【映画〝風〟】クレヨンしんちゃん 復活! 嵐を呼ぶシッコクのワルダン襲来   作:アサギリナオト

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 シッコク星人の巨大戦艦はタイムパトロールの応援部隊に囲まれていた。

 

 まもなく、この戦艦は30世紀の宇宙空間に移される。

 

 

「街の人たちはどうなるんですか?」

 

 

 ひろしがリングにそうたずねた。

 

 

「彼らは元より未来人ですので、司令部の調査が済み次第、元の時代に帰っていただくことになります。人様の国を証拠品として預かるわけにはいきませんから、今後の生活に影響が出ることもないでしょう」

 

 

「そうですか」

 

 

「〝あの人たち〟は、この先どうなっちゃうの?」

 

 

 今度は、みさえがリングにそうたずねた。

 

 

「ワルダンの代表であるお二方には司法取引のために一度タイムパトロールの本部まで来ていただくことになります」

 

 

 リングが横を見ると、それに釣られてひろしとみさえも同じ方を向いた。

 

 すると一人の男性隊員に付き従う形でマオとクロトがタイムパトロールの船に乗り込む姿が見えた。

 

 

「他の方々には結果が出るまで自宅謹慎という形を取らせていただく予定です。――――おそらく、この司令部も今後はタイムパトロールの支部として活用されることになるでしょう」

 

 

 そう言ってリングは司令部の建物を見上げた。

 

 ひろしとみさえも同じように見上げている。

 

 

「ちなみにですが、リングさん。――――彼らがこの時代を選んだ理由はなんだったんですか?」

 

 

 ワルダンは歴史マニアであるヒエールとは違って、今の時代にこだわる理由がない。

 

 わざわざこの時代を選ばなくとも、もっと昔の時代で宇宙征服の活動を行っていれば、もっと楽に地球を侵略できたはずだ。

 

 

「一つは、この時代には地球人以外の知的生命体がほとんど存在しません。例えば、誰も住んでいない星に旗を一本立てるだけでも、それは彼らの支配領域となります。その星で行う彼らの破壊活動といえば、その星に住みつく凶暴な地球外生命体を駆除するくらいで済みますから」

 

 

「……つまり犠牲者は出ない」

 

 

 元から住んでいた地球外生命体にとっては迷惑な話だが、それは人間も当たり前のようにやっていることだ。

 

 その点について彼らを責める資格はない。

 

 

「二つ目は、第二次世界大戦が終戦のときを迎え、人類が本格的に宇宙に興味を持ち始めたのは20世紀の後半からです。それ以前の地球人は、宇宙人と対話する概念すら持ちません」

 

 

「そうか……。今の時代なら小競り合いが生じても、宇宙のすごさを知っている人類は早い段階で降伏できる……」

 

 

「その前は国同士の戦争や戦で当たり前のように人が亡くなってたから……」

 

 

「ええ。降伏はおろか……、第二次世界大戦時とは比べものにならないほどの犠牲者が出ていたでしょう」

 

 

「「……」」

 

 

 ひろしとみさえは再びマオたちが乗った船を見る。

 

 

「あのマオってヤツは、そこまで考えてやがったのか……」

 

 

「本当にただの悪者じゃなかったのね……」

 

 

 今ならマオを慕うシッコク星人たちの気持ちが理解できる。

 

 

「だからと言って、彼らの行いが正当化されるわけではありません。しかし、その考え方から彼らの良心を見い出せたのも、また事実……。――――きっと彼らは、我々の期待以上の働きを見せてくれると思います」

 

 

 やがてマオたちを乗せた船は光を発して時空間に入ってしまい、ひろしたちはそれを笑顔で見届けた。

 

 そして今回の事件で共に戦った仲間たちとも、お別れのときがやってくる。

 

 

「お別れだな、ボーズ」

 

 

「しんのすけ。本当に行っちゃうの?」

 

 

 しんのすけたちはタイムパトロールの船で地球まで送り届けられることとなり、リングや吹雪丸たちとはここでお別れすることとなった

 

