「皆、さっきの戦闘で感じたあの力は一回使えばインターバルが必要なんだ。だから的確なタイミングが来るまで私の指示に従ってほしい。」
アビドス生徒全員は藤丸の声を聴き、肯定した。
「よし、じゃあ行くよ!」
「シロコ。十時の方向にノノミは十二時の方向に弾幕を!」
藤丸はマスターとしての長年の戦闘経験と先生の能力を生かし、敵の動きを予測し、指示をする。
敵陣営は、シロコとノノミの弾幕を警戒するが、それは藤丸の思い通りで、セリカからの不意打ちを受け、複数人の敵が倒れる。
そして増援の敵がセリカに反撃しようとすると先生はホシノにアイコンタクトを送り、ホシノはそれを察し、セリカの前に出て、盾で防ぎ、そしてショットガンで、倒す。
『アヤネ! 残りの敵は!?』
「残り半分です!」
「よし、みんな! 決着をつけるぞ! 決戦強化!」
藤丸は、決戦強化で一気にカタを付けられる敵の数になると強化魔術を発動する。
「ん、来た。よくわからない力…でも嫌いじゃない。」
アビドスメンバーは、藤丸から受け取った強化魔術によって驚異的な戦闘能力を獲得し、一瞬にしてヘルメット団の前哨基地を破壊する。
『敵の撤退を確認! 並びにカタカタヘルメット団の補給所、アジト、弾薬庫の破壊を確認。』
「これでしばらくおとなしくなるはず。」
「よーし、作戦終了。みんな、先生、お疲れ~。それじゃ学校にもどろっか~」
藤丸たちはアビドス高校へ戻っていった。
アビドスに戻った藤丸達、アビドス高校のメンバーは、ひと息ついたところで、セリカが借金のことについて口滑らせてしまい、ホシノとセリカは口論をしてしまった。
そして藤丸はホシノとアヤネからアビドスには9億5千万以上の借金があり、返さなければ廃校となるということを知った。
「なるほど…事情を詳しく教えてほしい。」
「借金をすることになった理由ですか? それは…」
アヤネは本棚から災害について書かれた資料を取り出す。
それは砂嵐についてのものだった
「数十年前、この学校の郊外にある砂漠で砂嵐が起きたのです。
この地域では以前から頻繁に砂嵐が起きていたのですが、その時の砂嵐は想像を絶する規模のものでした。」
「つまり砂嵐によってアビドス自治区の至る所が、砂嵐が去ってからも砂が溜まっていき、その対策の費用として借金を…」
藤丸は砂嵐の記録を見ながらそう言った。
「そうです。しかしこのような片田舎の学校に、巨額の投資をしてくれる銀行は中々見つからず…。」
「結局、悪徳金融業者に頼るしかなかった。」
シロコはそう言って俯く。
「……はい。最初のうちは、すぐに返済できる算段だったと思います。
しかし砂嵐はその後も、毎年更に巨大な規模で発生し…学校の努力も虚しく、学区の状況は手が付けられないほど悪化の一途をたどりました…。
そしてついに、アビドスの半分以上は砂に吞まれて砂漠と化し、借金はみるみる膨れ上がっていったのです。」
部屋に数刻の静寂が訪れる。
「私たちの力では、毎月の利息を返済するので精一杯……弾薬も補給品も、底をついてしまってます。」
「セリカがあそこまで神経質になってるのは、これまで誰もこの問題にまともに向き合わなかったから。
話を聞いてくれたのは、先生、あなたが初めて。」
「まぁ、そういうつまらない話だよ。
で、先生のおかげでヘルメット団っていう厄介な問題が解決したから。これからは借金返済に全力投球できるようになったってわけー。
