藤丸達は、ドローンを遠隔操作するアヤネを学校に残してアビドス砂漠に来ていた。
広大な砂漠。
本来ならば藤丸もまたアヤネと共に校舎で待機している筈だが、この世界の藤丸は人理修復を経た藤丸。
礼装による防護と旅による経験から砂漠での旅路には慣れている。
「本当に大丈夫なんですか? ついてきて…」
ノノミは、藤丸に問いかける。
「私の体調なら心配ないよ。
こういう所を歩くのは慣れてるし…
それに私が同行する事で、ある種の大義名分が得られる。」
藤丸はそう言ってシャーレの会員証を見せる。
「君達は今はアビドスの生徒ではなく連邦捜査部シャーレの部員だ。
あらゆる規則や法律による規制や罰則を免れる超法規的機関。
これから君達が調査しに行くカイザーの基地は本当だったら敷地内への侵入となる筈だと思うけど、シャーレ名義での調査なら問題ない筈。」
そう言って五人にシャーレの仮部員証を手渡す。
「そう、大人の権力って奴さ。目には目を歯には歯を、大人には大人をだよ。まぁ、君らがカイザーに何か言われたら私のせいにすればいい。カイザーの基地に行くと言い出したのは私だしね。」
「なるほどね。確かにカイザーなら何か卑怯な手を使ってくるかもしれない。これまでもそうだったし」
ホシノは、そう言って藤丸がついてきた理由について納得する。
(まぁ、本来であれば俺一人がいいと思うんだけど…俺一人で行けばシャーレの先生…アビドスにもカイザーにも関係ない超法規的権力を持った第三者として一応介入できる。
それに相手方が暴力を奮ってきても大人のカードを触媒とした英霊召喚を組み合わせれば対処出来る。)
藤丸はそう思い、懐に仕舞っている大人のカードを見る。
(そう、全ては英霊達の力を借りる事で解決する。
だけど彼女達はそれを反対するだろう。
これはアビドスの問題だと…彼女達は強い。
だからこそ俺の提案を安易に飲む事はない。)
藤丸はそう思い、アビドスの生徒達を見た後、再び砂漠を進む。
暫く進むとアヤネのドローンは、前方に存在する何かを見つけたような動作をする。
『前方に巨大な施設があります!』
「こちらも確認したよ。あれが恐らくヒナが確認したカイザーの施設かもしれない。」
『皆さん。何かあるか分かりません。警戒しつつ調査に当たってください!』
アヤネがそう言うと藤丸達は「了解」と答え、身を隠しながらカイザーの施設らしき場所へと近付いていく。
「凄い警備の数。」
施設に最も近い隠れ場所へと潜伏した藤丸達は施設の周囲を警戒する機械兵を見て、シロコは驚く。
「一体何なのよ…この施設は…」
「カイザーPMC…」
ホシノがそう呟くと
「
藤丸は警戒度を高め、声を荒げる。
「先生、知ってるの?」
「いや、俺の友人がアビドスにいるなら警戒しろって言ってくれただけで、その内情は知らないよ。けれどPMC…民間軍事会社。つまり傭兵企業だ。」
「ヘルメット団とレベルが違う。プロの戦闘集団って事だよ。」
ホシノがそう言うとカイザーの軍事施設から警報が鳴り、軍事施設の門が開き、大勢のPMC兵が藤丸の元へ敵意を持って駆ける。
「侵入者発見!」
藤丸達は、カイザーの兵士たちに取り囲まれる。
ホシノ達は戦闘態勢に入る。
(…ここでやるか…?)
