スロウス・ブライド ~剣聖の嫁は怠惰に暮らしたい~   作:ビスマルク

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第三話

 

 ガタンゴトンと音を立てながら多くの馬車が整備されながらも荒れた道を進んでいた。その中の一つ、他と比べれば豪華と言える馬車の一室にアキラと龍の少女は座っていた。

 

「なんで私が一緒に馬車なんかに乗って田舎なんかに行かなきゃいけないのよ……。これでもこの世界(・・・・)では七体しかいない龍なんだけど」

 

「お前さんが何も考えずにあんなことしでかしたからだ。契約後は一定時間以上離れてると強制的に近場に召喚されるとはな。それのお陰で俺だってお前を連れていかないといけなくなったんだ」

 

「それでも面倒くさい。私はただ怠惰に過ごしたいだけなのに」

 

 ため息をつきながら馬車に備え付けられた窓から外の光景を眺める少女。彼女はアキラと契約を結んでしまった後契約の詳細を全てはかされていた。その結果このまま別れたとしてもどのみち一緒に過ごさなければいけないと知ったアキラに連れられこうして一緒の馬車で七日間運ばれていた。

 名前がないと不便だと思われた為便宜上スウと名乗ることになった少女は自身の髪を弄びながら暇つぶしのようにアキラに問いかける。

 

「というかなんでわざわざ田舎の街になんか行くのよ?王都に残っていればそれなりの地位とか得られたんじゃないの?」

 

「馬鹿野郎、そんなことになったら前線に出て大暴れできねぇだろうが。俺が冒険者やってるのは剣の腕を上げる為でそれ以上の理由なんかない。王都じゃ騎士団が定期的に周辺の魔物狩ってるから田舎に比べてそういう仕事なくてダンジョンに潜るしかないんだよ」

 

「待って、待ってお願い。よく知らないけどそんな動機で地位を捨てる人って珍しいと思うんだけど!」

 

「多分珍しいだろうな。俺はまったく気にしないけど」

 

 肘を座席につけながら頬杖をしアキラは答える。その答えにスウは目眩を覚えるが何とか耐え眼前であくびをしている青年を見る。

 この青年はダンジョンの最奥手前の広場にいた自身を打倒した剣士。無論一人ではなく仲間と協力しての戦いだったがそれまで訪れた誰よりも強く才能にあふれていた。かつてそこまで辿り付いた冒険者たちの多くは龍という存在に逃げまどい命乞いをして来た。もしくは武器を手に戦いを挑んだかだが、どちらにせよ鱗一つを斬りおとすことも出来ずにその命をゴミのように燃やし尽くされた。

 そんな前例など知らんとばかりにカタナを握りしめ鱗を一枚一枚削いでいった。魔法師の《魔弾》や盗賊の弱所看破、筋肉盾のマッスルガードや付与師の強化などもあったがそれでもアキラこそが一番の功労者だと、自身を打倒した勇者だと考えた。

 だからこそスウは彼を従者にすることで今までのように過ごそうと計画した。その結果がこれだったがそれはそれとして彼女はアキラを最大限に評価したと言えるだろう。

 

「あー、暇だー。外に出て剣振りてぇー……」

 

「……なんだか泣きたくなってきたわ」

 

 その勇者の実態が剣に人生を捧げたアホだったなんて想像もしていなかった。たまにダンジョン内に落とされた本に書いてある物語ではこういった偉業を成し遂げる人物は聖人のような人間だったはずなのに。

 窓の外に広がる、ダンジョンの中からは決してみられなかった青い空と白い雲を眺めながら後悔しながらも後の祭りだと今後の事を考え始める。出来ればもう何もせずにゆっくり眠りたかった。出来れば一週間くらい。

 

「そういや疑問だったんだけどよ、一つ質問していいか?」

 

「勝手にすればいいんじゃない。答えるかは私の気分次第だけど」

 

 雲を眺めながら(アレわたあめって食べ物みたいね。わたあめって甘いって聞いたけどどれくらい甘いのかしら)などと考えていたスウにアキラは話しかけた。暇を潰すためかカタナを取り出し点検と手入れをしながら声をかける。

 

「お前がそんな面倒くさがりなのはよく分かったけどよ。だったらなんで魔獣なんて生み出してたんだ?あんなもん生み出し続けてりゃそりゃ冒険者だってお前の所に行くだろ」

 

「あー、それね。そんなこと言ってもアレ私が生み出してるわけじゃないし。まぁ原因の一つではあるんだけど」

 

