ビナー:違いを痛感する静観の理解者(1)
アヤネから事の顛末を聞き、そして便利屋に報酬を支払った数日後――
キヴォトス全域に警報が鳴り響く。
キヴォトスの空が砂に覆われる。
各地に落雷が落ち、天は荒れ狂う。
アビドス砂漠は聖杯の魔力によって変色し、紫がかった禍々しい空へと変貌する。
アビドスに巨大な砂嵐が発生し、その中心に黒い領域が発生する。
アビドス砂漠の重力が変動し、台風の中心へとあらゆる存在が引き込まれ、多次元解釈障壁と反発し、空へと打ち上げられる。
藤丸は、シャーレの屋上にてその台風の様子を見る。
(あれが…黒服の…)
藤丸は、重力と風により飲み込む台風を黒服の仕業であると考える。
その時、藤丸が持っているスマートフォンからけたたましい着信音が鳴り響く。
藤丸がスマートフォンの画面を見ると連邦生徒会長代理『七神リン』からの着信が鳴り響いていた。
藤丸が着信を受け、耳元にスマートフォンを当てる。
『先生! 聞こえますか!?』
リンは声を荒げて藤丸に連絡をする。
「聞こえてるよ。リンちゃん…例の台風だね?」
『誰がリンちゃんですか…いえ! そんな冗談を言える状況じゃありません! いますぐに避難を! キヴォトス各地に避難所を設けております! 我々、連邦生徒会もすでに避難しておりますので先生も早く!』
「…うん。わかった。」
通話を切り、そして目を瞑り、そして台風を見据える。
(リンちゃん。ごめんね…これは俺の責任だ。)
巨大な砂嵐によって壊れつつあるキヴォトス。
藤丸は意識を台風の中心にある特異点へと目を凝らすと空間に黒い穴が開き、藤丸は転移する。
多次元解釈の防壁。
特異点や異聞帯が有する外世界と断絶する障壁。
だが、100%のレイシフト適正を持つこの世界の彼には意味がなく多次元解釈の防壁を通り抜け、台風の中心へ侵入する。
「来ましたね…カルデアのマスター。」
「黒服。俺以外も巻き込んでいるとはどういう了見だ?」
藤丸は、契約とは違って災害によって生徒達を巻き込んだことを言及する。
「えぇ、私としても想定外の出来事でして…私としては聖杯と接続し、世界の外から魔力を引き出したかの者の力は精々特異点一つを形成する程度だと踏んでいました。
ですが、仮にも十に分かたれた人理発展教の神の御名を冠する存在だからでしょうか? その力は私の想定を超えるものとなっていました。
大変申し訳ございません。」
黒服はそう言い、台風の目、砂漠の中心で、藤丸に対して謝罪の意を示す。
「ですが、契約は契約…契約上では、ホシノから貴方へ契約対象を移し替えただけで内容自体にさほど差異はございません…ですので契約の代償を支払っていただきましょう。」
黒服が指を鳴らすとアビドスの砂漠が揺れる。
「遠い昔。キヴォトスの端、誰も足を踏み入れない旧都心のとある廃墟で、奇妙な研究が進められていました。神を研究し、その存在を証明できれば、その構造を分析し、再現できるだろう。
すなわちこれは、新たな神を生み出す方法である。
誰もが嘲笑う滑稽な仮説でしたが、そんな理論に興味を示した者たちがいたのです。
我々が名前を拝借する前の「ゲマトリア」がその研究を支援し、莫大な資金と時間が費やされ、神の存在を証明するための超人工知能が作られたのです。
神という存在に関する情報を収集、分析、研究し、それを証明する
…月日が流れ、都市は破壊され、研究所も水の底に沈みました。そのような研究が行われていたという事実すら忘れ去られるほどの時間が過ぎたにも関わらず、このAIは、己の任務を遂行し続けました。…そしてついにAIの宣言が、廃墟に声高らかに鳴り響いたのです。
「Q.E.D.」と。これは証明され、分析され、再現された新たなる神の到来です。「音にならない聖なる十の言葉」、と己を称する新たな神。
