第1話 偽・御使いの四柱
『それでは改めて…対策委員会の皆さん。
この度は失礼いたしました。』
ゲヘナの行政官アコはそう言ってホログラム越しに軽く頭を下げて謝罪した。
「その言葉は、銃を下ろしてからにしてもらってもいいですか?」
ノノミは、後ろで待機している風紀委員会がこちらに銃を向けているのを指摘する。
「これはこれは…全員、銃を下ろしてください。」
アコは、そう言うと風紀委員会の生徒は指示に従い、銃を下ろした。
「本当に銃を下ろした?」
『さて、先ほどまでの愚行は私の方から謝罪させていただきます。』
「愚行って…私は命令通りにしたんだけど?」
『イオリ? 反省文のテンプレートは何処にあるかご存じですよね?』
「アコちゃん!」
『ハァ…命令にまずは無差別に砲撃せよ。なんて言葉が含まれていました?』
「い、いや…それは…」
『ましてやここはゲヘナではありません。
よその学園自治区の付近なのだから』
(学園自治区?)
藤丸はアコの言葉に引っかかる。
まるでこの土地がアビドスのモノではない様な発言だ。
『きちんとその辺りは注意するのが当然でしょう?』
イオリはアコに詰められて言葉が出ない状況になる。
『さて、改めてイオリ? 反省文の場所はご存じですね?』
「アコちゃんの机の左の引き出し…」
『よろしくお願いいたしますね?』
アコは、イオリに反省文を書く事を命じると再びアビドスの方を見る。
『それでは本題ですが…私達はあくまで学園の校則違反者を捕らえる為に来ました。
風紀委員会としての活動に協力いただけませんか?』
「それはさっきも言ったけど無理だね。雇い主が勝手に売るなんて行為は契約違反だ。
いや、大人として先生として良くない。だから便利屋を売らない。彼女達は私にとっては校則違反者ではなくただ夢を追う一介の生徒であり契約に基づいた仕事をする人にしか見えない。」
『それはアビドスの皆さんも同じですか?』
「そうよ! あの子たちがあんた達の間で何があったのかは知らない! けど、あの子たちは話の分かる良い子達。契約相手以前に友達になりたいと思える相手にそんなことをさせない!」
セリカの言う事にアビドスのメンバーは頷く。
『本当は穏便に済ませたかったのですが…やるしかなさそうですね。』
アコの発言を聞いてアビドスのメンバーは銃を構える。
『総員戦闘準備!』
アコの指令を聞き、風紀委員会の生徒は一斉にアビドスのメンバーに向けて銃を向けると、チナツの足元に手榴弾が流れ込み、爆発する。
「な、何!?」
セリカは、いきなり風紀委員会陣営が爆発し、驚く。
「奇襲か!?」
「落ち着け! 周囲を警戒!」
イオリは煙幕の中、風紀委員会の生徒に指示を出す。
「先ほどはよくもアル様を…」
ハルカは、そう言ってイオリに向けて銃を向ける。
「許せない許せない許せない許せない許せない!」
ハルカは、「許せない」という言葉を一回発するごとにショットガンをイオリに向けて放つ。
イオリは、バックステップでハルカの銃撃を逃れるも、逃れた先に時限爆弾が仕掛けられており、時限爆弾はイオリの着地と同時に爆発した。
「待たせたわね! 先生! 便利屋68戦線復帰よ!」
アルはそう言って先生の隣に立ち、そして便利屋のメンバーは、アルと先生の後ろに集合した。
「さぁ、便利屋の皆。仕事の時間だ。
仕事のミスは仕事で返す。
それが社会の常識と習ったはずだ。
君達がこの件について自分達が犯したものと思っているのなら、ここで勝利して仕事人としての名誉挽回と行こうじゃないか。」
