。 言うほどお金持ちではなかったのですが、生活で困ったことはない……衣食住も整っていって、それが当たり前な日々を、私は20年くらい送っていました」

「ふむ」

「ですが、私がツスハを離れる数年前から……徐々に狂っていったのです。 その頃、国を取り仕切る主が不慮の事故で命を落とし、新しい主が国の頂点に立ったのです。 その新しい主は国をより豊かにすると、そう高らかに宣言したのです。 ですが、それは叶いませんでした」

「何故です?」

「……」

 

 女性はかつてツスハで起きていったことを思い返し、少し肩をふるわせていた。

 そんな女性を落ち着かせようとイツキは彼女に紅茶を飲むように勧めると女性もそれを聞き入れ、イツキが淹れた紅茶を口にする。

 そうすることで落ち着きを取り戻した女性は、引き続きツスハで起きたことを語っていった。

 

「国の主は、国民にたいし税をより多く求めるようになったのです。 事細かな条件をつけて、国民に無理な出費を重ねていき、生活を苦しませていきました。 おまけに、食料などの物価も入手困難と言う理由の元にあがっていき……私達は生活の困窮を余儀なくされていきました」

「なんと」

「そうすることで国民は徐々に生きる活力を失っていきました。 なににも挑む意欲を無くしていき……病に苦しんでも病院に行くお金もなくそれを堪えて身体を弱らせる人もいて……食べるものや飲むものをまともに得られず餓死する人もいました。 夏の暑さや冬の寒さに対抗する手段として発展していたはずの技術力も、エネルギーを制限されることでそれを発揮させることも難しくなり、暑さや寒さに打ちのめされて力尽きる人もいたのです」

 

 女性が語っていったのは豊かで平和だとうたわれていた国の実態であり、イツキは脳裏に自分に依頼をしてきたあの老人の姿を思い浮かべつつ、冷静に女性に問いかける。

 

「その実態を、国の主は知らなかったのですか? そして、国民は声を上げていたのですか?」

「もちろん、知らないはずはありません。 国民も、声を上げていました。 ですが、聞き入れてもらえませんでした。 聞き入れているのであれば、無闇な増税も過度な物価上昇も、成立していなかったはずですもの……生活が苦しくならないよう、処置を施してくれていたはずだもの……。 ですが彼らは、それを聞き入れないばかりか、世代の若い者に意欲が低いことを責任転嫁し、国の衰退の責任を国民の努力不足だと言って、責任を要求してきたのです」

「ほぅ」

「そうしていき、国にいる人々は生活が苦しくなっていき……夏の暑さや冬の寒さ、力生活の節約方法、働く場所やその条件などに、悩み苦しみ、頭を抱えていきました。 私達は、それでも耐えていくしか……ガマンしながら一日を必死に生きるしかなかったんです。 今にして思えば、私達ツスハの人間は忍耐強くて真面目だという気質を、利用されていたのかもしれない……そう思ってしまいますね……」

 

 元々のツスハの国の人間の気質を思い返した女性は自嘲気味に笑うと、話をさらに続けていく。

 ここからは、国の滅ぶ瞬間の話でだろう。

 

「そんなある日、ついに国民が限界を迎えました」

「限界?」

「そのキッカケは、ある一家とその親族が、集団で自決を図ったことです。 彼らはインターネットに自決の宣言とその理由を流すと、宣言通り家の中にガスを充満させ、火をつけて爆発を起こしたのです。 それは、ツスハの中で大事件となりました」

「でしょうね」

「彼らの遺書と呼べる、ネットに流れたメッセージを見た人々は恐怖し、同時にその原因を作った国の主らに敵意を向けていきました。 やがて彼らは、もうこれしか……この苦しい国の情勢から逃れるにはこうするしかないという意識に飲まれていき……徐々に各地で、主に対する恨みや怒りを込めた遺書だけをのこし、自決するものが現れていったのです」

 

