【映画〝風〟】クレヨンしんちゃん 復活! 嵐を呼ぶシッコクのワルダン襲来   作:アサギリナオト

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 地球より遠く離れた宇宙空間。

 

 とある小惑星の陰に一隻の巨大宇宙戦艦が停泊していた。

 

 戦艦は巨大なバリアシールドに囲まれており、外から戦艦の姿を見ることは出来ない。

 

 シールド内はあるゆる生物に適応した特殊な気体(ガス)で満たされており、普通の人間でも宇宙服なしでの活動が可能だ。

 

 戦艦の上には国家規模の大きな街が作られている。

 

 そして、その街の中心となる地点に司令部は存在した。

 

 

「『クロト』。次なる目標は?」

 

 

 司令部の二階にある司令室。

 

 その部屋の窓際に一人の宇宙人が立っていた。

 

 紫色の肌に鋭い目つき。

 

 唇は前面に浮き出るようにふくらんでおり、鼻と耳は先端の部分が少し尖っている。

 

 身長は160センチ程度だが、首や手足がやや太く、見た目よりも力強さが感じられた。

 

 その宇宙人は黒のカラーリングを重視した豪華な服装に身を包み、ワイングラスを片手に外の景色を眺めていた。

 

 

「はい、『マオ様』。太陽系第三惑星――――『地球』にございます」

 

 

 クロトと呼ばれた宇宙人が司令部の長であるマオの質問に答えた。

 

 クロトはマオと違って蒼白い肌をしており、背が高くて手足もスラっとしている。

 

 顔は理知的で宇宙人の中でもイケメンの部類に入り、全体的に人間に近い容姿を持っていた。

 

 

「地球か……。なかなかの相手だが、現代の科学技術では我らの足元にも及ぶまい」

 

 

 マオが率いる秘密組織『ワルダン』は宇宙征服という大きな野望を掲げている。

 

 彼ら『シッコク星人』が有する科学技術は地球のそれを大きく上回り、これまでに数多くの敵をその手で屈服させてきた。

 

 はるか遠い未来からやって来た彼らの科学技術は、文字通り〝時の流れ〟に逆らうことすら出来るのだ。

 

 

「クロト。おそらく地球は我らの支配を断固拒否する。争いは避けられぬであろう」

 

 

「……」

 

 

「――――念のために聞いておく。我らの勝算はいかほどだ」

 

 

「わたくしどもの調査によりますと、我々の勝率は〝98%〟にございます」

 

 

「98……? 我らの科学技術をもってしても敗北の危険性があるというのか?」

 

 

「恐れながら、マオ様。何事も100%という数字はございません」

 

 

「そんなことはわかっている。地球人がいかなる抵抗手段を持っているのか……。我らの敗因となる要素をここで申せと言っているのだ」

 

 

「少々お待ちを……」

 

 

 クロトが手元の端末を操作し、地球についての詳細なデータを調べ上げた。

 

 

「お待たせいたしました。こちらをご覧ください」

 

 

 司令室の空間に大きな画面が表示され、そこに地球の様子が映し出される。

 

 

〈ほっほ~い!〉

 

 

〈こらっ、しんのすけっ! 待ちなさ~いっ――!〉

 

 

〈たーっ、たーっ♪〉

 

 

 画面に映っているのは、とある一般家庭の映像だ。

 

 幼い子どもと、その母親らしき人物が家の中で追いかけっこをしている。

 

 その様子を可愛らしい赤ん坊がおもちゃを振り回しながら眺めていた。

 

 

「……何だ、コイツらは?」

 

 

「こちらは地球の小さな島国に住む〝野原一家〟の映像です。一家の大黒柱である『野原ひろし』は会社務め。日本の春日部という土地に家を構える一般家庭のようです」

 

 

 マオの質問にクロトが答え、マオはワインを一口飲んだ。

 

 

「コイツらが何だと言うのだ? とても我らの科学技術に対抗できるとは思えない」

 

 

「しかしながら、野原一家は水面下の戦いにおいて地球や祖国の危機を幾度も救っております。おそらく我々の認識を超えた未知なる能力(ちから)を有しているのかと……」

 

