【映画〝風〟】クレヨンしんちゃん 復活! 嵐を呼ぶシッコクのワルダン襲来   作:アサギリナオト

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 タイムパトロール隊員は、しんのすけたちを連れてシッコク星人の街に逃げ込み、とある建物の屋上に着陸した。

 

 

「しんちゃん。すぐに〝これ〟に着替えて」

 

 

 隊員は小型飛行船の座席の下から子ども用の青いジャージを取り出し、それをしんのすけに手渡した。

 

 

「おそらく、その服には発信機が仕掛けられているわ。赤ちゃんの服は私に任せて」

 

 

「ひまわりって言うんだゾ」

 

 

 ひまわりの名前を聞いて隊員が笑顔を浮かべる。

 

 

「初めまして、ひまわりちゃん♪ 少しの間じっとしててね~♪」

 

 

「きゃーい♪」

 

 

 ひまわりは意外にも隊員になついている。

 

 しんのすけはワルダンに与えられた囚人服を脱ぎ捨て、隊員に渡された青いジャージに着替えた。

 

 胸元に描かれた〝タイムパトロールSG〟の文字を見て、しんのすけは何かを思い出す。

 

 隊員は、ひまわりの服を取り換えると二人が着ていた囚人服をすぐに処理した。

 

 30世紀の道具を使って囚人服を一瞬で灰に変えてしまう。

 

 すると次の瞬間、しんのすけが着ていた〝タイムスーツ〟に微弱な電流が継続的に走り始めた。

 

 

「うぅぅ……。どこか懐かしい感じぃぃ……」

 

 

 すると、しんのすけが着ていたタイムスーツが近未来的な子ども服に変化した。

 

 タイムスーツには周囲の環境に合わせてその人に最も適した姿に変身させる機能が備わっているのだ。

 

 

「しんちゃん、よく聞いて。そのタイムスーツには二種類の〝お助け機能〟がついてるの。どちらも一度きりだから、本当に危ないときしか使っちゃダメよ」

 

l

「ほぉ……。どうやって使うの?」

 

 

「一つは、しんちゃんのお友だちを助っ人として呼び出すことが出来るの。その人の名前を呼んで『助けてー』って叫んだら、すぐに駆けつけてくれるわ。そして、もう一つは――――」

 

 

 ――――と、そのときである。

 

 隊員が手首に付けていた腕時計型の機械からアラートが鳴り響いた。

 

 遠くの方からバイク型の小型戦闘機がいくつも飛んでくる。

 

 

「くっ、説明してる暇はないわね……。私が囮になるから、しんちゃんたちはすぐにここを離れて」

 

 

 そう言って隊員は大急ぎで小型飛行船に跨った。

 

 しんのすけは不安な表情を浮かべ、隊員に何か言いたげな様子である。

 

 

「大丈夫。発信機は壊したから、ここを逃げ切れば奴らは追って来れない。――――いい? 絶対に奴らに見つかっちゃダメよ」

 

 

 隊員は小型飛行船を発進させ、小型戦闘機の部隊を自分の方に誘導した。

 

 小型飛行船はあっという間に見えなくなり、その場にはしんのすけたちと無音の静けさだけが残される。

 

 

「にー、にー♪」

 

 

 ひまわりはこの状況下でも無邪気にしんのすけに甘えようとしていた。

 

 しんのすけは兄としての使命感に駆られ、ひまわりをおんぶして屋上のドアから建物の中に入っていった。

 

 ボタンが届かないエレベーターらしき機械は使わず、最上階から一階まで階段で一気に下りていく。

 

 しんのすけは建物の出入り口から出たところで左右に首を振り、人気のない方向に向かっていった。

 

 曲がり角に差しかかる度に左右を確認し、誰にも見つからないよう進んでいく。

 

 

「おっ?」

 

 

 すると、しんのすけは道端で泣いている小さな女の子を発見した。

 

 ここにいるということは、当然シッコク星人である。

 

 肌はクリーム色で髪はオレンジ色。

 

 しんのすけと同じく近未来的な子ども服を着ており、顔は宇宙人というより擬人化した可愛らしい小動物のようだった。

 

 年齢は、しんのすけより少し上くらいだろう。

 

 敵側の者と関わるのは非常に危険だが、しんのすけは泣いている女の子を放ってはおけなかった。

 

 しんのすけが声をかけようとしたそのとき、少女の方が先にしんのすけの存在に気付いた。

 

 

「ぐす……。なによ、アンタ……?」

 

 

「アンタ、なんで泣いてるの?」

 

 