藤丸は、アビドスから便利屋へと戦闘指揮対象を変更し、強化魔術が便利屋へと注ぎ込まれる。
「えぇ! 言われるまでもないわ! だから、アビドスの皆は下がって頂戴。ここからは私達でやる。」
「でも…」
「社長も言った通り、これは私達のミス。
アンタが働いていた店が消えたのは私達のせいみたいなもの。
私達も彼女達もゲヘナ…それに貴方達がここで戦ったらもしかしたら学校間の問題にもなる。
だからここは私達に任せて貴方達は周囲の人達の避難を。」
カヨコはそう言って避難しきれていない人々を指差す。
「わかったわ。でも無茶しないでね。」
セリカはそう言ってアビドスのメンバーと共に避難行動をとる。
「それにしても力が湧いてくるわね…」
藤丸立香…彼はロマニ・アーキマンから後を託され、遺志を継ぎ生きる者。
故に魔術王ソロモンの後継者と言ってもいい。
つまり彼の指揮下に入り、強化魔術により魔術的に繋がった魔神柱の神秘を持つ生徒は概念的には魔神柱も同然。
便利屋は神秘の強度は本物の魔神柱に届かずとも魔神柱を彷彿とさせる戦闘能力になるように魔力が集い、強化魔術が倍増される。
魔神柱はこのアビドスの地に存在するとされるセフィラの名を冠した機械の蛇神を遥かに超える脅威。
さらに言えば魔術的観点からすると大きく重い存在よりも小さく重い存在の方が魔術的に強い。
故に便利屋68は小さく重い魔神柱と言える存在となり、藤丸を除いた今この場にいる全勢力の中でホシノすらも超える最強の存在となる。
『そちらから姿を現すとは…ですが、探す手間が省けて助かりました。』
アコはそう言って指を鳴らすと、風紀委員会の生徒は増員され、先生と便利屋の周囲を取り囲む。
「包囲…二重だったか。」
『偶然とはいえ凄い状況になりましたね。便利屋の皆さんを追っていたらシャーレの先生に出会えるとは…』
「白々しいね。アコ…」
『あら?』
「カヨコ?」
「偶然なんかじゃない。最初からアンタが狙っていたのはこの状況だった。
非効率なやり方…アビドス相手には多すぎる兵力。
あの風紀委員長やその直属の三人がこんなやり方を許す筈がない。
アンタの目的はシャーレ。
最初からこの先生を狙ってここまで来たんだ。」
「私?」
「それはどういう…」
『フフッ…さすがカヨコさん。察しがいいようで…この際、折角です。
事の次第をお話いたしましょう。
きっかけはティーパーティーでした。
ゲヘナ学園と長らく敵対しているトリニティ総合学園。
その生徒会がシャーレに関する報告書を手にしていると…
そんな話がウチの情報部から上がってきまして。
当初私はシャーレとは一体何なのかが全く知りませんでしたが…
ティーパーティーが掴んでいる情報となれば私達も知る必要があります。
それでチナツさんが書いた報告書と万魔殿の雷帝の再来と謳われる明海さんの言葉を思い出し、確認いたしました。』
雷帝の再来。
かつてゲヘナには圧倒的な実力を持った生徒会長が存在し、その生徒会長の異名が雷帝とされている。
明海リコは、その雷帝を彷彿とさせる威容で、万魔殿の中で頭角を表している。
(もうだいぶ前に送ったんですが…)
『連邦生徒会長が遺し、そちらの先生が担当する正体不明の組織。
それがどんな影響を及ぼすのか。わかったものではありません。
ですからせめてエデン条約が無事締結されるまでは風紀委員会の庇護下に先生をお迎えさせていただきたいのです。』
