第1話 アビドス高校廃校対策委員会
「…マスター。」
自分に似たような声をする。電車に揺れる夢から目を覚ます。
「マスター。目覚めの時だ。」
机に突っ伏した状態で、眼を開けると地獄の黒炎を纏い、眼帯の様な仮面をつけた銀髪赤目の紳士が立っていた。
「アヴェンジャー。何かあった?」
この男は、アヴェンジャー…巌窟王の名で知られるモンテ・クリスト伯爵。
世界でもっとも有名な復讐者である。
人理修復の旅にて藤丸の影とも呼べる存在であった男で、かつて懐かしき東京の街を…藤丸にとっての
二度の救済の旅を終えた藤丸にはもはや世界救済の使命はなく今はまた再び藤丸の炎として顕現している。
先生という職業に復讐の炎は必要ないと思われるが、これは藤丸の願望。
藤丸のアヴェンジャー達に会いたいという願い。
そして今はデミサーヴァントの力を失い、キヴォトスの外で地の足着いた人間として生きる喜びを…ありふれた日常を堪能しているマシュに代わって藤丸を守る為。
故にその炎、復讐の為にあらず世界を救いしマスターを守る浄化の炎である。
「ふむ、先ほどお前はマシュから聞いていたレムレム睡眠という状態に陥っていた。だから俺が連れ戻しに来た。それだけだ。」
「なるほどありがとう。」
「礼には及ばん。それに俺が介入せずともよい危険性のない夢。故に本来ならば起こす必要性はないが、お前には怠惰は似合わんとカルデアで言ったはずだ。それにお前はもうカルデアのマスターという子供ではなくシャーレの先生という大人なのだから…」
「確かにね。今はここにいるのは
「では、俺はお前の影の中に戻るとしよう。コーヒーは淹れてある。眠気覚ましに飲むといい。」
巌窟王は、そう言って藤丸の影の中へ戻っていった。
「さて――」
藤丸はタブレットを取り出す。
そしてタブレットにパスワード入力する。
――我々は望む七つの奇跡を。我々は覚えているジェリコの聖杯を。
改変されたパスワードを入力するとシッテムの箱は起動し、電車の中で見た少女を幼くしたかのような少女が画面内に現れる。
『おはようございます、先生!』
「うん、おはようアロナ。」
藤丸はそう言い、机の上に置かれた巌窟王が淹れたコーヒーを飲む。
(相も変わらず美味いな。巌窟王のコーヒーは…)
「ここ数日間、シャーレに関する噂もたくさん広まっているみたいですし、他の生徒達からも助けを求める手紙も届いています。」
「なるほど…じゃあ見せてもらえるかな?」
「はい! けれど不穏なものもありまして…」
「じゃあそれから読もうか。」
それはアビドス高等学校からの依頼書だった。
アビドスは暴力組織に追い詰められており、それについてシャーレからの支援が必要という内容だった。
「なるほど…よし、私は今からアビドスへ向かう。」
「すぐに出発ですか!? さすが、大人の行動力! かしこまりました! すぐに出発しましょう!」
藤丸はシャーレから出て、アビドス自治区へと向かった数日後…
「疲れるな…だけど、あと少しでつくだろうね。」
アビドスへの一度目の支援物資を持ち、藤丸は地図アプリを見ながら廃墟の街を歩いていた。
長期の行軍は北米特異点で体感済みで、砂漠での移動はキャメロット特異点ですでに経験済みだ。
故に本来の世界線よりも精神的肉体的疲労が少ない。
「礼装の体温調整機能が切れる前につきたいな…ん?」
藤丸は廃墟を見つけた。
「あそこで休んで体力を少しでも回復させるか…それにちょっと眠い。」
廃墟に入るとそこに先客がいた。
「ん?」
そこには廃墟で涼んでいるアビドス高校の制服を着た銀狼の如き少女がいた。
その少女はどことなく異霊となったニトクリスのような面影があった。
「砂だらけでフラフラ…強盗でもあった? いや、荷物は取られていない。もしかして事故?」
「いや、お腹が減ってフラフラになっていた。」
「ホームレスじゃないってこと? えっと…」
「用事があって数日前にこの街に来たんだけど、お店がなくてね。だから諦めて目的地まで行くことにしたんだ。」
「ここは元々そういう所だから。食べ物がある店なんか、とっくに無くなっているよ。こっちじゃなくてもっと郊外に行けば市街地があるけど。」
「ごめん、この辺りは初めてなんだ。」
少女は困惑する。
「…ちょっと、待って」
少女はカバンから水筒を取り出す
「はい、エナジードリンク。飲む? ちょっとは腹の足しになると思うんだけど…」
「ありがとう。コップとかあるかな?」
「ん。ちょっと待って。」
少女はカバンから使い捨てのコップを取り出す。
「はい。どうぞ。」
