【映画〝風〟】クレヨンしんちゃん 復活! 嵐を呼ぶシッコクのワルダン襲来   作:アサギリナオト

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 しんのすけとピアの父親は司令部の近くで浮遊自動車から降車し、建物の陰から司令部の方をのぞき込んだ。

 

 司令部の入り口は目と鼻の先だが、その付近には大勢の警備兵がいる。

 

 

「どうやって入るの?」

 

 

 しんのすけがピアの父親にそうたずねた。

 

 

「いや、誰にも見つからずにあそこを通るのは不可能だ。今は見張りの誰かがこっちに来ないか見ているだけだよ」

 

 

 ピアの父親の返答に、しんのすけが「ほー……」とつぶやいた。

 

 

「なあ、ボーズ。ここが戦艦の上に作られた街だってことを覚えてるか? オレたちが立っているのは地面のように見せかけたとても大きな甲板だ。そして、お父さんたちが閉じ込められている牢獄エリアは――――この〝下〟だ」

 

 

 しんのすけとピアの父親が一緒に真下を向いた。

 

 

「実を言うと、牢獄エリアに入り込むのはそう難しくないんだ。司令部の外から戦艦の内側を通っていけば、誰にも見つからずに牢獄エリアまでたどり着ける」

 

 

 リングが警備兵に気付かれずにひろしたちと合流できたのも、それが理由である。

 

 しかし、戦艦の内側は迷路のような複雑な道が続いているため、コンピューターのサポートがなければ通り抜けることはシッコク星人でも難しい。

 

 リングはスーツとは別に腕時計型のサポートシステムを持っていたため、牢獄エリアにたどり着くことが出来たのだ。

 

 

「――けど問題はその先だ。牢獄エリアは常に監視カメラで見張られている。牢獄自体も強力なバリアシールドで守られているから、例え侵入できたしても囚人を逃がすのは絶対に不可能なんだ」

 

 

 そういう意味では、結果的にひろしとみさえの無謀とも思える脱獄計画は大正解だったと言えよう。

 

 ひろしたちが自力で脱獄したおかげでリングは警備室に向かう必要がなくなり、短時間でひろしたちと合流することが出来たのだ。

 

 しかし、しんのすけとピアの父親は、ひろしたちが牢獄から脱出したことをまだ知らない。

 

 

「じゃあ、どうするの?」

 

 

「オレたちが司令部に入り込むには〝あそこ〟を通るしかない。ボーズたちが司令部に移送されてきたときの道だ」

 

 

 ピアの父親は司令部の二階に見える収容口を()しながら、そう説明した。

 

 

「あそこには物資を搬入するときに使われているコンテナがたくさんあるんだ。それを使えば、牢獄エリアまでボーズたちを楽に運べる。一階の警備とボーズたちの捜索に人員が割かれている今がチャンスだ」

 

 

「おおっ! このチャンスを逃す手はないゾ!」

 

 

 しんのすけがどこまで理解しているかは不明だが、ピアの父親の作戦に臆していないことは確かだ。

 

 しんのすけたちはピアの父親が運転する浮遊自動車に再度乗り込み、二階の収容口へと向かっていった。

 

 

「……」

 

 

 ピアの父親は見張りの数が少ないことを確認し、収容口の中に入っていった。

 

 ピアの父親が浮遊自動車を隅っこに停車させると同時に、しんのすけは浮遊自動車から降りてその陰に身を隠した。

 

 

「オレが警備兵の目を引きつけてる間に〝その中〟に隠れるんだ」

 

 

 そう言ってピアの父親は堂々と警備兵たちの方に向かっていった。

 

 しんのすけが素早くコンテナの陰に移動する。

 

 やがて警備兵たちがピアの父親の存在に気づき、ピアの父親が右手を上げて軽くあいさつした。

 

 

「あれ? お前、娘がいなくなったとかで先に帰ったんじゃなかったか?」

 

 

「それが家に着いたら娘は無事に帰ってたよ」

 

 

 しんのすけは警備兵たちがピアの父親に気を取られている隙にコンテナの中に潜り込み、ふたを閉じた。

 

