青春記録都市キヴォトス   作:とある厨病の異聞観測

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第12話 大人の戦い(取引)

(さて、どうするか…)

 

藤丸は、ホシノの居場所をどうやって探るか考えていた。

アロナ曰くスマホの位置情報はアビドスの外の学区にあるとあるビルで途絶えており、そこからの足取りはおうことはできない

その時、部屋の外からノック音が鳴る。

 

「?」

 

藤丸は、扉を開けるとそこにはひび割れたデザインの黒い手紙が窓に立てかけられていた。

藤丸は手紙を開き、手紙の中に書かれてある指定の場所へと向かう。

アビドスの外、ホシノが取り引きしたビル。

藤丸は手紙を以てエレベーターに乗り込み、指定の部屋へと向かう。

エレベーターは真っ暗闇の一室に到着し、藤丸はエレベーターを降りて周囲を見渡す。

 

「この階であってるはず。」

「お待ちしておりました。先生。」

 

真っ暗闇の一室に月光が差し込む。

月光は太陽の光の様に暗闇の部屋を照らす。

 

「貴方とは一度こうして顔をあわせてお話してみたかったのですよ。連邦生徒会長が呼び出した不可解な存在。あのオーパーツ「シッテムの箱」の主であり、連邦捜査部「シャーレ」の先生。あなたを過小評価する者もいるでしょうが、私たちは違います。」

 

そう言うと黒服は、藤丸に対し、協力的な態度で話し始める。

 

「まず、はっきりさせておきましょう。私たちは、あなたと敵対するつもりはありません。

むしろ、協力したいと考えています。私たちの計画において、一番の障害であり一番の要になりうるのはあなただと考えているのです。

私たちにとってアビドスなんて小さな学校は、全くもって大した問題ではありません。

ですが、先生、貴方の存在は些事とは言えない。敵対する事は避けたいのですよ。」

「あなたたちは、一体何者?」

「おっと、そういえば自己紹介をしていませんでしたか? 私たちはあなたと同じ、キヴォトス外部の者…ですが、あなたとはまた違った領域の存在です。」

 

(違った領域。彼らの言っていることは何処から来たかではなく何処の位相(テクスチャ)から来たの方が正しいか。)

 

「適切な名前がありましたので、今はそれを拝借して使っております。

私たちの事は「ゲマトリア」、とお呼びください。

そして私の事は、「黒服」とでも。この名前が気に入っていましてね。私たち(ゲマトリア)は、観察者であり、探求者であり、研究者です。」

 

(…なるほどゲマトリアとは魔術師の集団か…数秘術。アヴィケブロン先生が死した後のカバラが使用していたとされる魔術)

 

藤丸は過去のことを思い返す。

エリア51の真実、マリスビリー・アニムスフィアの実験、特異点で行われていた数々の魔術師による所業を。

 

「あなたと同じ、「不可解な存在」だと考えていただいて問題ございません。…一応お聞きしますが、ゲマトリア(私たち)と協力するつもりはありませんか?」

「生徒を利用している内はその様なことはあり得ない。

無辜の民を利用する研究者に与するなど以ての外だ。」

「……左様ですか。真理と秘儀を手に入れられるこの提案を断ってまで、あなたはキヴォトスで何を追求するおつもりなのですか?」

「私はホシノを返してもらいに来ただけ。」

「……クックックッ。あなたの行動に正統性がない事にお気づきですか、先生? 今のあなたに一体何の権利があって、そんな要求をされているのでしょう?

