【映画〝風〟】クレヨンしんちゃん 復活! 嵐を呼ぶシッコクのワルダン襲来   作:アサギリナオト

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「急ぎましょう! 奴らが追ってきます!」

 

 

 リングが警備隊の足音に気付き、ピアの父親が生体認証で司令室の扉を開いた。

 

 吹雪丸が先陣を切って中に入り、しんのすけたちもすぐにそのあとに続いた。

 

 エンジともう一頭の馬が雪乃に引かれて動き出し、全員が部屋に入った瞬間にリングが自動ドアのシステムを破壊した。

 

 これでしばらく邪魔者は入らない。

 

 

「……誰もいませんね」

 

 

 ひろしが部屋全体を見回しながら独り言のようにつぶやいた。

 

 司令室に入ってすぐに戦いが始まるものだと思っていたが、マオの姿はどこにも見当たらず、司令室はもぬけの殻となっていた。

 

 リングが空けた穴は、ワルダンの科学技術により応急的な措置が施されている。

 

 つまり穴から外に逃げ出したわけではない。

 

 

「我々が到着する前に避難していたのでしょうか?」

 

 

「いや、マオ様はああ見えてかなり肝が据わっている。敵前逃亡などありえない」

 

 

 ピアの父親がリングにそう言った。

 

 ならばマオは一体どこに消えたのか……。

 

 

「雪乃」

 

 

 吹雪丸が雪乃に声をかけ、二手に分かれて部屋の中の捜索を開始した。

 

 二人に続いてリングとピアの父親も動き出す。

 

 

「ねえ、あなた……」

 

 

「ん?」

 

 

 みさえが周りに気付かれないようひろしにこっそりとたずねた。

 

 

「吹雪丸さんって確か――――」

 

 

 その瞬間、ひろしがみさえの口を左手で塞ぎながら右手で〝し~〟のポーズを取った。

 

 

「バカッ……。あの人たちの事情は、お前だって知ってるだろ……?」

 

 

 ひろしがめずらしく真剣な表情を浮かべていたため、みさえは少し驚いている。

 

 みさえがひろしにたずねようとしていた内容。

 

 それは――――なぜ雪乃は姉である吹雪丸のことを〝兄上〟と呼んだのか……。

 

 以前に会ったときは、雪乃は性別通りに吹雪丸のことを〝姉上〟と呼んでいた。

 

 ならば呼び方が変わった理由は一つ……。

 

 吹雪丸が春日家の当主として――――つまり男として生きる道を選んだからに他ならない。

 

 彼女たちが生きる世は戦国時代。

 

 女性の身分では大将は務まらない。

 

 雲国斎によって滅ぼされた春日家を復興させるには、女性として生きる選択肢を捨てざるを得なかったのだ。

 

 それは、どれほどの覚悟が必要だったことだろう。

 

 ゆえにひろしは軽々しくそのことを口にするなと、みさえに釘を刺したのだ。

 

 みさえは、ひろしが言わんとしていることをなんとなく理解した。

 

 二人の話を横から聞いていたしんのすけが呆然としている。

 

 幼いしんのすけには、まだ話の内容を理解することが出来なかった。

 

 

 

 

 

 ――――――――――――

 

 

 

 

 

「ダメです! 扉が開きません!」

 

 

「内部から自動システムを破壊された可能性があります!」

 

 

 司令部の前までやって来た警備隊がクロトにそう伝えた。

 

 

「司令室の扉は特別性です。我々が携帯する武器だけでは突破は不可能でしょう」

 

 

「どうします⁉ このままではマオ様の身が――‼」

 

 

「落ち着きなさい。私に考えがあります。みなさんは私に付いてきてください」

 

 

 そう言ってクロトは警備隊を連れてどこかに行ってしまった。

 

 

 

 

 

 ――――――――――――

 

 

 

 

 

 しんのすけたちが司令室に入ってしばらくたった頃。

 

 どこからかスピーカーを通したような機械的な音声が響いてきた。

 

 

〈ようこそ、諸君。私はマオ。君たちの活躍はモニター越しに見させてもらった〉

 

 

 吹雪丸たちはあちこちを見回し、声の主であるマオの姿を探し始めた。

 

 

〈まったく大したものだ。まさか歴史改変が行われた別世界から協力者を引っ張り出すとは思わなかったよ〉

 

 

 マオは野原一家やその協力者たちが生存していたカラクリに気付いていた。

 

