「この状況きちんと説明してもらう。」
藤丸はヒナの存在を確認すると便利屋に隠れるようにインカムで小さく呟くと便利屋は頷き、その場から瞬間移動したかのように即座に撤収し、隠密行動をとると入れ替わるようにアビドスのメンバーが藤丸への護衛体制に入る。
『こ、これはその…素行の悪い生徒たちを捕まえようと…』
アコは、ヒナに対して激しく身振り手振りをして説明しようとするが…
「便利屋68のこと? もういないけど?」
ヒナは、周囲を見渡すと便利屋が既にその場から立ち去ったことを確認する。
『な、何を言っているんですか? ここに…』
アコが藤丸のほうを見ると既に便利屋がいなくなっているの知ると「あれ?」と啞然とする。
『そんな馬鹿な! ここにいたはず! い、委員長! 全て説明いたします!』
「いや、もういい。大体把握した。アコ。私たちは風紀委員会であって生徒会じゃない。」
『うっ、それはその…』
アコが声を詰まらせるとヒナの後ろから一人の生徒が先生に近付こうと前に出る。
「先生ちゃん。久しぶりね。」
白髪金眼の生徒『折田レティシア』だ。
彼女のヘイローはジャンヌの背中の令呪を模したモノで、その令呪の形は黒く刺々しく割れていた。
「オルタ?」
「まぁ、今の私は折田の発音の方が合っているわね。」
「トリニティじゃないんだね。」
「私は竜の魔女…お上品なトリニティより力を振るえるゲヘナの方が性に合っているわ。まぁ、姉…じゃない…アイツならトリニティに入っていたかもね。」
折田は、藤丸と楽しげに会話をすると、ヒナの後ろに控えていた幼い少女と巨躯の女騎士は藤丸が自分の知るマスターであるという確信を得て前に出る。
「やぁ、マ、先生。運命の君との再会に祝杯をあげたいところだけど今はそういう状況じゃないのが残念だよ。」
風紀委員会の制服を纏ったメリュジーヌは、藤丸へ気さくに挨拶をする。
両手に盾、両腰には剣と同じ大きさの刃のついたショットガンが鞘に収まっている。
「メリュジーヌ?」
「うん、君の恋人メリュジーヌだよ。まぁ、でもここでは女竜寺の名で通ってるけどね。」
メリュジーヌは、そう言ってピースをして笑う。
「フッ、アンタが先生の恋人? 面白い冗談ね。」
ジャンヌは、メリュジーヌの恋人発言に鼻で笑う。
「おや、君は何も知らないようだけど僕は先生と同衾したことがあるんだよ?」
「は? 言っていい冗談と悪い冗談の区別がつかないの? 燃やすわよ?」
ジャンヌはそう言って手持ちの火炎放射器から軽く火を噴きだす。
「いいよ? かかっておいで。」
メリュジーヌは、ジャンヌの敵意に反応し、刃のついたショットガン二丁を抜刀する。
「貴様ら…先生とヒナ委員長の前だぞ。控えるがいい。」
バーゲストは、そう言ってジャンヌとメリュジーヌの額を抑え、制止する。
「バーゲスト。」
「このキヴォトスの地では我上院或いはバケコとお呼びください。
申し訳ございません。アビドスの皆様方。先生が預かる自治区付近での無断で戦闘行為を行った件。我々から謹んでお詫び申し上げます。」
バーゲストはそう言ってアビドスの面々に頭を下げた。
『どういうことです? 貴方達、先生と知り合いなのですか?』
『それは私から説明しましょう。』
万魔殿のマークが描かれたドローンが空から現れ、モルガンのホログラムが投影された。
『通信越しに失礼いたします。アビドスの皆様。私は明海リコ。万魔殿の議員であり、そこのランコとバゲコが所属する万魔殿と風紀委員会の連合「妖精騎士団」のリーダー』
リコはそう言って藤丸たちに向かってお辞儀をする。
『我々妖精騎士とそこの折田は、キヴォトスに来る前から先生が受け持っていた生徒。そしてシャーレの先生は我々にとっては命の恩人と言える存在。故に実質、天雨行政官の傘下にある風紀委員会が余計なことをせずとも我々ゲヘナと先生は深い関係にあった訳なのです。このような事態が起こったのはこれを公表しなかった私のミスでもありますが。
先生に恩義を向けている折田と我が妖精騎士を空崎委員長の直属とし、先生の存在をゲヘナに広めようと期待していましたが…失敗に終わっていましたか。』
リコ…否、モルガンは、頭を抱えた後、何かを思いつく。
『さて、今回の一件、詫びの印としてアビドス高校にそして対空砲ロンゴミニアド一門と一億円を納めましょう。』
モルガンは、そう言って空中にロンゴミニアドのホログラムを投影する。
投影されたロンゴミニアドは妖精國で使用されていた聖槍と同様の形をしていた。
『対空砲ロンゴミニアド!? 十三門あるとはいえいいのですか!? あの兵器は一門だけでもキヴォトス全土をカバーできる射程距離と街一つを一撃で灰燼と化す威力を持つ兵器なのですよ!?』
アコは取り乱す。
それも当然だ。
何せロンゴミニアドはキヴォトス全域の脅威となりうる兵器。
その一門が廃校目前の学校に渡るのだから気でも狂ったのかとモルガンに問い質す。
『実戦配備しているのは十二門だ。
残り一門はあってもなくても私としてはどちらでもよい。
そもそも天雨行政官…お前が勝手な行動を取らなければこのような措置にはならなかった。
それにあの兵器はミレニアム、ゲヘナ以外の地において先生の許可がなくば扱えぬ代物だ。』
モルガンは、対空砲ロンゴミニアドが魔力で稼働する兵器、妖精國における聖槍と同等であるという事を仄めかすと、モルガンは藤丸の方を見て、察しろと言う目で見る。
(…確かにミレニアム、ゲヘナの土地からの魔力供給が少ない。という事はこの二つの学区にはサーヴァントがいるのか?)
