【映画〝風〟】クレヨンしんちゃん 復活! 嵐を呼ぶシッコクのワルダン襲来   作:アサギリナオト

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失礼、少し体調くずしてました




 しんのすけとマオは、周囲の者たちが応援しながら見守る中――――全力で走り出した。

 

 両者の距離が一気に縮まり、マオが走る勢いに乗せたダッシュ突きをしんのすけにお見舞いした。

 

 しんのすけは左右の刀を目の前でクロスさせ、前傾気味に跳躍する。

 

 そしてクロスさせた刀でマオのブレードを上から挟み込み、ジャンプの勢いと全身のバネを利用して空中で一回転した。

 

 

〈なに――⁉〉

 

 

 しんのすけはマオの頭上を飛び越えて足から地面に着地する。

 

 

「後ろを取った――!」

 

 

 吹雪丸の一言に合わせるかのように野原一家やリングたちが息をのんだ。

 

 しんのすけの動きは侍というより吹雪丸のそれに似ていた。

 

 高い身体能力を生かした忍者的な戦い方である。

 

 

「だ~~~~~~~~~~~~~っ――――‼」

 

 

 しんのすけが振り向きざまに右手の〝第七沈々丸〟を左下から斬り上げた。

 

 マオはこの角度から攻撃には右腕のブレードで対応できない。

 

 

〈くっ――!〉

 

 

 するとマオは、しんのすけの動きを予測して左方向に回転しながら自身の左腕を大きく振り上げた。

 

 〝第七沈々丸〟とマオの左腕が衝突し、ワオンスーツの左腕から破片と火花が飛び散る。

 

 マオはブレードが失われた左腕を犠牲にしてワオンスーツの機関部を守ったのだ。

 

 

「っ~~‼」〈っ~~‼〉

 

 

 二人は反射的に目をつむり、互いに一瞬のスキが生まれる。

 

 マオはカッと両目を見開き、前方に大きく踏み込みながらブレードを斜めに振り下ろした。

 

 対するしんのすけは目をつむったまま、左手の馬手差しを地面に倒れる勢いで上から振り下ろした。

 

 二撃目は、しんのすけの方がワンテンポ遅れている。

 

 マオのブレードがしんのすけの頭上に迫った。

 

 極限の集中状態に入ったマオには、その光景がスローモーションに見えている。

 

 すると次の瞬間――――

 

 

〈っ――⁉〉

 

 

 突然しんのすけの姿がマオの視界から消えた。

 

 お助け機能の変身時間が切れてしまい、しんのすけが元の姿に戻ってしまったのだ。

 

 目を閉じているしんのすけは、当然そのことに気が付いていない。

 

 マオの攻撃は空振りに終わり、背が縮んでしまったしんのすけの攻撃もマオには届かないはずだった。

 

 だが、そのとき――――マオは不思議な現象を目にした。

 

 しんのすけの変身が解かれる際に発生した緑と紫色の煙の中から、全身に白いオーラをまとった謎の武士が刀を振りかざした姿で飛び出してきたのだ。

 

 武士はしんのすけの動きに合わせるかのごとく――――上段から刀を振り下ろした。

 

 

「うわたっ――!」

 

 

 しんのすけは空振りした勢いで地面に転倒し、マオの股下をくぐって地面をゴロゴロと転がった。

 

 マオは何が起きたのか理解できず、その場で呆然と立ち尽くす。

 

 突然現れた謎の武士は、司令室の二階にいるひろしとみさえに向かって微笑んだ(のち)、しんのすけが起き上がる前に煙のように姿を消してしまった。

 

 どこかで見覚えのある武士の姿に、ひろしたちは驚きを隠せない。

 

 やがてマオの腕がだらんと垂れ下がり、ワオンスーツが真っ二つに斬り裂かれた。

 

 その中から全身を汗で濡らしたマオが現れる。

 

 

「見事だ……。こ……ぞう…………」

 

 

 そしてマオは――――ゆっくりと地面に崩れ落ちていった。

 

 二人の勝負に決着がつき、戦場がし~んと静まり返る。

 

 

「マオ様っ――‼」

 

 

 クロトがマオの名を叫ぶと同時に、その場にいたシッコク星人たちがマオのもとに集まっていった。

 

 小型戦闘機から飛び降りたクロトが真っ先にマオの体を抱き起こす。

 

 

「マオ様っ――!」

 

 

「う……。クロトか……?」

 

 

 マオは意識をハッキリさせていたが、体に力が入らない様子で右手をゆっくりと上げていった。

 

 クロトがマオの手をグッと握り締める。

 

