【映画〝風〟】クレヨンしんちゃん 復活! 嵐を呼ぶシッコクのワルダン襲来   作:アサギリナオト

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「はあ……。やっと着いたわ……」

 

 

 しんのすけとピアは街中で色んな人に道をたずね、苦労の末にピアの家までたどり着いた。

 

 

「ここがピアのおうち?」

 

 

「そ。私はここの二階に住んでるの」

 

 

 ピアの家は二階建ての横っ広いマンションである。

 

 マンションと言っても、外観も内装も日本のそれとはまるで違う。

 

 建物の形はドーム型で、出入り口は正面と裏側に自動ドアが一つずつ。

 

 二人は正面の自動ドアから中に入り、左側にあるエスカレーター式の階段を使って二階まで上がった。

 

 二階の廊下は大型自動車が楽に通れるほど広く、ドーム型の外壁に沿ってまる~く一周している。

 

 ピアが右に向かって廊下を歩き、しんのすけもそのあとに続いた。

 

 いくつものドアを通り過ぎ、ピアが自分の家の前で足を止める。

 

 すると生体認証で玄関のドアのロックが解除され、それは自動的に開いた。

 

 

「……ただいま」

 

 

「ピア! こんな遅くまでどこ行ってたの――⁉」

 

 

 ピアの母親らしき人物が小走りで駆け寄ってきた。

 

 髪や肌の色など、ピアと酷似している部位が多い。

 

 

「ごめんなさい。お父さんにもらった端末を壊しちゃって道に迷ってたの」

 

 

 母親はピアの服が汚れていることに気付いて何かを察した。

 

 

「ああ、もう……。だからあれほど気を付けなさいと――!」

 

 

 子どもを心配する親の姿は、どこの世界でも同じだ。

 

 母親がピアの体をくまなく調べるが、シッコク星人の皮膚は地球人より少し丈夫に出来ているため、目立った傷は見られない。

 

 

「あまり心配させないでよ……。さっきお父さんにも連絡して一緒に探しに行くところだったんだから……」

 

 

「そういえば、お父さんは? まだ帰ってきてないの?」

 

 

「今日は仕事で遅くなる予定だったんだけど、あなたが心配で早めに切り上げるって言ってたわ。――――あとでお父さんにちゃんと謝りなさいよ」

 

 

「うん。わかった」

 

 

 ピアが素直に首をたてに振ると、母親がピアの頭をなでなでした。

 

 その様子をしんのすけがじっと見ている。

 

 

「ちょっと、なに見てるのよ?」

 

 

 ピアはしんのすけがいたことをハッと思い出し、頬を赤く染めながらそう言った。

 

 

「ピア。その子たちは?」

 

 

「さっき街の中で知り合ったの。名前はしんのすけとひまわり。お父さんとお母さんが悪い連中に捕まっちゃって、無理やりこの船に連れて来られたんだって」

 

 

「悪い連中……? この街に悪い人なんていないわよ?」

 

 

「ウソじゃないゾ! 悪い大人がい~っぱいいて、オラたちがジャマだって言ってたんだゾ!」

 

 

「たーっ、たーっ!」

 

 

 しんのすけとひまわりが一緒になって訴える。

 

 しんのすけが嘘を言っているとも思えず、母親は困った表情を浮かべた。

 

 ――――と、そのときである。

 

 入り口のドアから電子音が鳴り響き、それは自動的に開いた。

 

 

「母さん! ピアは――⁉」

 

 

 家の中にピアの父親が駆け込んでくる。

 

 よほど慌てていたのか、服装がかなり乱れていた。

 

 

「あ、お父さん」

 

 

「ピア……? 無事だったのか――⁉」

 

 

 父親がしゃがみ込んでピアの両肩を持つ。

 

 

「大丈夫かっ⁉ どこかにケガは――⁉」

 

 

 母親と同じく、ピアの全身をくまなく調べ始めた。

 

 

「ごめんなさい、お父さん……。お父さんにもらった端末を壊しちゃって……」

 

 

 ピアが服のポケットから壊れた端末を取り出す。

 

 

「それで帰り方がわからなくて迷子になってたみたいよ」

 

 

 そう言って母親が説明を付け加えた。

 

 

「そうか……。それで連絡も通じなかったのか……」

 

 

 事情がハッキリして父親はホッとする。

 

 すると――――

 

 

