(あのタイミングで退学の件…恐らく誰かの差し金。
ホシノと引き換えに誰かが何かを差し出す。)
藤丸は、アビドス高校の屋上で一人、月光に照らされながらホシノの名が入った退学届けを見て心の中で呟く。
(その誰かはわからない。しかしこれは『悪い大人』の気配がするな…)
藤丸は心の中でそう思うと、月光に照らされた藤丸の影は不自然に伸び、影は黒く濃く徐々に紳士の様な姿に変化し、目に当たる部分に青い炎が宿り、そしてその影は実体化した。
「マスターよ。助けが必要か?」
影の中から巌窟王が現れる。
藤丸は、振り向き、フェンスにもたれかかる。
「やぁ、アヴェンジャー。うん、そうなんだ。俺の生徒が悪い大人に誑かされて退学を決め込んでいると思うんだ。だから力を貸してほしい。」
藤丸はそう頼み込むと巌窟王は、自身の顎を撫で何か思い当たる節のあるような仕草をする。
「ふむ、大体見当はついている。」
「というと?」
藤丸は問いかけると、巌窟王は、藤丸の眼を見据え口を開く。
「皇帝を騙るもの…その背後に黒い影が一つ。それはオレやお前と同じくこの
「ホルス?」
「気にするな。生徒の「神秘」については今はまだ知るべき時ではない。そして深追いはするな。お前は我ら英霊が有する「崇高」のみを知っていればいい。」
英霊は神秘の側面が強い崇高で、異霊は恐怖の側面が強い崇高。
しかして同格の存在。
英霊は全て崇高の存在、万神の星座に並ぶ高次存在。
藤丸はホルスを宿す崇高を知っている。
七十のファラオが乱立していた時代を治め第八王朝を築いたファラオ「ネチェルカラー」と同一される英霊ニトクリスだ。
藤丸はホルスの崇高はニトクリスだけを覚え知っていればいい。
生徒の神秘は今はまだ気にすることはないのだ。
「話を戻そう。俺はこれよりお前に開示した情報を基にお前の許可を得次第、調査に向かう。
お前が求める情報を獲得する為にな。どうする?」
巌窟王は、そう言って背を向け、調査へと向かう準備をする。
「わかった。頼んだよ。」
「ククッ…いいだろう。」
巌窟王は、藤丸の承諾に応じ、跳躍し、アビドス高校の避雷針の上に乗る。
「気を付けてね。巌窟王。」
「フッ、行ってくる。」
巌窟王は霊体化し、アビドス高校から飛び去っていく。
(カイザーの後ろにいる存在…一体誰なんだ?)
藤丸は、カイザーの後ろにいる存在に対して正体がわからないまま夜空を睨む。
次の日…
アビドス高校校舎、対策委員会会議室。
アヤネは、土地権利書に関するデータが映し出されたタブレットを提示する。
タブレットの画面内は画面分割機能によって二つの権利書が映し出されていた。
「皆さん。アビドス自治区の土地が第三者に手に渡っていたというお話がありましたよね。それを調査した結果。
現在、アビドス自治区を所有しているのは、カイザーコンストラクションという企業とゲヘナ学園の一生徒である事が発覚しました。」
二つの権利書に表示されていたのは、一つ目はカイザーコンストラクション、二つ目はゲヘナ学園の亜門レイという名が土地の権利者として登録されていた。
「カイザーコーポレーションはわかるけど亜門レイ?」
「はい、買収されている土地の70%カイザーコーポレーションが、残り30%がゲヘナ学園の生徒亜門レイさんが保有しています。」
亜門レイの顔写真。
ペーパームーンにおけるR.A.N.I型AIに似た生徒の顔写真がタブレットに映されていた。
(ペーパームーンのあの子達に似ているな。)
厳密にはR.A.N.I型AIのオリジナルであるアトラス院のラニ型ホムンクルスに酷似している。
その生徒のヘイローはエジプトの太陽とギリシャ雷文が混ざったような形をしていた。
(それにあのヘイローどこかで…)
藤丸はレイのヘイローを見て既視感を憶える。
何処かで戦った神と酷似していた。
しかしその神の姿と名を思い出せない。
思い出せないが、思い出せそうで思い出せない喉元でつっかえているような感覚だ。
(亜門?)
ホシノは、「亜門」という言葉に反応する。
(何代目か前の生徒会長の苗字…アビドスから去ったと思ったらゲヘナに…)
鉄拳政治のシェマタから数えて数代後の生徒会長である。
恐らくアトラス院の裏切り者「■■の■■」が持ち込んだホムンクルスの末裔。
それが表舞台へ台頭したのだろう。
「どうやらレイさんはカイザーコーポレーションがアビドス生徒会から買い取った土地を次々と購入していっているらしくカイザーコーポレーションは数千万坪の荒れた土地を中心に、レイさんはアビドスの土地を無作為に所有権を書き換えられていました。」
アヤネは土地の権利に関する分布を表示する。
赤が、カイザーで、青がアビドス、そして緑がレイを示し、砂漠部分の大多数をカイザーが占め、レイはまるでまだら模様になるようにアビドスの土地を書き換えていた。
「そこまで…」
「だけどどうして…自治区の土地を取引に出すなんて普通は出来ない。」
「アビドスの生徒会でしょ。」
ホシノは起き上がり、そう呟いた。
「え?」
「その通りです。
取り引きの主体は生徒会でした。」
「ホント何やってるのよ! 生徒会は! アビドスの土地をカイザーに渡すなんてどうかしてるでしょ!」
「それぞれ学校の自治区はその学校に帰属する。
当たり前の常識です。
私達は借金のことばかり気を取られて事自体に気付く事ができませんでした。」
それから藤丸達は何故、土地を買ったのかを推理し始めた。
その結果、推理の結果、カイザーは借金が本命ではなく土地が本命である事を結論付けた。
だが、その結論が納得できなかった。
なぜこの不毛の土地に買い取るだけの価値があるのかと
そしてそれを何故、カイザーだけでなくゲヘナの一生徒も買い取ろうとしているのか。
「一つ言い忘れていたことがあるんだけど砂漠と言えばゲヘナとの戦闘の後にヒナ委員長からカイザーが何かを企んでいるって聞いた。」
「ゲヘナの風紀委員長がどうして!?」
「先生、何で黙ってたの?」
「ごめん、早く言うべきだったね。」
「とりあえず話してくれたらよかったじゃん!
ともかく土地を主に買い占めていたのはカイザーコーポレーション! それが何かを企んでいるんだったら!」
「セリカちゃんの言う通りです。
全ての答えはアビドス砂漠にある筈です!」
ノノミがそう言うと全員が立ち上がり、砂漠へ向かう意思を固める。
「行こう! アビドス砂漠へ!」
藤丸は、そう言って宣言し、礼装に刻まれた砂漠の環境に対応した術式の発動準備をする。