 おそらくタイムパトロールと面識があった点から、その謎を推理したのだろう。

 

 

〈君たちは紛れもない英雄だ。そんな君たちに敬意を表し、最後は私自ら相手をする。――――さあ、共にフィナーレの舞台を盛り上げようではないか〉

 

 

 その言葉を最後に部屋中に響いていたマオの声が途絶えた。

 

 そして次の瞬間――――――――

 

 

「全員、伏せろーっ――‼」

 

 

「「「っ――⁉」」」

 

 

 吹雪丸が突然叫び声を上げ、それと同時に司令室の隠し部屋から何かが飛び出してきた。

 

 隠し部屋の扉や周囲の壁が粉々に砕け散り、砕けた無数の破片がしんのすけたちに襲いかかった。

 

 野原一家は吹雪丸に押し倒され、どうにか難を逃れる。

 

 その場にいる全員〝命に別状は〟なかった。

 

 それぞれがゆっくりと体を起こし、マオの方を見る。

 

 すると、そこには大型犬の着ぐるみのようなスーツをまとったマオの姿があった。

 

 

「〝ワオンスーツ〟――⁉」

 

 

 リングはマオの秘密兵器であるそのスーツについて詳しく知っているようだが、そのスーツに見覚えがあったのはリングだけではなかった。

 

 

「え……。あれって……」

 

 

 ひろしが静かにそうつぶやいた。

 

 

「私が以前に使用していた〝ニャオンスーツ〟の型式違いです! スピードは通常の10倍程度に抑えられていますが、汎用性が非常に高く、誰でも超人に早変わりすることが出来ます!」

 

 

 リングがその場にいる全員に説明した。

 

 

〈くっくっくっ……。それだけではない。このスーツには私独自の様々な改良が加えてある。君たちタイムパトロールの制圧用とはワケが違うぞ〉

 

 

 タイムパトロールの任務は時間犯罪を阻止し、その黒幕を逮捕することである。

 

 つまりリングが使用していたニャオンスーツは犯人を殺傷するためのものではない。

 

 しかし、マオのワオンスーツには文字通りの人殺しの武器が積んである。

 

 通常の10倍のスピードで、そのようなものを振り回されてはたまったものではない。

 

 

〈――――さあ、誰が相手だ?〉

 

 

 まともに戦える者は最初から限られている。

 

 最悪なことに、雪乃とその愛馬は破片が飛び散った際に負傷していた。

 

 雪乃は足に傷を負った程度だが、馬の方はしばらく動けない。

 

 マオと戦えるのは吹雪丸とリング――――そしてピアの父親だけである。

 

 

〈来ないなら私の方から行くとしよう。――――まずは裏切り者の始末からだ〉

 

 

 その瞬間、マオの姿がその場から消えた。

 

 いくらスピードが抑えられているとはいえ、人間の10倍のスピードについていける者などこの世に存在しない。

 

 

「っ――」

 

 

 ――――と思いきや、吹雪丸がピアの父親に向けて放たれたマオのパンチをかろうじて防いだ。

 

 吹雪丸は背後から放たれた遠矢の音に反応できるほどの超人的な身体能力を持っている。

 

 吹雪丸はどうにかピアの父親を守りきるが、攻撃そのものを受けきることは出来ず、ピアの父親と一緒に後ろの壁まで吹っ飛ばされていった。

 

 

「「ぐぁぁっ――‼」」

 

 

 二人は壁に叩き付けられて地面に崩れ落ちる。

 

 

「吹雪丸さん――⁉」

 

 

「吹雪丸~~っ‼」

 

 

 リングとしんのすけが彼女の名を叫んだ。

 

 

〈ほう。よく反応したな……。だが、それもいつまで続くか……〉

 

 

「くっ……」

 

 

 吹雪丸は刀を杖代わりにして立ち上がり、ピアの父親もどうにか自力で立ち上がった。

 

 

〈フン……。これならどうする?〉

 

 

 ワオンスーツの右手の部分がガトリング式の銃口に変形し、マオはそれを吹雪丸たちに向けた。

 

 バーク・コーポレーション製、高エネルギー弾〝GTX〟である。

 

 

「「っ――⁉」」

 

 

 ワオンスーツの銃口から高エネルギー弾が連続で発射され、吹雪丸とピアの父親はそれぞれ逆方向に逃げた。

 