もしこの委員会の顧問になってくれるとしても、借金のことは気にしなくていいからねー。
話を聞いてくれただけでもありがたいし。」
「そうだね。先生はもう十分力になってくれた。
これ以上迷惑はかけられない。」
(9億5千万程度…一般人にしてみれば天上の金額で、
「あまりこういう手はしたくなかったんだけど
藤丸は態度を一変させる。先生としてのベールは剥がれ、藤丸個人の顔を見せる。
「…
「先生?」
「俺は、こう見えて前職は超高給取りだったんだ。これを見てくれ。」
藤丸はスマートフォンから保有している銀行口座の預金を見せる。
そこに書かれていたのは数百億円以上の預金だ。
「……俺が債権を買い取った後は、俺から債権を放棄させ、踏み倒すか、
或いは律儀に俺へ返すなりしてもいい。
もしも律儀に返す道を選ぶなら利子は発生しない。
そしてシャーレで、
他の子たちと業務内容は変わらない。
ただアビドスの子達がシャーレでの出入りが他の学校よりも多くなるだけ、
後者の道を行くなら恐らくだが、ホシノ。
君が卒業する頃には借金は完済されているだろうね。」
「……それはつまり後者を選んだ場合、一年間アビドス高校は先生の所有物になるってことかな?」
ホシノは、債権を藤丸が持つ事の真意を問う。
「そうとも言えるね。だけど、本当に仕事内容は他の子達と変わらない。
君たちが俺に債権を買い取らせない道を選んだとしても俺は…」
藤丸は再び先生としてのベールを纏い、スマートフォンを閉じる。
「
(邪な意図は感じられない。本気で私達の事を助けようとしてる。なるほどね…この大人は先輩の様な底抜けの
邪悪な欲望は感じ取れない。
先生としてではなく藤丸個人が持つ善性故の我が儘であるとホシノは見抜く。
(だからこそ――)
「気持ちは嬉しいんだけど先生個人の我が儘で解決するんじゃなく「シャーレ」の先生として手伝ってくれないかなー?」
ホシノは藤丸の提案を断る。
「その心は?」
「これはやっぱり自分達の問題だし、自分達の手で解決したい。だから先生は「シャーレ」の人間として手伝ってほしい。」
「…わかった。でも本当に追い詰められた時は、
もうどうしようもない
いつでも俺の我が儘を使ってほしい。約束だ。」
「うん、わかった。」
ホシノは頷いた。
それを覗き見していたセリカは、舌打ちをして何処かへ去っていった。
そうして太陽は沈み…夜の月が空を周り、再び太陽が昇った。
藤丸は、散歩がてらアビドスの住宅街を回っていた。
(あれは…セリカ?)
藤丸の視界の先に見知った顔があった。
「うっ…な、何っ…!?」
「おはよー。」
「な、何が「おはよー」よ! 馴れ馴れしくしないでくれる?
まだ先生のこと認めてないから!
まったく、朝っぱらからのんびりうろついちゃって。
いいご身分だこと。」
「セリカはこれから学校?」
「な、何よ! 私が何をしようと、別に先生とは関係ないでしょ?
朝っぱらからこんなところをうろちょろしてたら、ダメな大人の見本みたいに思われるわよ?
じゃあね! せいぜいのんびりしていれば? 私は忙しいの。」
「学校に行くなら一緒に行こう。」
「あのね…なんで私があんたと仲良く学校に行かなきゃならないわけ?
それに悪いけど今日は自由登校日だから、学校に行かなくてもいいんだけど?」
「なら何処に行くの?」
「そんなの教えるわけないでしょ?
