【映画〝風〟】クレヨンしんちゃん 復活! 嵐を呼ぶシッコクのワルダン襲来   作:アサギリナオト

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「マオ様、緊急事態です!」

 

 

 配下のシッコク星人が司令室に駆け込んできた。

 

 

「どうした?」

 

 

 椅子に座っていたマオがその向きをクルリと変える。

 

 

「クロト様の生体反応が先ほど途絶えました」

 

 

「何だとっ⁉ クロトがやられたというのか――⁉」

 

 

「あ、いえ……。転送装置は稼働しておりますゆえ、おそらく野原一家の抵抗に遭い、通信機が破壊されたものと思われます」

 

 

 マオが椅子から立ち上がり、司令室の中を歩き始めた。

 

 

「奴らの生体反応が確認されたときは、もしやと思ったが……。やはり一筋縄ではいかんな……」

 

 

「しかし、捕縛自体は既に完了しております。――――すぐに始末なさいますか?」

 

 

「…………いや、その前に一つ確認すべきことがある。奴らをここに連れて来い」

 

 

 マオは自身が用意したワイングラスに液体を注ぎながら、そう言った。

 

 

「了解いたしました」

 

 

「決して油断するな。街の警備をこちらに回せ」

 

 

「はっ!」

 

 

 配下のシッコク星人は速やかに司令室から出ていった。

 

 

「……」

 

 

 マオはワイングラスを片手に窓際まで移動した。

 

 そして部屋の窓から外の〝美しい景色〟を眺めながら独り言をつぶやく。

 

 

「あのクロトを手こずらせるほどの相手か……。奴らの最期は私自身の目で見届けてくれよう」

 

 

 

 

 

 ――――――――――――

 

 

 

 

 

「ちっくしょう、離せぇっ――!」

 

 

「私たちをどこに連れてくつもりよっ――⁉」

 

 

「たーっ、たーっ!」

 

 

 ひろしとみさえの訴えに合わせてひまわりも一緒に叫んでいる。

 

 野原一家はワルダンの転送装置で戦艦に運ばれ、ひろしとみさえはリング状のバリアシールドで上半身を拘束されていた。

 

 

「黙って歩け」

 

 

 しんのすけたちは囚人用の服を着せられており、複数の警備兵に囲まれながら司令部に移送された。

 

 クロトの体は爆発の影響で所々が黒ずんでおり、しんのすけに対してストレスを感じているようだった。

 

 

「おぉ~、いい眺め~っ――!」

 

 

 しんのすけが司令部の窓から外の景色を眺めた。

 

 この戦艦には戦闘員だけでなく民間人も住んでいる。

 

 そのため、窓からはシッコク星人たちが暮らす美しい街並みが一望できた。

 

 

「こらっ、ボーズ! 勝手に動くな――!」

 

 

 戦闘服を着用した警備兵の一人が、しんのすけを抱き上げた。

 

 

「ねー、ねー。おじさんも、ここに住んでるの?」

 

 

 しんのすけの無邪気な質問に警備兵が答える。

 

 

「ああ。この船はただの戦艦じゃない。オレたちシッコク星人が暮らしてる国そのものなんだ。ここからだと、おじさんが住んでる家は――――たぶん〝あの辺〟だな」

 

 

 そう言って警備兵は街中を指さした。

 

 するとSFの知識を持つひろしが独り言のようにつぶやいた。

 

 

「こんなすごい技術が現代に存在するはずない……」

 

 

 ひろしがクロトの方に顔を向け、強いトーンでたずねた。

 

 

「――――アンタたち一体何者なんだっ⁉」

 

 

 しかし、クロトはひろしの質問には答えず、代わりにひろしに向かって不敵な笑みを浮かべた。

 

 クロトは、ひろしに背を向けて再び前に歩き出す。

 

 

「くっそ~、だんまりかよ……」

 

 

 ひろしは、あからさまにクロトの態度に苛立っている。

 

 

「ねえ、あなた……」

 

 

「ああ、わかってる……。けど、この状況じゃあ……」

 

 

 ひろしとみさえは自身を拘束するバリアシールドを見下ろした。

 

 どういう原理かは不明だが、人間の力では決して外せないようになっている。

 

 

「ほらっ、さっさと歩けっ――!」

 

 

 ひろしは警備兵に背中を押され、仕方なく歩き出した。

 