 

「……」

 

 

「さらに言えば、野原家の長男である『野原しんのすけ』は……特異点です」

 

 

「特異点……〝消えぬ存在〟ということか……」

 

 

 マオが難しい表情を浮かべている。

 

 

「いかがなさますか?」

 

 

「……相手は我が野望を阻む強大な砦。慎重に越したことはない」

 

 

「では……」

 

 

「ああ。此度(こたび)の戦いで我々が最初に成すべき仕事は――――」

 

 

 マオが右手のワイングラスを目の前まで持っていき、それを粉々に握り潰した。

 

 

「野原一家の抹殺だ」

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「しんのすけ~っ!」

 

 

 とある日曜日の朝。

 

 野原一家の専業主婦である『みさえ』は、遅くまで寝ている長男の『しんのすけ』を叩き起こした。

 

 

「かーちゃん……。おやすみ……」

 

 

 そう言って、しんのすけは布団の中に潜り込んだ。

 

 

「日曜だからって、だらけるんじゃありませんっ! ――――あなたも、いつまで寝てるの⁉」

 

 

「昨日は急な呼び出しで大変だったんだ。今日くらいゆっくり寝かせてくれ……」

 

 

 野原一家の大黒柱である『ひろし』は、寝返りを打って布団を体に巻き付けた。

 

 

「もう、だらないわね。ウチの男どもは……」

 

 

「きゃ~い、きゃ~い♪」

 

 

「それに比べてエラいわね、『ひまちゃん』は。さあ、向こうでママと一緒にごはんを食べましょ」

 

 

 みさえは長女の『ひまわり』を抱き上げ、食卓の方へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 ――――――――――――

 

 

 

 

 

「マオ様。今しがた工作員から連絡が」

 

 

 司令室にクロトが現れ、マオに現状を報告する。

 

 マオは椅子に座って外の景色を眺めており、クロトがマオに向かって頭を下げた。

 

 

「首尾は上々。野原一家の抹殺は間もなく完了いたします」

 

 

「よし。引き続き作業を続けよ。我らも現地へと向かう」

 

 

「はっ」

 

 

 クロトが姿勢を戻し、司令室から出ていった。

 

 マオは口元に笑みを浮かべ、ゆっくりと席を立つ。

 

 

「くっくっくっ……。私は力任せに事を運ぶバカとは違う……」

 

 

 部屋の隅に野原一家を模して作られた四体のマネキンがあった。

 

 それらの顔には黒い太文字で〝へのへのもへじ〟が描かれている。

 

 

「我が野望の礎となるがいい――――野原一家」

 

 

 そう言ってマオは右端に置かれていた〝ひろし人形〟の額にデコピンした。

 

 すると〝ひろし人形〟が大きく傾き、他の人形も巻き込んでドミノ倒し的に倒れていった。

 

 

「くっくっくっくっ……。はーはっはっはっはっ――――‼」

 

 

 ワルダンの地球侵略作戦は既に始まっている。

 

 野原一家は、かつてない危機(ピンチ)を迎えようとしていた。

 

 

 

 

 

 ――――――――――――

 

 

 

 

 

 その日の深夜。

 

 野原一家が床に就いている時間帯。

 

 突然、ひまわりが大きな泣き声を上げた。

 

 

「どうしたの、ひまちゃん……?」

 

 

 みさえが体を起こし、寝ぼけまなこでひまわりを〝地面〟から抱き上げた。

 

 ひまわりをあやしているうちに、みさえの意識がハッキリしてくる。

 

 やがて彼女は自分の体や周囲の異変に気付き、両目を大きく見開いた。

 

 

「ちょっと、あなたっ――‼」

 

 

 みさえが慌ててひろしを叩き起こし、ひろしは鼻をむずむずさせた。

 

 

「なんだよ……? やっと寝れたとこなのに……」

 

 

 ひろしは面倒くさそうに上体を起こすが、すぐにただ事ではないことを理解する。

 

 パジャマを着て布団に入ったはずが、なぜか全員丸裸になっていたのだ。

 

