アヤネ達は紫関ラーメンに来ていた。
店の中でもシロコ達はアヤネの事を慰めていた。
「……なんでもいいんだけどさ、なんでまたウチに来たの?」
「アヤネ、チャーシューもっと食べる?」
「ふぁい。」
紫関ラーメンの入り口が開く。
そこにはゲヘナの制服に似た服を着た生徒がいた。
「…あ、あのう…。」
「いらっしゃいませ! 何名様ですか?」
「こ、ここで一番安いメニューって、お、おいくらですか?」
「一番安いのは…
580円の紫関ラーメンです! 看板メニューなんで、美味しいですよ!」
「あ、ありがとうございます!」
そう言って生徒はまた店の外に出た。
「ん?」
再び扉が開くと、四人の生徒が入ってきた。
(あれは…便利屋68。巌窟王が言っていたとされる無垢なる悪か。)
藤丸はカウンター席で、ラーメンを啜りながら横目で便利屋の方を見る。
(社員は陸八魔アル、浅黄ムツキ、鬼方カヨコ、伊草ハルカ。あの四人で間違いないだろうね。
それにしても彼女らから何処となく魔神柱の面影を感じる。)
藤丸の目からはカヨコ、ムツキ、ハルカから観測所フォルネウスに似て非なる雰囲気、アルからは廃棄孔アンドロマリウスに似て非なる雰囲気を感じ取った。
似て非なるとは即ち、時間神殿にて会敵した複合魔神柱に含まれる特定の魔神柱の要素を言っている。
陸八魔、68…つまり藤丸がアルから感じ取ったものは廃棄孔アンドロマリウスが取り込んだ魔神柱ベリアルだろう。
「えへへっ、やっと見つかった、600円以下のメニュー!」
「ふふふ。ほら、何事にも解決策はあるのよ。全部想定内だわ。」
「そ、そうでしたか、さすが社長、何でもご存知ですね…。」
「はあ…。」
カヨコは、店内を見て、そして藤丸を見つけると天敵を見つけたような目で目を逸らす。
(…あの人。何か…とてつもなく嫌な気配がする。)
カヨコは持ち前の感覚で、藤丸に何か死にも似た危険な要素を感じ取る。
彼女の神秘は、魔神柱を由来とするもの。
故に藤丸が有する魔神柱を鏖殺した逸話が彼女の中の神秘に焼き付き、持ち前の感覚が焼き付いたモノを想起させたのだろう。
(けれどもこちらが事を構えなければいいだけの話。
一応、警戒の対象に入れておけばいいか。)
カヨコは便利屋のメンバーと話しながら藤丸の特徴を捉え、自身の警戒対象に入れる。
(なんかカヨコって子にチラチラと見られている気が…)
カヨコが便利屋と話していると――
「はい、お待たせしました! お熱いのでお気をつけて!」
セリカは十人前もあるような大盛りのラーメン、四つのお椀、四膳の箸を便利屋が座っている席に置く。
「ひぇっ、何これ!? ラーメン超大盛じゃん!」
「ざっと十人前はあるね…。」
「こ、これはオーダーミスなのでは? こんなの食べるお金、ありませんよう…。」
「いやいや、これで合ってますって。580円紫関ラーメン並! ですよね、大将?」
「あぁ、ちょっと手元が狂って量が増えちまったんだ。気にしないでくれ。」
「大将もああ言っているんだから、遠慮しないで! それじゃ、ごゆっくりどうぞー!」
セリカが便利屋の席から去ると、藤丸の意識は紫大将の方へ向く。
「大将さん。」
藤丸は、小声で大将に話しかける。
「どうしたんだい? 先生?」
大将も小声で返事をする。
「余計なお世話ですが、あの子たちの分、9人前の分のお金取っておいてください。」
藤丸は財布から紫関ラーメン9人分のお金を出す。
「いいんだよ。さっき言ったようにこっちのミスだ。手元が狂っただけだよ。」
大将は、手をプラプラと動かし、自分の手が狂ったような仕草を見せ、受け取るのを拒否する。
大将が頑として自分のミスであると言わんとする目を見て、藤丸は諦める。
「…そうですか。では、大将の御厚意に甘えるとしましょう。」
藤丸は、9人分のお金を財布に仕舞い、黙々と後ろで交わされている会話を聞きながらラーメンを啜る。