 女性が語っていくことで、ツスハ滅亡の真相を知っていったイツキは額に手を置き、ため息をつくと持論を口に出していった。

 

「憐れな……それが、ツスハ滅亡の真実だったとは……。 自然災害や疫病、敵国からの銃撃で滅んだというのが滅亡の理由であれば、幾分かマシに思えてしまいます」

「私も……正直に言ってしまえば、そう思います」

 

 国の主に反抗するために国民が次々に自決をしてしまう、それも国を取り仕切る者達にたいする恨み言を遺して。

 その恨み言が遺っているはずなのにインターネットを探っても出てこないのは、隠蔽されてしまったからだろうか。

 そんなことを考えているイツキに、女性はかつてのツスハの国民について語っていった。

 

「私以外にも、ツスハを出て行き各地で暮らしている人は多くいます。 それぞれ、今はその国で平和に暮らしていると思います。 私も、今はこの国で家族とともに暮らせて幸せを覚えっています。 ですが……中にはもしかしたら、ツスハを再建したいとおもっている人もいるでしょう……。 私はその意志はないですが、彼らの願いを否定しない、侮辱しないことだけが、せめてしてやれることだと、そう思っています……私の勝手なエゴかもしれませんが……」

「それが一番いいのですよ。 そこで復興を願いたい人を否定してしまうことをしてしまえば、貴女もツスハ潰しの加担者となってしまいます。 貴女は貴女、この国で家族と共に暮らしていくと良いでしょう」

「……はい、ありがとうございます。 記憶探偵さん」

 

 そうしてツスハ滅亡の真実を知ったイツキは、女性を帰した後でレポートをまとめていき、やがてある真相に…あの老人の正体に近づいた。

 自分の脳裏にくみ上げられた推理、そこから浮かんだ説。

 それが正しいか否か、確かめる時は近い。

 

「点と線が、少しずつ一つになってきましたね……」

 

 自然と、イツキはその口元に笑みを浮かべていた。

 

 

 

 老人が再びイツキの事務所を訪れたのは、依頼をした一ヶ月後のことだった。

 老人は突如イツキから電話をもらい、失われた記憶の内容が解りそうだから話をして記憶を呼び起こしたい…だから来て欲しいと伝えられたことにより、老人はイツキの事務所を再び訪れたのである。

 

「イツキさん」

「本日はよくお越しくださいました。 突然お呼び出ししてすみません」

「いいえ、私もずっと、真実を知りたかったのです。 その時が訪れるのを、この一ヶ月間ずっと、お待ちしていました。 どうか、どうか……」

「わかっています。 私の導き出した答えを……説明いたしましょう。 さ、どうぞ中へ」

 

 そう言ってイツキは老人を事務所の応接室に招き入れ、彼に紅茶を差し出しつつ向かい合い、一ヶ月間の調査の結果に自分が導き出した答えを彼に語り出した。

 

「まずご確認したいのですが、貴方の名前は……依頼してきたとおり、クシドさんで間違いないですね」

「はい」

「……」

 

 突如、依頼主である老人の名前を確認したかとおもえば顎に手を当てて考え込みだしたイツキ。

 そんなイツキの様子に不安を覚えた老人は、彼に声をかける。

 

「あの、記憶探偵さん?」

「……ああ、失礼しました。 つい、考えにふけってしまったのです」

「は、はぁ……」

「では、本題に入りましょう」

 

 そう、イツキは老人に対し微笑みかけながら話を進めようとしていたのだが、急にその笑みを消して無表情になったイツキは、老人に言い放った。

 

「単刀直入に申し上げます。 かつての貴方は、ツスハという国を取り仕切っていた……国の主です。 それも、丁度ツスハが滅んだ時期の」

「……」

 

 イツキはこの目の前にいる老人…クシドこそがツスハが滅んだ原因である国の主であると言い切った。

 そのイツキの短い結論を聞いた老人は、目を丸くしたかと思えば狼狽え出す。

 

