ウマ娘光のヤンデレ概念 作:私たちは負けない!!
私は彼が好き──なのだろうか。
分からない。今まで(身内を除いて)異性を好きになったことは無かったから。
彼というのは私のトレーナーさん。トゥインクル・シリーズでの三年間を共に過ごしてきた人。
トレーナーさんは……変わった人。すごく……変わった人。
初対面の時からやけに首を突っ込んでくるというか……とにかく私を放ってくれない人だった。……まあ、今はそこまで悪い気はしないけれど。
気づけば、彼を目で追うようになっていた。
彼が私の名前を呼ぶ度、鼓動は高鳴って、心はそぞろだつ。
今までこんな感情を感じたことはなかった。不思議に思ってカレンさんに聞いてみたところ、目を輝かせて『それは恋』と言われた。
私は恋をしているのだろうか。
だとしたら──どうやって向き合えばいいのだろう。分からないことが多すぎて何をどうすればいいのか不明瞭になる。
……それでも、あの子に。私の『運命』を持っていってくれたあの子に誓ったように、ちゃんと生きていけるように、ケジメはつけておきたい。
「ねえ、次の休み、空いてる?」
「──。……ああ、空いてる。どうしたんだ?」
「その……あなたがよかったらだけど、一緒にプラネタリウムを見に行かない?」
珍しい。アヤベから休日の誘いをかけられるなんて滅多に無いことだ。
「どうして俺を誘ってくれるんだ?」
「……答えを、出したくて」
そう言った彼女の顔は、なんだかやけに赤かった。
失敗した。
選ぶならプラネタリウムではなく、もっと会話の弾むものを選択するべきだった。
確かにプラネタリウムも終わった後は色々と語られるだろうけど、私はそこまで饒舌ではない。せいぜい星の解説ができるくらいだ。
休日を返上して分かったことは、この胸の高鳴りが酷くなっていることと、彼は相変わらず私に付き合ってくれるということ。
以前もトレーナーさんは私に同伴して星を見ていた。穏やかな笑みを浮かべながら。
彼の好みも、趣味も、私は何も知らない。今までそんなことに気を揉む余裕は無かったから。
……いつまでも恋愛感情に振り回されているわけにはいかない。ちゃんと走っていけるように、決着は早いうちから付けておいた方がいい。
分かっては、いても。
「どうしたアヤベ。熱でもあるのか?」
「……別に、平気」
心臓がうるさい。今にも飛び出してきそうな程に激しく、胸が締め付けられるように疼く。
……答えを出さないと。どうやって?
近頃アヤベ──アドマイヤベガの様子がおかしい。こちらを見ているかと思えば、俺が視線を返すと慌てたように目を伏せる。
顔もよく赤くなる。体調不良か?しかしそんな兆候は見られない。
休憩は程よくとらせている。となれば、彼女の精神に関する問題か。
これは非常にデリケートなことだ。下手に踏み込んで悪化させるようなことでもあったら申し訳が立たない。
月並みな結論だが、暫くは様子見だ。
慣れてきた。この感情をコントロールするためには、彼との接点を減らせばいいということに気がついた。
けれどそれはそれで別の問題が出てきて、結局どうしようもなく彼に会いたくなっていた。
「…………」
図書室でレース映像を見る。もう何度も繰り返してきたこと。
「…………」
集中、できない。気を抜くとトレーナーさんのことを考えてしまう。
「やあやあアヤベさん!共にアンサンブルといこうじゃないか!」
「あ、あのぉ……ご一緒してもよろしいでしょうかぁ……」
……頭痛のタネが増えた。ドトウは別として、特にオペラオー。
「はぁ……」
「あっ、おかえりなさーいアヤベさん♪」
あの後時間いっぱいまで走り込んでから自室に戻ると、カレンさんが待っていた。わざわざ私の帰りを待たなくてもいいのに。
溜息交じりにベッドに飛び込む。今は無性にこうしたい気分だった。
「……ねえ、カレンさん」
「!はい!なんですか?」
……言うと面倒なことになりそうな気がする。カレンさんは無闇矢鱈に言いふらしたりしないけど、こんなこと、誰かに相談していいものなのだろうか。
「………………………………好きな人に、どうやって接すればいいか分からないの」
