便利屋たちは今日からの仕事をする為に紫関ラーメンでラーメンを食べに来ていた。
「お待ちどう!」
「来たー!」
ムツキは、便利屋四人の座る席に置かれた至高のラーメンに目を輝かせる。
彼女達は一人前を頼んだはずだが、トッピングや麵の量からして二杯分の量で盛られており、伝票には八杯分の値段を取る筈が、紫関ラーメン四杯分の値段しか表記されていなかった。
恐らくまだ紫関の大将は、便利屋たちが金欠であると思っているのだろう。
「いただきまーす!」
ムツキは、ラーメンを口にし、舌鼓を打つ。
「美味しい~!」
「本当にいいんですか? 一杯分の値段で二杯分のラーメンを頂いて…こんなに贅沢してもいいんですか?」
ハルカは、二杯分に盛られたラーメンを前に目を輝かせながら紫関の大将に問いかける。
「なぁに…ウチのラーメンを食べにわざわざ来てくれたんだ。
良いも悪いもあるもんかい!」
紫関の大将はそう言って胸を張りながら言った。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
ハルカは、紫関の大将に頭を下げ、感謝を述べた。
「お礼の言葉もないわ。」
「良いって事よ。」
「それじゃ、ありがたく頂こうかしら。」
アルはそう言って箸を手に取り、ラーメンを食べようとする。
「サービスするから腹いっぱい食べってってよ。
なんてったって君らはセリカちゃんのお友達だもんな。」
大将の言葉にアルは箸を止め、アルの脳裏に紫関ラーメンでアビドスのメンバーと初めて会った光景、銀行強盗を行うアビドスのメンバーの光景が過る。
「こんなに美味しいのにお客さんいないなんて…」
「場所が悪いんじゃない? 砂漠化が進んでるせいで、人が減ってるしさ。」
(友達なんかじゃない。
問題はこのお店、こんな美味しくてお腹いっぱい食べられて温かくて親切で…
問題だらけよ。私達の仕事はアウトロー…ほっこり感に浸っていてはダメ。)
アルは大将の「セリカの友達」という言葉に反応し、食べるのをやめる。
(でも…ここで怒鳴り散らすのはカッコよくない。
クールなアウトローには程遠い。)
アルは、そうやって怒鳴り散らす自分はカッコ悪いと考え、その考えを内に留める。
(だから…アウトローとしての信念が揺らぐ前にこのお店には立ち寄らない様にしましょう。
それがいい。
それに私達を追ってくる存在が大将を巻き込みかねない。
大将は良い人で先生と違ってカタギの人…だから巻き込むのはクールじゃない。
お金だって先生からの定期的な依頼で、入ってくるからこの子達を食べさせていける。)
「どうしたの? 麵伸びちゃうよ?」
カヨコは、考え事をするアルに対して声をかける。
「そ、そうね。」
(けど、今目の前に出されたラーメンに罪はない。
これで最後にしましょう。)
アルが、ラーメンを口にしようとすると、いきなり外部からの衝撃で、ラーメン店が爆発し、ラーメン店の入った建造物は崩壊した。
アルの懸念は的中した。
「ターゲットの入った建造物に全弾命中!」
軍服を着た生徒は、紫関ラーメンの入った建造物が崩壊していくのを確認する。
アビドス校舎に警報が鳴り響く。
「前方! 半径10km以内にて爆発を検知しました! 場所は…ッ!?」
アヤネは爆発した場所を見て、驚愕する。
「アヤネちゃん?」
「場所は…紫関ラーメンです。」
「どうしたあの店が!?」
「何を…いや、誰を狙って…」
「もしかして…便利屋を?」
「ありえるわね。今は昼ご飯を食べるのにいい時間帯だし…あの子達、紫関ラーメンのこと気に入ってた雰囲気だったし、ここらへんで仕事の活力をあげるのにいい場所はあそこぐらいしかない!」
「とにかく今は現場に急ごう!」
「ホシノ先輩は?」
「私が連絡しておきます! 急いで大将を救出に向かいましょう!」
アヤネの言葉を聞いてその場にいる全員が頷き、現場に直行する。
(待ってて…大将!)