「まさか、私が国の主などと言うたいそれた存在なのですか……!? そんな、そんな!?」

「完全にお忘れになってしまっていたのですね。 なんとも憐れなことに……わずか、10年ほど前のことだったというのに。 では、記憶を失った原因も解っておられないと言うことですね」

「……」

 

 無言、それは肯定を示している。

 そんな老人に対しイツキは、自分が突き止めたツスハ滅亡とその原因、そしてそれを知っていった経緯を語っていく。

 

「私は貴方の証言に合わせて、近代で一晩で滅んだ国を調べました。 その際、ツスハという国のことを知ったのです。 私はこの国が貴方の記憶の手がかりになるのではないかと読み、ツスハに関する手がかりや歴史、そしてその国にかつて住んでいた人々の元を訪れ、情報をかき集めていきました」

「……」

「そうして私は、ツスハ滅亡の原因を知ったのです」

 

 国の主が交代して、その主は国を豊かにするという名目の元税金を国民から巻き上げて、さらに入手困難という名目の元物価上昇していくことで国民の生活が苦しくなっていったこと。

 それにより国民は生活できなくなり様々な理由で命を落とす者が現れ、ついには国に住み続けるのが嫌になって自暴自棄になり集団で自決を行うようになっていったこと。

 その繰り返しにより国民はいなくなっていき、最後には町一つを巻き込む集団自決を行ったことで完全に国は崩壊してしまったこと。

 イツキは自分が調べ上げたツスハ滅亡の経緯を、一通り老人に話聞かせていくと、老人は呆然とした。

 

「そ、そんな……国が滅んだ原因が……そんな……」

「私がかつてのツスハの国民に話を聞いていった結果、皆そう言っていました。 今各地に生き残っている旧ツルハの国民は、その国にいることに苦痛を覚えた故に出て行った者が大半です」

「で、では!」

 

 老人は再び狼狽えだし、バンッと机を大きく叩きながら声を荒げつつイツキに問いかけていった。

 

「もし私が貴方の仰るとおり、ツスハ滅亡の原因である国の主なら! ツスハが滅んだ全ての責任は私にあるというのですか!?」

「そうなりますね」

 

 あっさりと言い切るイツキに対し、老人は震え上がる。

 そんな彼の様子から、自分が国を滅ぼしたというのを認めたくないのだろうと悟りつつもイツキは、話を続けていった。

 

「確か貴方は仰ってましたよね。 記憶の中にいる人々は貴方を冷たい目で見ていたと……その人々というのは、ツスハの国民なのでしょう。 彼らはインターネットなどで、国の主やその周囲にいる、国を取り仕切る役職の者達に恨みを遺したというのです。 ですが、それはネットでいくら探しても見つかりませんでした。 きっと、国を取り仕切っていた……恨みを向けられていた者達が自分達が責められることを恐れたことで、隠蔽したのでしょうね」

「……そんな、そんなはずは……」

「そして彼らは、さらにツスハのことで責任を追及されることにたいし臆し……国を捨てて別の地へ旅立っていったそうです。 今ツスハがかつて人がいたという痕跡だけを残して、なにもないのも、もう誰かが守っていない証拠……」

 

 そう言いつつ、イツキは老人が身につけているものに目を向けた。

 彼が身につけている、見かけない文様の刺繍が施されている、質の良いコートだ。

 

「貴方のそのコート、よく見ると不思議な刺繍が施されていますね。 私も、貴方と会うまで見たことがありませんでしたが……それは、ツスハ発祥の文様ですね。 それを、中々良質なコートに、そこまでしっかりと施された衣服を身につけていると言うことは、貴方はそれなりの地位にいたという証拠になります」

「……これはずっと身につけていたものなのですが……このコートの刺繍にそんな意味が……」

「そのツスハ発祥の文様も、ツスハの終わりと共に見せなくなっていったのでしょう。 ツスハの生き残りが各地にいるとはいえど、それでも数は多くないので、あまり見かけなくなってしまった……。 そして、あまり見かけない以上それを生み出せる者もいない、ということになるのでしょうね」