少女は、そう言ってエナジードリンクをコップの中に入れて藤丸に渡した。
「ありがとう。」
藤丸は、エナジードリンクを飲み、少しの体力を回復し、眠気が覚めた。
「さて、君はアビドスの子かな? 私はちょっとアビドス高校に用事あって…案内してもらいたいんだけど。」
「そっか…久しぶりのお客様だ。それじゃあ案内してあげる。すぐそこだから。」
少女は、廃墟の外に停めてあったロードバイクを押しながら藤丸を学校へ案内した。
「ただいま。」
「おかえりシロコ先輩。そちらの方は?」
黒い髪の猫のような少女は、藤丸のほうを向く。
「アヤネさんからの依頼で来ました。私は連邦捜査部シャーレの顧問藤丸立香です。よろしくね。」
そう言って藤丸は、シャーレの職員証を見せるとアビドス高校の生徒は驚いた表情を見せているのをよそに支援物資を床に置いた。
「…え、ええっ!? まさか!?」
眼鏡をかけたエルフ耳の少女は、望みが叶うとは思わなかったような声を上げ
「連邦捜査部「シャーレ」の先生!?」
猫のような少女は、予想外という声を上げ
「わあ☆支援要請が受理されたのですね! 良かったですね、アヤネちゃん!」
身なりの良いおっとりとした少女は、眼鏡の少女アヤネに向かって祝福の声を上げる。
「はい! これで…弾薬や補給品の援助が受けられます。
あ、早くホシノ先輩にも知らせないと…あれ? ホシノ先輩は?」
アヤネはホシノという人物がこの場にいないことに疑問を浮かべる。
「委員長は隣の部屋で寝てるよ。私、起こしてくる。」
猫のような少女は、そう言って隣の部屋に向かうのと同時に外から銃声が鳴り響いた。
「じゅ、銃声!?」
おっとりとした少女が驚くと藤丸は、隠れながら窓の外を見る。
「ひゃっはははは! 攻撃だ! 攻撃をしろ! 奴らはすでに弾薬の補給を絶たれている! 襲撃せよ!! 学校を占領するのだ!!」
外にはヘルメットを被った不良少女の軍団がアビドス高校に押し寄せていた。
「あいつら…性懲りもなく…!」
狼のような少女は不良集団に対し、拳を震わせる。
「ホシノ先輩連れてきたよ! 先輩! 寝ぼけてないで、起きて!」
猫のような少女は、ホシノと呼ばれる幼い少女の肩を振る。
「むにゃ……まだ起きる時間じゃないよー」
ホシノは眠そうな表情で、フラフラと目を擦る。
「ホシノ先輩! ヘルメット団が再び襲撃を! こちらの方はシャーレの先生です!」
アヤネはホシノに対し現状を報告する。
「ありゃ~そりゃ大変だね…あ、先生? よろしくー」
ホシノは一瞬、藤丸の方を見定めるような諦めるような目で睨み、すぐに目を閉じた。
「むにゃ。」
(一瞬、睨まれたような気がしたけど…気のせいかな?)
「先輩、しっかりして! 出勤だよ! 装備持って! 学校を守らないと!」
猫のような少女は、ホシノが持っているであろう装備をホシノに押し付ける。
「ふぁあー…むにゃ。」
ホシノは大きな欠伸をした後、再び目を擦り、猫のような少女から装備を受け取る。
「おちおち昼寝もできないじゃないかー、ヘルメット団めー。」
ホシノは、そう言いながら目を見開き、戦士のような顔へと変わる。
「すぐに出るよ。先生のおかげで、弾薬と補給品は十分。」
狼のような少女は、支援物資を開き、その中にある今後の定期的な支援について書かれた物品譲渡証明書に関するファイルを丁重に机の上に置き、皆が各々の装備にあった弾薬や補給品を取る
「はーい、みんなで出撃です☆」
おっとりとした少女はハンドガトリングを手に出撃の合図をかけると四人は窓を開き、外へと飛び出した。
「私がオペレーターを担当します。先生はこちらでサポートをお願いします!」
「了解、魔術回路起動…礼装…戦闘モードに移行。」
シャーレの権限によって自身の肉体に魔力が供給されており、カルデアと時と同じ戦い方が可能である…が、この世界において生徒が主役である為、生徒同士の戦いにシャドウサーヴァントの力は使わない。
大人が相手であるときのみシャドウサーヴァントを使うのだ。
故に藤丸は礼装による支援を主体とする。
「さて、早速、始めると致しますか…
藤丸は、決戦用カルデア制服に刻まれた魔術の一つ…ビーストVIIと言われていたU-オルガマリーを仮想敵とした強化魔術「決戦強化」を発動し、先生としての能力と相まってアビドス高校の生徒の身体能力と武器の能力が短時間ではあるが飛躍的に向上する。
その強化度合は、ただの一般生徒であっても全力でやれば正面でもキヴォトス最強格と謳われるゲヘナの風紀委員長に一矢報いる程の能力を発揮するだろう。