便利屋とアビドスの面々が食べ終わり、会計を済ませるとお互いに健闘を称え合い、別れていった。
藤丸はアビドスの面々とは別行動をし始める。
「先生、今から何処かに行くの?」
セリカはそう言って藤丸を呼び止める。
「うん、ちょっと野暮用。アビドスの皆と合流する。」
「ふーん、じゃあまた後でね。」
「はーい。」
藤丸はそう言って便利屋が去っていった方へと向かう。
「ふう…いい人たちだったわね。」
「……。」
「……。」
「社長。
…あの子たちの制服、気付いた?」
「えっ? 制服? 何が?」
「アビドスだよ、あいつら。」
「…」
アルはその言葉に一瞬黙りこみ。
「なななな、なっ、何ですってーーーーー!!!???」
アルは、白目をむいて驚いた。
「あははは、その反応ウケるー。」
「はあ…本当に気付いていなかったのか…。」
カヨコがため息をつくと便利屋の後ろに一人の男が現れる。
「やぁ、便利屋の皆。
私と取引をしないか?」
カヨコが後ろを振り向くと彼女が警戒していた存在『藤丸立香』がそこに立っていた。
「社長。気を付けて…この人、どこかヤバい。」
カヨコがそう言うとアルは、藤丸に対し、警戒をし始めるとムツキとハルカは藤丸に向けて銃を構える。
「…」
(次は何よ!? あの店では気付かないフリをしていたけど、目の前にいる人…ウチの風紀委員長よりもヤバい雰囲気を醸し出しているじゃない!)
アルも藤丸の業に気圧され、再び白目を向く。
「警戒してほしくないな。私は君達と交渉をしに来たんだ。」
「交渉?」
カヨコは藤丸に銃を向けてながら話す。
「その前に自己紹介を…私は連邦生徒会傘下連邦捜査部シャーレの先生『藤丸立香』だよ。」
そう言ってアルに向かってお辞儀をしながら名刺を渡す。
「え、えぇ、私は便利屋68の社長『陸八魔アル』よ。」
アルは、藤丸に名刺を渡されると反射的にお辞儀をし、藤丸に便利屋の名刺を渡し、名刺交換が成立する。
「それで交渉というのは何かしら? 連邦生徒会の飼い犬さん?」
(シャーレの先生!!?? なんでこんな所にいるのよ! 私達が下手打ったら連邦生徒会…いいえ、私達以外の全生徒を敵に回す事になるかもしれないじゃない!)
アルは、虚勢を張り、銃を下ろすよう指示を出すと便利屋三人は銃を下ろし、藤丸と交渉の場を設ける。
「単刀直入に言うとこの契約書を見ていただきたい。」
同じ内容の契約書を五枚見せ、便利屋四人に一人ずつ渡す。
アビドスから手を引くかアビドスと八百長をする事。
その見返りとして便利屋が受けた依頼の成功報酬の2倍、今回の依頼で使用した全費用の2倍を便利屋に支払う事。
契約不履行による便利屋に対する損害賠償を請求された場合、藤丸が引き受け、雇用主からの損害賠償の文面による精神的苦痛への慰謝料として損害賠償と同額の金を便利屋に支払う事。
アビドスと便利屋が戦ったというフェイク映像を作成し、便利屋へ送付できる事。
そして最後の欄には契約の有無に関わらず便利屋の判断次第で便利屋とシャーレでの定期的な雇用契約を結ぶ事が書かれていた。
そしてその下には藤丸のサインと判、連絡先が記され、その横には便利屋がサインと判、連絡先、依頼金、費用を記す為の空欄があった。
「八百長ってどういう事?」
「そのままの意味だよ。アビドスとの戦闘で負けて欲しい。
はっきりと言っておくよ。
君達がこのまま勝負しに来た所で何も得ず去るだけだよ。
私は私の生徒が損する所を見たくない。」
「私達が負けると?」
カヨコはそう言い、藤丸を睨み付け、威圧する。
「そうだね。私としては負けられない立場にある。
アビドスの日常を、青春を守る…
その心があれば私は無敵だ。」
藤丸の眼と意思は、便利屋に敗北の二文字を思い起こさせる程に強い印象を与え、カヨコはこのまま勝負しても負ける事を確信する。
「どうする? 社長? こちらが有利な提案に見えるけど…