 

 そうすることで、イツキは老人がツスハの出身でありそれも高位にいた人物であることを突き詰めていき、老人が時折見る夢についてもつじつまを合わせていく。

 

「そして、貴方が人々が集団で死んでいき、町が一つずつ消えていく光景を夢に見て……尚且つ人々が自分を冷たい目で見ている。 その情報もまた、貴方がかつてのツスハ国の主出であったことを証明させています」

「なに……?」

「国の主の増税が原因で国民が苦しみ命を絶っていったのであれば、恨みの矛先は自分達を死に追いやった原因を作ったであろう国の主に向けられると考えても、なにも不自然はありません。 彼らは恨みを遺しながら、国の主や権力者に対し一矢報いるため……自決をしていった。 貴方が朧気な記憶や夢で見る、自分を見る彼らの冷たい目は……貴方を恨む死したツスハの国民から向けられているものとみるのが、普通の考えなのですが……」

「そんなはずはないっ!」

 

 イツキの話に対し老人は急に激昂し、声と態度を荒げながら彼の話に反論していった。

 

「私が多くの者に、恨まれている……だと……!? そんなことがあるはずがない! 国は確かに苦しかったのかも知れない、国民はそれで辛い思いをしていたのかもしれない……だが、自決をするほどのものか!? それも国の上の者に一矢報いるためとは……それでなにも思わなかったら、無駄死にもほどがあるのではないか!?」

「……」

「そもそもだ、国民も異を唱えていたのだろう!? だったら唱え続けて苦しい生活に耐えていかねばならないはずなのではないのか……!? ツスハの人間は我慢強く真面目な気質だったのだから、国の主ではなくそれに従い続ければ、集団自決をせずにすんだはずではないのか! そんなもの……国の主や権力者にたいしての、単なる責任転嫁ではないのか! 自分達がなにも出来ないから生活が苦しいだけだろう、だのにそのことを全て、国の主や権力者に責任や原因を押しつけていただけではないのか!?」

 

 初めて会ったときの弱々しい姿勢とは打って変わっての老人の態度に、アベルが警戒をするもののイツキはそれを静かにおさえると、彼と向かい合いながら冷静に問いかける。

 

「貴方……私の仮説を聞いただけですよね? あくまでも憶測なのに、何故そこまで怒り散らすんですか?」

「なっ……」

「それも、国の主にたいしては何も言わないばかりか、自決していった国民を責め立てて……何故、そんなことをしてしまったのですか? それに、貴方は今かつての自分にたいし、半信半疑だったはずですよね?」

 

 イツキがなにを言いたいのかを悟り、老人はハッとした。

 彼はあくまで自分の推理を…調査の結果出た答えをそのまま伝えて言っているだけに過ぎない。

 それに過剰に反応してしまうのは、彼の推理が的中していることを…図星を突かれてしまったのを証明している、ということではないのか。

 さっきの反論で自分こそが本物の、ツスハの国の主であることを自白してしまったことを知った老人は愕然としながら、呟いた。

 

「……では、ずっと私を、苦しめていたのは……私の政策により苦しみを覚えた人々が、私を恨み続けていたからなのか……? 私は、多くの憎しみを抱えていたというのか……10年以上も……」

「貴方がその記憶が朧気になっていたのは、自分の行いにより国民が豊かになるどころ過疎の真逆で、苦しみ死んでいったという事実……国民の訴えから逃げたい一心からだったのでしょうね。 そんな責任を背負いたくないという思いが、貴方から国の主であるという記憶を奪っていった……。 記憶喪失という概念で覆い隠してしまいたかったのでしょう」

 

 イツキは紅茶を一口のむと、彼と向かい合いながらかつての国の主はどういう意向でいたのかを憶測ですがと付け足しつつ語っていった。

 