 みさえもその後に続き、しんのすけやひまわりは警備兵に抱えられたまま運ばれていった。

 

 

 

 

 

 ――――――――――――

 

 

 

 

 

「少し待て」

 

 

 クロトが野原一家にそう命じた。

 

 彼らの目の前には大きな両扉が存在し、クロトがドアの前に立つとそれは自動的に開いた。

 

 

「マオ様。例の者たちをお連れしました」

 

 

「……入れ」

 

 

 マオが入室を許可し、クロトが野原一家を司令室の中に入れた。

 

 しんのすけとひまわりがひろしたちの側に降ろされ、警備兵が逃げ道を塞ぐように出入り口を固める。

 

 

「ようこそ、野原一家の諸君。私はマオ。君たちには私の部下がずいぶんと世話になったようだ」

 

 

 マオが皮肉を言いながら野原一家の側まで歩み寄った。

 

 

「お前が親玉かっ⁉ オレたちに何の用だっ――⁉」

 

 

「早く私たちを家に帰してっ――!」

 

 

 ひろしとみさえがマオに向かってそう叫んだ。

 

 

「くっくっくっ……。そうはいかない。君たちには今日ここで消えてもらう」

 

 

「……何だと?」

 

 

「君たち野原一家は我らの計画に邪魔な存在なのだよ」

 

 

「どうして私たちが……⁉」

 

 

「そもそも、お前たちの計画って何だよっ――⁉」

 

 

 マオが室内を歩き回りながら説明を始めた。

 

 

「我がワルダンの最終目的は全宇宙の支配。この次元において宇宙一の科学力を誇る我らには、そう難しくない目標のはずだった。――――だが、地球には君たち野原一家がいた」

 

 

 そう言ってマオが野原一家を睨みつけた。

 

 

「オレたちは、ただのしがない貧乏一家だぞ!」

 

 

「そうよ! 私たちには何の関係もないじゃない!」

 

 

 ひろしとみさえがマオに反論する。

 

 

「くっくっくっ……。そう思っているのは君たちだけだ」

 

 

「「……?」」

 

 

「公にはされてないが、君たち野原一家は世界を守る秘密組織やヒーローたちと手を組み、悪の秘密結社の野望を何度となく打ち砕いてきた」

 

 

 マオがひろしのすぐ側まで移動し、ひろしの顔を下から覗き込むような角度で笑いかけた。

 

 

「私は、ね……。君が言うところの〝日本のサラリーマンのド根性〟とやらを侮ってはいないのだよ」

 

 

「っ――」

 

 

「そして野原みさえ。君の〝日本の専業主婦〟の力も、ね……」

 

 

 マオがみさえに視線を向け、みさえは恐怖で顔をひきつらせた。

 

 それでもひまわりだけは、どうにか守らんとしている。

 

 マオは野原一家に背を向け、自身の机の方へと歩き出した。

 

 

「母の力とは偉大なものだ。いざとなったら我が子のために自らの命すら投げ捨てる」

 

 

「……それが何だってんだよ?」

 

 

「親が子どもを守るのは当たり前でしょっ――⁉」

 

 

 ひろしとみさえが一緒になって言い返す。

 

 マオは机の上にワイングラスを用意し、部下に高級ワインを持って来させた。

 

 

「そう。我らにとって、その〝当たり前〟こそが脅威なのだ。君たち夫婦には、我が子のために命懸けで戦う覚悟がある。その覚悟が数々の奇跡を呼び起こし、君たち野原一家に勝利をもたらしてきた」

 

 

 マオの部下がワインの栓を開け、マオの持つグラスに赤い液体を注ぎ込んだ。

 

 

「気付いていないようだが、今回の件に関して――――君たちは既に一つの奇跡を起こしている」

 

 

 マオが右手のグラスを軽く回し、ワインを一口飲んだ。

 

 

「我らは地球侵略作戦の第一段階として、過去の地球に工作員を送り込んだ。君たち野原一家の存在を抹消するために」

 

 

「っ――⁉」

 

 

 その話を聞いて、ひろしにはピンと来るものがあった。

 

 ひろしの反応を見たマオが小さく笑みを浮かべる。

 

 

「気付いたようだね、野原ひろし」

 

 

「ねえ、あなた……。どういうことなの……?」

 

 

 みさえがひろしに説明を求めた。

 

 

「たぶん、ここはオレたちが生まれてない世界なんだ……」

 

 

