青春記録都市キヴォトス   作:とある厨病の異聞観測

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第11話 立ち込める暗雲

ヒフミと話し合い、アビドスは証拠の書類を整理し、アビドスの駅へヒフミを見送った。

一方そのころ、便利屋では覆面水着団の正体がアビドスと先生である事を知り、アルは驚愕してひっくり返っていた。

そして一日後…

 

「おはよう」

 

アルはげっそりとした表情で、歩き、机に突っ伏したままムツキに挨拶をする。

 

「うわっ! ビックリした! アルちゃん、徹夜でもした?」

「ううん、ちゃんと寝たわ。」

「社長、何か悩みでもあるの?」

「あの鞄の件で…アウトローらしくないわね。

本当に使ってしまっていいのか悩むなんて」

 

「アルちゃん。

先生から依頼されたアビドスの防衛についての計画考えたよ。

ね? カヨコちゃん?」

 

そういってムツキは振り返る。

藤丸は知らない。

便利屋たちが自分達の正体に気付いているのを。

藤丸はアビドスの負担を少なくするため、便利屋を用心棒として雇った。

 

「あらかじめ爆弾を数十ヶ所埋設して、爆弾を埋設した場所をあの子達と情報共有し、そこにあの子達の敵対勢力を誘き寄せてコテンパンにする。

ハルカがその準備として…」

 

カヨコが続きを言おうとアルの顔を見ると、アルはうとうとと今にも眠りそうな表情をしていた。

 

「聞いてる?」

 

カヨコはアルに対して強めにそう問いかけた。

 

「き、聞いてるわよ。」

「でも、今…」

「ちょっとした考え事よ。」

 

アルはそう言って、先日の演技の報酬で買った気付け薬代わりに強力なミントガムを口に放り込むとアルは強烈なミントの味にむせた。

 

「確認だけどこの方向で進めていい?」

「えぇ…」

「ねぇ、そんなに悩むくらいしんどいならさ。

先生から貰ったバッグのお金を素直に受け取って

資金に宛てちゃえばいいじゃん。

依頼の手付け金でもないなら、それを受け取った所で、クライアントである先生の命令に従う必要もないじゃん?」

「それはダメ。

何せこのお金はこの子達が本来受け取るべきもの。

それを使うなんてカッコよくないわ。

アウトローの名折れよ。」

 

アルは、鞄の処遇について悩んでいた。

本当に受け取るべきか、そうでないかを。

 

「…まぁ、この話はあとにして…ここで活動するにしても風紀委員会に気付かれてはおしまいだね。

今回の依頼はこれまで以上に派手に動きかねない。

これが私たちが考えうる最善の策だとしても

だからあの厄介な風紀委員会が気付く可能性もある。」

 

カヨコは、話を中断し、今回の依頼の懸念点について話す。

 

「厄介どころか。キヴォトス最強って言われてるんでしょ?」

「でもそれは風紀委員長「空崎ヒナ」と風紀委員長直属の新入生「女竜寺ランコ」、「我上院バゲコ」、「折田レティシア」の存在があるから。

風紀委員会の戦力の9割は、彼女達4人が担っていると言っても過言じゃない。

一騎当千って言葉を体現している人達。

そしてランコとバゲコに手出しした場合、二人に匹敵する力を持つ万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)の有力議員「明海リコ」とその妹分「羽判トリコ」が黙っていない。」

 

本来の世界にはいない五人の存在。

折田レティシアは、温泉開発部のメグを遥かに上回る火炎放射器「ファブニール・ブレス」を扱う黒い魔女で、無辜の生徒や風紀委員を傷付けた者への報復を行う公的な復讐代行者。

女竜寺ランコは、ホシノ以上の神秘を秘める怠け者で、剣と一体化した二丁銃を得物とする王子様の様な幼い少女で、彼女の活動時間である午後はゲヘナの犯罪者達が息を潜める程に驚異的である。

我上院バゲコは、超高圧放水銃を得物とするノブレス・オブリージュを体現する巨躯の女騎士で、主に温泉開発部や美食研究会の破壊活動に対して駆り出される。

明海リコは、万魔殿の中では丹花イブキに次ぐ知名度を誇る議員で、「万魔殿の空崎ヒナ」と評される程の実力と権威を持つ。

羽判トリコは、明海リコの妹分で、気に入らない存在やリコに危害を加える存在を自身の銃で痛めつけるゲヘナを体現する少女。

 