ホシノはもうアビドスの生徒ではありません。届け出を確認されていないのですか?」

「…まだだよ。」

「…ほう?」

「「顧問」である私が、まだサインをしていない。

だから、ホシノはまだ対策委員会の所属だし、まだアビドスの副生徒会長だし、今でも私の生徒だから。」

「…なるほど。あなたが「先生」である以上、担当生徒の去就にはあなたのサインが必要……そういうことですか。

なるほどなるほど…。学校の生徒、そして先生…ふむ。中々に厄介な概念ですね。」

「あなたたちはあの子たちを騙し、心を踏みにじり、その苦しみを利用した。」

「えぇ、確かに仰る通りです。他人の不幸よりも自分達の利益を優先しました。

それを否定しません。私たちの行動は、善か悪かと問われればきっと悪でしょう。

しかし、ルールの範疇です。」

 

そういって黒服は契約書を指し示した。

 

「そこは誤解しないでいただきましょうか。アビドスに降りかかった災難は、私たちのせいではありません。

アビドスを襲ったあの砂嵐は、大変珍しい事とは言え、一定の確率で起こりうる自然現象です。

結果、人々は喉の渇きで苦しむでしょう。

そうなれば同然、水を売る者だって現れる。

それも自然と言っていいでしょう。」

 

黒服はアビドスに起こった災厄について…黒服なりの社会のシステムについて説明する。

 

「その水がとんでもない値段でも?」

「ククク…さして珍しくもない。世の中にはありふれた話でしょう。持つ者が持たざる者から搾取する。

弱い者に自分の未来を選ぶ権利はない。

…そういうことですから…アビドスから手を引いていただけないでしょうか、先生。ホシノさえ諦めていただければ、あの学校については守ってさし上げましょう。

カイザーPMCのことについても、私たちの方で解決いたします。

あの子たちもどうにか、アビドス高等学校に通い続ける事ができるはずです。そしてこれは、あのホシノさんも望んでいることのはず。いかがですか?」

「断る。」

「…どうして? どうあっても、私たちと敵対するおつもりですか? あなたは無力です、戦う手段などないでしょうに!」

 

全てを滅ぼさんとする禍々しい反転色の光を放つ黒い銃を取り出すと同時に影の中から巌窟王が現れ、黒服に向けて黒炎を纏った剣を向ける。

 

「なるほど…貴方は彼女が仰っていた可能性…かの探偵風に言えば人類史最大規模の殺人事件が二度も起きた平行世界…

その世界において選ばれた方…七つの世界(ジャンル)を破壊した先生ですか…

なるほど合点が行きました。

キヴォトスは人理の位相(テクスチャ)と異なる世界。

キヴォトス外で観測された我々でも解明不可能な空白期間はやはりあの二つの事象が原因だったのですね。なるほど真理や秘儀に興味が無いのも頷ける。

あなたは既に手に入れている。

そしてあの男が目指した七つの古則…六つ目の答えを知る者。

そして貴方はカバラ思想の始祖ソロモン・イブン・カビロールの契約者とも言える存在。つまり貴方はある意味では我々よりもゲマトリアに近いという事になりますね。」

「黒服と名乗る男よ。

貴様が我が共犯者の生徒に手を出すというのなら我が炎刃は貴様の魂を焼き尽くすぞ。

我が本質は復讐の神、世界をも焼く復讐の炎。我が共犯者が黙っていようと俺が生徒の嘆きに応じて貴様らを殺すのみ。」

「……先生。」

 

黒服は巌窟王を無視し話を続ける。

 

「その銃は使ってはなりません。私はそのリスクを薄っすらとですが知っています。

それば使えば使うほど貴方の生と時間が削られていくはずです。」

 

黒服は、黒い銃、藤丸の魂に刻み込まれたブラックバレル…神や世界すらも殺す死の概念について指摘する。

 

「…そうでしょう? ですからその銃はしまっておいてください、先生。

あなたにもあなたの生活があるはずです。

先生。

放っておいても良いではありませんか。元々、あなたの与り知るところではないのですから。」

 

黒服はブラックバレルの銃口を下げようと銃身に触れ、ブラックバレルから伝わる光によって黒服は脂汗を流す。

 

「断る。」

「なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? 理解できません、なぜ? なぜ断るのですか? どうして? 先生、それは一体何のためですか?」

「貴方が(マスター)の戦いを知っているのなら既に理解できている筈だと思ったんだけどね。」

「何が言いたいのですか? あなたが責任を取るとでも? あなたはあの子たちの保護者でも、家族でもありません。

あなたは偶然アビドスに呼ばれ、偶然あの子たちと会っただけの他人です。

それに貴方はもう十分に戦いました。もう苦しむ必要なんてないでしょうに。

一体どうして、そんなことをするのですか? なぜ、取る必要のない責任を取ろうとするのですか?