 

「なんだ、ここは――⁉ それにオレたちのこの格好……」

 

 

「ねえ。何がどうなってるの、これ……?」

 

 

「そんなのオレにだってわかんねえよ……」

 

 

 ひろしとみさえは完全にパニくっていた。

 

 野原一家は高いコンクリートの壁に挟まれた薄暗い路地の中で眠っていたのだ。

 

 表通りから明かりが差し込み、そちらから人通りの気配を感じる。

 

 

「おいっ‼ 起きろ、しんのすけっ――‼」

 

 

「ん~、とーちゃ~ん……。めずらしく早起きだね……」

 

 

「おバカっ、寝ぼけてる場合じゃないっ――! 周りをよく見ろっ!」

 

 

「う~ん……」

 

 

 しんのすけはひろしに無理やり体を起こされ、あちこちを見回した。

 

 さすがのしんのすけも、そこが自宅の寝室でないことに気付く。

 

 

「ここ、どこ……?」

 

 

「それがオレたちにもわからないんだ……」

 

 

「私たち、普通に家の布団で寝てたわよね?」

 

 

「あっ――⁉ オラたち裸だっ――‼」

 

 

 ひろしが慌ててしんのすけの口を両手で塞いだ。

 

 

「バカっ、デカい声出すんじゃない……」

 

 

「ねえ、これからどうするぅ……?」

 

 

 みさえが青ざめた表情で、ひろしにたずねた。

 

 

「ああ、マズいな……。こんなところを誰かに見られでもしたら……」

 

 

「オラたち〝こーもんわいせつ罪〟だゾ」

 

 

「「それを言うなら〝公然わいせつ罪〟」」

 

 

 しんのすけのボケに、ひろしとみさえがすかさずツッコんだ。

 

 

「けど、このままじゃ本当にそうなり兼ねない……」

 

 

「オラ、家から服とってくる!」

 

 

「それが出来りゃあ苦労はねえよ……。せめて、ここがどこだかわかりゃあいいんだが……」

 

 

 深夜でも表通りには人がいる。

 

 むやみに近付くことは出来ない。

 

 するとしんのすけが突然身震いを起こした。

 

 

「うぅぅ……。オラ、おしっこしたくなってきたゾ……」

 

 

「やだぁ、も~……」

 

 

(しも)が冷えたのか……。夜にこの格好じゃ無理もない……。――――しんのすけ。その辺でしてこい」

 

 

 しんのすけはひろしに言われた通り、路地の壁に向かって立ちションを始めた。

 

 しんのすけがホッとため息を吐くと、最悪のタイミングで壁側に設置された住宅の窓がガラリと開いた。

 

 

「「……」」

 

 

 しんのすけと住人の中年女性の目がバッチリ合う。

 

 

「おおっ?」

 

 

「坊や、人ん()の裏で何してんだい? ――――ん?」

 

 

 中年女性が何かに気付いた様子で顔を左に向けた。

 

 するとひろしとみさえの全裸姿が中年女性に見られてしまった。

 

 その瞬間、ひろしとみさえの顔色が一気に青ざめる。

 

 

「っ~~……、ああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ――――‼‼」

 

 

 中年女性が少しタメを作ってから大きな悲鳴を上げた。

 

 野原夫婦は慌ててその場から走り出し、ひろしがしんのすけを抱き抱える。

 

 

「「はっ、ほっ、はっ――‼」」

 

 

 二人は路地裏の細長い道を猛スピードで駆け抜け、地面に置かれた廃棄物をハードルのごとく飛び越えた。

 

 そして二人は、とある飲食店のゴミ捨て場の陰にすばやく身を隠した。

 

 

「「ぜえ、ぜえ……」」

 

 

「とーちゃんたち、陸上の選手みたいだったゾ」

 

 

「きゃ~い♪」

 

 

 ひろしとみさえは大きく息を切らし、返事を返す余裕もない。

 

 

「ねえ、今の人……」

 

 

「ああ……。〝お隣の家〟のおばさんだったな……」

 

 

「一体どういうことなの、これ……?」

 

 