じゃあね。バイバイ」
そういってセリカはその場から去っていった。
(……なんだかラーメンを食べたくなってきた…)
藤丸は、急にラーメンが食べたくなり、マップで近くの紫関ラーメンという店を見つけ、そこへ向かい始める。
藤丸は、紫関ラーメンの数百メートル近くの交差点に付くとまた見知った顔が現れた。
「やぁやぁ、先生。これからどこに行くの?」
ホシノはアビドスの面々を引き連れて藤丸にゆるく挨拶をした。
「紫関って店に行こうと思ってるんだ。なんだか急にラーメンが食べたくなって…」
「分かる~そういう時もあるよね~」
「君たちは?」
「おじさんたちは、セリカちゃんのバイト先だと思う「紫関ラーメン」に行こうって思ってさ。だからさ、目的地が一緒ならおじさん達と行かない?」
「なるほど、セリカが急いでる理由がわかったよ。うん、行こう。」
五人は、紫関ラーメンへと向かった。
「ここが紫関ラーメンか…」
如何にも市民にとって親しみやすいラーメン屋といえるような佇まいの店で、紫関ラーメンの看板にあたるところには、紫関ラーメンと堂々と書かれた文字の横にこの店の店主とされる獣人を模した人形が飾られていた。
藤丸は、紫関ラーメンの扉を開く。
「いらっしゃいませ! 紫関ラーメンで…」
セリカは紫関ラーメンの制服を着て、お客様を思うような笑顔で五人に挨拶をしようとするが――
「わわっ!?」
セリカは、バイト先がバレたことの驚きで笑顔が崩れ、慌てる。
「あの~☆5人なんですけど~!」
「あ、あはは…セリカちゃん。お疲れ。」
「お疲れ。」
ノノミは揶揄うように人数を言い、アヤネは少し申し訳なさそうに労い、シロコは簡単に労いの言葉をかける。
「み、みんな…どうしてここを…!?」
「うへ~やっぱここだと思った。」
ホシノは予想が当たり、うへへと笑う。
「やあ、来ちゃった。」
藤丸は、気軽な挨拶をする。
「せっ、先生まで……もしかしてストーカー!?」
「うへ、先生は悪くないよー。先生はここのラーメンを食べに行こうとしていたただのお客さんで、寧ろおじさん達に巻き込まれたようなものだよー。それにセリカちゃんのバイト先といえば、やっぱここしかないじゃん? だから来てみたの。」
「ホシノ先輩がっ……!! ううっ……!」
店の奥から料理人としての威厳のありながら親しみやすい雰囲気の獣人が出てくる。
看板の横に設置されていた人形と瓜二つ。
彼こそがこの店の店主である。
「アビドスの生徒さんか。セリカちゃん、おしゃべりはそれくらいにして、注文を受けてくれな。」
「あ、うう…はい、大将。それでは広い席にご案内します…こちらへどうぞ…。」
五人はセリカに案内される。
四人が座るとちょうどシロコとノノミの隣に一人分のスペースが空く。
「はい、先生はこちらへ! 私の隣、空いてます!」
「…ん、私の隣も空いてる。」
シロコとノノミにどちらの席に座るか誘われる。
「じゃあシロコ。隣いい?」
「ん…」
シロコは小さく肯定する。
「ふむ…」
藤丸はシロコの横に座るとシロコは藤丸にさり気なく近づく。
「狭すぎ! シロコ先輩、そんなにくっついてたら先生が窮屈でしょ! もっとこっちに寄って!」
「いや、私は平気。ね、先生?」
シロコは藤丸に対し上目遣いで言う。
「…そうだね。」
「何でそこで遠慮するの!? 空いてる場所たくさんあるじゃん! ちゃんと座ってよ!」
「わ、分かった。」
シロコは元の位置へと戻った。
「セリカちゃん。バイトのユニフォーム、とってもカワイイです☆」
ノノミは紫関のユニフォームのセンスの良さを称賛する。
「いやぁー、セリカちゃんってそっち系か。ユニフォームでバイト決めちゃうタイプ?」
ホシノもそれを肯定し、セリカはどうかと聞く。
「ち、ち、ち、違うって! 関係ないし! こ、ここは行きつけのお店だったし……」
口では否定はするものの満更でもないセリカ。
「ユニフォーム姿のセリカちゃん、写真撮っとけば一儲けできそうだねー。どう? 一枚買わない、先生?」
ホシノは、藤丸に対しセリカのユニフォーム姿の写真を冗談めいた口調で売ろうとする。
「みんな…何万ほしい? 億でもいい。言い値で買う。」
藤丸が真剣な表情で、ホシノと取引をしようとする。
「変な副業は始めないでください、先輩…
先生も何を真剣な顔で言ってるんですか。その手には乗りませんよ。」
アヤネは、ホシノを咎め、藤丸の我が儘を行使するきっかけを作るのを止める。
「バイトはいつから始めたの?」
「一週間前ぐらいから…」
「そうだったんですね☆時々姿を消していたのは、バイトだったということですか!」
「も、もういいでしょ! ご注文はっ!?」
「「ご注文はお決まりですか」でしょー? セリカちゃーん、お客様には笑顔で親切に接客しなくちゃー?」
ホシノはそう言って自分の顔を指して笑顔を浮かべる。
「あうう…ご、ご注文はお決まりですか……。」
「私は、チャーシュー麵をお願いします!」
「私は塩。」
「えっと…私は味噌で…」
「私はねー、特製味噌ラーメン! 炙りチャーシュートッピングで!
