霧の都ロンドン。
二人の男が対面して何かを話している。
その威容から恐らく色位に届くレベルのものだろう。
二人が対面している建物の周囲には歴戦と言っていい程の魔術使い達が護衛についており、虫一匹たりとも入り込めないだろう
「さて…ここからが本題だが、『藤丸立香』についてどう思う?」
魔術師Aは、カルデアのマスターについて話題に挙げる。
「レイシフト率100%…人理が焼却される以前は性染色体以外は魔術的、物理的、精神面的にも同一と言われるあの二人か…」
魔術師Bは、二人の藤丸立香の資料を出す。
一人は黒髪の少年、もう一人はオレンジ髪の少女。
「しかし運命はどちらかの藤丸立香を選ぶ。
魔術的に重要なのは運命に選ばれた方だ。」
藤丸立香はどちらかが選ばれる。
ある世界では女の藤丸立香が選ばれ、またある世界では男の藤丸立香が選ばれる。
この世界では男の藤丸立香が選ばれた。
「選ばれていない方は捨ておいてもいい。
そもそももう一方の藤丸は事故で死んでいる。
選ばれた方の肉体自体には魔術的価値はない。
しかし奴の肉体が宿した外宇宙への縁。
そしてあの黒い死は…うまく利用すれば『■■』を手中に収められるかもしれん。」
「『■■』…ラヴクラフトが悪夢の中で観測し、伝承科でも記録されているあの光か?」
「そうだ。ロゴスリアクト・レプリカの一つを盗み出したアトラス院の裏切り者達『■■の■■』が開拓した彷徨海と同じく別位相にある世界で、
その世界を運営する聖槍/最果ての塔に当たるものの変化によって神體生成都市と化した『キヴォトス』では
世界を滅ぼすと言い伝わっているが…その性質は魔術的観点からして世界の価値よりも魅力的だ。
世界が滅ぶ前に我々が『根源』に辿り着けば問題はない。
『■■』が『抑止力』の奴らに勘付かれる前に使い潰せばいい。」
「ふむ、藤丸を■■の■■■とするわけだな? 了解した。奴の身柄を捕らえた後、
『■■』をこの世界に呼び寄せるとしよう。」
「マシュ・キリエライトはどうする?」
「マリスビリーの計画が潰えた今、あの娘にもはや利用価値は無い。
そもそもあの娘は兵器として生まれた存在だ。
兵器を使用した者である藤丸立香やカルデアを罪に問えたとしても兵器そのものへの罪は問えない。
手に入れる為の道理がない。
口封じに人一人が働かずとも生涯困らない程度の金を握らせ、適当に表社会へ放逐すればよかろう。
我々ならその程度の金は端金にすぎんだろう? 」
「そうだな。では藤丸を油断させる為に先にマシュを表社会に放逐するとしよう。最後の利用価値だ。餌になって貰うぞ。その後にこそ真にお前が人間として生きられるのだ。失敗しようが成功しようがそれは変わらない。」
二人は立ち上がり、動き出す。
カルデアは解散し、カルデアの面々はそれぞれの日常へと戻る。
マシュは何者かの手引きによってカルデアの誰よりも人間社会へ溶け込み、誰も違和感を持たない様に日常を謳歌している。
「そうか…マシュは、誰でもない普通の日常に溶ける事ができるようになったんだな。」
藤丸は、カルデアでの沙汰を終え、何の罪も問われず解放された。
藤丸は故郷へと帰る前に何でもない日常を過ごしているマシュの顔を見る為にマシュのいる街へ向かう。
マシュのいる街についた藤丸はマシュを探す。
(あれは…マシュ)
藤丸は、人間社会を謳歌するマシュを見つけ、近付こうとすると後ろから襲撃を受け、眠らされ、スーツを着た魔術使いの集団に連れていかれた。
「先輩?」
マシュは藤丸の気配のする方へと向く。
しかしそこには誰もいない。
眠らされた藤丸は、魔術師二人の元へと運ばれる。
「来たか…では早速、『■■』を呼ぶ為の下拵えをするとしよう。」
魔術師二人が藤丸に手をかけようとすると――
神秘の伴った煙幕が張られ、物理的魔術的な視界が防がれる。
そこに一人の少女――連邦生徒会長が入り込み、藤丸の身柄を奪い、逃走する。
連邦生徒会長は藤丸を背負い、外にいたSRT特殊学園で固められた護衛の生徒を引き連れ、近場の駅へと向かう。
魔術師達は、連邦生徒会長を追うが、護衛の生徒が魔術師達の前に立ちふさがり、
護衛の生徒達は追手の魔術師達によってヘイローが壊され、一人ずつ脱落していく。
連邦生徒会長は護衛の生徒が一人一人と脱落していくさまを見て、涙を流しながらも駅へと向かう。
(貴方は…■■の■■■になってはいけない! そんな事にはさせない!)
連邦生徒会長は、人祓いの結界が張られた駅に到着するとフェンスを乗り越え、キヴォトスへの位相へと移動する電車の前につくも待ち伏せの魔術師がそこにはいた。
「そいつの身を渡してもらおうか…」
「いいえ、この人は渡しません。『■■』をこの世界に呼ばせませんし、この人は我々の世界にとって希望となる存在なのです!」
「そうか…ならば死ね。」
連邦生徒会長は、藤丸の身を電車の中へと投げ、魔術師へ攻撃を仕掛ける。
魔術師は、連邦生徒会長の攻撃に対し、防戦一方で、少しずつ圧されていく。
(今なら私も…)
連邦生徒会長は魔術師の隙を付き、サイドステップで電車の中へ入る。
キヴォトスへの位相へ移動する列車に乗るが、扉が閉まる直前に魔術師からの呪詛を受け、体から血が流れだす。
「ッ…運命の…収束…どのような道筋を選んでもやはりこうなりますか…ですが…これで…」
連邦生徒会長は、この傷を負う事を知っていたように言うものの…目的が達成できたことに満足し、電車内で倒れると同時に、キヴォトス行の電車は発車し始め、この位相から消え去った。
「逃げられたか…」
「マシュ・キリエライトの事はどうしますか?」
「放っておけ。
それよりも我々もキヴォトスへ向かう手段を見つけるぞ。
これは寧ろ僥倖と言える。
あの世界こそ『■■』を呼ぶに相応しい…あの女が自ら儀式の場へと運んでくれるのだからな。
それに…キヴォトスから姿を消したアトラス院の裏切り者『■■の■■』は恐らく『■■』を呼びたがっている。
その望みを叶えてやろう。」
魔術師Aはそう言って魔術使いを引き連れてその場から立ち去って行った。
連邦生徒会長は、這いながら電車の中で倒れている藤丸を座席に座らせた。
連邦生徒会長は、安心し、フラフラと歩き、藤丸と面等向かうように前の座席に座る。
「私のミスでした…」