 当然コンテナの中は真っ暗であり、しんのすけはひまわりがぐずり出す前に小声であやし始めた。

 

 

「もうすぐとうちゃんたちに会えるゾ。だからそれまで〝し~〟だゾ」

 

 

「し~♪」

 

 

 この様子だと、ひとまず大丈夫そうだ。

 

 しんのすけはピアの父親が戻ってくるまで、じっと息をひそめた。

 

 

「そうか。娘が無事でよかったな」

 

 

 警備兵たちがピアの父親を疑っている様子はない。

 

 ピアの父親は、あいさつついでに警備兵たちから情報を聞き出した。

 

 

「それで今の状況は?」

 

 

「最悪だよ。例の夫婦が牢獄から逃げ出したらしい」

 

 

「っ――⁉」

 

 

 その話を聞いたピアの父親は素で驚いてしまう。

 

 

「今は現場の部隊が追跡中だそうだ」

 

 

 うまく合流できれば野原一家をこの船から逃がせるかもしれない。

 

 しかし、警備は一段と厳しくなっているはずだ。

 

 どう転ぶかはピアの父親にもわからない。

 

 

「そうか。戻ってきて正解だったみたいだな」

 

 

 ピアの父親はしばらく警備兵たちと話したあと、うまい具合に話を切り上げ、警備兵たちから離れてコンテナを運ぶための台車を取りにいった。

 

 

「待たせたな、ボーズ」

 

 

 ピアの父親は浮遊型の台車の上にコンテナを移動させ、しんのすけたちを運び始めた。

 

 この台車を使えば、大人を何人乗せようが楽に移動できる。

 

 

「いいか? お父さんたちと合流するまで絶対に声を出すなよ」

 

 

 ピアの父親はコンテナを乗せた台車を押しながら通路を進んだ。

 

 野原夫婦を探している警備兵の数が尋常ではない。

 

 ピアの父親はフロアを移動するエレベーター式の機械を使って地下の牢獄エリアに降りていった。

 

 ここからどうなるかは運しだいだ。

 

 

「あれ? お前、戻ってきたてたのか?」

 

 

 ピアの父親は移動中に通路の真ん中で立ち止まっている警備兵たちに話しかけられた。

 

 

「ああ。幸い、娘はすぐに見つかった。仕事をみんなに押しつけて出ていっちまったから、こうして戻ってきたんだ」

 

 

「相変わらず真面目だなあ……」

 

 

 父親は仲間の警備兵たちから誉め言葉をいただく。

 

 

「悪い、先を急いでんだ。早くこれを運ばなきゃ、クロト様に叱られちまう」

 

 

「そうか。なら急いだ方がいい」

 

 

 警備兵たちが道を開け、ピアの父親はその間を通っていった。

 

 歩きから小走りに切り替え、急いでいる様子を見せる。

 

 すると進行方向からクロトが現れ、ピアの父親は大いに焦った。

 

 すれ違いざまに頭を下げ、急いでその場を離れる。

 

 

「あの物資は一体なんですか?」

 

 

 不審に思ったクロトが先ほどの警備兵たちにたずねた。

 

 

「あれ? クロト様のご指示で運んでいると、我々はそう聞かされましたが……」

 

 

 それを聞いた瞬間、クロトはピアの父親の方に振り返った。

 

 

「そこの警備兵! 止まりなさいっ――!」

 

 

 ピアの父親の体がビクッと跳ね上がり、彼はおそるおそる足を止めた。

 

 

「その中身は一体なんです? 私はそのような物を運べと指示を出した覚えはありませんが?」

 

 

 クロトが父親に向かって歩き出し、ピアの父親の全身から冷や汗が噴き出した。

 

 すると次の瞬間――――

 

 

「うえええええええええぇぇぇぇぇぇぇん――――‼」

 

 

「「「っ――⁉」」」

 

 

 ひまわりが突然コンテナの中で泣き出してしまったのだ。

 

 ピアの父親は猛ダッシュでその場から逃げ出した。

 