「ねー、ねー」

 

 

 しんのすけがピアの父親に声をかけた。

 

 父親がしんのすけの方に振り返り、父親は両目を見開いた。

 

 

「ぼ、ボーズ――⁉ お前、何でこんなところに……」

 

 

 なんという偶然だろう。

 

 ピアの父親は、司令部の通路でしんのすけに優しく接してくれた――――あの警備兵だったのだ。

 

 

「さっきピアとお友だちになったんだゾ」

 

 

 父親が驚いた表情を浮かべたまま、しんのすけとピアを交互に見る。

 

 

「もしかして、ボーズがピアのことを助けてくれたのか……?」

 

 

 しんのすけが何かを言う前にピアが先に口を開いた。

 

 

「お父さん。しんのすけと知り合いなの?」

 

 

「(ギクッ……!)」

 

 

 父親は愛娘(ピア)から答えづらい質問をされて、かなり動揺している。

 

 するとしんのすけがバカ正直にその質問に答えようとした。

 

 

「さっき悪いおじさんたちと――――」

 

 

「だああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっ――――‼」

 

 

 父親は大慌てでしんのすけをひまわりごと担ぎ上げ、部屋から飛び出していった。

 

 

「「……?」」

 

 

 ピアと母親が互いの顔を見ながら同時に首を傾げる。

 

 

「ぜぇ、ぜぇ……」

 

 

 父親は、しんのすけたちを一階のフロアまで連れていき、しんのすけに頼み込んだ。

 

 

「なあ、ボーズ……。おじさんの仕事のことはピアたちには黙っててくれないか……?」

 

 

「なんで?」

 

 

「だって、ほら……。おじさんたち、お仕事中は敵同士だろ? ピアの友だちと仲が悪いなんて家族に思われたくないんだ……」

 

 

「ふ~ん……」

 

 

 しんのすけとひまわりが父親に向かって、じ~っと目を細める。

 

 父親はバツが悪そうに額から汗を流し始めた。

 

 

「とーちゃんとかーちゃんのことは?」

 

 

「それも頼むっ! こんなことがピアたちに知れたら、おじさん大変なことに――!」

 

 

 父親がしんのすけに向かって両手を合わせる。

 

 しんのすけは目を細めたまま頭の後ろで手を組み、違う方を向きながらつま先でトントンと地面を鳴らし始めた。

 

 

「さ~って、どうしよっかな~……」

 

 

「そんなこと言わずにさあ……」

 

 

 主導権は完全にしんのすけが握っていた。

 

 大の大人が5才児に弱みを握られ、情けない姿を晒している。

 

 これがひろし相手ならチョコビ1年分を要求しているところだ。

 

 するととんでもないことが起きてしまった。

 

 

「お父さん、どういうこと……?」

 

 

「っ――⁉」

 

 

 父親がエスカレーター式の階段の方に振り返ると、そこにはピアと母親の姿があった。

 

 

「しんのすけが言ってた悪い人たちって、お父さんのことだったの……?」

 

 

 ピアはものすごいショックを受けた様子で父親を見ている。

 

 

「ち、違うんだ、ピア……。これには色々と事情が……」

 

 

 父親は必死に言い訳を考えながら、あたふたとしていた。

 

 するとピアは、すごい剣幕で父親に壊れた端末を投げつけた。

 

 

「信じらんないっ‼ お父さんなんて、もう知らないっ――‼」

 

 

 ピアは目に涙を浮かべ、エスカレーター式の階段を駆け上がっていった。

 

 父親は、その場で呆然と立ち尽くしている。

 

 ピアのことが心配になったしんのすけは、急いでピアのあとを追いかけた。

 

 ピアは生体認証で自動ドアのロックを解除し、自宅の中に入っていった。

 

 しんのすけはドアが閉まるギリギリのところで室内に入り込む。

 

 しんのすけはリビングの奥まで行き、壁際でひざを抱えているピアを発見した。

 

 

「最悪よ……。同じ日に泣いてるところを二回も見られるなんて……」

 

 

 今のピアは端末を壊して泣いていたときよりもずっと辛そうだ。

 

 空気の読めない機械たちは、こんなときでもピアの泣き顔を明るく照らしている。

 

 

「私、お父さんのお仕事は街の平和と安全を守る立派な役目だって聞いてたの……。なのに、お父さんが本当は悪い人だったなんて……」

 