黒服は、藤丸へ近づいていく。
「あなたがこれから相対する預言者は、セフィラの最上位に位置する、天上の三角形の一角。そのパスは理解を通じた結合。「違いを痛感する静観の理解者」の異名を持ちます。それは…」
砂漠が大きく隆起し、砂埃が太陽を覆う。
「
黒服の背後から巨大な蛇の機神が現れ、咆哮を上げ、咆哮だけで1km範囲の廃墟が粉砕する。
E-オルガマリーに匹敵する霊基を有する機神。
この世界のビナーは先日出現したセトの憤怒を遥かに超える力を持つ。
「デカグラマトンの予言者を相手に、あなたがいた「カルデア」はどこまで耐えられるでしょう? あなたが繋げてきたその星光が、果たして新たな神の御前でどれだけの意味を持てるでしょう? 英霊が持つ崇高は、新たな神の神秘に比肩しうるでしょうか? そうです。これは非常に興味深い実験なのです。
カルデアのマスター、あなたは神を目の当たりにしたことがありますか?」
「その問いの答えは既に知っているようなものだろう?」
「クックックッ…確かにそうですね。貴方は神々が忘れ去られる前…崇高の姿を目にしてきました。…しかし今回は、あなたの知っているそれとは、少し違うと思いますよ。」
「なるほど…一つ聞いてもいいかな?」
「何でしょうか?」
「戦闘の実験に付き合うのはいいけど、もしあれが壊れてしまっても文句は言わないよね?」
「えぇ、問題ありません。壊れてしまったらその程度の存在だったということだけです。」
黒服はそう言い、聖杯の力を応用し、安全かつ戦場全体を俯瞰できる場所へと転移した。
藤丸は先生の目付きからかつて世界を滅ぼした者カルデアのマスターの目へと変わる。
「告げる。」
藤丸は魔力を奔らせ、英霊召喚の詠唱を詠う。
藤丸の足元に召喚陣が浮かび上がる。
(30騎の召喚。大統領特異点と同等の戦力数でやるしかない。)
召喚するのは、30騎のサーヴァント。
対E-オルガマリーを想定した英霊部隊だ。
即ち、総力戦。
3騎×10個の英霊分隊に分けて挑む戦い。
「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に
聖杯の寄るべに従い、人理の轍より応えよ。
汝星見の言霊を纏う七天
糾し、降し、裁き給え
天秤の守り手よ。」
30騎の英霊の影が召喚される。
第一部隊にモルガン、メリュジーヌ、アルトリア・キャスター
第二部隊に蒼崎青子、スターシエル、アーキタイプ・アース
第三部隊にカルデアに登録されている黒のテスカトリポカ、ククルカン、光のコヤンスカヤ
第四部隊にマーリン、超人オリオン、ロムルス・クィリヌス
第五部隊に英雄王ギルガメッシュ、ティアマト、アンキ・エレシュキガル
第六部隊に山の翁、太公望、英霊ノア
第七部隊にメルトリリス、パッションリップ、キングプロテア
第八部隊にレディ・アヴァロン、『両儀式』、カーマ
第九部隊にイヴァン雷帝、始皇帝、アルジュナオルタ
第十部隊にスカサハスカディ、エドモン・ダンテス、そして影から現れた本物の巌窟王モンテ・クリスト
いずれも神霊、冠位そしてそれに連なる高位の存在だ。
(どういうわけか。ドラコーとニトクリス・オルタは召喚拒否された。いや、ドラコーの場合、正確に言えば霊基が眠っていると言った方が正しいな。しかしニトクリス・オルタは…)
藤丸は、この二騎が召喚できなかったことに違和感を覚える。
「クックックッ…聖杯を得たデカグラマトンの力は三等惑星級。四つの別れた『異星』のエレメンツにより生み出された『神』に匹敵する力を持ちます。
我々としても想定外。
そう、貴方が30騎の英霊を召喚することは正解と言える行為。
さぁ、見せてください。
貴方が所有する崇高を!」