「赤い世界…? それにこの高度、キヴォトスの光景…これは…」
「先生! これは一体!?」
シロコは、キヴォトスが滅んでいる様を見て酷く狼狽える。
それもそのはず。
自分の過ごしてきた世界が全てなくなってしまっている訳なんだから。
藤丸はその感覚をよく覚えている。
「落ち着いて聞いてくれ…シロコ。ここは特異点だ。」
「特異点?」
「歴史の歪み、正常な時間軸から切り離された現実だ。
この特異点を放置していたらキヴォトスの歴史に狂いが出る。
…いずれこの赤く滅びたキヴォトスが現実世界のキヴォトスを侵食する。」
「じゃあつまり…」
「あぁ、この特異点を消す。
私はその為にここへ抑止力に呼ばれたんだろうね。
キヴォトスの歴史を正すためにね。
この特異点を消せば私達は私達のキヴォトスへと帰れるんだ。
私達のキヴォトスは滅んでなんかいない。
そしてシロコ…君は恐らく私のレイシフトに巻き込まれたんだと思う。
ごめんね。」
「ううん。別に…それに…」
シロコはそれを聞いて深呼吸を何度か起こった後、納得し、包帯を解いてアヌビスを思わせる様な令呪を藤丸に見せる。
「ここに来たのは多分、決まっていた事なんだと思う。
先生も同じような痣があるでしょ?」
「令呪…うん、そうだね。私も同じ痣を持っているよ。」
藤丸はそう言ってシロコに自身の令呪を見せる。
「それは令呪と言ってマスターとしての証なんだ。
マスターはサーヴァントを召喚する人の事。」
「サーヴァント?」
「うん、巌窟王。」
藤丸はそう呼ぶと、影から毒の炎を纏った男『巌窟王』が現れる。
「……ふむ、狼の神、そして聖櫃の娘の前に俺を現すとはな。」
「まぁまぁ…紹介するよ。巌窟王モンテ・クリスト。俺の頼れるサーヴァントさ。
サーヴァントというのは言うなれば英雄や神様が最強の使い魔になったって感じかな?」
「使い魔…小説とかで見るあの?」
「そうだね。君は最強の使い魔を召喚できる資格があるって事だ。」
「そしてサーヴァントとはマスターの半身になりうる存在。狼の神よ。俺が我が共犯者たる先生の影であるように貴様のサーヴァントも貴様の影となる。」
「狼の神って私の事?」
「そうだ。貴様の本質は…否、これを知るのはまだ先か…だが、その真意をすぐに知るであろう。
その時こそ貴様の影と我が共犯者の影たる俺が並び立つ時だ。」
巌窟王は、そう言って藤丸の影の中に戻った。
『驚きました。巌窟王さんでしたっけ…私の事を認知してるなんて』
『まぁ、巌窟王ってそういうところがあるからね。
それよりもアロナ…ここがどこか…いや、ここがどんな施設かわかるかな?』
『はい。解析してみます。』
アロナは、そう言って空間の解析を開始し、数秒後、答えが出たのかヘイローの形が変化する。
『ここはアトラ・ハシースと呼ばれる今のキヴォトスに存在しない技術が使われた要塞だと思われます…それで…恐らくアトラ・ハシースが特異点を維持する聖杯の役割をしているものと思われます。
ですのでアトラ・ハシースの中枢を壊せばこの特異点は消え去る筈です。』
『なるほど…アトラ・ハシース…英霊ノアが保有する宝具を由来とした技術か…』
(もしかしたら英霊ノアの宝具もそういう機能を持っていたりするのかな?)
『ありがとう。アロナ。』
藤丸は、シッテムの箱を仕舞い、シロコに合図を出して先に進む。
しばらく進むと藤丸達の周囲に前回より少ない数の敵が二人を取り囲む。
「ちょうどいい。
先生、この魔術礼装? の力を使ってみたい。」
シロコはそう言ってアサルトライフルを構える。
「じゃあ、教えた通り回路が開けるかい?」
「ん、やってみる。」
シロコは、魔術回路を開く。
魔術回路を開くイメージは、砂漠を疾走する狼。
「
シロコの魔術回路に魔力が迸る。
シロコの扱う魔力はクリプターの平均値に匹敵する魔力量。
マスターとしてやっていくには十分な魔力だ。
『先生。シロコさんの魔術回路が開きました!
魔力支援を開始しますか?』
『あぁ、頼んだ。』
『お任せください!』
聖杯と繋がった藤丸からシッテムの箱へと魔力が流れ、シッテムの箱に流れた魔力はシロコへと流れて魔力を獲得する。
シロコは緊急回避や瞬間強化などをアビドスで培った野生の勘で生かし、敵を一掃する。
「
シロコはそう呟き、魔術回路を閉じ、シッテムの箱の支援が停止する。
「お疲れ様。
シロコ…怪我はないかい?」
「うん、大丈夫。」
藤丸は念のため、前線回復を使用し、シロコの体を癒す。
「さて、そろそろアトラ・ハシースの中枢か…準備は出来てるかな? シロコ。」
「ん、行こう。中枢を壊して私達のキヴォトスへと帰ろう。」
藤丸とシロコは、アトラ・ハシースの中枢へと向かう。
中枢へと向かうシロコの影は不自然に伸び、影は黒いニトクリスの形へと変わっていった。
マスターとしての覚醒の時は近い。