 

 ピアは膝に顔をうずめ、自分の殻の中に閉じこもる。 

 

 しんのすけは、そんなピアを見て自分が思ったことを口にした。

 

 

「ピアのとーちゃんは悪い人じゃないゾ」

 

 

「……え?」

 

 

 ピアがゆっくりと顔を上げ、しんのすけの方を見る。

 

 

「オラたちが悪い人に捕まったとき、ピアのとーちゃんだけはオラに優しかったんだゾ」

 

 

「偽善よ、そんなの……」

 

 

 ピアは、しんのすけの言葉を素直に受け止められず、そっぽを向いた。

 

 

「それにオラのとーちゃんとも似てた」

 

 

「しんのすけの……、お父さん?」

 

 

 ピアが再び、しんのすけの方を見る。

 

 

「ピアのとーちゃんが悪い人なら、オラのとーちゃんも悪い人になっちゃうゾ」

 

 

 ピアの父親は、しんのすけの中に存在する父親像と近しいものがあった。

 

 ゆえにしんのすけもピアの父親と安心して接することが出来たのだ。

 

 

「……しんのすけは怒ってないの?」

 

 

「お?」

 

 

「しんのすけのお父さんとお母さん……。私のお父さんのせいで捕まっちゃたんでしょ……?」

 

 

 そうとも言えるが、正しくはそうではない。

 

 

「ピアのとーちゃんは悪い大人たちと一緒にいただけだゾ」

 

 

「え?」

 

 

「本当に悪いヤツは、もっと怖い顔でエラそうにしてたんだゾ」

 

 

 しんのすけは嘘を言っていない。

 

 5才児の視点からは本当にそう見えていたのだ。

 

 するとピアの表情が一気に青ざめていった。

 

 

「どうしよう……。私、お父さんにヒドいことしちゃった……」

 

 

「大丈夫だゾ。泣いている女の子には優しくしなさいって、とーちゃんが言ってた」

 

 

 しんのすけとの会話がズレてしまうのは、しんのすけがいつも先の答えを言っているからだとピアは気付いた。

 

 

「しんのすけは大人だね……」

 

 

「よく言われるゾ。――――えっへん!」

 

 

 そう言ってしんのすけは自慢げに胸を張り上げた。

 

 

「ははっ。ウソばっか……」

 

 

 

 しんのすけのおかげで、ピアはようやく笑顔を取り戻した。

 

 

 ――――と、そのときである。

 

 

「ピア……」

 

 

 ピアの両親がリビングにやってきた。

 

 父親はピアに投げつけれらた言葉のショックから完全には立ち直れていない様子だ。

 

 

「ピア……。父さんは――――」

 

 

 するとピアは父親の顔を見るなり、その胸に飛び込んでいった。

 

 

「お父さん、ごめんなさいっ――!」

 

 

 父親がピアの体をしっかりと受け止める。

 

 父親はずいぶんと驚いた様子で先ほどと同じくピアとしんのすけの顔を交互に見た。

 

 

「ピア……。父さんを許してくれるのか……?」

 

 

「ううん、違うの! 本当に悪い人は他にいて、お父さんは何も悪いことしてないって、しんのすけが言ってた――!」

 

 

 ピアの両親は互いに顔を見合わせ、同時にしんのすけの方を見た。

 

 

「そうか……。ボーズにはまた借りが出来ちまったな……」

 

 

「いや~、それほどでも~」

 

 

「きゃ~い♪」

 

 

 しんのすけとひまわりが、おなじみの照れのポーズを取る。

 

 父親は苦笑いを浮かべた(のち)、ピアの両肩にポンと手を置いた。

 

 

「ピア。これでも父さんは正義の味方のつもりだ。そのうえでピアは父さんに何か言いたいことがあるんじゃないか?」

 

 

 するとピアは顔を上げて自身の願いを真剣に訴えた。

 

 

「お願い、お父さん! しんのすけのお父さんとお母さんを助けてあげて――!」

 

 

 ピアの願いを聞いた父親はニッコリと笑顔を浮かべ、ひざを曲げてピアの目線と合わせた。

 

 

「わかった。それが父さんへの頼みなんだな?」

 

 

「うん!」

 

 

 ピアは力強く首を縦に振った。

 

 すると父親は再び立ち上がり、今度は母親の方に顔を向けた。

 

 