藤丸はモルガンの言葉を察し、自身が掌握するキヴォトス全域の霊脈の動きを探ると、ミレニアムの霊脈からの魔力供給は少なく、ゲヘナの霊脈からの魔力供給は無いに等しくはぐれサーヴァントがキヴォトスに存在するという事を考察すると、モルガンは夫である藤丸が自分の意図に気付いた事に微笑む。
『そう、これはアビドスにとっての抑止となる存在。核抑止論というものです。
見たところアビドスにはそのような兵器は存在しないと聞き及んでおります。
いえ、正確にはかつてはそのような兵器が存在していたという話は聞いておりますが…アレの計画は頓挫したと聞いております。
まぁ、この話は置いておきましょうか。
ともかくこの二点をお納めいただき、我らゲヘナの面子を保たせてもらいたい。』
モルガンはそう言って頭を下げる。
「…わかりました。お受け取りしましょう。」
アヤネは、そう言ってモルガンからの提案を引き受けると、バーゲストはタブレット端末を起動し、ゲヘナからの謝罪を受け入れる同意書に名前と振り込み先にサインした。
『感謝します。…では、早速手配をいたしますので、失礼します。』
モルガンがそう言うとモルガンのホログラムは消え、万魔殿のドローンは飛び去っていった。
「アコ、詳しい話は帰ってから、校舎で謹慎していなさい。」
『はい。』
アコのホログラムも消え、風紀委員会のドローンは万魔殿のドローンの後を追うように飛び去る。
「さて」
「ゲヘナの風紀委員長。この状況についてはすでに理解されてますでしょうか?」
「事前通達なしでの他校自治区における無断兵力運用。及び他校生徒との衝突未遂。」
「はい。」
「アビドスではなくゲヘナ同士の争いへと切り替えた先生の選択は正解だった。
このままでは貴方達が風紀委員会の公務を妨害するところだった。」
ヒナはそう言って自身が見逃すふりをしている便利屋の方へ視線を向ける。
「ふあああ~。こいつはまた凄いことになってるね~」
ホシノはそう言って欠伸をしながら周囲をゆっくりと見渡し、状況を理解する。
「ホシノ先輩!? 今までどこに!?」
「ごめんごめん。ちょっと昼寝しててね~」
「昼寝?」
シロコはホシノがさっきまで昼寝をしていたことが嘘であるかのように疑問に思う。
「アビドスのホシノ…」
(もしかしてアビドスの小鳥遊ホシノ?)
ヒナは、ホシノの名を聞いてホシノの姿を凝視する。
「事情はよくわからないけどこんなに大勢連れてどうしたの?