「…………!!!!!」
カレンさんの目が輝く。やっぱり言わない方がよかったのかもしれない。
悶々とした日々が続く。いつまでもこんな調子ではいけない。どうにかして折り合いをつけないと。
”熱”が収まらない。彼のことを思うほど心は熱を持って、高鳴ることをやめない。
慣れてきたなんて嘘。この感情はいつまでも新鮮さを残したまま、
──そういえば、ずっと聞いてこなかったことがある。
彼には恋人、もしくは思い人はいるのだろうか。
いきなり聞くのは不自然?それでも聞きたくなる。
──或いは、彼に恋人がいてくれた方がサッパリと諦められるのかもしれない。そうなればこの感情も燻るのをやめる……と思う。
「……ねえ、トレーナーさん」
「恋人?いないけど」
「……そう」
久しぶりにアヤベから話しかけられたかと思えば、恋人はいないのかと唐突な質問を浴びせられた。
ここのところずっとアヤベの様子がおかしい。そろそろ俺も対策を打つべきだ。
妹の存在を感じられなくなったことが原因かとも思ったが、彼女なりに踏ん切りをつけられているようだしこのセンは無い。
「…………」
「…………」
彼女は黙って仕事をする俺を見ている。どうやら俺の方から視線を返さない限りは顔が赤くならないようだ。
アヤベとはしばらく必要最低限のこと以外は話していない。彼女がそうなるようにしていたから。
かと思えば、今日のようにじっと見られることもある。唐突な質問の意味も俺には分かりかねる。
まあ、思春期ということで色々あるのだろう。彼女はまだ若い。思い悩む時期に入っていてもなんら不思議ではない。それを支えてこそのトレーナーだ。
「トレーナーさん」
「なんだ?」
「…………あなたは、誰かを好きになったことはある?」
自分の心を見つめ直してしばらく経った。
私はトレーナーさんが好き……なのかもしれない。
そして好きになるということは、苦しくて、むず痒くて、冥々としている。だけど、なのに、甘い。
あの子はめいっぱい幸せになってと言ってくれた。それに応えるためにも、幸福の追求をやめるつもりはない。
ちゃんと生きて、ちゃんと幸せになる。
だから今は、今だけは、自分の心に正直になろう。
対策を講じるまでもなくアヤベの様子はいつもに戻った。一過性のものだったのか?
ともあれいつも通りになったなら言うことは無い。俺はこれからも────いや、
アヤベはもう、一人で歩いていける。妹を失っても、歩き続ける芯がある。
だから──だから、
もう、いいか。
毎年恒例の夏合宿のシーズンが来た。ここでならいつも以上にレベルの高いトレーニングができる。機会を無駄にしないように、しっかり走りきらないと。
「じゃあ、まずはタイヤ引き」
「ええ」
夏の日差しは厳しく、少し運動しただけで体が汗ばむ。
レースで勝つため。これはその為の必要材料。
いつも通り、私は私のやるべきことをやった。
夜。中々寝つけなくて、窓から海を眺めていた。今日は晴れているから星も見える。
……小一時間程経っただろうか。誰かの姿が視界に入った。
ぼんやりとした人影が月明かりに照らされている。あの背格好は────
「トレーナーさん……?」
胸騒ぎがして、夢中で部屋を飛び出した。
歩く。靴に砂が入る。細やかな感触が歩を進める度に伝わる。
歩く。波打ち際に向かって。
歩く。足首に水が触れる。冷たい。
歩く。もう腰まで水に浸かっている。
歩く。体が波に攫われだして────
「ダメ……ッ!!」
「ハァ、ハァ……ッ、何をやってるのよ!」
なんとか砂場まで引き戻すことに成功した。あと少しでも遅かったらきっと捕まえられなかった。
「モノが使えなくなったら捨てるだろ?これはそれだけのことだ」
「ふざけないで!」
「ふざけてないよ俺は大真面目だ。なあ、アヤベ。俺に存在価値はあるのか?」
真っ暗な瞳には何も映っていない。私でさえも。
「…………か」
猛烈に喉が渇く。圧迫感の前に呼吸もままならない。
何か、何か言わないと。そうしないと、トレーナーさんは──
「勝手についていくって言ったのは、あなたじゃない……!」
「そうだな。悪い」
ダメ。瞳に光が戻らない。もう完全に諦めた顔をしている。