「関係ないでしょ。あっち行ってよ」

 

 

 そう言って少女はそっぽを向いた。

 

 

「困ってる人を見かけたら助けなさいって、かーちゃんが言ってたゾ」

 

 

「別に困ってなんかないわ」

 

 

「じゃあ、なんで泣いてたの?」

 

 

 しんのすけがそう指摘すると、少女がムッとした表情を浮かべた。

 

 

「う、うるさいわね……! ――――それよりアンタ見ない顔だけど、一体どこの家の子よ?」

 

 

「オラ、野原しんのすけ。こっちは妹のひまわり」

 

 

「きゃーい♪」

 

 

「オラたち、悪い大人に無理やりここに連れられて来たんだゾ」

 

 

 しんのすけが自分たちの状況をサラッと説明する。

 

 

「とーちゃんとかーちゃんは捕まっちゃった。でも〝おねーさん〟が来たからもう安心だゾ」

 

 

「う~♪」

 

 

 しんのすけの説明が適当すぎて少女には話の内容がほとんど伝わっていない。

 

 

「は、何それ? 意味わかんない……。――――でも、それじゃあアンタの方こそ大変じゃない」

 

 

「ちっちっちっ。正義の味方に不可能はないゾ。ワーハッハッハッハッハッ――――‼」

 

 

「きゃっきゃっきゃっきゃっ――――‼」

 

 

 しんのすけとひまわりがアクション仮面の決めポーズを取りながら一緒に笑い始めた。

 

 二人の会話は全くと言っていいほど嚙み合っていない。

 

 しかし、少女はしんのすけの能天気さに少しだけ元気づけられた。

 

 

「ははっ、変なの……」

 

 

 少女が小さく笑みを浮かべ、涙を拭いて服のポケットから壊れた端末を取り出した。

 

 

「これ、見て」

 

 

「おっ?」

 

 

 しんのすけとひまわりが壊れた端末に顔を近づける。

 

 

「ここに家までの地図のデータが入ってるんだけど、さっき転んで動かなくなっちゃったの」

 

 

「おぉ~っ、つまりは迷子ですな?」

 

 

「ハッキリ言わないでよ……。それにこれは、お父さんに買ってもらった大事なプレゼントだったの」

 

 

 少女は迷子を理由に泣いていたわけではなかったようだ。

 

 少女が服のポケットに端末を戻し、しんのすけにたずねる。

 

 

「ねえ、アンタこれからどうするの? 私は誰かに道を聞いて家に帰るつもり」

 

 

 しんのすけが顎に手を当て、「う~ん」と考え込む素振りを見せる。

 

 しかし、実際は何も考えていない。

 

 

「当てがないんだったらウチに来ない? 私のお父さんだったら、なんとかしてくれるかもしれない」

 

 

「おお、これもなにかの縁というやつですな?」

 

 

「ふふっ、そういうこと。そういえば自己紹介がまだだったわね。――――私は『ピア』。アンタの好きに呼ぶといいわ」

 

 

「オラ、野原しんのすけだゾ」

 

 

「それはさっき聞いた。しんのすけって呼ばせてもらうわよ」

 

 

 話がひと段落ついてところでピアがさっそく行動を開始した。

 

 

「それじゃあ、ちょっとここで待ってて。街の人に道を聞いてくるから」

 

 

 そう言ってピアは街の大通りの方に出ていった。

 

 その場に残されたしんのすけが遠くの方を見る。

 

 しんのすけの視線の先にはワルダンの司令部が映っていた。

 

 

「とーちゃんたち、今ごろ何してるかな……?」

 

 

「たぁ?」

 

 

 しんのすけは司令部の方を見つめながら独り言のようにつぶやいた。

 

 

 

 

 

 ――――――――――――

 

 

 

 

 

「ちっくしょう、ここから出せ~っ――!」

 

 

 ひろしの叫び声が牢獄エリア全体にこだまする。

 

 ワルダンに捕らえられたひろしとみさえは、バリアシールドの牢獄に閉じ込められていた。

 

 人間の力でバリアシールドを破壊することは不可能であるため、周囲には誰もいない。

 

 

「ねえ、ここって宇宙船の中なんでしょ? ここから出れたとしても逃げようがないじゃない」

 

 

「タイムパトロールが来てくれるまで大人しく待てってのか? こうしてる間にも、しんのすけたちは……」

 

 

 二人とも無力な自分に歯がゆい思いをしている。

 

 野原一家はこれまでにも数々の危機を乗り越えてきたが、所詮は一般市民である。

 

