目を開くとそこは病室だった。
藤丸は体を起こす。
外はもう暗く
雷撃の痕があちらこちらに見受けられ、ビナーによる災害の跡が見られる。
各地には杯をモチーフとした「グノーシス・コンストラクション」のロゴを掲げた企業が復興作業に取り掛かっており、厳格な表情をした生徒が作業服を着た大人達を指揮している。
「グノーシス・コンストラクション…」
『あれは恐らく黒服がキヴォトスの復興を依頼した企業…大人と生徒の力関係が逆転し、生徒が幅をきかせているゲヘナ発祥のグループ企業グノーシス・グループの傘下企業だ。』
巌窟王は、影の中から藤丸に復興に携わっている企業について説明する。
グノーシス・グループの幹部全てが生徒で構成すると噂されている。
『それにしてもグノーシス…公会議以前に存在する最大最古の異端の名を冠するとはな。』
グノーシス主義、ニカイア公会議にてアリウス派が異端として扱われる以前にキリスト教から排斥された最大の異端。
この世はヤルダバオトという偽りの神が生み出した悪しき宇宙であるという宗教観を有している。
「ん、先生。起きた?」
患者衣を着たシロコは、藤丸の居る病室の扉を開け入った。
「私達、丸数日寝ていたみたい。数日前の嵐かな…あんまり覚えてないや。」
「じゃあ…シロコ。特異点の事は覚えているかい?」
「! あれは本当にあったことなんだね。うん、覚えているよ。」
「そっか、じゃあ情報の擦り合わせと行こう。」
「ん、わかった。」
藤丸とシロコは特異点での認識の齟齬。
そしてシロコは個人的な事として第三の喇叭と悪夢の中で現れた水子の集合体について話した。
「喇叭…水子の集合体…それはきっと予兆、これからのシロコが巻き込まれる特異点を指しているかもしれないね。」
藤丸は、第一の喇叭「プレナパテス」、第二の喇叭「黒いシロコ」から推測した結果、その結論を導く。
「なるほどね…それと先生。特異点だと一人称が「俺」だったけどあれは…?」
「マスターの時と私的な時の一人称は「俺」でいくつもりだよ。俺とシロコはお互いにマスターであると知ってるからね。
…公の場で私がシロコの前で自分の事を俺と言ったら魔術に関しての内緒の話をするから合図にしようか」
シロコはそれを聞いて頷く。
「では、もう時間は遅いけど先生として特別授業を始めようか。」
シッテムの箱の機能を応用してプロジェクションマッピングを壁面に投影する。
投影された画面は、これまでの人理崩壊案件に関する資料だ。
「もしかしたら……これまでの傾向から見てこれから先、キヴォトスは時空異常の影響を受けて正常な時間が流れないかもしれない。季節が巡ったのにも関わらず新入生は入ってこず卒業もせず進級もしない経験だけが蓄積されていく…学園都市キヴォトスにおいて最も重要なイベントが欠落する可能性がある。」
「それはつまり…時間の流れを正常にしない限り私は二年生のままってこと?」
「そうなるね。…けど、あくまでも可能性の話だからね。
時間が経過しないかもしれないからと言って学業を怠るなんてダメだからね? 怠ったらそりゃもう先生として怒るしかないよ。」
「ん、それはわかってる。」
「キヴォトスは特殊な土地で外の世界とは異なる可能性がある。
話しておくとキヴォトスって土地は多分、彷徨海っていう歴史に影響しない安全な特異点に似てると思っているんだ。」
シロコはキヴォトスが特異点に似ているという言葉を聞いて驚く。
「キヴォトスが特異点?」
「うん、でも言った通り世界や歴史には何の影響もない。
維持しても放置しても問題ない特異点…いや、寧ろシロコ、「俺」や「私」からすれば維持し続けるべき特殊な特異点だね。
そしてその特異点を維持するのが」
藤丸は、窓の外に映るサンクトゥムタワーを指差す。
「サンクトゥムタワーだと俺は睨んでいて、サンクトゥムタワーは守るべき存在だと思っている。
君達生徒の青春を守る為にね。」
サンクトゥムタワー。
それは最果ての塔に似た性質を持つ建造物。
テクスチャを留める世界を穿つ錨。
「でも、あのキヴォトスは…」
「特殊事例かもしれない。安全な特異点内に発生した歴史や世界にとって危険な特異点…二重特異点と言える事象といえるかもしれない。そしてあの特異点は更に特殊な性質を有していてあれはきっと未来への移動だった。」
「未来への移動? それが何か問題でもあるの?」
「あぁ、未来への移動は本来出来ない筈なんだ。未来の人間が過去に行くのは出来るけど、過去の人間が未来に行くのは至難の業だ…観測が難しいからね。過去に起きたことは予測や観測は出来るけど、未来の事は分からない。
だからこそ俺は皆と一緒なら彼らを救えると思っている。未来は不確定だから変えられるんだ。」
藤丸は、未来の不確実性の説明と共に
「…俺達はこれからきっと大きな戦いに出る。
君の悪夢が正しければあっちのシロコより辛い戦いが待っているかもしれない。
それでも……君は俺と共に戦場を行く覚悟は出来ているかい?
逃げたって構わない…そもそもこれは俺が取るべき責任なんだから」
藤丸は何か致命的な見落としによってカルデアスは再起したのだと考える。
「覚悟は決まっている。ニトクリスの手を取った時点で私は運命に仕返ししてやるって決めたんだ。
だから先生、私にも背負わせてよ。」
シロコはそう言って決意の炎を心に宿し、藤丸の手を握る。
その頃、シャーレの地下
クラフト・チェンバーでは────
クラフト・チェンバーは一人でに動き、二つの棺が形成されていく。
それは───藤丸がノウム・カルデアにて使用していたレイシフト用のコフィンだった。