 

「よもや、この私があのような子どもに敗れようとは……。指導者失格だな……」

 

 

 マオが自らに対しての失望の言葉を口にした。

 

 

「今の戦いを見て、そのようなことを思う者など我が軍にはおりません」

 

 

 クロトが周りを見るようマオに促し、マオはクロトの視線の先を辿っていった。

 

 すると大勢のシッコク星人たちが二人の周囲でひざまずき、その全員がマオに向かって頭を下げていた。

 

 誰一人としてマオに失望の念を抱いている様子は見られない。

 

 その光景を見たマオが静かに笑みを浮かべる。

 

 

「そうか……。どうやら私は大切な何かを見失っていたようだ……。――――ならば、この敗北は必然だな……」

 

 

 マオのその言葉にクロトも小さく笑みを浮かべた。

 

 ――――と、そのときである。

 

 

「マオ様……」

 

 

 しばらく姿が見えなかったピアの父親がその場に現れた。

 

 周囲のシッコク星人たちが左右に動いて彼の通り道を作る。

 

 ピアの父親はマオたちの側まで歩み出ると、周りの者たちと同じようにゆっくりとひざまずいた。

 

 

「私の裏切りが我が軍に敗北をもたらしたことは明白。いかなる処分も受け入れる覚悟でございます」

 

 

 ピアの父親の裏切りは、軍隊なら処刑されて然るべきものである。

 

 しかし、今のマオはピアの父親に対する怒りなど微塵も感じていなかった。

 

 

「よい……。貴様の家族に対する想いや信念に間違いはない……。この敗北は貴様に疑念を抱かせた私自身の問題だ……。貴様に罪はない……」

 

 

 この判断はシッコク星人の指導者として、おそらく間違いである。

 

 しかし、クロトも含め、マオの決断に異を唱える者は誰一人としていなかった。

 

 

「はっ。ご厚情痛み入ります」

 

 

 ピアの父親がマオに対して深々と頭を下げた。

 

 

「オラ……。勝った……」

 

 

 しんのすけは全ての体力を使い果たし、地面に倒れたまましばらく動けなかった。

 

 息子の勇姿を見届けたひろしとみさえは、顔中を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしていた。

 

 

「ぢぐしょーっ! やりやがっだぜ、じんのずげのやづ……」

 

 

「うんうん! さすがは私たちの息子ね!」

 

 

 リングは全身から力が抜けた様子で「はぁ~」とその場にへたり込んでしまった。

 

 それだけ二人の勝負は紙一重(ギリギリ)だったのだ。

 

 

「うむ。実に見事な勝利だ」

 

 

「まことにお見事です、しんのすけ様!」

 

 

 しんのすけの戦いぶりには吹雪丸と雪乃も感服していた。

 

 しかし、肝心のしんのすけは未だに動けない様子だ。

 

 

「こうしちゃいられない……。 ――――早く、しんのすけところへ!」

 

 

 ひろしの言葉にみさえが頷き、二人は急いでしんのすけのところに向かった。

 

 リングや吹雪丸たちもそのあとに続く。 

 

 ひろしたちが、しんのすけが倒れていた場所まで移動すると――――そこにはピアの父親がいた。

 

 しんのすけはピアの父親の腕の中でぐったりとしている。

 

 

「まったく末恐ろしいお子さんだ。こんな幼い子がマオ様の暴走を食い止めるだなんて……」

 

 

 ピアの父親の言葉にひろしたちは笑みを浮かべる。

 

 するとしんのすけがうっすらと目を開け、ひろしたちの方を見た。

 

 

「とーちゃん……」

 

 

「しんのすけっ――!」

 

 

「しんちゃんっ――!」

 

 

 ピアの父親がしんのすけをひろしに渡し、しんのすけはひろしの腕の中でまばたきを繰り返した。

 

 

「オラ……」

 

 

「しんのすけ。お前やっぱスゲーよ!」

 

 

「アンタは日本だけじゃなく、世界のみんなも救ったのよ!」

 

 

 あまり実感が湧かないのか、しんのすけの反応はとても薄い。

 

 

「〝おまたのおじさん〟は……?」

 

 

「「えっ……?」」

 

 

「さっき、どこかでおまたのおじさんの声がしたんだゾ……」

 

 

「しんのすけ……。お前……」

 

 

 ひろしはしんのすけの言葉を聞いて難しい表情を浮かべた。

 

 

「もう、なに言ってるの? アンタがお助け機能で――――」

 

 

「よせ、みさえ」

 

 