「フッ、何を言っているのかしら? 私達は正式にシャーレと契約した護衛。既にその役割は私達便利屋が担っているから安心して帰りなさい。そしてこう伝えなさい。ゲヘナの便利屋が先生の護衛を務めると…私達も一応、ゲヘナの生徒よ。それなら一応、先生はゲヘナの庇護下に入っていると言ってもいいんじゃないかしら?」
アルは、そう言ってアコの提案を鼻で笑う。
『やはりこういう展開になりますか。
私達としては必要な対処としてはやむを得ません。
委員長に知られてしまってはイオリと仲良く反省文ですね…』
「アコちゃん!?」
『たった五人で勝てると思っているのですか?』
「えぇ…今の私達なら策を弄さずとも勝てるわ!」
アルは、そう言って自身の肉体に漲る力を誇示し、正々堂々と発言する。
「いいか! 後には引き返せないぞ! 土下座しても! 大金積んでも! 足を舐めても!」
「魅力的な提案だけど…今回は遠慮させてもらうね。」
イオリは藤丸の発言を聞いて頬を赤く染める。
『先生の指揮下に入った事で舞い上がって実力の差がわからなくなったのかしら? まぁ、いいでしょう。風紀委員会の恐ろしさを嫌というほど味わわせて…』
アコが続けて言おうとするとムツキは銃弾を複数回放ち、話を遮る。
「話長い。」
『こ、攻撃開始!』
アコはそう言って風紀委員会に指示を出した後、自身も突撃する。
アルは、アコからの指示で風紀委員会から集中砲火を受けるも…
(まるで横殴りの雨に打たれているようね。)
アルは、無数の銃撃を雨水と例える程の防御能力を獲得し、涼しい顔で銃撃を受ける。
「効かないわ!」
アルは、風紀委員会からの無数の銃撃に対して腕を払うと扇状の衝撃波が発生し、風紀委員の生徒達は吹き飛ぶ。
「へ?」
アルは、目障りと思った弾丸の雨を振り払うつもりで振るった腕によって発生した巨大な衝撃波に驚き、自身の腕を見る。
自身の腕には傷一つついておらず寧ろ扇状の衝撃波を放ったことで、風紀委員会が用意した砲台や戦車の類が爆発し、破壊されていた。
(…まるで魔神柱だな。あれほどの威力、そして面影…それにしても魔力の消耗が激しい…)
藤丸は、キヴォトスの霊脈から吸収した魔力の大半が便利屋へと流れていっているのを感じ、肉体に負荷がかかる。
サーヴァントの使役の方が魔力効率的には合理であり、自身の保有する英霊の霊基は、魔神柱が本領を発揮できる神殿の魔神柱を雑兵扱いできる程の力を有するが相手もまた生徒。
生徒同士の戦いは生徒と自身の礼装、シッテムの箱だけの力によって解決すべきと判断している。
「よくもアル様を!」
ハルカは、砲撃の雨を受けたアルを見て取り乱し、風紀委員に向かって手榴弾を投げつける。
投げつけた手榴弾は、まるで巨大な列車砲から放たれた砲弾の様に敵へと向かい、手榴弾が当たった衝撃で大きなクレーターが生じ、そして非核爆弾の如き大爆発を上げた。
それからというもの便利屋は、風紀委員会に対して圧倒的な攻撃能力で倒していき、随時投入されていく風紀委員会の戦力を次々と制圧していく。
『クッ、シャーレの先生…これほどまでの力とは…ですが、まだ戦力が…』
アコは、想定とは違った結末。
あまりにも強すぎる強化。
魔神柱の神秘とカルデアのマスター…否、魔術王の弟子による相乗効果。
風紀委員会に勝てる見込みはなくこのまま戦ってもいずれ全滅するだけ
「そこまでよ。便利屋、そしてアコ。」
何処からか声がした。
『ヒナ委員長!?』
ホログラムのアコの後ろにゲヘナ…いや、キヴォトス最強の生徒空崎ヒナが藤丸の見た事のある生徒三人を引き連れて現れた。
その三人の姿は、黒いジャンヌ・ダルク、メリュジーヌ、バーゲストそのものだった。
「あの三人は…まさか…」