 みさえが弱々しい声でひろしにたずねる。

 

 しかし、ひろしはその質問に答えることが出来ない。

 

 ワケがわからないのは、ひろしも同じだ。

 

 しんのすけがひろしとみさえの顔を交互に見る。

 

 

「とーちゃん。オラん()なくなっちゃった?」

 

 

 しんのすけには何か感じるものがあったのか、その何気ない一言がひろしに〝ある可能性〟を(いだ)かせた。

 

 

「まさかとは思うが、ひょっとして……」

 

 

 ――――と、そのときである。

 

 

「「っ――⁉」」

 

 

 突然、野原一家に向けて懐中電灯の光が照らされた。

 

 

「いました! 通報にあった一家らしき四人組かと思われます!」

 

 

 おばさんから通報を受けた交番勤務の警察官が二人組で現れる。

 

 

「よし、署に連絡だ。――――君たちには色々と聞きたいことがある。パトカーまで一緒に来てもらうよ」

 

 

「「はい……」」

 

 

 観念した野原夫婦は警察官の指示に従い、二人組が乗ってきたパトカーに大人しく乗り込んだ。

 

 パトカーの中では、警察官の一人が無線を通じて誰かと話している。

 

 

「ああ、オレたちもう終わりだ……」

 

 

「長いようで短い人生だったわね……」

 

 

 ひろしは両手で顔を覆い、みさえの左目から涙がこぼれ落ちる。

 

 二人は完全に諦めムードだ。

 

 あまり状況を理解していないしんのすけは、その場のノリだけで「やれやれ……」のポーズを取った。

 

 野原一家をパトカーに乗せた警察官が助手席のドアを開こうとする。

 

 すると何者かが彼の背後に近付き、いきなり彼の後頭部を鷲掴んだ。

 

 

「っ――⁉」

 

 

「失礼。あなたに恨みはありませんが、しばらく眠っていただきます」

 

 

 謎の男が不思議な力で警察官を気絶させ、警察官は地面に崩れ落ちた。

 

 男は助手席のドアを開けてパトカーに乗り込み、運転席に座っていた警察官も同様の手で眠らせた。

 

 

「何だ、何だ……?」

 

 

 男は、ひろしの反応を無視して運転席のドアを開け、警察官をパトカーの外に放り出した。

 

 男は運転席と助手席のドアを閉め、後部座席の方に振り返る。

 

 

「大人しくしてください。あなた方は私と一緒に来てもらいます」

 

 

 そう言って謎の男の正体である〝クロト〟は、野原一家に不思議な形状をした光線銃を向けた。

 

 

「もう何がどうってんのよ~っ⁉」

 

 

 みさえが再びパニックに陥る。

 

 

「アンタ、なんなんだ……? オレたちが何したってんだよっ――⁉」

 

 

 ひろしがクロトにそうたずねた。

 

 

「そうですね。あとで理由くらいは説明しましょう」

 

 

 そう言ってクロトは、耳に付けていた通信機に手を当てた。

 

 

「こちら、クロト。野原一家の拘束に成功した。転送を頼む」

 

 

 クロトが母艦に連絡を取り、現状を伝える。

 

 するとしんのすけがクロトの光線銃に興味を抱き、「じ~……」と顔を近付けた。

 

 

「おにーさん。これホンモノ?」

 

 

「……試してみますか?」

 

 

 クロトはニヤリと笑みを浮かべ、しんのすけに光線銃を手渡した。

 

 

「私を撃っても無駄ですよ。私の体には、あらゆる科学兵器を無効化する強力なバリアシールドが張ってあります。――――撃つなら外にしてください」

 

 

 しんのすけは銃に視線を向けながら「ほうほう……」と二度うなずいた。

 

 

「えいっ!」

 

 

 しんのすけは何も考えず、光線銃を斜め下に向けて引き金を引いた。

 

 

「「「バカっ、どこに撃ってんだっ――‼」」」

 

 

 大人たち三人が同時に叫ぶ。

 

 すると次の瞬間、光線銃から放たれたビームがパトカーのガソリンタンクに引火し、大爆発を起こした。

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