藤丸はホシノから事情と思い出話を聴いた。
「うへ~すっきりした。こんな話を皆にしたところで心配させるだけだからさ。
でも、可愛い後輩たちにいつまでも隠し事したままってのもよくないし明日…
皆にちゃんと説明するよ。
知った所で困らせちゃうけど」
「話してくれてありがとう。
皆もホシノの悩みを受け止めてくれるはず。
大丈夫! 問題は多いけど皆と一緒ならきっと全部上手くいく。」
「うん…そうだね…奇跡でも起きてくれればいいんだけど…」
「皆となら起こせるよ…きっと」
ホシノは藤丸の言葉に頷き、体を伸ばす。
「さ~てと! この話はこれでおしまい! じゃあね~先生~」
「うん、また明日!」
ホシノを見送ると藤丸の影は不自然に伸び、影から巌窟王が現れた。
「巌窟王。何か情報は掴めた?」
藤丸は影から巌窟王が現れた事を察し、後ろを振り向く。
「あぁ、貴様も知っている通り…ゲマトリアの黒服という男がお前とホシノを狙っている。
黒服はホシノ或いはお前の身柄を確保しようとしている。
恐らく実験の被検体として使うつもりだろう。」
「ゲマトリア…黒服…やはり俺を狙っているか…」
「そうだ。だが、奴らはお前が奴らが望むお前であるかどうかは知らない。
数多に観測される世界における人理修復を知らぬお前、天文学的可能性にて観測される人理修復を知るお前。
お前は後者のお前ではあるが、奴らは実際にお前と出会うまでは知る由もない。」
「なら、何で俺がカルデアの俺だって知ってるんだ?」
「…それは…ゲマトリアにかつて貴様と敵対していた者がいるからであろう。」
「敵対していた…つまり俺や英霊達と同じキヴォトスの外から来た存在って事か…ありがとう。」
「共犯者よ。これからどうする気だ?」
「…ホシノを追跡する。
俺はやっぱり心配だよ。
被検体にはさせない。黒服って奴に先手を打つ。」
「フッ、お前ならそう言うと思ったぞ。では行こうか…」
巌窟王は藤丸の影に隠れ、藤丸はホシノの後をつけ始める。
藤丸は、密かに気配遮断を付与できるシャドウサーヴァントのキャスターを召喚し、自身に気配遮断を付与、風魔小太郎から学んだ風魔流の追跡術を使い、ホシノを追跡する。
「ホシノがいつも帰る道とは別…やはり…」
ホシノを追跡して数十分後、藤丸は無人の大通りに出た。
「…静かすぎる…」
大通りが静かすぎる事に違和感を抱いていた。
ホシノは数百メートル先、アビドス外へと続く駅に近付いている。
ホシノが乗り込もうとしているのは終電の電車だ。
あの電車がアビドスから出れば次の電車はない。
「ホシノの家からここからは真逆…やはり黒服という奴の所に行くつもりなんだろう。」
藤丸は静かすぎる大通りに違和感を憶えつつもホシノを追いかけようとしたその時――
『そう来ると思っていたが…そのような展開は認められない。
貴様は勇者としてホシノは囚われの姫として助けるべきなのだ。』
混沌の領域から金髪の異形がそう言葉を発し、指を鳴らして藤丸の周囲に無数のシャドウサーヴァントが現れる。
シャドウサーヴァントとして現れたのはトラオムにて現れた幻霊級のサーヴァント。
だが一体一体がキヴォトスにとって脅威となりうる。
「こいつらは…シャドウサーヴァント! 大通りが静かだったのは神秘の秘匿か!」
鎧を纏った影の剣士は、藤丸に対して切りかかる。
「ハァ!」
巌窟王は、藤丸の影から現れ、炎を放出し、影の剣士を焼き滅ぼす。