 ヒーローの助けがなければ強大な敵に抗うことは出来ない。

 

 

「――――ねえ、さっきの人……」

 

 

 みさえが何かを思い出した様子で言った。

 

 

「ああ。スーツで顔は見えなかったけど、たぶん〝あの人〟だ。オレたちが危ないことを知って、仲間の応援が駆けつける前に一人で助けに来てくれたんだろう」

 

 

 『リング・スノーストーム』。

 

 かつて野原一家と共に『ヒエール・ジョコマン』の野望を打ち砕いた30世紀のタイムパトロール隊員である。

 

 

「あの人の仲間が来てくれたら安心なんだが、それまでしんのすけたちが無事でいる保証はない。いくらあの人でも連中を一人で相手にするのは……」

 

 

 未来の科学技術は、とても恐ろしい。

 

 以前はヒエールというたった一人の歴史マニアに苦戦を強いられ、彼女自身も命を落とすところだったのだ。

 

 そして今度の相手は、彼女と同じ未来の科学技術を持つ強大な組織である。

 

 個人の力で太刀打ち出来る相手ではない。

 

 

「じゃあ、どうするのよ?」

 

 

「オレたちがここにいたんじゃ、あの人は思うように動けない。せめて足を引っ張らないようにしないと……」

 

 

 ――――と、そのときである。

 

 ひろしが何かに気付いた様子で急に黙り込んだ。

 

 ひろしの視線の先には、丸いガラスのようなものに覆われた監視カメラらしき物体があった。

 

 行動が全て見張られているなら、それを逆に利用できないかとひろしは考える。

 

 

「……」

 

 

 ひろしは自分が着せられている囚人服を見た。

 

 おそらく、この服には盗聴器や発信機なども仕掛けられている。

 

 つまり、この服を着たまま外に逃げてもワルダンからは逃げられない。

 

 ひろしは部屋の隅っこの方に移動し、みさえの方を見た。

 

 

 

 

 

 ――――――――――――

 

 

 

 

 

「……ん?」

 

 

 司令室で端末の画面を見ていたマオが何かに気付いた。

 

 画面には牢獄の設置した監視カメラの映像が映っている。

 

 ひろしとみさえは牢獄の隅で身を寄せ合い、自分たちの体を陰にして何かを行っていた。

 

 

「警備班。コイツらは一体なにをやっている?」

 

 

 マオは端末の通信機能を使って警備室に連絡を取った。

 

 

〈おそらくですが、映像や音声では捉えらない特別な手段で意思の疎通を図っているのではないかと……〉

 

 

「すぐに警備兵を向かわせろ。同じ部屋に閉じ込めたのが間違いだった」

 

 

〈了解〉

 

 

 マオが通信を切り、画面に映る二人を鋭く睨みつけた。

 

 

 

 

 

 ――――――――――――

 

 

 

 

 

 司令部の見回りを行っていた二人組の警備兵に通信が入る。

 

 二人組は互いに頷き合い、すぐに牢獄エリアへと向かった。

 

 

「貴様ら、何をやっているっ――⁉」

 

 

「「っ――⁉」」

 

 

「妙な真似はするなっ! 壁に向かって両手を付けっ!」

 

 

 警備兵の一人が、ひろしとみさえにそう命じた。

 

 二人は警備兵の指示に従い、両手を壁に付けた。

 

 二人組が監視カメラに向かって合図を送り、警備室で牢獄エリアの監視をしていた警備兵がバリアシールドを解除した。

 

 警備兵の一人が二人に光線銃を向けながら近づいていき、もう一人は離れた位置から二人を見張っていた。

 

 ――――と、そのときである。

 

 

「でぇぇぇぇぇぇぃぃっ――――‼」

 

 

 両手を壁に付いていたみさえが、いきなり後ろにジャンプした。

 

 みさえのヒップアタックを食らった警備兵は牢獄の外まで吹っ飛び、後頭部を壁に打ち付けて気絶してしまった。

 

 

「貴様っ――‼」

 

 

 もう一人の警備兵が、みさえに光線銃を向ける。

 

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっっ――――‼」

 

 

 ひろしがもう一人の警備兵の下半身に掴みかかり、床に押し倒した。

 

 そして警備兵の鼻に向かって素早く足の裏を近づける。

 

 

「くさっ――‼」

 

 

 ひろしの足の匂いを嗅いだ警備兵の顔が大きく歪む。

 

 

「どおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁっっ――――‼」

 

 

 みさえが再度ヒップアタックで警備兵を攻撃し、警備兵はうめき声を上げて意識を失った。

 