先生も遠慮しないで、ジャンジャン頼んでねー。
この店、めちゃくちゃ美味しいんだよー! アビドス名物、紫関ラーメン!」
「…ところで、みんなお金は大丈夫なの? もしかして、ノノミ先輩か、先生に奢ってもらうつもり?」
「うん、私が払うつもりだよ。ちなみに私は豚骨ラーメンで」
藤丸は懐から大人のカードを取り出す。
「おっ、太っ腹ー! やっぱりカワイイ生徒の空腹は見過ごせないって感じー?」
「まぁ、そうだね。今はまだ俺の我が儘を使えない代わりに何かできる事をしないとね。」
しばらくして注文の品がテーブルへと届く。
ラーメンの見た目は、何の変哲もない町中華のラーメンに見えるが…そのラーメンから香る食欲をそそるモノは、普通のラーメンとは格が違うと感じさせられる。
「いただきます。」
藤丸は自分の頼んだ豚骨ラーメンを口に運ぶ。
「!?」
口に入れた瞬間、感じたのは料理の神秘。
エミヤ、紅閻魔とは別ベクトルの美味さだ。
完成度でいえば3人とも同等クラスだが、3人とも争う場所が異なる味。
3人のラーメンをグラフで表せば一点のズレもない綺麗な正三角形が出来るだろう。
「美味い。」
神秘の領域に到達している。
カルデアで舌の肥えた藤丸が驚く美味さだ。
これほどの味が安価な価格で提供されて良いものだろうか?
そのラーメンに対する熱意と技量に対して提供する値段の価値は釣り合っているのか?
カルデアでは二人を始めとした料理系サーヴァントにはその技量に見合った報酬が支払われているが、このラーメンは違う。
と一口目に食べてそう思ったが、箸を進めるにあたってそのような雑念、邪推は何処かへ飛んでいく。
藤丸はラーメンの味を堪能し、残ったスープを飲み干す。
藤丸は満足げな表情で約束通りホシノ達分のラーメンを奢り、それとはまた別で持ち帰り用のラーメンセットを買って浮足立って店の外へ出た。
「いやぁー! ゴチでしたー! 先生!」
「ご馳走様でした。」
「うん、お陰様でお腹いっぱい。」
「早く出てって! 二度とこないで! 仕事の邪魔だから!」
「あ、あはは…セリカちゃん、また明日ね…」
「ホント嫌い! みんな死んじゃえ!」
「あはは、元気そうで何よりだー。」
セリカ以外の五人は、アビドス高校へと帰っていった。
そして時間は経ち、太陽が沈み、夜が来た。
紫関ラーメンは閉店時間を迎え、次のシフトに備えて解散する。
「はあ…やっと、終わった。目まぐるしい一日だったわ。
みんなで来るなんて…騒がしいったらありゃしない。
人が働いているのに、先生先生って、チヤホヤしちゃって。ホント迷惑、何なのアレ。」
セリカは皆と楽しげに笑う藤丸に苛立ちを覚える。
「ホシノ先輩、昨日の事があったからってわざと先生を連れてきたに違いないわ!
…ふざけないで、私がそう簡単に折れると思ったら大間違いなんだから。」
そう言ってホシノと藤丸に怒りを覚えながら帰路につこうとすると――
「ッッ――!」
セリカは後ろから何かに殴られ、意識が遠のく。
(あれは…ヘルメット団?)
セリカが意識を失う前に見た光景…それは自分を取り囲むヘルメット団の影だった。