「マスターよ。戦いの準備をしろ。」
「巌窟王…あぁ…」
藤丸から巌窟王へ魔力が流れ始める。
箱の主の権限でキヴォトス全土の霊脈から汲み上げた魔力が巌窟王へ注がれる。
巌窟王に魔力は満ち、死毒の炎は煌々と燃え盛る。
「行くぞ。」
魔力を受けた巌窟王は、腰に差した西洋刀を抜き、毒炎を纏わせ、高速移動で切り刻み、炎を撒き散らす。
藤丸は、巌窟王の他にエミヤ、耀星のハサン、アーラシュのシャドウサーヴァントを召喚する。
アーラシュの影は召喚されて状況を把握し、ビルの屋上へと飛び移り、魔力を受けて無数の弓矢を生成し、無数の矢を放ち、シャドウサーヴァント目掛けて矢の雨を降らす。
耀星の影は、ナイフを構え、光を思わせる高速移動で、アーラシュの矢を受けた敵サーヴァントを切り刻んでいく。
エミヤの影は、干将莫邪を投影し、彼らが取り零した敵にとどめを刺す。
無数のシャドウサーヴァントを倒しきると再びシャドウサーヴァントの軍勢が現れる。
「またか…早くいかなければホシノは…」
藤丸は第二波のシャドウサーヴァントの軍勢を同じ手段で倒し、シャドウサーヴァントの軍勢が現れない事を確認するとシャドウサーヴァントを退去させ、巌窟王は藤丸を掴み、駅へと駆ける。
「クッ…遅かったか…」
だが、後100mの時点でホシノが乗る終電の電車は出発する。
「諦めるな。まだ間に合う。」
巌窟王は藤丸を抱えて砂漠を走り、電車を追う。
加速していく巌窟王。
電車に追いつこうとするが――
『貴様を足止めするにはこの存在を使うとしよう。』
急に天候が一変し、砂嵐が巻き起こり、雷鳴が響き渡り、天から巌窟王の周囲に雷が落ち、巌窟王は立ち止まる。
「何だ!?」
雷鳴を纏った砂嵐から何かが現れる。
それは宙を浮く巨大な物体と雷で構成されたかのような色合いの手と翼を持つ異形の巨人だった。
『■■した■■■に呼応して降臨する神霊セトの側面…神々の星座の一角である「セトの憤怒」…我が力が注ぎ込まれ、本来の力を遥かに超えるが故に足止めとして機能する。
これを倒す頃にはホシノは取引を終えているだろう。』
セトの憤怒は、藤丸の前に立ちふさがる。
電車は藤丸の元から遠ざかっていく。
『貴様を足止めできるなら手段は選ばぬ。
諦めよ。藤丸立香…運命はそう定まるのだ。
ホシノを取るか…キヴォトスを取るか…貴様ならわかり切っている事だろう?』
セトの憤怒は、雷を纏い、世界を滅ぼすべく活動し始める。
(こいつは…明らかにここで倒さないと不味い!)
藤丸はかつての事を思い出す。
藤丸の内面世界『偽りの東京』にて対峙した機神級の魔力を秘める嵐の化身『ワイルドハント』。
アレは試練として鎮座し、藤丸のみを敵視していた為、無人のお台場以外には被害は及ばなかった。
だが、このセトの憤怒は、機神級の魔力を内包し、世界に向けて無差別に災いを振りまいている。
「本気でやるしかないか…」
藤丸は大人のカードを取り出すと、巌窟王は復讐者の姿から鎧を纏った魔王の如き姿へと変貌する。
「さて、遅れるなよ?」
「あぁ…君を最大限援護する形で行く。」
藤丸はシャドウサーヴァント5騎を召喚した。
召喚されたサーヴァントは、マーリン、スカサハ・スカディ、アルトリア・キャスター、光のコヤンスカヤ、モルガンだ。
全員が援護型のサーヴァント。
5騎のシャドウサーヴァントは巌窟王の支援に集中する。
「行くぞ! マスターよ!」
藤丸と巌窟王は、セトの憤怒と対峙する。