「母さん。この先なにがあろうとオレに付いてきてくれるか?」

 

 

「ここで引き下がるような男を伴侶に選んだ覚えはありません。――――ですが、必ず戻ってきてください」

 

 

 母親の言葉に父親はしっかりと頷いた。

 

 

「ボーズ。おじさんは今からボーズのお父さんとお母さんを助けに行ってくる。――――ボーズも一緒に行くか?」

 

 

「おおっ! ――――とーちゃんとかーちゃんはオラが助け出すゾ!」

 

 

「う~っ♪」

 

 

 しんのすけとひまわりは気合い十分といった様子だ。

 

 しんのすけはリングとの約束のことなどすっかり忘れてしまっていた。

 

 

「あなた……」

 

 

「大丈夫だ。この子たちを危険に巻き込むつもりはない。この子の両親を逃がすだけなら、オレ一人で十分だ」

 

 

 父親は司令部の内部情報を知り尽くしている。

 

 監視の目をうまくかいくぐれば、争いは起きない。

 

 

「それじゃあ行くか、ボーズ!」

 

 

「ブッ、ラジャー!」

 

 

「たーっ♪」

 

 

 しんのすけたちはマンションの玄関まで移動し、父親がハンドルを握るバイク型の浮遊自動車の後部座席にしんのすけは乗り込んだ。

 

 

「しっかり捕まってろよ、ボーズ!」

 

 

「おおっ!」

 

 

 父親が右手のハンドルを内側にひねり、浮遊自動車は音も立てずに水平移動を始めた。

 

 父親が運転する浮遊自動車はピアたちからあっという間に見えなくなってしまい、ピアと母親は両手を合わせてしんのすけたちの無事を祈り始めた。

 

 

「(お願い、お父さん……。しんのすけたちをお願い……)」

 

 

 

 

 

 ――――――――――――

 

 

 

 

 

〈ダメです、どこを探しても見つかりません!〉

 

 

「やはり、そうですか……」

 

 

 司令部に戻ったクロトは現場の部隊と連絡を取っていた。

 

 クロトは司令部に戻る前、部下たちにタイムパトロールの遺体を回収しろと命じた。

 

 しかし、いくら探してもリングの亡骸は見つからなかったのだ。

 

 

「間違いない。彼女はまだ生きている」

 

 

〈しかし、あの高さからどうやって……?〉

 

 

「緊急用の装備をあらかじめ用意していたのでしょう。――――まったく、してやられました」

 

 

〈子どもたちの姿も未だ発見できておりません。――――いかがなさいますか?〉

 

 

「ここは我々の領域内(テリトリー)。決して逃げられはしません。子どもの方は放っておいて構わないでしょう。それよりも今はタイムパトロールです。命が助かったとはいえ、緊急用の装備を使った彼女は丸腰も同然。外部の仲間がここを突き止める前に身柄を押さえなさい」

 

 

 現場の部隊とクロトとの通信が切られた。

 

 クロトの周囲では、なぜか警備兵たちが目まぐるしく動いている。

 

 クロトは司令部の通路を移動し、警備室の中に入っていた。

 

 

「一体なんの騒ぎだ?」

 

 

「クロト様! 例の夫婦が牢獄から逃げました!」

 

 

「なに? それで状況は――?」

 

 

「夫婦は警備兵から装備を奪い、現在も抵抗を続けています! 現場の警備隊が牢獄エリア付近で夫婦を押しとどめているところです!」

 

 

「次から次へと……。――――お前たちは持ち場を離れるな! 私が現場で指揮を執る!」

 

 

「「「はっ!」」」

 

 

 警備室のシッコク星人たちが一斉に返事をする。

 

 クロトは警備室から出ていき、急いで牢獄エリアへと向かった。

 

 

 

 

 

 ――――――――――――

 

 

 

 

 

「ちっきしょう! アイツらどんどん数が増えてやがる!」

 

 

 ひろしとみさえは司令部の中をひたすら逃げ回っていた。

 

 二人は指で手のひらに文字を描くという古典的な手段で意思の疎通を行い、警備兵を出し抜いて牢獄からの脱出に成功した。

 

 そこまでは良かったのだが、司令部にはあちこちに監視カメラが設置されているため、二人は警備兵に先回りされては逃げ延びるを繰り返すばかりで未だに司令部から逃げ出せずにいた。

 

 

