大尉と向き合うセシリアを見て、大尉はその歩みを止める。お互いの距離はおよそ数メートル。向き合う二人はスポーツなどとは程遠い、戦争をしているかのような空気が満ちていた。
「・・・良い眼をするようになった」
「お褒めに預り光栄です・・・わ!!」
セシリアは大尉に向けてレーザーを放つ。大尉はそれを屈んで避けると白狼のスピードを活かしてセシリアに接近する。
「インターセプター!」
「・・・まだ遅い!」
大尉の接近に気づいたセシリアはインターセプターを出して、接近戦に備えようとするが遅かった。セシリアは装備を出す時にその武器の名前を呼んでしまう。それは呼ぶまでは装備は出せないという事であり、武器を出すのが遅くなるのを表していた。大尉がその瞬間を見逃す筈は無く、インターセプターが出された手に向かって膝を腹の方に折り曲げて一気に突き出す蹴りを放つ。インターセプターはセシリアが握る事無く、地面に落ちる。
「くっ・・・まだぁ!!」
セシリアはインターセプターを掴めないと理解し、直様ミサイルポッドからミサイルを打ち出す。ほぼゼロ距離のミサイル。普通なら相手は直撃だろう・・・普通の人間なら。
大尉はミサイルを見て、自身の持つ他人を圧倒的に凌駕する動体視力でミサイルの真管部分を刺激しない様にミサイルのブースター部分を蹴り飛ばしてミサイルの軌道を変える、そんな離れ技をやってのける。
「ミサイルを蹴り返した!?キャッ!?」
ミサイルの軌道を変更する暇もなく、セシリアは自身のミサイルの直撃を受けてしまう。
ゼロ距離のミサイルの発射は咄嗟の選択肢としては最善だった。ミサイルの爆風は白狼にもダメージを与える。
「(・・・シールドエネルギーの減りが早い・・・確かに紙装甲だな・・・)」
爆風から逃げるように大尉は後ろにステップし距離を取る。
「そこっ!」
「・・・・・・っ」
爆風の中からレーザーが放たれる。大尉は腕をクロスして心臓に向けて放たれたレーザーを腕で受け止める。この時、大尉は初めてこの闘いで直撃を受けた。
再びセシリアと大尉が距離を取る。セシリアはスターライトmkⅢを、大尉はロングモーゼル2丁をお互いの頭部分に銃口を向けていた。銃口を向け合い、二人の間では緊張感が走っていた。その緊張感を破るようにセシリアが口を開く。
「ミサイルを蹴り飛ばす。あんな離れ技をやってのけるなんて・・・すごいですわね」
「・・・お前も爆風の中で撃つとは恐れ入った」
「ありがとうございます。戦いが始まる前に、先に謝っておきますわ。あなたを、男性を、この国を侮辱したこと・・・本当にすみませんでした・・・何の覚悟も無い。あなたが先日言った、傲慢な私が他の人、国を侮辱する権利はありませんでしたわ。私はまず一人の人間として間違った行いをしてましたわ」
「・・・その気持ちは受け取ろう・・・しかし闘争の前に言う事ではない・・・!」
「確かに・・・そうですわね!私は貴方に勝って、この恐怖を乗り越えてみせますわ!」
セシリアのレーザーが大尉に向けて放たれる。大尉はロングモーゼルを構えたまま、横にブーストをふかして、正確にセシリアに向けてフルオートに切り替えたロングモーゼルを撃つ。
「くっ!行きなさい!ブルー・ティアーズ!」
「・・・・・!」
セシリアは腕をクロスして、弾丸を防ぎつつ、後ろにブーストをふかして、距離を取った後に自立軌道兵器ブルー・ティアーズを展開する。高速で飛び回り、大尉を包囲するようにビットが大尉の周りを飛び回るが大尉はビットがレーザーを発射する前にロングモーゼルで、ビット全てを撃ち落とした。
「高速移動するビットを全て撃ち落とすなんて・・・化け物ですわね・・・」
ビットが全て撃ち落とされるのを見たセシリアに動揺が走る。その隙を大尉は見逃す筈は無く、イグニッションブーストでセシリアの目の前に立つ。
「・・・終わりだ」
白狼の脚部分に白いオーラがかかる。先ほどの踵落としで白狼はブルー・ティアーズに"触れている"。つまり、破狼の最大の力を引き出す条件は整った。大尉はセシリアの安全を懸念したのか、それとも減りの早いシールドエネルギーを懸念してか。比較的少量のシールドエネルギーを破壊エネルギーに変換し、セシリアの横腹部分に向けて、破狼を放つ。
「ガッ・・・ゴフッ!?」
セシリアは咄嗟の判断でスターライトmkⅢを盾にするが、破狼は盾、つまりスターライトmkⅢをへし折り、破狼はセシリアの横腹に直撃する。
セシリアは破狼の直撃を受けて、肺から空気が抜け出て、体がくの字に曲がる。セシリアは地面に砂煙を巻き上げながら滑るように落ちた。
「ハア・・・ハア・・・な、何ていう威力ですの・・・」
あれだけあったシールドエネルギーがほんの僅かしか無い。セシリアは震える手で起き上がろうとする。
"コッ"
起き上がろうとしたセシリアの頭に銃口が押し当てられる。セシリアは自分の死を理解し、顔を上げて大尉と向き合う。
「お見事・・・私の完敗ですわ・・・結局私は貴方に・・・死の恐怖に打ち勝てませんでしたわ」
セシリアは薄れいきそうな意識の中で懸命に喋る。その言葉を聞いて大尉は首を横に振る。大尉は喋らなかったが、大尉と戦ったセシリアは大尉の瞳が"お前は死の恐怖と向き合った。その覚悟を見せた時からお前は既に恐怖に勝ったんだ"と語っているのを大尉が言葉に出していなくても、心で理解していた。
大尉の瞳を見て、セシリアはニコリと笑う。
「そう・・・私は死の恐怖に勝てたんですのね・・・よかった・・・。さあ、一夏さん・・・私を撃って下さい。あなたの銃で私は今までの自分を殺して・・・新しい自分になれると思うので・・・」
大尉はセシリアの言葉を聞いて、静かに頷くとセシリアの額に向けて引き金を引く前にセシリアに聞こえる声で静かに言う。
「・・・最初にお前に貴族では無いと言ったな・・・訂正する・・・お前のその恐怖に立ち向かった覚悟・・・俺の知る貴族たちが見せた覚悟に似ていた・・・お前は立派な貴族だ」
大尉は何も能力の無い人間、セシリアが自分が見せた恐怖に立ち向かう覚悟を見た大尉はセシリアを尊敬の眼差しで見つめていた。
(・・・恐怖に立ち向かう覚悟・・・美しい覚悟だ・・・だから人間は素晴らしい・・・人の皮を被った化物(フリークス)である俺にはその覚悟が眩しい・・・)
銃声が響き、ブルー・ティアーズのシールドエネルギーがゼロになる。セシリアは自分が撃たれたと痛みで認識し、微笑んで地面に倒れた。