 ひろしに言葉を遮られ、みさえが首を傾げる。

 

 

「しんのすけ。今はゆっくり休め。あとは、とーちゃんたちがなんとかしてやる」

 

 

「うん……。あとはまかせた……ゾ」

 

 

 そう言ってしんのすけは本当にそのまま眠ってしまった。

 

 

「死ぬ前のセリフみたいにゆーなよ……」

 

 

 ひろしとみさえが苦笑いを浮かべる。

 

 するとリングが二人の側までやって来て謝罪の言葉を口にした。

 

 

「しんちゃんには、また苦労をかけてしまいました。お二人には本当になんとお詫びすればよいのか……」

 

 

「そう気を落とさずに……。オレたちにとっては、いつものコトです」

 

 

「そうね。いつものコト」

 

 

 野原一家は非日常的な戦いに完全に慣れてしまっていた。

 

 さすがは〝歴戦の勇者〟たちである。

 

 

「みなさん……」

 

 

「それよりも――――あの人たちは一体どうなるんですか?」

 

 

 ひろしがワルダンのメンバーたちについてたずねた。

 

 

「時間犯罪は大罪です。おそらく彼らには重い罰が待っていることでしょう」

 

 

 ひろしは、しんのすけのためにピアの父親だけでもどうにかしたいと思っていた。

 

 しかし、現実はそう甘くない。

 

 言葉には出さないが、ひろしはあからさまに肩を落としていた。

 

 

「――――ですが、彼らを救う手立てがないこともありません」

 

 

「え……?」

 

 

 リングがワルダンの方へと近づいていき、説明ではなく行動でそれを示した。

 

 

「私は30世紀のタイムパトロール隊員リング・スノーストーム。あなたたちを時間犯罪法第12条によって逮捕します」

 

 

「「「……」」」

 

 

 マオがしんのすけに敗れた時点で、こうなることはわかりきっていた。

 

 現在の行いによって未来を変えることは出来ても、過去を変えることは決して許されない。

 

 シッコク星人たちは悔し気に視線を落としていった。

 

 

「――――ですが、その前に一つおたずねしたいことが……」

 

 

 するとリングがとんでもないことを言い出した。

 

 

「あなたたち――――――――タイムパトロールに入る気はありませんか?」

 

 

「「「っ――⁉」」」

 

 

 シッコク星人たちは目を見開き、言葉を失った。

 

 それはマオやクロトも例外ではない。

 

 

「あなたたちの知識や科学力があれば、より多くの時間犯罪を未然に防げます。タイムパトロールは常に人手不足ですので、あなたたちの力を正義のために使っていただけるならば、我々としても大歓迎です」

 

 

 シッコク星人たちの間で動揺が広がり、彼らの視線がマオに集まる。

 

 最終的な判断はワルダンの指導者であるマオに託された。

 

 

「今度は正義をもって理想をなす……か。頂点を目指すには険しき道だが、それも悪くはあるまい……」

 

 

「よろしいのですか?」

 

 

 クロトがマオにそうたずねた。

 

 

「我らの理想は元よりシッコク星人の安寧。犯罪を防ぐことで子どもたちの未来を守るのも道の一つだ」

 

 

「しかし、それでは――――」

 

 

 タイムパトロールに入れば、確かにシッコク星人の理想は叶えられるかもしれない。

 

 しかし、それは同時にマオの世界征服の野望が潰えることを意味する。

 

 長年マオに仕えてきたクロトには、それが少し気がかりだった。

 

 

「今回の件でようやく気付いた。私はあまりにも急ぎすぎたのだ。ゆえに私は新たな野望をもって部下たちに新たな道を指し示す」

 

 

「……その野望とは?」

 

 

「――――決まっている。私は必ずやタイムパトロールの最高司令官になってみせるぞ」

 

 

 マオの宣言にクロトが両目を見開く。

 

 

「フッ……。それはまた大それた夢ですね……」

 

 

「しかし、それでこそマオ様だ。――――僭越(せんえつ)ながら、私も全力をもってお支えいたします」

 

 

 ピアの父親が地面から立ち上がり、マオに向かって再び頭を下げた。

 

 

「クロト。我が野望を叶えるには貴様の力が必要だ。――――貴様たちには引き続き私の手足として働いてもらうぞ。時間犯罪者を追い続ける働きづめの毎日を覚悟せよ」

 

 

「はっ。全ては、あなた様のお望みのままに」

 

 

「「「全ては、あなた様のお望みのままに――!」」」

 

 

 クロトに続いて、周囲のシッコク星人たちが声を揃えてそう言った。

 