よもや貴方は彼女達にかつての崇高(仲間)の影を見ているつもりですか?

もしそうであれば驕らないでいただきたい。彼女らは貴方の知る崇高(仲間)ではありません。ゲマトリアである私が言うのもなんですが彼女達はこの地に生まれた神秘であり生徒であり貴方なりに言えば再召喚された存在です。」

 

黒服は藤丸がかつての仲間、かつての英霊(崇高)と生徒を重ねて見てまるで彼らが遺した子供達の様に扱っているのではないかと指摘する。

 

「そうだよ。彼女達はただ…お互いに仲間思いで無茶し合うアビドス高校の生徒達だよ。責任を負わなかった大人達に苦しめられているただの子供だよ。」

「……ああ、そうですか。大人とは「責任を負う者」、そう言いたいのですか? 

先生、その考えは間違っています。

大人とは、望む通りに社会を改造し、法則を決めて、規則を決め、常識と非常識とを決め、平凡と非凡とを決める者です。

強者が弱者を支配する、それが大人です。

自分とは関係のない話、なんてことは言わせません。貴方も知っている筈です。

我々ですら反吐が出るような所業を行っていたマリスビリー・アニムスフィアという大人を!」

 

黒服は、藤丸と世界を利用した大人。

マリスビリー・アニムスフィアの被害者である事を突き付ける。

 

「貴方は彼と同じじゃない。

彼は歪んでいながら人類を誰よりも愛していた。

しかし貴方達はそうじゃないんだろう? ただ生徒を研究に利用し、使い捨てる自己満足でしかない。」

「いいでしょう。では、ホシノの解放そしてアビドスの借金の半分と引き換えにこれから貴方の事を観察させていただきましょう。」

「どういうこと?」

「本来の世界ならば貴方には神秘など持っていませんので契約の代替となりえませんでしたが、この世界だと暁のホルス以上に希少な神秘を後天的に宿している。

無名の司祭が崇める名もなき神々(精霊)その王族(真祖)、オールトの雲から来た極限単独種(ORT)の心臓、地球が始まってから存在し続ける純血竜(アルビオン)の腕、原始宇宙における終焉の神(アンキ・エレシュキガル)、崇高よりも高い次元にある根源、そして先ほども指摘しました通り我々が敵対する異次元存在すらも生易しく思える魂に刻み込まれた黒い光…

貴方にはそれらとの深い繋がりを有している。神秘、恐怖…いえ、正確には崇高の特異点(ブラックホール)と言っていいでしょう。

契約の内容を具体的に言えば、数多の崇高を振るうカルデアのマスターとしての姿を観測する事ですね。

そして個人的な感情ですが、私は貴方の事が気に入りました。

貴方ならば我々が考える貴方にうってつけの実験に幾度でも耐えられる。

どうです? 私の提案に乗りますか?」

 

黒服は、そう言って新しい契約書を取り出す。

その契約内容は全ての権利を譲り渡すものではない。

ただ戦闘実験に付き合うのみ。

だが、これから行う実験の事を考えると常人では耐えきれないものだろう。

 

「わかった。巌窟王もそれでいい?」

「……お前が後悔しない道を往け。

どうせ奴らはお前が契約に乗ろうと乗らなかろうとお前の事を観察し続けていただろうよ。

だが、黒服よ。覚えておくがいい。契約もこれっきりだ。

次に貴様らゲマトリアが我が共犯者の生徒に危害を加える行動を成そうとした時、我が炎がゲマトリアの命を狙うという事を」

 