アビドス高校のメンバーは、力が漲る感覚を抱き、各々が自分の必殺技といえるような技を繰り出し、ヘルメット団を一瞬で撃退する。
アビドス高校のメンバーは残党がいないことを確認すると校内へと戻っていった。
「いやぁ~なんだか先生のおかげか。昔以上に動けたよ~なんだかヘルメット団が可哀想に思えるぐらいだよ。」
ホシノは敵に同情し、余裕の表情で勝ちを誇る。
「可哀想に思えるじゃありませんよ。ホシノ先輩…勝たないと学校が不良のアジトになっちゃうじゃないですか……。」
アヤネは勝てたことにホッとし、ホシノの発言を窘める。
「先生が何かしたのかは知らないけど私たちだけの時とは全然違った。
これが大人の力…
すごい量の資源と装備、それによくわからない力まで。大人ってすごい。」
狼のような少女は、藤丸に向けてキラキラとした目で見つめる。
「今まで寂しかったんだね。シロコちゃん。パパが帰ってきてくれたおかげで、ママはぐっすり眠れまちゅ。」
ホシノは、狼のような少女シロコにそう言い、机に伏せる。
「いやいや、変な冗談はやめて! 先生困っちゃうじゃん! それに委員長はその辺でしょっちゅう寝てるでしょ!」
「そうそう、可哀想ですよ。」
「あはは…少し遅れちゃいましたけど、あらためてご挨拶します。先生。」
アヤネがそういうとホシノ以外は姿勢を正した。
「私たちは、アビドス対策委員会です。私は、委員会で書記とオペレーターを担当している1年の奥空アヤネ…」
アヤネは次に猫のような少女に手を向けた。
「こちらは同じく1年の黒見セリカ。」
「どうも。」
セリカは軽く挨拶をするとアヤネは次におっとりとした少女とシロコの方に手を向けた。
「2年の十六夜ノノミ先輩と砂狼シロコ先輩。」
「よろしくお願いします。先生~」
「さっき、道端で最初にあったのが私。…あ、別にマウントをとっているわけじゃない。」
アヤネは次に机で伏しているホシノに手を向ける。
「そしてこちらが委員長の、3年の小鳥遊ホシノ先輩です。」
「いやぁ~よろしく、先生ー。」
ホシノは顔を上げ、気だるげな挨拶をした。
「よろしく皆。ところで対策委員会って何かな? 見たところ予想以上に危機的状況そうだけど…」
「そうですよね。対策委員会とは…アビドスを蘇らせるために有志が集った部活です。」
「うんうん! 全校生徒で構成される、校内唯一の部活なのです! 全校生徒と言っても、私たち5人だけなんですけどね。」
「ほかの生徒は転校したり、学校を退学したりして町を出て行った。学校がこのありさまだから、住民もほとんどいなくなってヘルメット団っていう三流のチンピラに何度も襲われている始末なの。
現状、私たちだけじゃ学校を守り切るのが難しい。在校生として恥ずかしい限りだけど」
「もし「シャーレ」からの支援がなかったら今度こそ万事休すってところでした。」
「だねー。補給品も底をついてたし、さすがに覚悟したね。なかなかいいタイミングに現れてくれたよ。先生。」
「なるほど、ところでホシノ。さっき戦ってる最中何か考え事してた節があったけど何かあったのかな?」
「おっ、気が付くね。先生。実はある作戦を考えてたんだ。シロコちゃんも言っていた通り、ここ数日ヘルメット団が何度も襲ってくるサイクルが続いてて辟易してるんだよね。そして辟易としているここで先生の登場。だからこのタイミングでこっちから仕掛けて、奴らの前哨基地を襲撃しちゃおうかなって。奴らは消耗してるし、先生のよくわからない力でこっちは強くなってるからさー。」
「い、今ですか?」
「そう。今なら先生もいるし、補給とか面倒なことも解決できるし。」
「なるほど。ヘルメット団の前哨基地はここから30kmくらいだし。今から出発しよっか。」
「いいと思います。あちらもまさか今から襲撃されるなんて夢にも思っていないでしょうし」
「そ、それはそうですが…先生はいかがですか?」
「行こう。攻撃こそ最大の防御ともいうしね。」
「よっしゃ、先生のお墨付きももらったことだし、この勢いでいっちょやっちゃいますかー。」
「善は急げ、ってことだね。」
「はい~それではしゅぱーつ!」
藤丸とアヤネ以外のアビドス高校のメンバーは前哨基地付近へと向かった。
『カタカタヘルメット団のアジトがあるとされるエリアに入りました』
アヤネはアビドス校舎に残り、オペレーションを開始する。
『半径15km圏内に、敵のシグナルを多数検知。おそらく敵もこちらに来たことに気付いているでしょう。ここからは実力行使です!』
藤丸はアヤネの通信を聞き、魔術回路を開く。