「言い換えるなら、

彼女達以外の風紀委員と万魔殿は、大したことないってこと。」

「言うね~」

「計画さえきちんと練ればね。」

「依頼の遂行を変更はないわ。

法律と規律に縛られない。

ハードボイルドなアウトロー。」

「それが便利屋68のビジョンだっけ?」

「フフッ、その通りよ。」

 

アルがそうムツキに返すと、事務所の扉が開き、ハルカが爆弾の設置しに終え、帰ってきた。

 

「おかえりハルカ。」

「お疲れ様ー。」

「ただいま戻りました。」

 

アルは、眠気で視界が揺れ、目頭を押さえる。

 

「アル様。」

 

アルは、ハルカの方を向く。

 

「いつでも言ってください。

私がこの手で、全部吹っ飛ばしてやりますから

この手で…」

 

ハルカは恍惚とした表情で、アルに誓うとアルの胃袋が空腹を訴える。

 

「ちょっとアルちゃ~ん! お腹も減ってるの~? あんなにお金をもらったのに?」

「ご飯行こうか。」

「えぇ、そうね。」

「何処にする? ラーメン? 紫関?」

「あの…」

「気にしない。気にしない。

バイトちゃん午後からだし、それにあの一件はもう終わってある意味ではクライアントの一人なんだから」

「全くしょうがないわね。」

「ハルカちゃーん。行くよー?」

「は、はい!」

 

便利屋は、依頼の前の腹ごなしの為に紫関ラーメンに向かった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

(さて、カイザーをどうするべきか…

そしてサポートの編成はどうすべきか。

あの子達が来る前に続きを考えよう。)

 

藤丸はそう思い、アビドスの対策委員会の扉を開くとそこにはノノミの膝を枕にして横になっているホシノがいた。

 

「おはようございます。

今日は早いんですね。」

「おはよー先生。」

「おはよう。二人とも、朝から何を?」

「あぁ、ダメだよ。ここは私の場所なんだから。」

 

ホシノはそう言ってノノミの太ももへ頬を擦り付ける。

 

「い、いや、そういう事じゃなくて」

「そうですよ? ホシノ先輩。

私の膝は、ホシノ先輩専用じゃないですよー」

「ううん…そっちでもないんだなー。」

 

藤丸は、困惑をする。

 

「ん、よいしょっと。」

 

ホシノはそう言ってまるで更年期の男性の様に立ち上がる。

 

「先輩どちらへ?」

「今日はおじさん。オフなんでね。てきとーにサボってるからー何かあったら連絡頂戴。」

 

ホシノはそう言って対策委員会の部屋を出た。

 

「ホシノは昼寝かな?」

「だと思います。」

「ハハッ…良い天気だからね。」

 

藤丸は、そう言って窓の外の太陽が照らしつけるアビドスの風景を見る。

 

「ホシノ先輩、変わりました。」

「ん?」

「今はいつも寝ぼけている感じですが、

初めて出会った頃のホシノ先輩は常に何かに追われているようでした。」

「追われるか…

それは色んな事に?」

「そうです。ありとあらゆる事に

聞いた話ですが、ホシノ先輩が入学した時、とある先輩がいまして

アビドス最後の生徒会長だったらしいんですが

その方が学校を去ってからは全てをホシノ先輩が引き受けるようになった。

まだ一年生だったのに…そんなことがあったからか

他の学園と関わる事も嫌がっていたのですが…かなり丸くなりなりましたね。」

 

ノノミは思い返す。

シロコにあげた青いマフラーを巻いたポニーテールのホシノの姿を

 

「まぁ、詳しくは私も知らないのですが…」

「君達が来たからかな。」

「え?」

「ホシノが変わったのは。」

「それはどうしてでしょうか?」

「なんとなくかな。

うん、なんとなくだ。

私はアビドスの事を知らない部外者だからよくわからないけど」

「それを言うならきっと先生もホシノ先輩が変わったきっかけの一つですね。」

「ははは、それはありがたいね。」

 

(まぁ、本当にそうなれたらいいんだけど。)

 

ホシノはまだ自分に対して心を開けていないと藤丸は思う。

 

(ちゃんとした方法で返すか…。

あの言葉には重みがあった

俺の我が儘はやはり間違っていたようだ。)

 

銀行強盗を成功した後のホシノの言葉を思い出す。

その言葉には重みがあった。

ノノミもその言葉に何かを思い出していた節があった。

 

(つまり…俺のやろうとしている事は青春を奪う可能性もあるってことか?)