 別れ際の挨拶の場にはピアやピアの母親も来ていた。

 

 ピアは、しんのすけとの別れをとても寂しがっている。

 

 ピアの家族の協力がなければ、このような大団円を迎えることはなかっただろう。

 

 

「うむ。ピアたちも元気でやるんだゾ」

 

 

「こーら。あいさつくらいちゃんとしなさいっ!」

 

 

 みさえがしんのすけを叱りつける。

 

 

「ピア。あんまりボーズを困らせるようなこと言っちゃダメだ」

 

 

「だって、もう二度と会えないんでしょ……?」

 

 

 未来の法律では緊急時でもない限り、違う時代で生きている者たちが接触することは固く禁じられている。

 

 自然の摂理に反すれば、いつか必ずしっぺ返しを食らう。

 

 これは仕方のないことなのだ。

 

 

「ピア。ボーズにはボーズたちの生きる世界があるんだ。ピアも自分の家に帰れなくなったら嫌だろ?」

 

 

「っ――」

 

 

 するとピアは父親のもとから離れてしんのすけの体にしがみついた。

 

 

「おい、ピア――!」

 

 

 ピアは、しばらくしんのすけの側から離れなかった。

 

 しかし、あるタイミングでピアがしんのすけの耳元でささやく。

 

 

「さようなら、しんのすけ……」

 

 

 ピアは自身の表情を見せないまま、父親の方に戻っていった。

 

 父親の体に顔をうずめて涙を必死にこらえている。

 

 

「もしかして、あの子……」

 

 

「ひゅーっ。モテモテだな、しんのすけ」

 

 

 そう言ってひろしはしんのすけをからかうが、しんのすけはひろしの冗談に付き合う気にはなれなかった。

 

 

「しんのすけ。私たちとも、ここでお別れだ」

 

 

「しんのすけ様。どうかお元気で」

 

 

 しんのすけは吹雪丸たちと握手を交わし、笑顔で別れの挨拶を終えた。

 

 吹雪丸たちとは出会っては別れるを繰り返しているが、この瞬間のむなしさに慣れることはない。

 

 

「ところで、どうやって彼女たちを元の世界に戻すんですか?」

 

 

 ひろしがリングにそうたずねた。

 

 吹雪丸と雪乃は、本来の時間軸とは異なる別次元の世界から来た幻のような存在である。

 

 普通に過去に戻るだけでは彼女たちを元いた世界に返すことは出来ない。

 

 

「改変された歴史を元の形に修正すれば、彼女たちは時間の波に乗って元の世界に辿りつくことが出来ます。しかし、今回のような奇跡でも起きない限り、彼女たちと再び会うことは二度と叶わないでしょう」

 

 

 悲しい話だが、それが本来あるべき世界の姿である。

 

 するとひろしがあることに気が付いた。

 

 

「歴史を修正って……。じゃあもし、しんのすけがアイツらにやれてたら……」

 

 

「「「……」」」

 

 

 一同の視線がリングに集まる。

 

 

「――――というわけで、みなさん帰りましょう!」

 

 

「「「おいっ――‼」」」

 

 

 しんのすけとピア以外の全員が同時にツッコんだ。

 

 

「ったく……。そういえば前にも似たようなことがあったなぁ……」

 

 

「どうやらあの人が最高司令官と懇意の仲っていうのは本当みたいね」

 

 

 ひろしの言葉にみさえが苦笑いする。

 

 

「今回はしんのすけの呼び出しだから仕方がないにせよ、どうりで今までの無茶が通ってきたわけだ……」

 

 

 するとしんのすけが懇意の仲という言葉に反応して目を細めた。

 

 

「…………………………愛人?」

 

 

「「おバカなこと言ってんじゃないのっ――!」」

 

 

 ひろしとみさえが同時にツッコんだ。

 

 

「私はこれから事件の後処理があるので、お先に失礼します。野原一家のみなさん。いつまでもお元気で」

 

 