 日の光でキラキラ輝く髪を指に巻き付けながら(あの鳥気持ちよさそうに飛んでるわね~、焼いたら美味しいのかしら)と考えながらアキラの質問に気の抜けた返事をする。その言葉にアキラはさらに質問を重ねた。

 

「原因の一つねぇ……。俺はこの大陸出身じゃないからよく知らんけど魔獣ってのが生まれるのはダンジョンに住む龍のせいって考えが基本らしいぞ?」

 

「うーん、なんて……というかどこから説明すればいいのかしらね。まぁいいわ、暇だし最初から説明してあげる」

 

 髪を弄ぶのをやめたスウはアキラの方を体を向ける。アキラもまたカタナを鞘にしまいスウに視線を向ける。それは先程までとは違いスウの言葉を一つ残らず聞き漏らさないように思えた。

 やはりただの戦闘狂ではないと考え直しながらスウは自身にとっては常識であるところから語り始めた。

 

「まず大前提として今私達のいる世界、ここを『表の世界』とイメージして。次に表があるなら当然裏もある。それが私や他の龍が元々居た『裏の世界』。そして魔獣とは主に二種類存在する。この『裏の世界』から漏れ出た魔力が貴方達の想像や伝承によって形作られた存在と元からいた生物が魔力を過剰摂取して魔獣化したもの」

 

「オークやらオーガやらは豚やイノシシが魔力を浴び過ぎた結果って研究されてたらしいがその通りだったってことで、お前らは俺と同じように他の場所からここに来たってことか」

 

「そうね。まぁ貴方の故郷とやらより私の居た場所の方が遥かに行き辛いのは確かだけど」

 

「んで、その漏れ出た魔力とやらが魔獣になるとしてなんでお前が原因の一つになるんだよ」

 

「裏から表に来るにはかなりの力が必要なのよ。来るには力づくが一番楽なのよね。で、無理矢理来ると表と裏に穴が開くのよ」

 

 こんなふうに、とどこからか取り出した紙に指で穴をあけるスウ。その穴を指差しながら出来るだけわかりやすくなるように言葉を選んだ。

 

「こういう感じで穴が開くとそこから魔力が流れ込んでくるのね。しかも穴をあけた張本人の私がその穴の近くに居座ってるものだからいつまでたっても塞がらない。だから原因の一つは私ってこと」

 

「……それって、そもそもお前らが来なければ面倒なかったんじゃねぇのか」

 

「別にそんなことないわよ?むしろ穴をあけて魔力の通り道作ったから無差別に魔力が広がることもなくなってダンジョン内に集中して魔獣が出てきてそこらの村とか襲わなかったんだし。私が来なかったら多分色んな所に無差別に魔力が広がってそこら中に点々と魔獣の生息地帯が出来上がってたでしょうね」

 

「はぁ~ん、まぁよく分からんが今より街づくりとか面倒になってたってことか。要は狭く強くか広く弱くの違いってことだろ?」

 

「ま、そういうこと。貴方達人間は強い者もいれば弱い者もいる。だけど弱者が死に続けてたらやがて強者だって死に絶えるでしょ。そう考えれば私の存在だって悪くないでしょ」

 

「だがそうなるともう一つ疑問があるな。お前の言う表と裏の道みたいな穴はあのダンジョンの奥底で確かに見て塞ぐこともしなかったんだが、あの遺跡からお前が消えてからこの一ヶ月くらい魔獣の発生率が減ったらしいぞ?」

 

「『龍』って脅威がなくなって恐怖心がなくなったんでしょう。さっきも言ったけど魔獣はあちらから流れてきた余計な魔力が貴方達の伝承とかによって形になったモノ。だけど貴方達の活躍で龍が退治された。魔獣の神と貴方達の間で言われてる龍が退治されたら魔力が魔獣になるための恐怖だって減少するわ。実際の所は龍と魔獣にはほとんど関係ないけど」

 

「人がいるから魔獣が生まれるってことか。つまり裏の世界とやらをどうにかしない限り魔獣は消えないんだな」

 

「そ。でもそんなことは不可能だから実質人間は戦い続けないといけないってこと」

 

 大変ね、と意趣返し出来たかのように嫌な笑顔で呟くスウ。そんな彼女に対して呆れたようにアキラはただ一言返すのだった。

 

「お前もこれからそんなところで生きるわけだけどな」

 

「そうだったぁ!!!めんどうめんどうめんどうくさぁああああああああい!!!!!」

 