「え?」

 

 

「しんのすけとひまわりは、オレとみさえの間に生まれた子どもだ。そしてオレたちは親父とおふくろが結婚して生まれた……」

 

 

 SFが苦手なみさえでも、今のところは話に付いていけている。

 

 

「コイツらは、さっき過去に工作員を送り込んだって言ってたろ? もしコイツらが親父とおふくろの結婚を邪魔したんだとしたら、この世界じゃオレたちは生まれなかったってことになる……」

 

 

「でも私たちは実際に存在してるじゃないっ――⁉」

 

 

「……」

 

 

 すると脳の柔軟性に優れたしんのすけが鋭く指摘した。

 

 

「でも、お隣のおばさんはオラたちのこと知らなかったゾ」

 

 

「きゃ~い♪」

 

 

 しんのすけに続いて、ひまわりが頷いた。

 

 

「オレたちの家や服がなくなってたのも、たぶんそういうことなんだろう……」

 

 

 ひろしたちの言葉を聞いて、みさえの表情が一気に青ざめる。

 

 

「じゃあ、なんで私たち……」

 

 

「そう。そこが問題だ」

 

 

 マオが野原一家の会話に割り込み、話を本題に移した。

 

 

「我が工作員は過去にさかのぼり、この時代の地球を〝君たちが存在しない世界〟へと改変を行った。――――なのに、なぜ君たちはまだ生きている?」

 

 

「「っ――」」

 

 

 マオの突き刺すような鋭い眼差しに、ひろしとみさえが震え上がった。

 

 

「我らの知らない〝第三者〟の力が働いているとしか思えない」

 

 

 マオが野原一家をすぐに始末しなかったのは、これが理由だった。

 

 その謎の第三者の正体を突き止めるため、野原一家をここに連れて来させたのだ。

 

 

「んなこと、オレたちに言われたって……」

 

 

「私たちは何も……!」

 

 

「フン! 君たちはこれまでに数々の修羅場をくぐって来た身だ。――――心当たりくらいはあるだろう?」

 

 

 マオがそう言った瞬間、クロトや警備兵たちが野原一家に対して一斉に光線銃を向けた。

 

 しんのすけが「おぉっ⁉」と両目を見開き、みさえがひまわりを庇うように地面に屈み込んだ。

 

 

「だから知らないって言ってるじゃないっ――⁉」

 

 

「そんなのアンタたちで勝手に調べりゃいいだろっ!」

 

 

 するとクロトが光線銃を向けながら野原一家の前に歩み出た。

 

 

「今回の作戦で我々が行った改変は配偶者の変更だけではない。あなた方の過去を一から調べ上げ、一時的に協力関係を築いた秘密組織やヒーローたちの存在も排除させていただいた」

 

 

「「っ――⁉」」

 

 

「つまり、この世界であなた方に味方する者は誰一人としていない。しかし、この改変された世界においても、あなた方を陰から支援する者がいる」

 

 

 クロトがひろしの額に光線銃を突き付ける。

 

 

「――――あなた方は一体なにを隠していらっしゃるのです?」

 

 

 しかし、この状況下でも野原一家は彼らの質問に答えることが出来なかった。

 

 

「アクション仮面は――⁉」

 

 

 しんのすけの質問にクロトは冷たい笑みを浮かべ、しんのすけに残酷な真実を突き付けた。

 

 

「無論、君が大好きなアクション仮面――――『郷剛太郎(ごう・ごうたろう)』も、この世にはいない」

 

 

 それを聞いたしんのすけが血相を変えて叫んだ。

 

 

「アクション仮面が負けるはずないゾ――‼」

 

 

「よすんだ、しんのすけ!」

 

 

 ひろしがしんのすけの暴走を止めに入る。

 

 

「負けたのではありません。彼は最初からこの世に存在しなかったのです。最強のヒーローとて両親の間から生まれてこなければ――――何も出来ない」

 

 

 クロトの返答に、しんのすけはかなりショックを受けた様子だった。

 

 クロトと入れ替わる形でマオが話の続きを行う。

 

 

「諦めたまえ。ヒーローのいないこの世界で君たちに勝ち目はない」

 

 

 マオが野原一家に降参をうながし、ひろしとみさえは絶望の表情を浮かべた。

 

 

「さあ、いい加減白状してください。あなた方を裏から支援している者は誰です?」

 

 