 マオは吹雪丸に標的を絞り込み、彼女に向かってビームを撃ち続けた。

 

 逆方向からピアの父親が光線銃を放つが、ワオンスーツに備え付けられたバリアシールドに阻まれてしまう。

 

 

「くそっ――!」

 

 

〈小癪なマネを……〉

 

 

 マオの標的が再びピアの父親に変更され、今度はピアの父親に向かって銃口が向けられた。

 

 するとここでリングが動き出し、吹雪丸とアイコンタクトを交わしてマオに同時攻撃を仕掛けた。

 

 しかし、攻撃の直前でマオに気付かれてしまい、二人の目の前からマオの姿が消えた。

 

 二人がマオの姿を見失った瞬間、二人はものすごい力で背後から殴り飛ばされた。

 

 

「「うぁぁっ――‼」」

 

 

 吹雪丸とリングは、それぞれ別方向に飛ばされて床を激しく転がった。

 

 

「うおおっ! このままじゃやられちゃうゾ――!」

 

 

 そう言ってしんのすけが、いきなりその場から走り出した。

 

 

「おい、どこに行くんだ――⁉」

 

 

「ダメよ、しんのすけっ――!」

 

 

 しんのすけはひろしたちの制止の声も聞かず、エンジの方へと走っていった。

 

 吹雪丸が再度立ち上がり、リングとピアの父親を合わせた三人の時間差攻撃でマオを攻め続けた。

 

 しかし、隙間なく攻めてもワオンスーツの超スピードで簡単にかわされてしまう。

 

 攻撃の(たび)に反撃を食らってを繰り返すばかりだ。

 

 

「いくゾ、エンジ」

 

 

 しんのすけがエンジの背中に跨り、エンジが「ヒヒンッ」と鳴き声を上げた。

 

 そして、あるタイミングでエンジが全力で走り出す。

 

 

〈なにっ――⁉〉

 

 

 吹雪丸たちの攻撃に意識を割いていたマオは、エンジの体当たりという不意打ちをモロに食らってしまった。

 

 

〈ぬおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ――――‼〉

 

 

 マオはエンジの体当たりを押し返そうとするが、そのまま壁際まで追いやられる。

 

 マオの背中が後ろの壁に「ドンッ!」とぶつかった瞬間、背中側の壁は簡単に砕け散ってしまった。

 

 そこはリングが侵入した際に破壊された壁の修復箇所であり、通常時より耐久性が下がっていたのだ。

 

 

「ぬあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――‼‼」

 

 

 マオは二階の部屋から外に放り出され、そのまま地面に激しく叩きつけられた。

 

 ワオンスーツのおかげで致命傷は免れたようだが、スーツの最大の武器である加速機能に不具合が生じてしまう。

 

 

「お~~~~~~~~~~~~~~~~っっ――――‼」

 

 

 しんのすけを乗せたエンジも勢い余って外に飛び出してしまうが、エンジは二階の高さからでも難なく着地した。

 

 すると司令部の出入り口や付近を見張っていた警備兵たちが、騒ぎを聞きつけて集まってきた。

 

 しかし、状況がわからないために彼らは何も出来ない。

 

 

「マオ様っ――!」

 

 

 そして上空からもクロト率いる精鋭部隊が小型戦闘機に乗って現れた。

 

 クロトたちは小型戦闘機で外から回り込み、外部からの侵入を試みようとしていたのだ。

 

 マオが地面から体を起こし、ワオンスーツの銃口をしんのすけの方に向ける。

 

 

〈おのれ、小僧がぁぁっ――‼〉

 

 

 マオは怒りに我を忘れて〝GTX〟を乱射し始めた。

 

 しんのすけを乗せたエンジがあちこちを走り回り、ビームの嵐をかわしていく。

 

 

「「「うああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ――――‼」」」

 

 

 マオが放ったビームは周りにいた味方の警備兵たちを巻き込んでしまっていた。

 

 警備兵たちは悲鳴を上げながら一目散に逃げていく。

 

 

「いけません、マオ様っ――‼」

 

 

 クロトが上空からマオに呼びかけるが、マオの耳には全く届いていない。

 

 すると次の瞬間、遠方から飛んできた矢がワオンスーツの銃口部分を貫いた。

 

 

〈ぬぅ――⁉〉

 

 

 マオは〝GTX〟が暴発する前に右腕の銃口をワオンスーツから切り離し、爆発に巻き込まれるのを防いだ。

 