 こいつは本当に大丈夫なのかと思いながらも疑問が一つなくなりスッキリしたアキラは頭を抱えて叫ぶスウの声を聞きながら窓の外を眺める。

 しばらくは雲を遠くの山を眺めていたがその目はやがて細く狭められカタナを握り始めた。その様子に気付いたスウは叫ぶのをやめ冷や汗をかきながら問いかける。

 

「ね、ねぇ?なんで貴方は剣を握りしめた上でそんな物騒な笑みを浮かべてるの?短い間とはいえ今まで見てきた中で一番恐ろしい顔しているんだけど?」

 

「恐ろしいとは心外だ。だがまぁ色々と教えて貰ったから俺も代わりに教えてやるよ」

 

 そう言いながら馬車の床を足で小突きながらカタナの状態を確認しドアをいつでも開けれるようドアノブに手をかけるアキラ。この後何が起きるのかを大体理解しながらもどうにでもなれとばかりに脱力した数はその言葉の続きを待った。

 

「王都じゃ自動車が走ってるの見ただろ。でっかい道でだけ走ってる奴。なんでそんなものがあるのにわざわざこうして馬車で移動してるか知ってるか?」

 

「高いからじゃないの?自動車自体も高いけど継続して買わなきゃいけない燃料とかが」

 

「それもある。が、残念ながら自動車動かしてる主な燃料ってのは魔力でな。しかもそれなりの魔法師がいれば満タンにするのもそう難しい事じゃない程度だ。今移動してる商会とかなら簡単に手に入るだろうし最終的な値段は馬車の方が高くつく」

 

「……それじゃあなんでよ?」

 

 その疑問を口にした瞬間馬車を引いていた馬たちが一斉に騒ぎ始めた。それと同時に多くの馬車から武器を持った冒険者たちが武器を持ちながら飛び出していく。冒険者たちの向かう先には通常の狼を大きくしたような魔獣が群れを成して襲いかかろうとしていた。

 

「と、このように訓練した馬は魔獣が近づくと察知して騒いでくれるわけだ。この王国はダンジョンが多くあるせいか他国より魔獣被害が多いからな。少しでも安全策をと考えた結果馬車で移動、その上大勢で一度にってことになってるらしい。そんじゃ俺は行ってくるからなんかあれば叫べよー。ヒャッハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

 その言葉を最後に扉を大きく音の出るよう開け放ったアキラは大きく笑いながら駿馬を超える速度で魔獣に向かっていった。とびかかってきた魔獣の首を一薙ぎで斬りおとし返す刃で流れるように二体三体と斬っていく。その顔は様々な人間を見て来た『怠惰の龍』が引くほどにいい笑顔だった。

 

「……私、選択肢間違えたわ」

 

 彼女は今日何度目か分からない大きなため息をつきながら過去の己の愚行を呪うが、そのうちそれさえも面倒になってふて寝するように馬車の椅子に寝転がるのだった。

 

 

 

※※※

 

 

 

 大量の魔獣の死体を積んだ馬車が国境近くの街に到着したのはそれから3時間くらい経っただった。魔獣の死体は武器や防具の素材になるためそれなりの値段で売れる為わざわざスウに魔法をかけてもらい重さを減らし荷台に乗せて引っ張ってこさせた。

 アキラは以前見た空間に穴をあけるスウの魔法を使ってもらおうと考えたが当の本人が酷く嫌がったためこの方法で引っ張った。ちなみに斬った魔獣の数は引っ張ってきた数より多いがそこは他の冒険者たちにわけることで反感を買わないようにしたためだった。

 ちなみにアキラ自身は貯蓄もあり金を使う機会などあまりない上装備は自前のものがあり買い替える予定もないのでギルドで受ける依頼量だけでも十分生活できるが、スウの「勿体ないんじゃない?」という言葉に強く反応しこうして素材を持ってきていた。後はこの素材で多くの冒険者の生存率が上がるなら悪くないという考えだったが。

 

「それにしても結構並ぶのね。こんな馬車に乗ってるくらいだし先に門を通らせて貰うくらいの優遇してもらえるものかと思ったけど」

 

「別に待つのは苦じゃないしな。それにこの馬車だって御者だってとある商会の借りもので俺のモノじゃない。これを所有してる奴ならともかく俺に媚び売っていい思い出来る奴なんていないって分かってるんだろ」

 

「そんなものかしらね。後ろに引っ張ってるこの魔獣の死体の群れを怖がってるんじゃないの?」

 