多分、このまま勝負しても多分あちらにはさほど痛手は生じない。
こうして丁寧に契約書まで用意してあちらもこちらも逃げ道を塞いでる。」
カヨコはお手上げと言わんばかりに現在の状況を説明する。
「この場で決めなくていい。返事を待ってるから。」
藤丸はそう言って去っていこうとすると――
「ま、待って!」
アルが引き留める。
「乗るわ! ただし八百長の方面で! 嘘だったとしても仕事をしなきゃいけないでしょ!?」
そう言ってアルは、自分のサインと印の入った契約書を藤丸に渡す。
「ありがとう。じゃあ八百長試合を期待してるよ。」
そう言って藤丸と便利屋との契約を交わし、藤丸は、アビドスへと帰っていった。
「これから君達は便利屋って子達と戦ってもらうよ。」
藤丸はアビドスの面々にいきなりそう言った。
「え? どういう事?」
ホシノは藤丸の発言に困惑する。
「そのままの意味だよ。
ただ君達の勝利は決まっているようなものだから安心していい。」
「いや、どうしてそうなったのかを聞きたいのさ。おじさんは」
ホシノは藤丸に説明を求める。
「そうだね。これからヘルメット団の代わりにさっきラーメン屋で出会った便利屋が襲撃してくる。」
「ヘルメット団の代わり? やっぱりいるんですね? 黒幕が。」
アヤネは先生の「ヘルメット団の代わり」という発言に黒幕の存在を問う。
「カイザーPMC。
それがヘルメット団と便利屋の雇い手でありアビドス襲撃で裏を引いているであろう組織。
だけど便利屋が動く前に私が更に上の金額で彼女らを雇い、君達に八百長試合を仕掛ける。
勿論、君達が勝利する側だ。」
「カイザー…それってつまり!」
セリカは、カイザーの言葉を聞いて何かに気付く。
「そう、アビドス襲撃の黒幕はカイザーPMC理事と私は考えている。
君らが借金しているカイザーローンの関連組織の役員だ。
襲撃事件の黒幕だと確証と決まった訳ではないからアヤネ、最重要事項としてリストに入れておいてくれ。」
「は、はい!」
アヤネは、藤丸の言葉を聞き、カイザーPMC理事を重要リストに入れる。
「どうしてよ! そいつが犯人って言ってるようなもんじゃない!」
セリカは机を叩き、藤丸の言葉に反対し、今すぐにでもカイザーPMCに乗り込もうとしている。
「確かにそうだね。
だけど確証を得ないまま動けば何があるかわからない。
他にも裏で糸を引いてる奴がいるんじゃないかという可能性。
だからこれ以外に何かしら証拠を得る必要がある。
例えばアビドスのお金の行方はどうなっているのかとか」
「確かにそうですね。
確たる証拠がない以上、動いても危険が伴うだけです。」
アヤネの言葉にセリカは矛を収める。
「君達にも一芝居打ってもらう。
下手したらカイザーの連中が戦いを監視してくるかもしれない。
便利屋が依頼通り戦っているかをね。
だから本気で戦ってる演技をするんだ。」
「八百長八百長って言ってるけどさ先生…おじさん達の実力じゃ不安かい?」
ホシノは自分達の実力を信用していないのかと藤丸に問う。
「君達の実力は十分信頼しているし、
八百長なんてしなくても勝てるって分かっている。
けれども…
彼女達も生活が懸かってる。
わかっているだろう? 彼女達には手持ちのお金がない。
話してみて分かった事なんだけど彼女達はそんなに悪い印象ではなかった。
そして彼女達もまた私の生徒と言える。
だからどうか私の我が儘だけど一芝居打って便利屋を助けてくれないか?」
藤丸はアビドスの面々に頭を下げる。
「わかった。
先生、協力してあげるよ。」
ホシノは、そう言って女優の様に振る舞う。
「ん、少し早いけど恩返しをする時。」
「仕方ないわね。今回だけよ!」
「なんだか楽しそうですね~☆」
「やるからには本気の演技でやりましょう!」
アビドスの生徒は藤丸の願いに応える。
「ありがとう!
よし、便利屋の