 その瞬間、艦内にアラートが鳴り響く。

 

 

「急ぐぞ、みさえ!」

 

 

 ひろしとみさえは素早く囚人服を脱ぎ捨て、警備兵たちから戦闘服を奪い取った。

 

 

 

 

 

 ――――――――――――

 

 

 

 

 

「何事だっ――⁉」

 

 

 マオが警備室と連絡を取り、状況を説明させる。

 

 

〈例の夫婦が牢獄から逃げ出しました!〉

 

 

「なんだとっ⁉ 警備兵は何をやっているっ――⁉」

 

 

〈申し訳ありません。二人は警備兵から装備を奪取し、服を脱ぎ捨てて艦内を逃走。現在、追跡しているところです〉

 

 

 マオが「ぐぬぬ……」と唇を噛みしめる。

 

 

「すぐに奴らを捕らえろっ! 手荒な手段を使っても構わん! 早くしろっ――!」

 

 

〈はっ! ただちに――!〉

 

 

 マオは警備室との通信を切り、悔しげに拳を机に叩き付けた。

 

 

「おのれ……。どこまで私の邪魔を……」

 

 

 野原一家の力を侮っていたわけではなかった。

 

 ……にも拘わらず、この(てい)たらく。

 

 マオはシッコク星人の指導者として激しい憤りを感じていた。

 

 

「もはや部下の力には頼らん。私自身の手で始末してくれる」

 

 

 マオが机の引き出しの中にある赤いスイッチを押し、ワインセラーの裏に隠されていた隠し部屋の扉が開かれた。

 

 マオは隠し部屋内に設置された端末を操作し、自身が誇る改良型の戦闘スーツの起動シーケンスを開始した。

 

 

 

 

 

 ――――――――――――

 

 

 

 

 

 タイムパトロール隊員ことリング・スノーストームは、クロト率いるワルダンの精鋭部隊からどうにか逃げ続けていた。

 

 クロトが操縦するバイク型の小型戦闘機の先端から銃口が出現し、リングに狙いを定める。

 

 

〈警告! 後方の高速飛行物体より熱源を感知! 本船を捕捉!〉

 

 

 リングが操縦する小型飛行船に備え付けられたコンピューターが彼女に身の危険を知らせた。

 

 

〈――――自動分析! バーク・コーポレーション製、高エネルギー弾〝GTX〟の可能性97パーセント!〉

 

 

「よりによって、ガトリング式っ⁉ 本当にもうあの会社は――!」

 

 

 クロトが右手の親指でハンドルに付いたスイッチを押した瞬間、小型戦闘機の銃口から黄緑色のエネルギー弾が連続で発射された。

 

 リングは素早く船体を傾け、大きく右に旋回する。

 

 するとクロトの後方に控えていた精鋭部隊が散開し、彼女の逃げ道を塞ぐように先回りした。

 

 精鋭部隊が高エネルギー弾を一斉に放つ。

 

 

「くっ――!」

 

 

 リングは船体を回転させながら急降下し、ワルダンの包囲網から逃れた。

 

 さすがのワルダンも自分たちの街に向けてエネルギー弾は放てない。

 

 ――――ところが、クロトの読みの方が一枚上手だった。

 

 

〈警告! 低空飛行物体から複数の熱源を感知! 本船を捕捉!〉

 

 

「なんですって――⁉」

 

 

 次の瞬間、リングの進行方向から無数の高エネルギー弾が飛んできた。

 

 

「しまっ――!」

 

 

 複数の高エネルギー弾が小型飛行船に着弾し、リングはバランスを崩して地上に落下していった。

 

 

〈制御不能! 制御不能――!〉

 

 

 そして攻撃を受けた小型飛行船も数秒後に跡形もなく爆散してしまった。

 

 

「……」

 

 

 クロトが通信機で司令部に連絡する。

 

 

「こちら、クロト。小型飛行船の撃墜を確認。タイムパトロールは高所より地上に落下。しかし、子どもたちの姿が見当たらない。引き続き捜索に当たる」

 

 

 クロトは通信を切り、配下のシッコク星人たちに命令を下した。

 

 

「私は一度、司令部に戻る。お前たちは、このまま子どもたちの捜索を続けろ。騒ぎになる前にタイムパトロールの遺体を回収。速やかに司令部まで持ち帰れ」

 

 

 配下のシッコク星人たちが隊列を整え、二手に分かれて行動を開始した。

 

 クロトはリングが落ちていった方向をしばらく見つめ、やがて司令部の方へと戻っていった。

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