巌窟王は炎刃を黒服に突きつける。

 

「クックック…えぇ、わかっていますよ。救世主の山を名乗る者。

しかし我々ゲマトリアは一枚岩ではありません。私の与り知らぬところで他のゲマトリアの悪行について言及されましてもどうしようもありません。

ですので私の所業は私だけにその刃を向け、他のゲマトリアの所業も他のゲマトリアにその刃を向けていただきたい。

私と他のゲマトリアはお友達、馴れ合いの関係ではありませんので私やゲマトリアの身内を狙った復讐は通用しません。

ですので復讐の化身を名乗るならば復讐者なりの道理というものを守ってほしいですね。」

「……いいだろう。」

 

巌窟王は、刃を鞘に納める。

藤丸は契約書にサインをすると黒服はホシノに関する契約書を破ると巌窟王は炎でその破り捨てた契約書を焼いた。

 

「では、ホシノの解放の為とこれからの我々との実験への餞としてにこれを渡しておきましょう。」

 

黒服は、懐から聖杯を取り出す。

 

「これはとある方から貴方と我々との契約が成立した際に渡せと言われていましてね。

どう扱うかは貴方にお任せいたします。」

 

藤丸は、聖杯を手に取り、懐にしまった。

 

「ホシノは、アビドス砂漠のPMC基地の中央にある、実験室に居ます。

「ミメシス」で観測した神秘の裏側、つまり恐怖…貴方にわかりやすく言えば異霊(オルタ)の概念ですね。

それを、生きている生徒に適応する事ができるか――そんな実験を始めるつもりでした。

そう、ホシノを実験体として。そしてもしホシノが失敗したらあの狼の神が代わりに、と思っていたのですが…

貴方との戦闘という名目の実験・観察できる権利を得られた以上、必要がなくなりました。

それに狼の神は彼女の管轄です。

そういうことですので、ホシノの身柄を引き取りに行ってください。」

 

そう言い切ると黒服は、ふと何かを思い出したかのように再び口を開いた。

 

「本来の可能性であれば貴方に話すつもりはありませんでしたが、この一件とは別に忠告を…

貴方が契約している金型(クラス)の一つ『降臨者(フォーリナー)』でしたか…人類に対する脅威、時計塔の院長直属の学科『伝承科(ブリシサン)』が蒐集する人類外の異物。

あれらはこのキヴォトスにおいて終焉を齎し、我々が敵対する異次元存在に性質として酷似し、分類として同じとするもの。

逆に言えば我々が敵対する異次元存在は伝承科の管轄といってよいでしょう。

世界の内から出でたる降臨者(フォーリナー)ならば何も問題ありませんが世界の外より来たる降臨者(フォーリナー)を使うのは我々(ゲマトリア)貴方達(シャーレ)の共通の敵たるキヴォトスに終焉を齎す存在への対抗策だけして頂きたい。大事な生徒を想う気持ちが本当にあるのならですがね。」

 

黒服は、強い口調で忠告する。

アビゲイルなどの外なる降臨者の存在はキヴォトスにとって危険な存在であると

 

「先生…このビルを出た瞬間、貴方との契約が始まります。

先生ではなく貴方の本質、星見の魔術師としての戦いを…

貴方の『召喚』と我々が保有する『技術』、『芸術』、『記号』、『聖杯』との相対によって観測できる

星見の魔術師(カルデア)としての側面を…

ゲマトリアは楽しみにしていますよ。」

 

藤丸は踵を返し、その場から立ち去り、アビドス高等学校へと向かった。

藤丸の契約に呼応するようにアビドスの遠くの地で、巨大な機械の蛇が咆哮を上げ、ミレニアムの廃墟で何かが蠢き、放棄された遊園地で、鼠と鴉が高笑いした。

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