「貴方は国をよくしたいという名目で主の地位に就いたが、実際には……貴方はただ単純に、人より高い地位に立って優越感に浸りたかっただけだったのかもしれません。 でなければ、国民の悲痛な声に耳を傾け、かつ恨まれてもそれを受け止められたはずなのですから……」

「………」

「これ以上の話は依頼とは無関係故に脱線するので省きますが……とりあえず私が導き出した、貴方の欠落した記憶の内容は……」

 

 イツキは老人と顔を合わせて伝える。

 

「貴方はかつて、ツスハ国の主であり……貴方の記憶の中に出てきたのは、貴方を恨んでいた国民達です」

「……そんな、はずは……そんなはずは……」

「私も信じられませんが……それが私の導き出した答えと言うほかありません」

 

 そうイツキは断言するが、老人はブツブツ呟きだした。

 

「……私が多くの者に恨まれているなんてありえない……私がそんな間違ったことをするはずがない……恨まれる道理なんてない……」

「おやおや」

「すみませんが、記憶探偵さん。 この話……どうか、どうか……私は聞いていないことにしてくださいませんか」

「お断りします」

 

 老人からこの依頼はなかったことにしてほしいと頼まれるものの、イツキはそれをハッキリと断ってみせた。

 そんな態度のイツキに対し老人は驚きつつも、すぐにある理由を察しそうかそうかと意味ありげに呟くと、鞄から札束を取り出して見せた。

 

「そうですな、貴方には一ヶ月間仕事をして貰ったのに……私の一方的な理由で撤回しようとするのは、ただ働きになってしまいますね……すみません。 これは、今回の依頼料です……多めに出すので、この話はなかったことに……」

「たしかにただ働きはイヤですけど、それでもこの話はなかったことにできません」

 

 高額の依頼料を出されても、イツキは一切態度を変えないまま彼に告げた。

 

「どのような真実を目の当たりにして、貴方がどうなろうとも……私は一切の責任を思いません。 私は貴方から依頼を受けたときそう仰ったのを、お忘れですか? 貴方が、それを了承したことも……。 ちなみに言いますが、私はそれをスローガンにこの仕事をしているんですよ。 お気づきになられませんでしたか?」

「……ッ……」

「……ご安心ください。 貴方が国の主であることは外部には漏らしません。 私も、貴方を特別責め立てて責任を追及することはしません。 かつてのツスハの国民にも、貴方の話は一切しませんよ。 だから……貴方は過去の時間を忘れて、残りの余生をゆっくり過ごせば良いのです」

 

 そう言い、必要な分だけの依頼料を札束から抜き取ったイツキは、彼には真実を伝えたと言って返そうとする。 最後に、大事なことを伝えて。

 

「ああ、でも国民を悪く言ったり、かつての国民を責め立ててはいけませんよ。 そうしなければ、貴方にたいする恨みは続いてしまいますからね」

 

 イツキは呆然としたまま事務所を出て行く老人を、そのまま見送ったところで扉を閉めると、アベルにドッグフードを与えた。

 

「さて、隠された記憶の扉は開かれたことで、今回の仕事はこれでおしまいですね」

「ワンッ」

「次はどのような依頼者がくるか……そして、真実を解き明かしていかなる記憶が見られるのか……」

 

 ドッグフードを美味しそうに食べるアベルを見て語りかけながら、イツキはその顔に笑みを浮かべていた。

 

「ふふ、ひとつ終わったばかりだというのに、また次の仕事が楽しみになりましたね。 アベル」

 

 記憶探偵・イツキはこれからもこの仕事を続けていくのであろう。

 隠された記憶の扉を見つけ開くことで、人の真実を解明していくために。

 

 




いかがでしたでしょうか。
ちょっとこれを書いていたときはもやもやしていて、気づいたらこういう話になっていました。
これ、現実にならないといいですよね。
私の空想の中だけであるといいです…というかそれはそれで私の空想世界はどういう作りになってるんだと思われるかもしれませんが。
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