風紀委員長ちゃん?」
「一年生の時とは随分と変わった。人違いじゃないかと思うくらいに…」
「おや? 私のこと知ってるの?」
「情報部にいたころ…各自治区の要注意生徒たちをある程度把握してたから」
「うへへ~おじさんもしかして有名人~?」
「小鳥遊ホシノ…貴方を忘れる筈がない。あの事件の後、アビドスを去ったと思ってたけど…
そうか…だからシャーレが…」
「なぁに? ちゃんと自分の気持ちを言葉にしてくれないとおじさん困っちゃうな~」
ホシノは、そう言って言葉の中に圧を込めて発言する。
「…撤収準備…」
ヒナは、答えを聞き出せないと察し、風紀委員会に撤収を命令する。
「お?」
「帰るのですか!?」
風紀委員会の一人がヒナの撤収発言を聞いて驚く。
「い、委員長!? それにお三方も!」
ヒナに並び、メリュジーヌ、バーゲスト、ジャンヌは頭を下げる。
「事前通達なしでの無断兵力運用。そして他校の自治区で騒ぎを起こしたこと…この事については私、空崎ヒナからもアビドス対策委員会に対し、公式に謝罪する。」
そう言ってヒナが頭を上げると、ヒナに連れて三人も頭を上げる。
「撤収! 行くわよ!」
ヒナは後ろを振り返り、そう風紀委員会に命令するとヒナと三騎のサーヴァント以外の風紀委員会のメンバーは撤収していく。
ヒナは撤収をする風紀委員会を確認すると、藤丸に近付いていく。
「アビドスの捨てられた砂漠…あそこでカイザーコーポレーションが何かを企んでいる。
それと便利屋に伝えておいて。この地では見逃すけど依頼を終え、アビドス自治区付近を出て、他の自治区で見掛けたときは覚悟するといいと。」
ヒナはそう言い、立ち去っていく。
『じゃあ再会を記念して私たちと再契約と行こう。マスター』
メリュジーヌはそう言って藤丸に対して念話で再契約を持ち掛ける。
『うん、わかった。』
令呪が赤く光り、三騎のサーヴァントと再契約をする。
三騎のサーヴァントは本来の力…『崇高』の力を取り戻す。
『じゃあ改めてよろしくね。マスターちゃん。』
『失礼いたします。マスター。何かお困りごとがあれば我らをお呼びつけください。』
三騎は、念話で藤丸と会話し、そしてヒナの後に続いてその場から去っていった。
「モルガンも契約しなおさないとな。」
『問題ありません。私との再契約は貴方がキヴォトスに赴任した時、自動で行われています。』
モルガンは、藤丸に対し、魔術による個人間での通信回線を開く。
『魔力のパスを辿ればわかる筈。』
藤丸は、自身の魔力を探ると確かに魔力のパスはゲヘナにいるモルガンに繋がっているが、魔力が消費されている感覚はない。
(モルガンがゲヘナの霊脈を支配し、霊脈の魔力を使っているのだろう。)
『ゲヘナに来た時は我が娘バーヴァン・シーとの再契約をお願い致しますね。我が夫。』
モルガンは通信を切った。
キヴォトスの何処、実在と非実在の間にある暗黒空間。
『ククク…先生がゲヘナの英霊達と接触したか。』
異形の女は、藤丸と英霊達の接触と再契約の瞬間を見て、不敵な笑みを浮かべる。
暗黒空間に浮かぶ卓上にはチェス盤が置かれており、白にはキング、ルーク、ビショップ、ナイト3~4つ、黒にはキングが3つ、残りはクイーンとルークで占められていた。
黒のキングはゲヘナの生徒会長である万魔殿議長「羽沼マコト」と同じく万魔殿議員「モルガン」もとい「明海リコ」を示し、残り一つは煙に包まれている。
白陣営の盤外には髑髏の刻印が彫られた青い駒、黒陣営の盤外には聖杯の刻印が彫られた赤い駒が控えていた。
怒りと嘆きに染まった青と無邪気で絢爛たる血染めの赤。
青い駒は白と黒に激しい敵意を見せるように動き、特に白に向かって執拗に攻撃し、赤い駒は白と黒と無邪気に遊ぶように動き、特に黒と一緒に楽しげに踊る。
『良い。我がシナリオ通りに進んでいっている。良いぞ、
異形の女は、クククと笑う。
『ゲマトリア、シャーレ、そして…カルデア。我は全ての存在を用いて、破滅を否定し、閉幕を拒絶し、落陽に叛逆する。その為に藤丸立香…貴様はまず皇帝の名を騙るモノへ反逆せねばならぬ。
さて、砂狼シロコよ。そろそろ始めるとしようか。お前の存在は世界や先生の運命を左右する存在であり、我が第三の敵…この領域に干渉可能な追放されし『奴』の策を崩す保険でもあるのだからな。『奴』の存在は最高の結末を越えた先で、待ち受ける世界を『あの結末』へと引き戻す可能性のある存在。
その為に貴様の力を借りるぞ。異霊なるニトクリスよ。』
異形の女は、ニトクリス・オルタのホログラムを映し出すと、数秒見つめた後、ホログラムを消すと異形の女は暗黒の空間に空間の穴を広げ、空間の穴の先に繋がる濃密な薔薇が香る黄金の繁栄都市へと向かっていった。
黄金の繁栄都市はまるでローマやバビロンを思わせるような絢爛さを誇り、それでいて大西洋異聞帯に匹敵する文明を有していた。
この世界の空崎ヒナは、エデン条約四章及び時計仕掛けの花のパヴァーヌ第二章クリア後に追加されるエデン条約第五章『黄金繁栄魔境■■■■■ 願われた■々の■■■■・■■』にて実装されます。