藤丸は魔術回路を起動し、大人のカードに魔力を回す。
繋ぐ
無色透明の神秘たる魔力は英霊召喚の術式を通り、キヴォトスの外へと繋がる。
召喚候補は補助系の非戦闘英霊。
それも前回とは違い、六騎の召喚。
「うげ…この数はさすがに厄介ね。」
「便利屋に任せていたけどきっと風紀委員会より面倒…」
「どうしましょう? ホシノ先輩。先生。」
「あちらの出方次第だ。有無を言わさず発砲してきたら撤退を視野に入れていこう。」
藤丸は、そう言って密かにキャスタークラスの召喚準備に入る。
藤丸達とカイザーPMC。
拮抗状態となる。
カイザーが発砲すれば撤退戦を題した六騎のキャスタークラスによって強化されたホシノ達による一方的な攻撃が始まるだろう。
暫くの拮抗の後、一台の車が軍事施設の中から現れ、車を確認するとPMCの兵士たちは銃を下げる。
後部座席から型幅の大きいロボットが降り、藤丸を見る。
「これはこれは…侵入者と聞いていたが…まさかアビドスの生徒だったとは…」
「お前が…カイザーPMCの…」
「ふむ、君達はあのゲマトリアが狙っていた。副会長とシャーレの先生だったかな…」
カイザー理事は、ホシノと藤丸を見て自身の顎を撫でる。
「貴方は…誰ですか?」
「ほぅ…まさか私の事を知らないとはな…
私はカイザーコーポレーションの理事だ。」
「やはりお前が…」
「アビドス生徒会を騙して土地を搾取した張本人。」
「フッフッフッフ…口の利き方には気を付けた方がいい。
君達は今、我々カイザーPMCの私有地に対し、不法侵入しているのだという事を理解するべきだ。」
「それに関してはお前もカイザーの理事をやっているのならわかるだろう? 私とアビドスは連邦捜査部シャーレとして来ている事に」
藤丸はそう言うとシャーレの会員証を提示する。
「ふむ、あらゆる規則や法律による規制、罰則から逃れる超法規的機関か…なるほど厄介だな。それならば不法侵入の件を咎める事は法的には出来まい。
まぁ、いい。話を戻そうか。
捜査機関。なるほどつまり君達は土地売買について聞きたいわけだ。
アビドス自治区…あぁ、確かに買ったとも全ては合法的な取引。
記録もしっかりと存在している。
何故、砂に覆われた土地を…と言いたそうだな。
ならば教えてやろう。」
カイザー理事は、そう言うと自信ありげに笑う。
「この地に埋められているという宝物を探しているのだ。」
「それは…砂漠の何処かにいる巨大な存在の事か? それを手中に収める為にこれほどの戦力を?」
藤丸は、カイザー理事にアビドスにて蠢動するキヴォトスを滅ぼす程の魔力を秘めた巨大存在について聞く。
「巨大な存在…いや、奴ではない。確かに奴は強大であるが私の求める宝ではない。
アレは制御できるものではない。
あくまでこれは宝探しを妨害する奴とそのほかの敵対者の為のモノだ。
そして君達生徒は私の手でどうとでもできるが…ふむ、この場ではそれは通じないか…
シャーレとしてではなくアビドスとして来ていれば君達の学校は一巻の終わりだった。
中々に賢いなぁ。先生?」
カイザー理事は、そう言って藤丸に対して賛辞の拍手を送る。
「一巻の終わり? どういうことだ?」
「シャーレの先生。
君がこの場に居なければ彼女達が抱える借金の金利は3000%に膨れ上がっていた。
君がこの場にいたからこそこの危機を回避できたのだ。
いやぁ、先生が頑丈で良かったなぁ? アビドスの生徒諸君。」
カイザー理事の発言を聞いてアビドスの生徒達は青ざめる。
「もし先生が来ていなければ君達は学校を諦め、自主退学し、転校を選ばざるを得なかった。
まぁ、来るにしろ来ないにしろそもそもの話。学校の取るべき借金だ。
何も君達が進んで背負う必要はないのではないかな?」
「そ、そんなこと出来る訳じゃないですか!」
「そうよ! 見捨てられるわけないでしょ!」
「アビドスは私たちの学校で、私たちの街。」
「ならばどうする? このままその生涯が尽きるまで永遠に返し続けるつもりか?」
「ッ…」
その場に沈黙が訪れる。
「みんな、帰ろう。」
「ホシノ…」
「これ以上、ここで言い争っても意味はない。
弄ばれるだけだよ。」
そう言ってホシノは藤丸達の方を振り返る。
「フフフ…さすがは副生徒会長。君は賢そうだな…」
カイザー理事は、賢明な選択をしたホシノを見て、ある姿が重なる。
「思い出したよ。賢そうな君と一緒にいたあの全く以てバカな生徒会長の事を…」
カイザー理事の言葉を受けてホシノの脳裏に浮かぶあの日の悲劇。
枯れたオアシスに残された盾。
砂嵐に巻き込まれ、遭難した少女。
飢えて乾いて死んだ少女の死体を。
そしてその死体を絶望した瞳で見つめる一人の少女を。
「ッ!!」
ホシノは怒りで、カイザー理事の方にショットガンを向けるが…
「ダメだ。ホシノ…」
藤丸は、ホシノの腕を掴み、静止する。
ホシノは静止した藤丸を見た後、後ろにいる後輩たちを見た後、銃を下ろす。
「フフフ…では、来月以降もまたよろしく頼むよ。お客様…」
カイザー理事は去っていくアビドスの背中を見ながら高笑いをする。