 クロトや警備兵たちが光線銃の引き金に指をかける。

 

 野原夫婦は拘束具で動きを封じられているため、どうすることも出来ない。

 

 もうダメかと諦めかけた――――そのときである。

 

 艦内に警報が鳴り響き、マオや警備兵の通信機に緊急連絡が入った。

 

 

〈大変です、マオ様! 〝奴ら〟が――――〉

 

 

 すると次の瞬間、何者かが司令室の壁を破壊して艦内に侵入してきた。

 

 侵入者は全身に機械的なスーツをまとっており、バイク型の小型飛行船に跨っている。

 

 

「観念なさいっ! あなたたちの目論見は全てお見通しよ!」

 

 

「くっ、『タイムパトロール』かっ――⁉ どこから情報が……」

 

 

 マオがギリッと歯を噛み締め、クロトの方に振り向く。

 

 

「クロトォォッ――‼」

 

 

 クロトはマオの意図を察し、しんのすけに光線銃を向けた。

 

 

「止まりなさいっ――! 動けば、どうなるか――――わかりますね?」

 

 

 しんのすけを人質に取られ、タイムパトロール隊員は動きを封じられてしまった。

 

 すると、ひろしがその場から勢いよく飛び出した。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっっ――――‼」

 

 

「っ――⁉」

 

 

 ひろしはクロトに体当たりをぶちかまし、クロトと一緒に床に転がった。

 

 

「逃げろ、しんのすけ~っ――‼」

 

 

 しんのすけは、ひろしの言葉に反応してみさえの方に走り出した。

 

 

「ひまわりをお願いっ――‼」

 

 

 みさえが後ろに立っていた警備兵にヒップアタックをかまし、その隙にみさえの側にいたひまわりをしんのすけが抱き上げた。

 

 

「小僧ぉぉっ――‼」

 

 

 マオが室内を駆け回るしんのすけを追いかける。

 

 しんのすけはマオの追跡をひょいひょいとかわし、タイムパトロール隊員の方へと向かった。

 

 

「乗って、しんちゃん!」

 

 

「させるかぁぁっ――!」

 

 

 マオがダイビングヘッドでしんのすけを捕まえようとする。

 

 しかし、しんのすけはそれを高いジャンプで見事にかわした。

 

 しんのすけはマオの頭の上に着地し、ひまわりと一緒に小型飛行船の後部座席に乗り込んだ。

 

 タイムパトロール隊員は、すぐに小型飛行船を発進させ、壁の穴から外に飛び出した。

 

 

「とーちゃんとかーちゃんは?」

 

 

「心配しないで。あとでちゃんと助けるから。――――でも、今はあなたたちを避難させる方が先よ」

 

 

 小型飛行船はシッコク星人たちが暮らしている街の方へと向かった。

 

 

「ちっ、すぐに奴らを追いかけろっ――‼」

 

 

「「はっ――!」」

 

 

 マオの命令に従い、警備兵たちはすぐにその場から動き出した。

 

 

「この二人は、どうします?」

 

 

 ひろしとみさえは警備兵たちに取り押さえられ、今は大人しくしている。

 

 

「牢に閉じ込めておけ。人質として活用する」

 

 

 警備兵たちは二人を立たせ、ひろしとみさえを牢獄エリアに連行していった。

 

 

「子どもたちに指一本でも触れてみろっ! そんときは絶対に許さないからなっ――!」

 

 

「お願いだから子どもたちには手を出さないで!」

 

 

 ひろしとみさえが司令室から連れ出される前にそう言い残した。

 

 残りの警備兵たちも自らの持ち場に戻っていき、司令室はマオとクロトの二人だけになった。

 

 

「迂闊だった……。まさか奴らの背後にいたのがタイムパトロールだったとは……」

 

 

「いかがなさいますか?」

 

 

「まずは、この空域から離脱する。艦の妨害システムを起動させ、外部との連絡手段を絶つのだ」

 

 

「はっ。――――例の女たちについては?」

 

 

「タイムパトロールは既に動いている。もはや手段を選んでいるときではない。あの夫婦は、あくまで保険だ。女たちは見つけ次第、始末しろ」

 

 

「了解いたしました」

 

 

 クロトはマオに頭を下げ、速やかに行動を開始した。

 

 マオは破壊された壁の修復を小型の機械人形(オート・マタ)に命じ、万が一に備えて自らも戦場に立つ準備を始めた。

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