 そう言ってリングが野原一家に別れの挨拶を告げた。

 

 リングは吹雪丸たちを連れて船に乗り込み、窓ガラス越しに野原一家に手を振った。

 

 ひろしたちも笑顔で手を振り返す。

 

 隊員が数人がかりでエンジと雪乃の馬をどうにか船に乗せようとしているが、隊員の一人がエンジに「パカンッ!」と後ろ足で蹴り飛ばされていた。

 

 その光景を見ていたひろしたちは、頭に変な汗をかきながらリングたちに手を振り続ける。

 

 やがてリングたちを乗せた船は時空間に転移し、しんのすけたちの目の前から姿を消してしまった。

 

 しんのすけは何もない空間をしばらく見つめ続けている。

 

 

〈さびしいか、しんのすけ?〉

 

 

 そのとき、以前にも聞いた不思議な声が頭の中に響いてきた。

 

 しんのすけが後ろに振り返っても――――そこには誰もいない。

 

 

「しんのすけーっ!」

 

 

 みさえに呼びかけられたしんのすけが今度はそちらに振り返る。

 

 するとそこには家族がいた。

 

 

「いつまでもボーっとしてないで、私たちも帰るわよーっ!」

 

 

 父親のひろし、母親のみさえ、妹のひまわり。 

 

 リングたちとの別れは確かにさびしい。

 

 しかし、一人になったわけではない。

 

 家族と一緒に暮らしている限り、さびしい思いなどあるはずがない。

 

 しんのすけは家族のもとまで走っていき、一緒にタイムパトロールの船に乗り込んだ。

 

 

「(ボーズ。オレもいつかボーズみたいな立派なヒーローになってみせるからな……)」

 

 

 ピアの父親が心の中でそうつぶやき、側に立っていたピアと手をつないだ。

 

 ピアがようやく笑顔を浮かべ、ガラス越しに見えるしんのすけに笑いかける。

 

 

「しんのすけ~っ――‼」

 

 

 ピアが何かを言っているようだが、しんのすけの耳には届かない。

 

 しかし、ピアの両親の慌てた様子から察するに、とても大胆な発言をしているようだ。

 

 そして間もなく――――野原一家を乗せたタイムパトロールの船は光を放ち、時空間に転移した。

 

 

 

 

 

 ――――――――――――

 

 

 

 

 

 後日談。

 

 ワルダンによって改変された歴史が修正され、世界は本来の姿を取り戻した。

 

 

「んじゃ、行ってくるよ」

 

 

「いってらっしゃーい」

 

 

 ひろしが玄関のドアを開けて会社に行く姿をみさえが見送った。

 

 みさえが洗濯物を持って寝室に向かうと、寝室はなぜかものすごく散らかっていた。

 

 

「こらっ、しんのすけっ! アンタなにやってんの――⁉」

 

 

 しんのすけは何かを探している様子で押し入れの中をひっかき回していた。

 

 

「早く幼稚園に行く支度を――!」

 

 

 押し入れの中から出てきたしんのすけの手には〝あるもの〟が握られていた。

 

 それを見たみさえは一瞬驚き、そして小さなため息を吐いた。

 

 

「……早くしないとバス来ちゃうわよ」

 

 

 みさえは苦笑いを浮かべ、寝室の窓を開けて洗濯物を干しにいった。

 

 しんのすけの手には〝井尻又兵衛由俊(いしりまたべえよしとし)〟から授かった馬手差しが握られており、しんのすけはその短刀の刃を鞘から少しだけ抜いた。

 

 そのとき、寝室の窓から強い日差しが入ってくる。

 

 しんのすけが窓の外を見ると、晴れ晴れとした青空の中に一つだけ雲が浮いていた。

 

 しんのすけの心の中に大切な思い出がよみがえる。

 

 しんのすけは両目を閉じ、武士の誓いの言葉をつぶやきながら――――短刀の刃をゆっくりと鞘におさめた。

 

 

「――――――――きんちょう」

 

 

 

 

 

 

 【おしまい】

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