「……どうして?どうして、こんなことを……」
「言っとくけど、君の所為ではない」
「だったらどうして!」
体中ずぶ濡れになりながらなんでもないような、しかし光を失った顔で彼は佇んでいる。
「言ってくれないと分からないわよ……」
「そうだな。じゃあちょっと昔話をしようか」
俺には両親がいない。
母親は出産のショックに耐えきれず、俺を産み落としてから間もなく死亡。父親は後追い自殺。
俺を引き取った親戚の人は悪い人ではなかったけど良い人でもなかった。腫れ物を触るように扱われ、身内の情とやらを受け取ったことはなかった。育ててくれたことには感謝しているが。
ずっと探していた。俺が生きる意味を、答えを。
トレーナーにでもなれば俺の価値は生まれるんじゃないかと思っていた。国内最難関の職業。誰かを導くという役割は実に都合がよかった。
でもダメだった。アヤベを支える役割に徹しようと、自分自身の意味は掴めなかった。
だから今も、自分が何のために生きているのか分からない。
誰が悪いというわけでもなかった。ただ単に、俺がこの世界にそぐわなかっただけだった。
「──以上だ。何か質問はあるか?」
「────」
亡き妹のために走っていたアヤベと、何の意味も持たない俺とではまるで違う。
演技だった──のだろうか。彼女を勝手に支えると言った俺は嘘だったのか。それは自分でも分からない。いずれにせよ彼女を置いて死のうとしていたことには間違いなかった。
「もう一度聞くぞ、アヤベ。俺に存在価値はあるのか?」
「──そんなの、あるに決まってる!あなたに価値が無いなんて、そんなの……」
ああ、言わなきゃよかった。彼女を困らせるつもりは無かったのに。
後日、何事も無かったかのように彼は私を指導していた。
あまりにも堂々としているから昨日のことは夢だったのではとも考えたけれど、この手に残った感触と冷たい水の記憶はハッキリと刻まれていて。
私を必死に引き止めてくれていた彼が、あんなことを考えていたなんて知りもしなかった。
……存在価値が見出せないなら、私が示せばいい。あなたが育てたウマ娘はこんなにも強くなったということを知らしめられたら。
そうすれば……彼も少しは自尊心を得られるだろうか。
私はウマ娘で、彼はトレーナー。なら、走る事でしか証明できない。
──でも、他に何かしてあげられることはないだろうか。担当である私にしかできないことは。
……嫌だと思った。なによりも。
彼が私を置いて死ぬことを、嫌だと思った。それが私の本音。
だったら、私は────
「お祭り?」
「ええ。あなたの都合が合えば、だけど」
夕食はまだ摂っていない。屋台のご飯で済ませるのもいいだろう。
なによりアヤベから休みに誘われることは滅多に無い。謹んで応えさせてもらおう。
辺りは賑やかで、人混みに溢れている。道路もあまりにも多い人の数で狭隘を告げていた。
リンゴ飴を初めて買ってみた。後は定番のものをいくつか。
「……人、多いわね」
「そうだな」
服の裾を掴まれながら、ごった返す人の群れをかき分けていく。花火が上がるまでもう間もない。
「ねえ」
それは辺りの喧噪に飲まれて聞き取れない程小さな声だった。
「なんだ?」
「……花火が終わったら、話したいことがあるのだけど。……いい?」
「構わないよ」
群衆のざわめきが段々と静かになる。それと同時に夜空に花火が打ち上がった。
「……綺麗ね」
「そうだな」
その言葉は嘘か真か。目の前の景色を綺麗と思えているのかさえ曖昧で、俺はただ眺めることしかできなかった。
「…………」
「…………」
祭りも終わり、私たちは無言で帰路についていた。
「あなたは」
同時に立ち止まる。彼は私の言葉を待っていた。
「存在意義が分からないのよね」
「ああ」
これは私の宣言。彼に、そして自分自身に対する号令。
「だったら、私のために生きて」
束縛かもしれない。だけど、これが今私にできる最善手。
『
俺はなにも
ただ、自分の生きる意味を見出せなかっただけだ。
アヤベのために生きる。それは体のいい理由だ。生きていくには十分な衝動になる。
──では、彼女が引退した後は?