「ねえ! このままじゃすぐに捕まっちゃうわよ!」

 

 

 警備兵から奪ったせっかくの武器も、ほとんど役に立っていない。

 

 司令部の通路は複雑な作りになっているため、今はどうにか逃げ延びている。

 

 しかし、二人が捕まるのも時間の問題だった。

 

 

「……こっちだ!」

 

 

 二人は角を曲がって通路の隅に置いてあった搬入物資の陰に身を隠した。

 

 追跡してきた警備兵たちをどうにかやり過ごそうとするが―――― 

 

 

「待てっ――!」

 

 

 警備兵の一人が仲間の警備兵たちを引きとめた。

 

 搬入物資の陰に誰か隠れていないか……。

 

 それを確かめるために近づいてきた。

 

 

「ちくしょう……。もうダメだ……」

 

 

 警備兵が光線銃を構えながら、搬入物資の陰をのぞき込もうとする。

 

 二人が(なか)ば諦めかけた、そのとき――――

 

 

「「「うああああああああああああぁぁぁぁぁっっ――――‼」」」

 

 

 援護のために後方に控えていた警備兵たちが謎の爆発に吹き飛ばされた。

 

 搬入物資の側にいた警備兵が反射的に振り返る。

 

 すると爆煙の中から生身の女性が飛び出してきた。

 

 

「っ――⁉」

 

 

 警備兵は咄嗟に光線銃を向けるが、女性が投げつけた小型の閃光弾が空中で破裂した。

 

 

「うあぁぁっ――‼」

 

 

 鋭くまぶしい光が周囲に広がり、警備兵は視界を奪われてしまう。

 

 女性は警備兵が怯んだ隙に合気道のような技で警備兵を床に組み伏せた。

 

 そして両手にはめていた捕縛用の『スタン・グローブ』から電流を流し、警備兵の気絶させる。

 

 それは、あっという間の出来事だった。

 

 

「お久しぶりです。ひろしさん。みさえさん」

 

 

 女性がひろしたちの方に振り返り、ひろしとみさえは両目を見開いた。

 

 

「やっぱり、あなただったんですね……」

 

 

「確か、お名前は……」

 

 

「リング・スノーストーム。30世紀のタイムパトロール隊員です。今回も時間犯罪を食い止めるために未来からやってきました」

 

 

 そう言ってリングがニッコリと笑顔を浮かべた。

 

 小型飛行船が撃墜された際に緊急用の脱出装置を使ってしまったため、今はスーツ姿ではなく生身の状態だ。

 

 

「しかし、どうして奴らはオレたちとあなたとの関係に気付かなかったんだ?」

 

 

「そういえばそうね……」

 

 

 クロトは野原一家と縁のあるヒーローや協力者たちの存在を排除したと言っていた。

 

 しかし、リングは今もこうして存在している。

 

 

「気付けるわけありませんよ。私たちが一緒にいたほとんどの時間は、ヒエール・ジョコマンによって歪められた本来の時間軸には存在しない歴史世界の中で過ごしていましたから……」

 

 

 現実世界で野原一家とリングが接触した時間は、たった三十分程度である。

 

 事件も何も起きていない日常生活の中から、その三十分を見つけ出すのは不可能に等しい。

 

 するとひろしが何かに気付いた様子でハッとした表情を浮かべた。

 

 

「そうか……。そういうことだったんだ……」

 

 

「なにが……?」

 

 

 みさえがひろしに説明を求める。

 

 

「オレたちは前に戦国時代にタイムスリップしてるから、そこで過ごした時間の分だけ歴史改変の波が襲ってくるのにズレがあるんだ」

 

 

「んん……?」

 

 

 みさえは、ひろしの話に全然ついていけていない。

 

 

「奴らに改変されたこの世界で、オレたちが今も存在してるってことは――――そういうことなんですね?」

 

 

 ひろしがリングにそうたずねた。

 

 

「お見事です、ひろしさん。さすがは〝SF初段〟!」

 

 

「いや~、あっはっはっはっはっ……」

 

 

 美人に褒められたひろしが鼻の下を伸ばし、みさえの目つきがキッと鋭くなる。

 

 やがて通路の曲がり角の先から警備隊の足音が聞こえてきた。

 

 

「ここに長居しては危険です。ひとまず、この場を離れましょう」

 

 

 リングの言葉に、ひろしとみさえが頷いた。

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