 

「警備兵! 子どもたちは〝あの中〟です! 急いで彼を捕らえなさい!」

 

 

「「「はっ――!」」」

 

 

 警備兵たちがクロトの指示で父親たちを追いかけ始めた。

 

 ピアの父親が通路を曲がる際にコンテナが壁にぶつかり、ふたのロックが解除された。

 

 しんのすけがコンテナのふたの隙間から顔を出し、ピアの父親の後ろの方を見た。

 

 

「うおおっ、いっぱいきたぞーっ!」

 

 

「バカッ! 顔を出すなっ――!」

 

 

 すると警備兵たちが、しんのすけたちの存在に気付いた。

 

 

「いたぞ! 子どもたちだ!」

 

 

「止まれ! さもないと発砲するっ――!」

 

 

 警備兵たちが走りながら光線銃を向けてくる。

 

 

「お?」

 

 

 するとしんのすけが何かの存在に気付き、ピアの父親の体をイモムシのように這い回った。

 

 

「ボーズ! 何やってんだっ――⁉」

 

 

 しんのすけは父親の腰のホルダーから光線銃を引き抜き、それを警備兵たちに向けた。

 

 

「バカッ、よせっ――!」

 

 

 すると再び曲がり角に差しかかり、遠心力で光線銃の狙いが大きく逸れた。

 

 その瞬間、しんのすけが持つ光線銃からビームが発射される。

 

 司令部の壁や天井は光線銃では破壊できない作りとなっているため、放たれたビームはあちこちを跳ね回り、跳弾となって警備兵たちに襲いかかった。

 

 

「「「うわぁぁっ――⁉」」」

 

 

 警備兵たちは慌てて地面に伏せる。

 

 跳弾は警備兵たちには当たらず、バウンドを繰り返して通路の隅に置いてあった搬入物資のコンテナに命中し、大きな爆発を起こした。

 

 

 

 

 

 ――――――――――――

 

 

 

 

 

「何だ、今の爆発は――⁉」

 

 

 ひろしたち三人は天井裏にある細長い通路に身を隠し、ほふく前進で出口を目指していた。

 

 リングが顔の真下にあった扉を開けて天井裏から顔を出す。

 

 するとリングの視線の先からピアの父親が走ってきた。

 

 台車の上に乗せられたコンテナから顔を出すしんのすけたちの姿も発見する。

 

 

「しんちゃんとひまわりちゃん⁉ どうしてここに――⁉」

 

 

「しんのすけたちがいるのかっ――⁉」

 

 

 リングはひろしの質問に答えるより先に天井裏から素早く飛び降りた。

 

 

「止まりなさいっ! タイムパトロールよ――!」

 

 

 リングがどこからか取り出した小型の光線銃をピアの父親に向ける。

 

 

「そこをどいてくれ! オレはこの子たちの味方だ!」

 

 

 ピアの父親がスピードを緩め、ひろしとみさえも天井裏から降りてきた。

 

 

「おおっ! とーちゃん、かーちゃん!」

 

 

「「しんのすけっ! ひまわりっ――!」」

 

 

 ひろしがしんのすけを両手で持ち上げ、みさえが泣いているひまわりを抱き上げた。

 

 

「この子たちと両親をここから逃がす! アンタも手伝ってくれっ――!」

 

 

「……」

 

 

 リングは引き金を引くべきか否か――判断に迷っていた。

 

 するとしんのすけがリングに言った。

 

 

「リングお姉さん」

 

 

 しんのすけが今回の件でリングの素顔を見るのは初めてだが、驚いた様子はない。

 

 ひろしたちと同様、最初から女性隊員の正体に気付いていたのかもしれない。

 

 

「そのおじさんはオラたちの味方だゾ」

 

 

「……」

 

 

 リングはいったん光線銃を下ろし、ピアの父親にたずねた。

 

 

「あなたの目的は?」

 

 

「オレは、ただ子どもたちを助けたいだけだ。これでもオレは一児の父親だからな」

 

 

 子どもを慈しむ気持ちはシッコク星人も同じだ。

 