「この程度で怖がってたら門番なんてできないだろ。門番といえば街を守る最後の砦みたいなもんだぞ」

 

「いやこんなもの引っ張ってきてる馬車を見たら怖がるのが普通だと思うんだけど。怖がってない貴方がおかしいんだって自覚持ってくれない」

 

「なんで俺が お前()に常識を考えろって言われないといけないんだ」

 

 そうぼやくアキラだが明らかに常識はスウの言葉にあった。事実快適性のある馬車を先に誘導している門番たちもアキラ達の乗る馬車からは目を逸らしたくて仕方なかった。なにせ遠目から見ても分かるくらいの魔獣の死体を大量に荷台に乗せてきているのだから。門番の一人はそれを見てすぐにギルドに向かいこれを運ぶための人材を呼びに行った、有能である。

 

「にしても本当に生き生きとしてたわね……。正直引くわ」

 

「なんとでも言え。物心つく前から刀握って振ってきたんだからそっちのほうが落ち着くんだよ」

 

「習慣って恐ろしいわね。その結果が龍を斬り殺すことになったんだし」

 

「……そういやなんで殺したはずのお前が人間になって戻ってきてるんだ?」

 

「今更!?」

 

 今まで気にしていなかったように(実際気にしていなかった)その質問をする。正体がばれた瞬間に問われると思っていた質問をいまさら聞いたスウは驚きながらもこいつ相手に驚いてたら身が持たないとばかりに気にするのをやめた。門を通るまでの列を見て時間もかなりかかると判断した彼女は時間つぶしにはなるかとばかりに語り始める。

 

「貴方達が殺した、というより生命活動を止めたのが私の本体。私はその本体の肉体の一部を加工し魂全部を移した存在。人間は殺せばすぐに魂が肉体を離れるけど私たち『龍』は肉体と魂の繋がりが強固だから数日の時間があればこういった芸当も可能ってこと。その後は何日かこの身体に馴染ませるように準備してきたわ。流石に戦力は前の方が高いけどこっちの方が色々と便利そうだったしね」

 

 またどこからか紙とペンを取り出したスウは絵を描きながら説明する。

 

「それに貴方の油断を誘うって目的もあった。結果は見ての通りだけど……。まぁあの姿だと意味なく魔力を垂れ流したりして魔獣生み出したりしてた上に外に出ることすら出来なかったから今の方が面倒事からは遠ざかれたかも。少なくても命狙ってくる冒険者の相手はしなくていいし!」

 

 最後にそう言って笑い飛ばす少女は既に遺恨などないかのように明るかった。暗いよりはマシかと思い深くは考えないようにしたがふとあの暗いダンジョンの中に長年居たのだから自由になれた反動なのかと思うと少しは優しくしようかと思うアキラだった。

 それからとりとめのない話をしながら待っていた二人の乗った馬車は時間をかけながらも検査を終え街の中に入った。

 

「想像してたより発展してていいじゃない!!むしろ王都より人が少なくて過ごしやすそうだわ!!!」

 

「その発言人によっては侮辱にとられるから人に聞かれないようにしとけよ本当」

 

 七日もかかった王都からの旅も終わり背伸びをして馬車から降りたスウはようやくついた目的地の街を眺めて一言コメントを残しアキラに頭をチョップを落とされへんな声を上げながら蹲る。そんな二人を見て思っていたより危なくないなと思い笑いながら門番が話しかけてきた。

 

「いえいえ、奥方の言う通りです。ここはあくまで国境近くの街。歴史も50年程度しかない場所です。それでも過ごしやすい方には王都以上だという自負がありますよ」

 

「あー、すみませんうちのアホが。それと悪いんだが地図とか売ってる場所ある?家を買ってあるんだがそこまでの道が分からなくてな」

 

「ああ、門番には簡単な地図が配られてるのでどうぞ。精巧なものは残念ですがお売りできませんが」

 

「まぁ地図は情報管理って点で重要だし簡単なものでもあるだけいい方だな」

 

「納得していただけたようで助かります。たまに説明しても納得できないという方がいて……」

 

「冒険者もピンからキリまでだからなぁ。実力がないならいいがあったら面倒なことになるしお疲れ様ってことになるな」

 

「いやはや全くです」

 

 そんな男同士の話に頭を押さえながら軽く涙目になりながらスウは一言疑問に思った言葉を口にした。それは先程の会話に何気ない形で入っていた、恐らくは自分を指し示す言葉。

 

「奥方って、どういう意味……?」 

 

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