俺はどうやって生きる?いやそもそも、俺に生きるという選択肢はあるのか?
きっと同じだ。俺は変わらない。
コンビニで買ったサンドイッチを頬張る。
自炊はやろうと思えばできるがトレーナーとしての仕事に忙殺されていく中でやらなくなった。
熱かった缶コーヒーはもうぬるくなっている。
はてさてどうしたものかと右手の缶を持て余していると、彼女は一周走りきっていた。
「タイムは?」
「ん」
ストップウォッチを見せる。タイムは上がり33.3秒。素晴らしい成果だ。
「今日はもう終わりにしよう。君の疲労も深いようだし」
「分かった」
返答もそこそこに帰り支度を始める。俺はこの後も仕事があるからトレーナー室にこもる予定だった。
「ねえ、トレーナーさん、この後のことだけど」
「どうした?」
「シャワー浴びてきたら、あなたの所に行っていい?」
「──?別にいいけど」
声をかけられたかと思えばそんなことを言われた。俺と一緒にいたってつまらないだけだと思うが。
「…………」
「…………」
会話は無い。気まずいとは思わないが、アヤベはどうしてここにいるのだろう。
聞いてみるか?
アヤベと俺は向かい合って座っている。向こうは何もせずただ黙って俺を眺めている。
ああ、ひょっとすると俺が入水自殺を試みたことを危惧して監視しているのだろうか。
余計な心配をさせてしまったことには申し訳なく思う。一応今の俺は『アヤベのために生きる』という役割にしがみついているから、ひとまずは大丈夫だと言っておきたい。
「アヤベ」
「何?」
「俺は大丈夫だから」
「……そんなこと言われても、信じられない」
どうやら信用も失ってしまったようだ。まああんなことをしたし当然か。
ずっと疑問に思っていた。
ぶっきらぼうな返事しかできない私に、何故あそこまで熱心に構っていたのか。
その疑問はあの夜に繙かれた。
生きる意味を探すため、そのために彼は私のトレーナーを勤めていた。
私は彼が好き……なのかもしれない。
だから──だから私は──
…………。
「ずっとこうしているのも暇だろ?なんか用意しようか?」
「別にいい」
ああ、まただ。また私はぞんざいな対応しか取れない。
自分の心に正直になるというのは存外難しくて、なにより私のようなウマ娘が”それ”を表現するのはもっと厳しくて。
私はどうしてトレーナーさんを好きになったのか。あの三年間を経て私が失い、得たものはなんなのか。
トレーナーさんは……変わった人。すごく……変わった人。
私を放ってくれなくて、なのに一人でどこかに行こうとしてしまう、切なくて、儚げな人。
彼が私を支えてくれたように、私は走るという形で恩を返すつもりでいた。
でもダメだった。それだけでは彼の楔にはなれない。
「なあ、アヤベはどうして俺を引き止めてくれるんだ?」
「────」
その問いに体中が燃えるように熱くなる。激情が、私の口を衝いて出た。
「……っ!あなたが……!あなたが好きだからに決まってるでしょう!」
おおよそ予想とはかけ離れた解答に、俺の頭は困惑していた。
義務でもなく、義理でもなく、ただ俺が好きだからと。
「……はは、好き、か。初めて言われたな。そんな言葉」
──ああ。なんだこれ。なんだろう。ものすごく嬉しい。今なら空も飛べそうだ。
「あなたが……!あなたが好きだから……!だから私は……!」
気持ちに頭が追いついていないのか、アヤベは言い淀みながら言葉を紡ぐ。
好き。なんて甘美な響きだろうか。
なんだ、簡単な話じゃないか。
俺はずっと、誰かに愛されたかったんだ。
「アヤベ」
「……っ、何……!」
その目には涙が溜まっている。どうか泣かないでほしい。俺が望んだものはたった一つ。
「ありがとう」
これは嘘じゃない、俺の衷情だ。
「…………」
「落ち着いたか?」
誰の所為でこんなことになったの、と言いたかったけど今はそんな言葉を吐き出す気力すらなくて。
「……私は、あなたに消えてほしくない」
怖かった。怖かった!だってあなたは黙って私の前から立ち去ろうとしていたから……!