 ひろしとみさえは同じような理由で悪の組織から正義の味方に寝返った心優しき大男の存在を知っているため、彼の言葉が心にとても響いた。

 

 

「いたぞっ! こっちだっ――!」

 

 

 するとしんのすけたちが逃げてきた方向から警備兵たちが追いついてきた。

 

 警備兵たちが野原一家やリングたちに向かって光線銃を構える。

 

 

「みなさん、伏せて!」

 

 

 リングが警備兵たちに向かって小型の閃光弾を投げつけ、野原一家とピアの父親を地面に押し倒した。

 

 リングの頭上を警備兵が放ったビームが通過し、時間差で閃光弾が炸裂する。

 

 

「「「うああああああぁぁぁぁぁ――――⁉」」」 

 

 

 警備兵たちの悲鳴が聞こえた瞬間にリングは立ち上がった。

 

 

「さあ、今のうちに―――‼」

 

 

 ひろしとみさえは、しんのすけとひまわりを抱えた状態で前方に走り出した。

 

 リングはピアの父親も一緒に連れていく。

 

 

「あなたの考えを聞かせてくださいっ――!」

 

 

 リングは走りながらピアの父親にそうたずねた。

 

 

「おそらく出入り口は全て封鎖されている! なら上を目指すしかない! ――――次の角を左へ!」

 

 

 ひろしたちはピアの父親の指示に従い、左右の分かれ道を左に進んだ。

 

 

「右にある扉の中に入れ! 非常用階段だ!」

 

 

 リングが真っ先に扉の中に入って敵の姿を確認する。

 

 リングは階段を駆け上がり、ひろしたちに上がってくるよう合図を出した。

 

 

「オレがしんがりを務める! アンタたちは先に行けっ!」

 

 

 ひろしとみさえはピアの父親の気迫に圧されて階段をのぼっていった。

 

 リングが二階の非常用階段の出入り口から通路の様子を窺っている。

 

 

「急げっ! 監視カメラでオレたちの居場所はバレている! ここからは時間との勝負だ!」

 

 

 警備隊が集まってくる前にしんのすけたちは目的地に到着しなければならない。

 

 リングは覚悟を決めて通路に飛び出した。

 

 

「何者だっ――⁉」

 

 

 通路で遭遇した警備兵の数は二人。

 

 リングはスタングローブで素早く右側の警備兵を気絶させ、もう一人の警備兵に向かって気絶させた警備兵を投げつけた。

 

 

「ぬぉっ――⁉」

 

 

 もう一人の警備兵がよろめいた隙に、リングは水面蹴りで警備兵を転倒させ、スタングローブを胸元に押し当てた。

 

 

「があっ――‼」

 

 

 警備兵を片付けたリングが後方に合図を出し、ひろしたちも非常階段口から通路に出た。

 

 

「そのまま、まっすぐ進め! この先に小型戦闘機の格納庫がある! それを使えば司令部から脱出できるはずだ!」

 

 

 ピアの父親が最交尾を走りながら、そう説明した。

 

 やがて格納庫の大きな自動扉が見えてくる。

 

 全員が自動扉の前に到着し、ピアの父親が素早く扉の暗証番号を入力した。

 

 しかし、格納庫の扉は開かない。

 

 ピアの父親が再度入力するが、やはり結果は同じだった。

 

 

「ウソだろ……。扉の暗証番号が変更されてる……」

 

 

「「ええっ――⁉」」

 

 

 ひろしとみさえはピアの父親の言葉に大いに焦った。

 

 

「しまった……。罠だわっ!」

 

 

 リングが何かに気付いた様子で後ろに振り返った。

 

 しかし、時すでに遅し……。

 

 

「そこまでです」

 

 

 クロトが大勢の警備兵を率いてその場に現れた。

 

 格納庫までの通路は長い一本道が続いているため、この場所に追い込まれてしまっては逃げ場がない。

 

 ピアの父親の案内で最短ルートを進んできたつもりが、それらの動きは全てクロトの読まれていたのだ。

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