 

「話はまとまったようですね。――――ようこそ、タイムパトロールへ」

 

 

 リングがマオに向かって右手を差し出し、二人は握手を交わした。

 

 その様子を見ていたひろしがみさえに小声で話しかける。

 

 

「リングさんって、もしかしてすごい偉い人なんじゃ……」

 

 

「そういえば、いつも一人で行動してるわよね。勝手に決めちゃって大丈夫なのかしら?」

 

 

 ひろしとみさえが心配そうな表情を浮かべている。

 

 

「ご心配なく。私は現・最高司令官と懇意の仲なので」

 

 

 リングが満面の笑みで二人にそう言った。

 

 その言葉には何か深い意味を感じる。

 

 

「それに私は彼らが根っからの悪だとは考えていませんでしたので」

 

 

「それって、どういうことですか?」

 

 

 ひろしがリングにそうたずねる。

 

 

「気付きませんでした? この世界からヒーローは排除されたはずなのに、なぜみなさんの世界は無事なんでしょう?」

 

 

 リングがクイズ方式でひろしにそう言った。

 

 するとひろしはリングの言葉の意味に気付いた様子でハッとした表情を浮かべた。

 

 

「そういうことか……。どうりで少なすぎると思ったんだ~……」

 

 

 ひろしは今回の件について全てを理解したようだが、みさえは何がなんだかさっぱりわからない。

 

 

「どういうこと?」

 

 

「ここは小さな国がまるまる収まるほどの戦艦だぞ。それにしては兵隊の数が少なすぎると思わないか?」

 

 

 この一件で野原一家の前に姿を見せた戦闘員は全部で100人程度である。

 

 常識的に考えて、そのような少人数で国家規模の街を守れるわけがない。

 

 

「そういえば、そうね……。――――でも、それがどう繋がるの?」

 

 

「んにゃっ⁉」

 

 

 みさえの頭の回転のにぶさに、ひろしはひっくり返りそうになる。

 

 

「聞いてたろ? 今この世界にヒーローはいない。じゃあ何で地球は今も無事なんだ? その人たちに倒されるはずだった悪人たちは、どうして何もしてこないんだよ?」

 

 

 そこまで説明されて、みさえもようやく理解した。

 

 

「この人たちの仲間が悪い人たちを見張っててくれたってこと――⁉ でも、どうしてそんなことを……」

 

 

「それがマオ様の美学だからですよ」

 

 

 ひろしたちの疑問にはクロトが答えた。

 

 

「真の支配者は、むやみに破壊や殺戮は行わない。欲しいものは美しい姿のまま手に入れる。――――マオ様が普段からおっしゃっている言葉です」

 

 

 クロトがマオの方を見ると、自然と視線がそちらに集まり、マオは恥ずかし気に顔を(そむ)けた。

 

 

「まったく……。その美学とやらに付き合わされて我々が今までどれだけ苦労したことか……」

 

 

「クロト」

 

 

「今回の件においてもそうです。地球の被害など気にせず戦力を分散させなければ、我々の勝率が〝78%〟まで低下することはなかったんですから」

 

 

「クロト! それ以上は許さぬぞ……」

 

 

 そう言ってマオがクロトを黙らせるが、ほとんど言い終えてしまっていたため、あまり意味がない。

 

 

「よいではありませんか。――――そんなマオ様だからこそ、我々はあなた様に忠誠を誓ったのです」

 

 

 冷酷に徹しているようで肝心なところが抜けている。

 

 それがシッコク星人の指導者であるマオ本来の姿だった。

 

 マオが自身の組織に『悪団(ワルダン)』と名付けたのも、冷酷になりきれない自分自身への戒めだったとも仲間内では言われている。

 

 〝悪い人が存在しない街〟で暮らすシッコク星人にとって、これほど魅力的な指導者は他に存在しない。

 

 

「フン! 貴様らの人の見る目のなさには、ほとほと呆れさせられる……」

 

 

 マオがそのように憎まれ口を叩くが、周囲の者たちは逆に笑顔を浮かべた。

 

 まるで小学生のようなわかりやすい反応である。

 

 するとマオが大きなため息を吐き、最後にしんのすけに向かって感謝の言葉を送った。

 

 

「――――感謝するぞ、小僧。どうやら貴様に救われたのは我々も同じだったようだ」

 

 

 ひろしの腕の中で眠る幼い子ども(ヒーロー)(みな)の笑顔が向けられた。

 

 きっとこの子は将来すごい大物になる……。

 

 その場にいる全員が同じ気持ちを抱いた瞬間だった。




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