「何これ…」
アルは、崩落したラーメン屋。
爆撃によってボロボロになった街を見て困惑する。
「大将! 大丈夫!?」
セリカは、紫関の大将に駆けよる。
紫関の大将は、気を失っているが、命に別状はない。
藤丸は、礼装を起動し、治癒魔術「前線回復」を大将に施した後、便利屋の下へと向かう。
「アル! 大丈夫か!?」
「ごめんなさい。先生…私が壊した様なものよ。」
「え?」
「これは恐らく私達を追っている勢力…ゲヘナの風紀委員会が私達を捕まえにここまでやってきた。
それはつまり私が紫関ラーメンに災いを招き寄せたようなもの。」
「正解だ! 規則違反者よ!」
アルの答えに正解と答える声があった。
藤丸は、顔を上げると、煙の向こうから軍勢を引き連れて二人の生徒が現れる。
それは褐色肌に小悪魔の様な尻尾をした生徒と眼鏡をかけた携帯式の治療箱を持った生徒だ。
「お前達便利屋のせいで、ラーメン屋の店主は巻き込まれたんだ。」
「ゲヘナ風紀委員会…」
「やぁ、アビドスの諸君。」
「ゲヘナの風紀委員が何故、ここにいらっしゃるのですか? それに何故紫関ラーメンを攻撃したんですか?」
「あぁ、ここに逃げこんだ校則違反者達にお灸を据えようと思ってな。やむを得ない犠牲だった。」
「それって便利屋68の事?」
「その通り。
という訳で別にお前達に用はない。
だから見逃してやるよ。
さっさと撤退するならな。」
「そうはいかない。
私は便利屋をアビドスの警備員として雇った雇用主。
そして紫関ラーメンはこの地域に根付いた人々の憩いの場。
雇った人間を「はいそうですか」と簡単に売る雇用主なんて信用できないし、憩いの場を破壊した人達を見逃す筈がない。
だから逆に言おう。
君達が紫関ラーメンの大将に謝り、便利屋が行う私の依頼の遂行を邪魔しなければ見逃すよ。」
藤丸の言葉を聞き、シロコとセリカは褐色の生徒に銃口を向ける。
「悪いけど、便利屋68は私達と一種の同盟関係を結んでるようなもの。
それに先生はああいってるけど、何の関係のない大将を巻き込んだあんた達を許せるわけがない。」
「私達は撤退しない。」
セリカとシロコはそう言い、銃のトリガーに指をかけ、いつでも発射できる準備をする。
「あの子達、風紀委員会の申し出を断った?」
カヨコは、アルを連れて瓦礫の影に隠れ、アビドスと風紀委員会の会話を盗み聞く。
「ウッソ。敵う訳ないじゃん!」
「アル様。どうしましょう? 依頼を破棄して撤退なさいますか?」
「ねぇ、巻き込んでしまった事をいつまでも後悔するなんてアウトローじゃないわよね?
自分のミスを人に押し付けてコソコソ逃げるってのもアウトローじゃないわよね?」
アルは、そう言うとムツキは期待していたかのようにくふふと笑う。
「何言ってるの? 今はそんなことを…」
「アウトローって、私達の目指すアウトローって誰が相手でも自分の信念を曲げないて事じゃない! たとえこの先、仕事の関係上、そしてアウトローの信念として先生や空崎ヒナが敵に回ったとしても!」
「アル…」
カヨコはアルの決意を聞き、密かに風紀委員会に対する戦闘準備に入る。
「勝算でもあるつもりか?」
「あるとも。
現状の主戦力である君達二人を倒せれば後はどうとでもなる。
そして君達二人に対して勝てる算段もついている。」
藤丸の答えにアビドスのメンバーは全員頷く。
「はぁ、せっかく説明したってのに…
後悔するなよ!」
褐色肌の生徒は、アヤネに対して発砲するとセリカはアヤネを庇いながら回避する。
褐色肌の生徒が発砲してきたのを見て、藤丸はシッテムの箱を魔術式戦闘モードに切り替え、シッテムの箱による支援でシロコ達に継続的な強化魔術を付与する。
強化幅は英霊による強化、礼装による強化には劣るが継続時間が長く魔術効率も良い。
少なくともその強化幅は、先生であってもヴァルキューレの一般生徒と遜色ない戦闘能力、生命能力を見せるだろう。
「イオリ!? 貴方って人は!」
眼鏡の生徒「火宮チナツ」は、イオリが戦闘を開始した音を聞き、走る。
シロコは魔術によって強化された肉体と動体視力で褐色肌の生徒「イオリ」の動きを予測し、アサルトライフルを連射する。
「クッ…」
シロコの銃弾は、イオリの肉体に吸い寄せられる様に命中する。
銃弾の威力は魔術によって強化されている。
イオリはカウンターとして銃を撃ち放つが、シロコは銃弾を見てから回避し、接近戦に持ち込む。
「ハァ!」
シロコは、イオリの腹に蹴りを入れると、イオリは後方へ吹き飛び、イオリは空中で後ろ回転し、衝撃を逃がし、チナツの近くに着地した。
「クッ…どうやら詭弁ではなさそうだな…」
イオリは、腹を抱えてシロコを睨みつける。
「何をしているの! イオリ! …ッ!? 先生!?」
チナツは、シロコの傍らに立つ先生を見て、言葉を零す。
「先生? もしかしてあんたがシャーレの?」
「やっぱり先生だったんですね。
まさかこんな所でまたお目にかかるとは…」
「君は…久しぶりだね。チナツ。」
「先生がここにいらっしゃると知っていたら…私達の失策です。」
チナツは、そう言い、目を閉じ、失策を恥じる。
「アビドス廃校対策委員会の奥空アヤネです。
ゲヘナの風紀委員会とお見受けしますが、これは一体。
どういうことでしょうか?」
「それは…」
『私から答えさせていただきます。』
上空から機械を通した声が響く。
上空からドローンが現れ、イオリとチナツの前に青髪の生徒のホログラムが投影される。
『こんにちは。アビドスの皆様。
私はゲヘナ学園所属の風紀委員会行政官『天雨アコ』と申します。』