 マオが司令室の穴から矢を放った雪乃を鋭く睨みつける。

 

 

「すごい……」

 

 

 みさえが雪之の腕前に感嘆の声を漏らした。

 

 

「見事なものだろう? 雪乃は剣こそ扱えぬが、弓の腕なら私にも引けを取らん」

 

 

 吹雪丸が雪乃の腕前を誇らしげに語った。

 

 

「さすがは吹雪丸さんの妹さんですね」

 

 

 リングが雪乃に向かって誉め言葉を送る。

 

 

〈おのれ……。もう容赦はせん! 貴様ら全員、刀の錆にしてくれるっ――!〉

 

 

 そう言ってマオはワオンスーツの両腕を変形させ、今度は両手の先から刀の刃を伸ばした。

 

 さらに〝GTX〟と同じタイプのエネルギーが刃に流し込まれ、刀の切れ味が何十倍にも跳ね上がる。

 

 刀は刃に流し込まれたエネルギーに反応して黄緑色の光を放っており、その姿はまるで某映画に登場する〝光のつるぎ〟のようだった。

 

 

〈まずは貴様からだ、小僧。その忌々しい馬ごと、貴様を真っ二つにしてくれる――!〉

 

 

「おお……」

 

 

 エンジはマオに明確な殺意を向けられ、しんのすけの反応に合わせたかのようにゆっくりと後ずさった。

 

 ワオンスーツの加速機能は停止している。

 

 エンジのスピードなら簡単に逃げられるはずだ。

 

 しかし、マオの気迫がスーツ越しでも十分に伝わり、エンジは完全に怖気づいてしまっていた。

 

 

「まずい……」

 

 

 吹雪丸が真っ先にしんのすけたちの危機を察し、息子のピンチにひろしとみさえが声を上げた。

 

 

「「しんのすけーっ――‼」」

 

 

「たーっ、たーっ!」

 

 

 ひまわりも兄のことが心配なご様子だ。

 

 吹雪丸が二階の部屋から身を乗り出し、しんのすけたちの救出に向かおうとする。

 

 しかし、次の瞬間――――

 

 

「「「っ――⁉」」」

 

 

 上空から大量のビームが降り注ぎ、ひろしたちは慌てて壁の内側に身を隠した。

 

 

「マオ様の邪魔はさせません!」

 

 

 ひろしたちを攻撃したのは、クロト率いる精鋭部隊である。

 

 今すぐにでも助けに向かわなければ、しんのすけたちの命が危ない。

 

 しかし、上空から見張られていてはこちらも身動きが取れない。

 

 こちらから助けに行けない以上、しんのすけは自力で助かるしかなくなった。

 

 

「……」

 

 

 リングは覚悟を決めた表情で懐から〝あるもの〟を取り出し、部屋の中央から助走をつけて二階の部屋からその物体を放り投げた。

 

 

「しんちゃんっ――‼」

 

 

「おおっ――⁉」

 

 

 リングが投げた物体は放物線を描いてしんのすけの手元にきれいにおさまった。

 

 再び上空からビームが降り注ぎ、リングはすぐに部屋の奥に避難した。

 

 

〈しんちゃん! もう一つのお助け機能を使うのよっ――!〉

 

 

 リングに投げ渡された細長い得物から彼女の声が聞こえてくる。

 

 

〈これはしんちゃんの想像力をもとに改造を加えられた新しい〝第七沈々丸(だいななちんちんまる)〟よ! ――――これを使ってアイツをやっつけて!〉

 

 

 リングが〝第七沈々丸〟を通じてしんのすけにそう伝えた。

 

 しんのすけはなんとなく話の流れを理解し、「ほー、ほー……」と二回頷いた。

 

 

〈お助け機能の使い方は前と同じだから、〝ヒエール〟と戦ったときと同じようにやればいい! ――――頼んだわよ、しんちゃん!〉

 

 

 そう言ってリングは、しんのすけとの通信を切った。

 

 その間もマオは、どんどんこちらに近づいてくる。

 

 迷いに時間を割いている余裕はない。

 

 しんのすけは大きく息を吸い込み、最後の切り札であるもう一つのお助け機能を使った。

 

 

「〝タスケテケスタ~~ッ〟――――‼」

 

 

 その瞬間、しんのすけの体からヘンテコな爆発音が鳴り響き、しんのすけは爆発と同時に噴き出した紫と緑の煙に全身を包み込まれた。

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