 

藤丸は借金返済活動もまた青春の1ページであるという可能性を考える。

 

(それは本当に青春なのか? あの人理修復の旅こそ青春だと言える俺が言えた口ではないけども。)

 

藤丸はここに来て借金について悩む。

ホシノが言う手段の問題。

人理修復の旅、あの旅は少年少女があるべき青春を奪われ、世界が二度滅び、数多の死と別れを繰り返した旅であったが、その分、美しく彩られていた日々だった。

 

(これは借金を背負った少女達に対する獣の様な憐憫、

大人達が責任を負わなかった事に対する獣の様な慚愧という悪感情なのか。)

 

藤丸は思い出す。

謂れなき憐憫、慚愧は悪感情であるという言葉を

ホシノにとってアビドスの借金を様々な理由を付けて代わりに返そうとする藤丸自身の我儘はそういった悪感情のまま振るう悪行である可能性を。

 

(それでも…例えそうだとしても…まだ諦めきれない。

あの二人の善の様に青春を奪った獣の謗りを受けようともね。)

 

藤丸は、ゲーティアとマリスビリーの自分から本来の青春を奪い、人類を一度滅ぼしてでも人類の為に偉業を成し遂げたかった人類愛溢れる二人の(人類悪)を思い出す。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

アビドスの何処かにあるとあるビルの一室。

暗く照明がなく外から降り注ぐ太陽の光だけがその部屋を照らしていた。

 

「これはこれは」

 

黒い異形は、オフィスデスクに備え付けられたビジネスチェアに座り、何者かを出迎えていた。

 

「お待ちしておりましたよ。暁のホル…

いや、小鳥遊ホシノさんでしたね。これは失礼。

キヴォトスにはまだ馴染めていなくて。」

 

その何者かはホシノだった。

ホシノは、先生たちに見せる様な愛玩動物或いは好々爺のような表情を見せず

黒い異形に対して手負いの獣或いは憎むべき相手と対峙した若者の様な表情を見せる。

 

「黒服の人、今度は何の用なのさ?」

 

黒い異形、黒服はホシノを見据えながら手元に置かれている藤丸の資料を見る。

 

「クク、状況が大きく変わりましてね。

この度は再度、アビドス最高の神秘をお持ちのホシノさんにご提案をしようと思いまして。」

「提案? ふざけるな!! それはもう…!!」

 

ホシノは、怒気の籠った声で黒服を怒鳴りつける。

 

「まあまあ、落ち着いて下さい。」

 

怒鳴るホシノを嘲笑うように落ち着くようハンドサインをする。

 

「お気に入りの映画のセリフがありましてね。

今回はそれを引用してみましょう。」

 

黒服はそう言うと、何処からか天秤と二枚の写真を取り出し、天秤を机の上に置く。

黒服が取り出した写真は、かつて暁のホルスとして尖っていた過去のホシノと戦士として決意を秘めていた過去の藤丸の写真。

 

(あれは私の写真と…先生の写真?

先生ってあんな感じじゃ…

それに怖くて…何か重い物を抱えているような…)

 

ホシノは先生の過去の姿が映った写真を見て、何か怖気と憐れみを向ける。

写真に写る先生はまるで生き残る為に数多の血を浴びてきた悲劇の殺戮者の様に見えたからだ。

黒服は二つの写真を天秤の皿に片方ずつ乗せると藤丸の写真が乗せられた天秤の皿の方が重く天秤は傾く。

 

「あなたに、決して拒めないであろう提案を二つ。

興味深い提案だと思いますので、どうかご清聴ください。」

 

そう言いながら黒服は一枚の契約書をホシノに差し出す。

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