「いや、今度こそ本当に大丈夫だ。約束する。俺は生きるよ、これからも」
もう失いたくない。あなたを、あなたの心を縛りつけてでも離したくない。
「……もういなくならない?」
「ああ。俺はアヤベの傍にいるよ」
私の言葉の何が響いたのかは分からない。だけど、その意思が確かなものになったことをその瞳が告げていた。
「…………」
トレーナー室前で立ち止まってもう数分が経過した。
あれから思い返してみると我ながら恥ずかしいことを言ったと思う。あなたが好きだから、なんて。
「あれ、アヤベさん。どうしたんですか?」
「……トップロードさん」
ナリタトップロード。彼女がそこにいた。
「……すごいですね、アヤベさん」
「そう?」
場所を移動して、大樹のウロの前のベンチに私たちは腰掛けていた。
流石に丸々全て話すのは躊躇われたため、掻い摘まんで説明した。
「トレーナーさんのこと、大切に思ってるんですね」
「………………そうね」
私はトレーナーさんが好き。これはもう疑いようのない事実だった。
「……ありがとう。話したら気が晴れたわ」
「いえいえ、このぐらいならいくらでも大丈夫です!」
トップロードさんは優しい。あの頃の私は、その光に怯えていたけれど。
何はともあれ覚悟は決まった。トレーナーさんに、ちゃんと向き合おう。
これはトレーナーさんの問題。私が肩入れすることじゃない。それでも。
あなたの夜を照らせなくても、道標となる
気分がいつまで経っても高揚している。
我ながら気持ち悪い話だが、彼女の告白に喜ばざるをえなかった。
飢え渇いていたものが急速に満たされる感覚。
これまで何をしても分からなかった正体が、今ハッキリと形に溢れている。
両親にも、親戚にも終ぞ受け取ることのなかった感情。
これはいい。これがあるだけで、俺は明日も生きていられる。
それと同じくして思ってしまった。この輝きを離したくないと。
彼女に拒まれたら、素直に諦めるつもりではいる。
アヤベのために生きる。意味合いが変わった目的を、今の俺は後生大事に抱えていた。
深呼吸をしてから、一息に言い放った。
「……改めて、言うけど。私はあなたが好き。この世界の誰よりも」
「……!」
トレーナーさんの瞳が輝きだす。
……そうなの。彼に刺さったのは、この言葉だったの。
「だから……あなたには生きていて、ほしい」
顔が赤くなるのを自分でも感じる。今まで誰にもこんなことを言ったことは無かったから。
「……俺、分からなかったんだ。どうして生きなきゃいけないのか」
今度はトレーナーさんが語る番だった。
「だけど本当の俺はそんなことどうでもよくって、ただ誰かに”好き”って言ってもらいたかっただけだったんだ」
お互いがお互いに救われていた。だけど今日に至るまでそんなことに気づけなくて。
「だから──ありがとう、アヤベ」
そう言って微笑む。私は、小さく笑った。
「なあ、アヤベ」
「何?」
昼下がりのトレーナー室。外から差し込む日光が、部屋を満たしている。
「この関係が終わっても、一緒にいないか?」
少し早すぎるかもしれないがこれが俺の本音だ。俺はこれからもアヤベの隣に立ちたい。
「……いいの?あなた、トレーナーでしょう」
「やっと生きる意味を見つけたんだ。この仕事くらい、辞めさせられたって構うもんか。それより君といる方が重要だ」
大人としては落第点だ。それがどうした。こちとらまだまだ星を追う子どもなんだから。
「……私で、よかったら」
「……!ああ!大好きだ!アヤベ!」
「……声がデカいわよ、もう」
そう言いながらも微笑を湛えている彼女。
もう間違えない。俺は、陽だまりの中を歩いていく。